八話目 この世界のこと
案内された部屋は青も知るごく普通の会議室のような場所だ。だが、何の変哲もなさ過ぎて青にはこの部屋は普通です。と言っているようにしか聞こえなかった。
「どうぞお好きな席にお座りください」
好きな席にと言われてもそんなところはあるはずはないので、出口に一番近い席に青はフレイヤと隣同士で座る。アリスも同じ考えを持ったのか、出口に一番近い場所を陣取る。最も、椅子には座らず壁にもたれかかるだけだったが。
「では今から君たちには様々なことを話さなければならない。大体はこちらから話すが何か質問があれば遠慮なく言ってくれて構わない」
鈴木太一は少し離れた席に座り両肘をテーブルに置いてそう言った。
アリスとフレイヤはそれに対して何の返答もしなかったので青は小声で「はーい」と短く言った。怪しいのは分かるけどちょっとくらい彼と話してくれてもいいじゃないか。と青は思ったがそれを口に出すことはやめておいた。
「では、もう気付いているだろうけども君たちは全員、同じ星のもと育った人間ではない」
「やはり・・・」
アリスが小さく納得したように呟く。
うすうすそんな気はしていたが実際にその事実を突きつけられるとなにか、こう、来るものがある。
自分の隣にいる少女や背後に立つ青年が自身と根本的に違う生物であるという可能性に少しだけ青は少し身を震わせる。
それを感じ取ったのかは分からないが、そんな青の手をフレイヤは優しく握る。それに少し安心するのと同時に不気味さを感じてしまった青は駄目な人なのだろうか・・・。
「篠浦アリス、君は地星。フレイヤ・ラミリンス、君はユースカランド。そして、浜崎青、君は地球。このデータで間違いはないか?」
「ああ。問題ない」
「うん、あってるよー」
「はい、その通りです」
三者それぞれが鈴木太一の持つデータは正しいと言うことを認める。
地星。ユースカランド。どちらも青は聞いたことのない星だった。それはフレイヤもアリスも同じことだとは思うが。
「篠浦アリス、君の住む地星の住人は身体能力がとても素晴らしいと聞くが、それは本当か?」
資料を手に取り太一はアリスに質問をする。アリスは返答に少し迷ったが、この場で嘘をつくメリットはないと判断し、その質問を肯定する。
「だが、俺たちはそれを当たり前だと思ってる。身体能力があんたらより良いってことは一目見て分かったことだから肯定しただけだ」
アリスはそう自身の発言に付け足した。太一はその発言を聞き、少し驚く。一目見ただけで自身と相手の力量差を明確に判断できる。これは『怪盗』相手だけではなく、様々な悪の相手にとって大きなアドバンテージになるからだ。
「次に、フレイヤ・ラミリンス。君の住む星ユースカランドは我々と比べて文化や技術が発展していないと聞く。だが、君たちはこちらの世界で言う『魔法』と言うものが使えるのだろう?それは真実か?」
「マホウがなんのことか分からないけど、多分あってると思う。文化についてもそう。こんな頑丈そうな石の建物じゃなくて木でできた家に住んでるから。と言うか、あなたたちの技術力に比べたら私たちの技術力が低いのは当然でしょ?」
魔法がなにか理解していないのにもかかわらず、太一の文脈を汲み取ってそれを『使える』と言った。
フレイヤはかなり頭が良いようにも思える。
「そして・・・」
太一は最後に青のほうを見る。正直、この二人の話を聞いた後でなにか自慢するものがあるか?と聞かれたら青は速攻で首を横に振ることが出来るだろう。強いて言えば、大学の成績で上位三十人に入ったことがあると言うことくらいだろうか。
「浜崎青」
「あっ、はい」
「君は召喚者の中で唯一我々と同じ名前。『地球』という星に住むものだ」
なるほど。別に嬉しくない。だからなんだというのだろう。
「そして君の住む地球は我々と違いかなり技術力があるらしいね」
————————?異世界から人を呼び出せる装置を作ることが出来るこの星の技術力より青たちがいる地球のほうが技術力が上?何を言っているんだ彼は。
青が頭を抱えていると鈴木太一が話を再開しようとしたので、慌ててそれを遮る。
「ちょっと待ってください。私のいた地球のほうがあなた達の地球より技術力が上?それは何かの間違いでは?」
確かに青のいた地球ではAIの進化や、空飛ぶ飛行機などがつくられたりなど凄いと思うことは多々起きているがそれでもこの星の技術を上回ることは未来永劫訪れないのでは?と思える。
だが太一はそれを謙遜と思ったのか、はたまた別の意図があったのかは分からないが、少し笑ってから青の目を見て口を開く。
「我々が誇れる技術力なんて全くと言っていいほどないさ。君たちを召喚したあの機械だって私たちが作ったものではないしね」
「では、あれはどういった団体が作ったものなんだ?」
アリスのその質問に太一は急に強張らす。部屋に一瞬沈黙と緊張が走り、太一はまた話し始める。
「あれを作ったのは、この世界で一番の天才と言われる女。マティーニ・レオスが作ったものだ」
名前を言われても青たちには何の縁も所縁もない人物なのでどういうリアクションを取るのが正解なのかは分からないが、そいつが悪いやつなのは三人とも太一の話し方で理解した。
「我々の星の技術力はほぼ彼女一人のおかげだ。彼女が凄すぎるあまり、我々凡人は作り出したものをほとんど没にしないといけないのだ。だからいつまでたっても技術力が上がらない」
「技術力を高めたいならその、マティーニって人に頼めばいいんじゃないの?それとも何か頼めない理由でもあるの?」
フレイヤがそう問いかける。マティーニという女が悪の人間だということはうすうす分かっているはずだ。つまりこの質問は確信を得るためのものだろう。
「マティーニは史上最高に天才だが、史上最悪に非道な女だんだよ」
異世界人、全員がその言葉に確信を持った。
「マティーニは人間のカスだ。とても人間性を持って生きているとは思えない。自分の欲の為なら女子供関係なく殺すし、自分が興味を持ったらそこらの動物と子供を合成させることも平気でやる」
ありとあらゆる、聞いているだけなのにその人物に殺意がわくエピソードを太一は話す。
「でも、捕まえられない。決定的証拠がないからだ。女子供を実験に使ったという決定的な証拠が」
顔全体に怒りの感情を浮かべ話し続ける。
「それに、マティーニを捕まえると世界にとって不都合なことが多すぎる。この世にある傑作と言える機械や装置はほとんどあいつが作ったものだからな」
マティーニを捕まえるということはそれすなわち世界の技術力の進歩を完全に止めることを意味する。
非人道的な実験をしていると理由をつけて捕まえることは不可能。殺すことなど言語道断。ならばこの悪をどうするか。
「最悪な手段だが、強制的に捕まえればいいんじゃないのか?国家ぐるみの犯罪や違法行為は処罰されないし出来ないだろ?」
「・・・既に行ったさ」
「——!?」
最悪な冗談として案を出したつもりが、それが既に実行済みとされていたということにアリスは、否その場にいた召喚者全員が驚愕する。自分のいた星とは全く違う常識がこの星にあったとしてもそこまでのことは行わないだろうと考えていたからだ。
しかし、それと同時に疑問が浮かぶ。
なぜ実行済みなのに、太一はまるでマティーニが捕まっていないかのような話し方をしたのだろうと。
「既に行ったさ。あぁ実行したさ。つい一週間ほど前にね」
話しぶりからして失敗と言ったとこなのだろうか。マティーニと言う女は戦闘力の面でも優秀と言えるのだろうか。
「今からちょうど一週間前我々はその作戦を実行し、マティーニを捕獲した。・・・だが、その二日後に怪盗Aを名乗る男とその取り巻き二人がマティーニを収容した建物に攻め入り、マティーニを奪い拐ってったんだよ」
「——怪盗」
フレイヤが小さく呟くのを青は隣で聞き、思考する。
話を聞き不可解に思ったことは二つ。一つはなぜ怪盗と呼ばれる者たちは天才科学者を奪ったのか。二つ目は、怪盗が攻め入ると言う言葉。
青のいた地球でも怪盗と呼ばれる者はいた。最もフィクションの世界にだけだが。だが、青の知る怪盗たちは攻め入るなんてものはしないはずだ。怪盗とはもっと優雅に宝や価値あるものを盗み出す者たちの総称だったはずだからだ。
フレイヤとアリスが今どんなことを考えているかは青は知らない。だが、突然黙り始めたのはおそらく青と同じように何かを思考しているからだと思う。
「——すまん。こういうことは今話すことではなかった」
もっと順を追ってからこういった悪の話はするのだと太一は反省し、青たちに謝罪する。
太一はゆっくりと瞬きをしてからやがて青を見る。
「話が脱線して悪かったが、君に頼みたいことは我々に君の星の技術を伝授してほしいということだ」
「えぇ~」
青はただの大学生だ。そりゃあ、ある程度の知識はある。大学受験するときに勉強をしたし、大学の講義で聞いた話も覚えてる。でもそれは決して全てを説明できると言うわけではない。
断ろう。期待してもらっているところ悪いがそんな大役を青は出来るとは思わない。と、考えたが冷静になってみると意外と悪い条件でもないような気もする。
青たちがここに呼ばれた理由として、『怪盗』を捕まえてほしいというものがあった。それでもってその怪盗は一人の科学者を奪うために国に攻め入れれることが出来る程には強者。ならば彼らのもとで元居た世界の技術を伝授して危険からは遠ざかるという手段をとれるのではないか?
よし承諾しよう。そうしよう。
「分かりました。ぜひその条件で・・・」
「因みに、もし受け入れてくれるのならば我々に技術を教えるのは休日で構わない。平日はそこの二人と今は眠っているが、佐藤周と共に怪盗の捕獲に尽力してくれ」
「ごめんなさい。私にはやっぱり荷が重いかなと思います」
「えぇー!青ちゃんやらないの!?超凄そうなのに!」
「私に任せてください。どんな条件だって飲んでやります」
気付いた時には口が勝手にそう言葉を発していた。さすがは魔法使いと言ったところか。こんな魔法を使えるなんて。恐れ入った。
まぁ意図せずこんなことになってしまったが、元の世界に変えれるまでのちょっとした非日常ってんなら楽しそうだ。
「あっ、そうだ。因みに私たちはいつ元の世界に変えれるのですか?私の大学の夏休みは九月いっぱいまでなんでそこまでには帰りたいんですけど」
「召喚装置は召喚をするだけで転送は出来ないぞ?」
「もうね、ホントにあなた最低」
説明回ってちょっと書くの苦手




