九話目 違和感の正体
「あのやろー。ほんとに許せない!勝手に呼んどいて返せないなんて!私のメンタルがめちゃ強じゃなかったらどうするつもりだったの?」
会議室での問答を終え、青たちはスーツ姿に着替えて仕事の準備をするようにと更衣室に案内された。
スーツ姿に着替えながらも青はつい先程の太一の態度に苛立ちを隠せない状態にある。そんな青をフレイヤが「まあまあ」と宥めなる。年齢的にそんな行動をするのは逆であるはずなのに・・・。フレイヤは一瞬そんなことを考えたがそっと胸の奥にその感情をしまった。
「それはそうと青ちゃん。その服似合ってるよ!なんか、貴族様みたいでかっこいい」
「できれば就活の時になるまで着たくなかったけどね。それがまさかこんな所で着ることになるとは」
もっとも心の中では一生着たくないと思っていたが。できれば働きたくないし、恋人にでも養ってもらって人生を穏やかに、暇に過ごしていきたかった。
・・・恋人なんてここ数年できていないが。
青がそんなこと考え、ふとフレイヤのほうを見ればキョトンとした表情を顔に浮かべて立っている姿が目の中に入ってくる。
「あの、シュウカツってどう言う意味?」
「え?・・・あっ」
青は何にも考えず喋っていたつもりだったが、どうやらフレイヤは就活の意味が分からないようだ。
考えてみればそうだ。国どころか生きてきた星までもが違うのだ。聞き取れても理解できない言葉があって当然だ。
「うーんそうだな。就活ってのは、自ら心と体を壊しに行く変態的な試練のことだよ」
「し、試練!」
・・・嘘は言ってない。
「そう。そんな危ない行為なのになぜか私たちの星に住んでる人間たち、約五割以上はそれをしないといけなかったの」
「な、なんて残酷な星なんだ!」
・・・嘘は言ってない。はずなのに心が痛い。
「青ちゃんは凄いね!そんな過酷な星に住んでいたなんて!もしかして青ちゃんって凄い人なんじゃ!」
純粋な心と目線がつらい。やめてくれ。それは私には眩しすぎる。
「何してんだよ」
そんな三流漫才を繰り返していると更衣室の扉を開け冷たい目線を向けるアリスが立っていた。
フレイヤとは別の意味で心が痛い目をしてくれる。
「そっちこそ。女子更衣室を勝手に開けるなんて何してんの。えっち君め」
「そうだそうだ!エッチだ!エッチ!」
フレイヤは意味を分かっていってるのだろうか。いや、多分分かってないな。分かっていたらそんな笑顔でエッチ!なんて言わないはずだ。
二人とも着替えている状態だったのと二人にあまり見られることがなかったからこそアリスは今こんな扱いで済んでいることをもっと自覚してほしいものだ。
「そのセリフは普通男が言うもんだろ?女が言うもんじゃねぇぞ。気持ちわりぃ」
「はい!きもくないでーす。きもいのは更衣室に勝手に入ってきたあなたのほうでーす」
「うっざい顔して指をさすな阿保が。そんなんじゃ男にモテねぇぞ」
「それは困る」
男にモテなくなるのは困る。それを言い合いに持ってくるのは反則だろう。
と言うか、さっきから若干話に違和感があるような?気のせいか?
「あの、着替え終わったんなら一階フロアに集合と言いましたよね?何してるんですか?」
一人この場に居る三人とは違う声がしたので、青はその声の方向に顔をひょっこり出す。視線を向けるとその先には呆れた顔をした女が一人立っていた。
灰色のスーツを着たその女は先程話していた男、太一の隣に立っていた人だ。
「えっと~」
「里見桃です」
「そうそう!桃さんだ」
「・・・一応私はあなた達の上司になるわけですから、苗字に先輩と付けて呼ぶようにしてくださいね」
そんな言い方をされると嫌でも今から仕事だと認識してしまう。
いやだなぁ。
「それと、あなた達のほかにもう一人いた召喚者は既に着替えてフロアにて待っていますよ?」
「なに?あの、最初にテンションが一番高かったくせにすぐぶっ倒れた奴がか?」
半信半疑になり三人は里見桃に案内されながらフロアに向かうと、ソファに座り太一と話している男が目に入った。
「よお、お前ら!さっき振りだな!と言いたいところだが」
笑顔で呼びかけたその男が一瞬で表情を変え、まっすぐアリスのほうを睨む。アリスとしては何も彼に関わっていないのでそんな顔をされる道理がないが、どうやら目先の男にはそれがあるらしく、睨み続けやがて立ち上がりアリスの目の前まで歩き先程の言葉の続きをぶつける。
「お前。なぁにそんな両手に花状態になってんだ!?そういうのはお・れ・の!特権のはずだろぉぉぉお!」
(誰だっけこいつ)
「お前!今誰だっけこいつ?って考えただろう!」
「やべ」
「声に出てんぞ!」
急に切れ散らかす黒髪の男。キレ症なのだろうか。正直男同士、一対一の状況で口論しているのなら少しくらいその声がこちらに聞こえても目を瞑ってやれるけども、フレイヤという小さな子供もいる状態でそういうことは辞めてほしい。
「いいだろう!教えてやるよ。俺の名前は、佐——」
「——佐藤周君でしょ?さっき振りだね」
自分で名乗りたかったのか、遮られたからなのか、周は忌々し気にこちらに顔を向ける。
全く、なんでこんなやつを召喚したんだか。もっとましなやつはいるだろ。……最も、青自身もましなやつとは言えないが。
「よし、全員揃ったな。では早速仕事の時間だ」
「げぇ」
「先程も伝えた通り、私はこの前の戦いでの始末書や報告書を大量に書かなければならないため今日は同行できない。故に君たちは私の部下である里見桃と仕事をして貰う。良いな?」
「はい!」
やる気に満ち満ちている周の返事がフロアに響き、残りの三人も各々のタイミングで「はーい」とやる気のない返事をして異世界での仕事は始まった。
とは言っても、周が待ち望んでいるようなバトル展開のようなものはそうそう起きること無く町のパトロールや、青たちが街の風景を覚えると言ったのが仕事だった。
仕事と言われて如何にバレずにさぼってやろうか、なんて考えていた青にとってはこれ以上ない最高の仕事だった。
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建物をでるとすぐ町の風景が目に入ってきた。青がいた日本とかなり似通っているが、所々で違和感がある。
車からでるガスが若干少ない気がする。それにビルにあんなでっかい映像を映すなんて人にできるのか?しかもみんな、手に何かを持ってる。あれはなんだ?
青は今未知の物に対する興味心が高ぶりまくっている。まるで未来の世界に来たみたいな感覚だ。
あれも気になる、それも気になる。目をキラキラさせる青はまるで、初めてテレビを見た子供の様になっていた。
青が一歩前に進もうとすると両方の手を握られ前進に失敗する。
手に違和感を覚え後ろを見ると、それぞれフレイヤとアリスが青の手を握っていた。
「ほら、これはあれだ。そう!お前がこの場所を怖いと思ってしまうかと思ってな。握ってやってるんだ」
聞いてもいないことをベラベラと。ビビってるのはお前だろとツッコンでやりたい。いや、ツッコンでやろう。
「・・・もしかしてビビって——」
「バビってねぇ!!」
バビってねぇってなんだよ。ビビってるじゃん。
「青ちゃん!私も怖いわけじゃないからね!でも、青ちゃんが怖くならないためにもこうしといてあげるね!」
可愛い。今のところ、この世界の唯一の癒しかもしれない。
なんだか、手のかかる二人の子供を持った気分だ。湧き上がるこの感情。これは母性本能と言うやつなのだろうか。
そう思うと、アリスのこともなんだか可愛く見えてくる。
「全く二人とも怖がりなんだからぁ」
「「違う!!」」
そんな息ぴったりな二人を見て、少し離れた場所にいる周は青に嫉妬の視線を送る。
異世界に来てあの引きこもり生活からおさらば。輝かしい毎日が新しく始まると思っていたのに実際はそんなことなく、それは全て目の前の女がしている。
アニメのキャラか?ってくらいに可愛い少女、眼鏡イケメン、黒髪の長髪で前髪は目の上でふんわりと内側に巻いて、サイドの髪を後ろや外側へ流すように大きくブローしてボリュームを出している。悔しいが、美人と言える女。この三人と比べて自分は確実に劣る見た目をしている。
そんな周が彼女らの中に割って入ることなんて出来ない。
「はぁ」
異世界に来ても中身は何も変わってねぇんだな俺って。
「何浸ってるんですか?佐藤さん。早く行きますよ?」
ちょっと考え事をしている間にどうやら話はかなり進んでいたようで、町探検が始まろうとしていた。
ここで周はやっと理解した。
——この扱い方、俺主人公じゃないな。
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三時間案内された町は思いのほか普通だった。まぁ、建物内を案内された時点で薄々感じ取ってはいたが・・・。
佐藤周は引きこもってはいたものの、街並みくらいは分かる。と言うか引きこもり始めたのはここ二か月の話なので分からない方がおかしい。
この世界は周が住んでいた日本そのものだった。根拠は色々あるが、やはり看板に書いてある文字が日本語だというのが大きな理由だろう。
もちろん海外の国にもにもそう言った場所はあるだろうが、それにしては数が多い。それに、すれ違う人々の顔立ちが日本人のそれだ。
だが違和感はある。
その違和感とは、何といったらいいのか、見通しが良いのだ。
もちろん高い建物はあるが、周のがいた日本ほどではない。
「うわー!フレイヤちゃん、そのブレスレット凄く似合ってるよ。チョベリグ!チョベリグ!」
「そお?この腕飾り似合ってる?」
「いや、こっちの腕輪の方が似合ってるんじゃないか?俺の選んだ奴もつけてみてくれ」
周がそうやって色々と考えを巡らせているとなにやら、和気あいあいとした会話が聞こえてくる。
その声の正体を周は姿を見ずとも理解できた。
「君たちは何をしているのかな?」
周は声の主、三人組に優しく声をかける。
その声に気付き、星形のサングラスをかけた女、ブレスレットをつける金髪の少女、そしてスーツのジャケットを脱ぎシャツ姿の眼鏡イケメンが振り返る。
その姿は様似なりすぎていて通行人たちがチラリと視線を向けるほどだ。
「何って、待機命令が出たからこうしてお利口にしてるだけですけど?」
周の問いにサングラスをかけた女、浜崎青がそう答える。
そう言うことじゃないだろ!と心の中で思ったが言わずにおいてあげよう。
「まぁこうやっているのに可笑しさを感じるのは分かるよ。でも、今この状況を考えてもどうしようもなくない?ここで今私たちが出来ることなんてなんもないよ。こんな未来感に溢れたところで何が出来るの?」
「いや、どっちかと言うと古臭いだろ」
「・・・え?」
「は?」
日本の街並みと似ているところが多いがどこか古臭い。それが周のこの世界に対する評価だった。だと言うのに青の評価はその真反対だった。多少評価が変わるのは仕方のないことだ。だが、真反対などありうるのだろうか。
「・・・なあ、お前日本出身だよな」
「そうだよ」
おそらく周の考えは正しいだろう。同じ日本出身だったとしてもその全ての条件が同じとは限らない。
「・・・何年生まれ?」
「1963年だけど・・・」
言われてみれば昭和時代の人の顔立ちをしている気がする。通りで移動中も話が嚙み合わない事があるわけだ。
「おーい、君たち。案内はこれで終わりだから、君たちがこれから一緒に住む家に連れてくぞー」
周が衝撃の事実に絶句していると、少し離れた場所から一人の女、里見桃の声が聞こえた。
・・・一緒に?




