第二十六話|起き抜けのご機嫌?焼き餃子は万能薬!
午後二時。陽射しが斜めに部屋へ差し込み、ベッドの縁に薄いヴェールのように広がっていた。
**筱月**はまだ夢と現実のあわいを漂っている。
意識は浅い眠りの縁に浮かび、あと少しで再び沈み込めそうだった——その時。
外からの騒音が、針のように鼓膜を刺した。
鉄パイプのぶつかる甲高い音、電動ドリルの耳障りな唸り声、作業員たちの怒鳴り合う声。それらは断続的でありながら執拗に窓の隙間から入り込み、午後の静寂を無残に引き裂いていく。
彼女は眉をひそめ、まつ毛を震わせた。長く押しつけられていた銀白の髪は跳ね上がり、湖緑の瞳が開いた瞬間、まだ消え残る火種のような苛立ちが宿る。
勢いよく起き上がり、低くつぶやいた。
「うるさい……いつまでやってるの……」
その時、ドアがそっと開いた。
小さな影が、忍び足で部屋に入り込む。
**曉雨**だ。
草むらを転げ回ってきた子猫のように、黒い短髪はぴょんと跳ね、天藍色の瞳は心配そうに揺れている。ベッドの上で不機嫌そうに座る筱月を見ると、すぐに状況を察し、静かにドアを閉め、つま先立ちで窓へ向かい、そっと閉めた。
それでも騒音は止まない。虫の羽音のように、どこからともなく忍び込んでくる。
曉雨は振り返り、小さな声で言った。
「……四時まで工事らしいよ……」
それ以上は言わず、そっとベッドに上がり、筱月の前に正座する。
両手を伸ばし、銀白の髪へと触れる。一本一本を梳くように、優しく、丁寧に。まるで毛を逆立てた猫をなだめるみたいに。
「よしよし~、大丈夫だよ~」
子どもっぽい笑みを浮かべながら囁く。
「もう少しだけ。我慢できたら終わるから、本当に。」
最初はまだ身体を強張らせていた筱月も、その温かな指先が何度も髪を撫でるうちに、呼吸がゆっくりと落ち着いていく。瞳に灯っていた苛立ちの火は、やわらかな霧へと溶けていった。
突然、筱月は手を伸ばし、曉雨を引き寄せる。
額を肩に押し当て、ようやく巣に戻れた獣のように身を預けた。
「もう……」
鼻にかかった声で小さくこぼす。
「全部あの工事のせい。ちゃんと眠れなかった。」
曉雨は逃げず、くすっと笑って抱き返す。
顎を彼女の髪に乗せ、背中をぽんぽんと軽く叩く。
「うんうん、全部あいつらが悪いね。最悪だね。」
騒ぎが収まりそうだと思ったその瞬間。
筱月がふいに顔を上げた。
瞳がきらりと光る。
「お腹すいた。」
まっすぐに見つめる。
「餃子が食べたい。」
曉雨は一瞬きょとんとし、それからぱっと笑った。
「いいよ、作ってくる。」
「焼き餃子ね!」
即座に念押しする。指で額をつつきながら。
「茹でるのじゃなくて!皮がパリパリで、油がじゅわっとするやつ!」
「はいはい、焼きね焼き。お姫様はそれで満足ですか?」
わざと大げさな口調で言いながら、頬を軽くつねる。
筱月はふん、と小さく鼻を鳴らし、再び肩へ顔を埋める。
けれど、隠しきれない笑みが口元に滲んでいた。
曉雨はそっと離れ、ベッドを降りる前に一度振り返る。
彼女は知っている。
筱月の寝起きの機嫌が、どれほど手強いか。
昔、怒鳴られて目を赤くしたこともある。
それでも——
彼女は毎回、近づく。
触れる。
ぎこちなくても、まっすぐに、なだめる。
だって知っているから。
強気でわがままな猫の仮面の奥にあるのは、ほんの少しの優しさを欲しがる、やわらかな心だと。
そしてそれを与えられるのは、自分だと。
ドアが静かに閉まり、キッチンからフライパンの軽い音が響く。
外の工事音と混ざり合い、不思議な協奏曲を奏でる。
けれどこの家の片隅では、
静かで甘いぬくもりが、そっと育っていた。




