七話目 異世界人たち
目が覚めるとそこは知らない部屋でした。周りには五人の見知らぬ男女。後ろを振り返ると何やら複雑そうな機械。そして目の前にはスーツを着た男女二人。
——なにこれ。どういうこと?
私、浜崎青は確かに先程まで自室にいたはずだ。だというのにいつの間にかこんなところにいる。
なんでだ?うまく思い出せない。記憶があいまいだ。
周りの人たちは——私と同じように焦ってる人もいればなんか、わくわく?してる人もいる。
「ね、ねぇ」
「うぴぁギャァ!」
「うわぁぁぁ!」
体を起こし、すぐ隣にいた女の子に声をかけるとを奇声あげられてしまった。
「な、何するのよ!いきなり!びっくりしたじゃないの!」
両手を胸に当て、金髪の少女はそう驚く。茶色のコートを着ており背丈は青より頭一つ分ほど小さい。
青もそこまで身長が高い方ではないのだが、それよりも小さいとなると結構な低身長と言えるだろう。
年は若く見える。十四歳ほどだろうか。
「ご、ごめんね。でもちょっと聞きたいことがあって、その、ここがどこだか知ってる?私目が覚めたらいつの間にかこの部屋にいて」
誘拐されたのだろうか。だが、周りにいる人たちは年齢も性別もおそらく国籍も違う。それになんか一人わくわくしている男もいる。
「し、知らないわよ。私だって目が覚めたらこんなとこにいたんだし。というか貴女だれよぉ」
「あ、ごめんね。えっと、私の名前は浜崎青。青って呼んでくれたらうれしいな」
「ハマサキ?貴女もしかして日本人?」
金髪の少女はそう言うと驚いたような顔をした。日本人、このワードに引っかかったということは彼女は日本人ではないのだろうか。
ますます誘拐の線は消えてきている。もちろん日本にいた外国人の女の子という線もあるが。
「・・・貴女、日本人なのにドイツ語得意なのね」
「——え?私日本語しか話してないけど・・・」
「え?だって私にはドイツ語に喋ってるように聞こえるのだけれど」
ますますますます意味が分からない。彼女は青がドイツ語でしゃべってるように聞こえているとでも言うのか。
そんな状況に青が頭を抱えて悩んでいると目の前にいたスーツ姿の男女のうち、男のほうが口を開く。
「みな、困惑しているところすまない。私の名は鈴木太一と言う。ここに君たちを呼んだのは私たちだ。だが一つ断っておくと君たちを呼んだのはなにも、悪事をしようと企んでいるわけではない。それは知っていてほしい」
男はそう言うと青たちの顔を一人ずつ確認した。
・・・彼が犯人ということになるのだろうか。
彼が言う通り悪いことを企んでるような顔ではない。
でも、青たちをこの場に連れてきた意図が分からない。
「あの~。ここは何処なんでしょうか?できればお家にに返してほしいな~なんて・・・」
青が手を挙げ、恐る恐る質問すると意外にもその問いかけに答えたのは目の前の太一という男ではなく、青と同様に連れてこられた人のうちの一人だった。
「お前分かんねぇの?これ絶対あれだよ!アニメでよく見るやつだよ!」
問いかけに答えてくれたその少年はなぜかこの状況に興奮しているようだった。
「異世界召喚ってやつだよ!」
「・・・はぁ」
意気揚々に少年はそう答える。異世界召喚。文字通り異なった世界にいる者を召喚する行為のことだが・・・まるで意味が分からない。危機的状況じゃないか。
もし異世界召喚が本当だとすれば元の世界にいた友達は?家族は?いったいどうなるというのだ。
「なんだよお前テンション低いなぁ。こんな夢みたいな状況になってるのに何でそんな感じなんだよ」
「え?いや、だって、もしそれが本当だったとして、どこに喜ぶ要素があるの?私、大学にも行かないといけないし、友達と明日遊ぶ予定もあるから困るんだけど」
至極真っ当な意見を言う青に、目の前の男は何とも言えない顔をする。その顔をしたいのは青のほうだというのに。
「ここは君たちがいた世界とは異なる世界。そこの少年が言う通り異世界というものだ」
太一の発言に少年が嬉しそうな顔をし、「ほらやっぱり!」と歓喜する。
「ここに君たちを呼んだ理由は二つある。一つは、私たちが最近相手をしている『怪盗』。これらを捕まえてほしいからだ。そして二つ目は、君たちを救うためだ」
突然のことに青は理解が追い付かない。先程まで会話をしていた金髪の少女もうまく事態を呑み込めてない様子だ。
そして周りを見てもその事を瞬時に理解した者はいなさそうだ。——ただ一人を除いて。
全員が固まる中、最も早く動いたのは先程まで青が話していた少年ではなく、少し遠くにいる黒髪の眼鏡をかけたイケメンだった。
青年は壁にもたれ掛かり、組んでいた腕をほどき小さく右手を挙げ太一に問いかける。
「いろいろと言いたいことはあるけれど、とりあえず一つ良いかな?」
「ああ。構わない」
「俺たちをこの場に呼んだ理由のうちの一つ、『怪盗を捕まえてほしい』。これは分かる。だが、二つ目の理由の『俺たちを救うため』というのは?」
青年の疑問はおそらくこの場に居た全員が脳裏に抱いたことだろう。
アニメや漫画でのこういう展開では大体、悪者をやっつけてくれ!なんて理由で呼ばれるのが殆どだからだ。
故に救うため、という言葉の意味が分からない。
「その質問には答えられない。えぇと・・・」
「篠浦です。篠浦アリスです。なぜです?」
「篠浦アリス君。勝手に呼んどいてなんだがこちらにも事情がある。すべてを話すことは出来ない。だが信じてほしい。私たちは悪い人間ではない」
「納得できませんね。その理由が分からない限り俺たちは協力することは到底できません。俺たちをここへ呼んだ理由、その全てを話してください」
「断る」
二人の会話を青や金髪の少女、先程まで騒いでいた少年でさえ黙って聞いている状況の中、その会話に割って入ったのは太一の隣に立っていた女だった。
「鈴木さん。言葉が足りません。そんなんだから部下から大人気!になれないんですよ。篠浦さん、事情を話すことが出来ないのは、『今この場では』と言うことです。今言えないのはしっかりとした理由があるので、ご理解お願いします」
アリスは何か言いたげな表情をするが、言葉には出さずゆっくりと目を閉じた。
女は一歩前に出て太一の代わりに説明をしだす。
「続けます。先程申し挙げた通りあなた達をこの場に呼んだ理由はこちらの鈴木の言った通りです。そして二つ目の理由については今しがた私が説明した通りです。これ以上こちらから話すことは何もありませんが何か質問ありますでしょうか?」
「はいはいはーい!質問です!俺たちは怪盗を捕まえるために呼ばれたんすよね!ならお姉さんはガイド役の人で今から俺に超最強な武器とかをくれるんすか?」
またしても手を挙げ口を開いたのはこの少年だった。他の者たちと比べて微塵も焦っている様子が感じられない。なぜこのような状況にあっているのにわくわくしているような目を出来るのだろうか。
「一応ピストルは渡す予定ですが、そんなのいらないくらいあなた方は強いはずでしょう?」
女のキョトンとした表情と発言に少年と青は固まる。
強い?一体何を言っているんだ?青たちはごく普通の学生だ。だというのに悪党と対峙するのにピストルがいらない?
ピストルを支給してくれるということは少なくともそれがないと話にならないくらいに強い相手なのではないのか?
「えっ、えっと~、確かに異世界召喚ボーナスとかで強くなってるかもしれないけど、体に変化とか起きてない様な・・・」
少年が言葉に詰まり顔に冷や汗を流す。
そんなはずはない。だって異世界に来たんだ。つまらない人生を面白くするチャンスなんだ。それなのにまさか、そんなこと・・・。
少年の頭にはいくつもの嫌なことが浮かぶ。そうでないことを願うしかない、願うことしかできない。
だが、それはいとも簡単に打ち砕かれた。
「あなた方は身体能力が超人的だったり頭が飛びぬけて良かったり、魔法が使えたりと、とても凄いことが出来るのではないのですか?だってあなた方は異世界人でしょう?あなたもそうでしょう?佐藤周さん」
もっとも危惧していたその発言を聞き周は膝から崩れ落ち、そして気を失った。
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気を失った佐藤周は後に部屋に来た彼らの仲間であろう人たちに運ばれた。
そして今、青たちは太一と里見桃に連れられて長い廊下を歩いている。
今青の中にある感情はちょっとした恐怖だ。青も先程の少年、佐藤周と同じく何の能力も持たないただの大学生だから。今こうして手を繋いでいる金髪の女の子も何か特殊能力的なものを扱えるのだろうか?
手を繋ぐ少女に目をやると偶然にも少女と目が合った。少女は何か言いたげな顔をし少し眉をひそめてから、やがて口を開く。
「ね、ねぇ。私たちこれからどうなるんだろう・・・」
青に向けられたその一言はあまりにも弱弱しく、今にも泣いてしまいそうな女の子の声だった。
これからどうなるか。それは青にもはっきりとは分からない。でも、目の前の小さな少女がこんなことを言ってくるのならばそれには真剣に答えなければならない。
「ごめん。私にも分からない。でも、何かあったら私があなたのことを絶対の絶対に守って見せるから!」
今できる最高の笑顔を作り少女に向ける。少女もその笑顔を見て少し緊張の糸がほぐれたのか表情に笑みが浮かぶ。
「それで、その、まだあなたの名前を聞いてないんだけど、よかったら教えてくれる?」
さっきは佐藤周と鈴木太一たちの会話が濃すぎて聞くタイミングがなかなか掴めなかった。今この時なら周りもごたついていないので名前を教えてくれるだろう。それに、ちょっぴり親しい中になれた気がするし。
「あっ、ごめん。言うの忘れてた。じゃあ言うね。私の名前は、フレイヤよ。フレイヤ・ラミリンス」
「そっかぁ、フレイヤちゃんかぁ。良い名前だね!」
フレイヤ。少女の名前を知れただけなのになぜか笑顔になってしまう。
謎の場所に連れてこられ、前も後ろも分からない状況の中、青は初めて心の底からの笑みを浮かべた。
「ねぇ、ちゃんってどう言うこと?私の名前はフレイヤだよ?」
フレイヤは自分の名前にちゃんと付けられたことを不思議に思った。青は何も考えず普通に言っただけなのだが、ドイツ人のフレイヤにはその意味が分からなかった。
「えーっとー」
何でか。そう言うものだとしか青は説明できない。でもきっとそれではフレイヤは納得しないだろう。
青は大学で行うテスト並みに頭をフル回転させフレイヤに答えてあげる。
「ちゃんって言うのはね、その人のことを親しい中だと思ってるからだよ。あと、響き気がかわいいでしょ?」
「そーなの?じゃあ私もこれから青のこと青ちゃんって言うね」
可愛すぎる。笑顔がまぶしい。青が男だったらまず間違いなく恋人にしていた。年齢の問題はさておき。
「あっ!と言うか結局何で私たちは別々の国出身、別々の言語でしゃべってるのに言ってることがお互いに伝わって、お互いに理解できるんだろうね」
ここに召喚?されて二番目くらいに疑問に思ったことを思い出した。まぁ異世界召喚なんて非現実的なことをされてる以上、今更そんなことを気にする必要はないかもしれないがどうしても疑問に思ってしまった。
左手の人差し指と親指で顎を支え考えているとフレイヤも同じように繋いでいる手と反対の手で同じポーズをする。
青が考えてフレイヤが真似っこをする光景を見て、後ろで歩いていたアリスが声をかける。
「考えられる理由は大きく分けて二つなんじゃないか?」
「二つ?」
「一つは俺たちが眠っている間に何か特殊な薬や、機械を体の中に埋め込められたって可能性」
確かにその可能性はあるだろう。薬で言語をすべて理解できるようになっている、とか機械を耳元らへんに埋め込まれていて相手の言ったことを瞬時に翻訳してくれるとか。
「で、二つ目は俺たちがそもそも別の星の人間だって可能性だ」
「それってどう言う・・・」
青が二つ目の可能性について深掘って聞こうとした瞬間、前を歩いていた鈴木太一が「着いたぞ」と短く言い、遮った。




