ハロウィン特別編|全員お化け屋敷探検!
夜の帳が下り、遊園地の灯りが秋風に揺れている。
歪んだ笑みを浮かべるジャック・オー・ランタン。
リボンと蜘蛛の巣が絡み合い、不気味さと楽しさが入り混じる祝祭の空気を作り出していた。
ハロウィン限定イベントは大盛況。
その中でもひときわ注目を集めているのが、「百年の呪いの館」。
中に入った者は、叫びながら逃げ出すか、自分の名字を忘れるほど驚かされるらしい。
——もちろん、**曉雨**にとっては、そんな噂はどうでもいい。
「絶対に一番奥の限定キャンディ取るんだから!」
瞳をきらきら輝かせ、小さな手で**筱月**の袖をぎゅっと握る。まるで迷子になりそうな小動物だ。
筱月はくすりと笑い、跳ねた髪先を指でくるりと弄ぶ。
「お菓子が欲しいなら、普通にショップで買えばいいのに。なんでわざわざ怖い思いしに来るの?」
「だ、だってつまらないじゃん!」
頬をふくらませ、背筋を伸ばす。
「ハロウィンはお化け屋敷でしょ!それに……守ってくれるって言ったよね?」
「言ったよ。」
にやり、と笑う。
「でも、泣かせないとは言ってない。」
その瞬間——
「ガタン!」
棚からプラスチック箱が落ちる。
曉雨の体が硬直した次の瞬間、血まみれの“幽霊”が暗闇から飛び出した。
「ぎゃああああ——!」
曉雨は悲鳴を上げ、筱月の手を引いて全力疾走。
「はははは!」
筱月は笑いながらも、しっかり手を握る。
「スタッフだってば!」
「ほんとかわかんないもん!」
その後方では、**織夏**が悠々と歩いていた。
さきほどの襲撃ポイントを通り過ぎながら、幽霊役のスタッフに眉を上げる。
「彼女を驚かせるのはいいけど、私も?」
スタッフは一瞬ひるみ、慌ててキャンディを差し出した。
織夏は黒い包みのそれを受け取り、涼しい声で言う。
「演技は悪くない。メイクはもう少し怖くできるね。」
振り向こうとした瞬間、足が止まる。
背後には、羽玥。
顔を至近距離まで近づけ、目を輝かせている。
「おお……この血のグラデーション……七孔出血の立体感……“腐食するような紅が頬骨を伝う”……いや、“悪意のように眼窩から滲む”……うん、これはメモ案件……」
幽霊スタッフが本気で怯える。
「お、お姉さん、私ほんとに人間です!」
織夏はため息をつき、迷わず羽玥の首に腕を回して引き寄せた。
「ごめんね。」
穏やかな微笑み。
「放っておいて。たまに回線落ちるの。」
「待って!血糊の配合だけ教えて!トマトソース?シロップ?」
顎で額を押さえられ、動きを封じられる。
「黙って。これ以上近づいたら、今夜キャンディなし。」
「ひどい!」
抗議しながらも、目は三日月型に笑っている。
織夏は耳を赤くしつつ、そのまま手を離さず歩き出した。
前方では、曉雨が息を切らして立ち止まる。
気づけば、最奥のキャンディハウス前。
筱月は肩を震わせながら笑う。
「ほら、着いた。」
曉雨は真っ赤になりながら小声で言う。
「だ、だって怖いんだもん……」
「でも手は離さなかったよね?」
にやり。
そこへ織夏がキャンディを差し出す。
「ほら。泣く前に。」
「泣かないもん!」
と言いつつ、しっかり握る。
お化け屋敷の外、カボチャの灯りが笑い声を照らす。
呪いなんてない。
あるのはキャンディと笑顔。
そして、騒がしくて、でも誰も離れられない四人。
【あとがき】
帰り道。
曉雨は袋いっぱいのキャンディを抱え、いちご味を頬張る。
「……思ったより怖くなかったかも。」
筱月が笑う。
「じゃあ出口まで叫んでたの誰?」
「ち、違うし!」
織夏が羽玥の手を握る。
「今日、ネタは足りた?」
羽玥はにやり。
「十分。次は“彼女たちの方が幽霊より怖い話”かな。」
織夏は小さく笑う。
「一番怖いのは、あなたの妄想。」
四人の笑い声が、秋夜に溶けていった。




