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三話目  そういうとこだぞ

 「一応聞くけどマジで撃つつもり?」


 「何か問題でも?」


 「ありまくりだけどね」


 拳銃を向けられても一切の動揺を見せないAに太一は短い言葉で返す。


 「冷たい返事だなぁ。そんなんじゃモテな——」


 「ずいぶん砕けた喋り方じゃないか。気でも緩んで素が出ちゃったのか?」


 「・・・別にこの喋り方は素ではないよ。・・・ちなみに言っておくとこの声も姿も全部、本当の僕じゃないよ」


 じくじくと鈍い痛みが巡る腹部を押さえながらも、太一はAの言葉に耳を傾ける。体中の骨が折れており、出血もしている。立っているのもやっとな状態であるが、太一はそれをAに悟られないように喋り続ける。


 「だから正体がばれないってか?馬鹿が。お前が各国で暴れまくるからここ最近では防犯設備が超絶強化されてんだよ。例えお前がこの場から逃げ切ろうと、町中にあるカメラで即見つかって即逮捕だボケ」


 「そんなことくらい知っているさ。・・・僕がそのことに対する対策を何もしてないと思う?」


 「——っ」


 「それと一つ聞きたいんだが、なんでさっさと引き金を引かないんだい?時間稼ぎのつもりかな?もしそうなら、これ以上は君にかまってられないな。」


 そう言い、Aは一歩を後ろに下がる。それでも太一が引き金を引かないことに心の中で笑みをこぼす。


 (やっぱり撃ってこない。脅しのつもりだったのかな?睡眠ガスを使ったり、隊員を捨て石に使ったりとイカれた行動の数々からすぐに撃ってきても不思議じゃないけど・・・増援を待っている?私と一対一だと分が悪いと踏んで?)


 Aのリボルバーの残弾数はマックスの五発。早撃ちにも自信のある彼が、太一の指を撃ち抜き銃を無力化するのは容易なことだろう。ただ怪盗道具は難しい。使う前にAが撃たれてしまう。


 「ずいぶんと長く考え込むんだなぁ。本当は対策なんて、無いんじゃないのか?」


 (そうだ。そのまま考え込んでろ。あと少しで対怪盗用の武器が到着する。頼むそのまま動かないでくれ)


そんな太一の願いも虚しく、Aは唐突に太一を撃った。


 「よいしょっ」


 その声が太一に届いた時には既に発砲後だった。反応が遅れ、右手に弾が食い込む。手から離れた拳銃が地面に転がり、太一は崩れ落ちる。


 「——ぐ・・・が」


 右手を押さえ出血を少しでも止めようとするが、その痛みは太一の想像をはるかに超え、うなり声が漏れてしまう。痛みで発狂してしまうところだったがA目の前にいる以上、それはできない。


 激痛をこらえながら落とした拳銃を拾おうと踏み出したが一歩早くAが目の前に立ちふさがる。


 「俺も・・・殺すのか?ほかのやつらみたいに」


 「どっちでもいいよ。僕が殺すのは僕の邪魔をするやつと、僕に敵対するやつだけだから。君ごとき、生きていても生きていなくても僕には何の影響もないからね」


 「・・・なぜこんなことをする?たくさんの人の命を奪って、多くの国の宝を奪って何がしたいんだ?」


 「うーん。あんまり教えたくないなぁ。・・・まぁでもどっちみち君と会うことはもうないか。・・・少しだけ教えてあげる。」


 Aは太一に背を向け歩き出し窓ガラスから町を見下ろしながら口を開く。


 「僕にはね、野望があるんだよ。」


 「野望?」


 「そう、野望。僕はね、ある国を買いたいんだ。」


 「・・・は?」


 その衝撃の告白に太一はあっけにとられる。


 「あっはは。可笑しいよね。笑ってくれてもいいよ。僕もそう思うから。でもね、僕は本気だよ。今すぐには無理でもいつか、世界中でかき集めてきた宝と僕が所持する怪盗道具があれば不可能ではない気がするんだ」


 「いや、無理だろ」


 自分の野望を語るAに短く、呆れたように太一が返す。


 「いや?出来る。やってみせる」


 「——っ!そんなつまらん、叶いもしない夢のためにここまでしたのか⁉お前は——」


 言葉を続けようとした太一に弾丸を一発足に撃ちこむ。


 「——っぁ」


 「叶うか叶わないかは僕次第だろ。あんまり人の夢を否定したり馬鹿にしたりしたらだめだよ。」


 少し笑みを顔に浮かべ太一を見下した後、Aはリボルバーを太一に向ける。


 「じゃあ僕はもう逃げるから。これ以上ここにいても何にも良い事ないしね。・・・最後に何か言い残すことでもある?」


 「・・・クソくらえ」


 Aが引き金を引こうとした瞬間、視界の端から弾丸が一直線にA目掛けて飛んできた。Aはすかさずその弾丸を手でキャッチする。


 「うわっ!なんで弾丸を受け止められるんだよキモっ!」


 「あー桃ちゃんだっけ?女の子がそんな汚い言葉使っちゃだめだよ?」


 「なに?男女差別?やめなそういうの。今のご時世そういうの厳しいんだから」


 ライフルのようなものを担ぎながら里見桃はAに言い返す。人のことを小ばかにするような表情をしつつも警戒を緩めず、慎重にAの方向に歩き出した。


 「そのライフル?すごいスピードだったね。危うく撃たれちゃうとこだったよ」


 「いや、撃たれろよ。なんでキャッチできたのさ」


 「それはきっとこの目と変装のおかげかなぁ」


 (やっぱりあの変装は普通のものじゃなかったな。ライフルの銃撃をいともたやすくキャッチできるくらいに頑丈で、爆撃を直で受けても目立った外傷なし。あの状態のAに傷をつけることはかなり難しいな。そして、『この目のおかげ』とは?目のおかげで私が放った弾丸を見切り、キャッチできたということ?もしそうなら、遠距離からの攻撃をあてるにはかなり離れてないと難しいかな。となるとこの状況で彼に攻撃をあてるには至近距離からの銃撃である必要がある。つまり方法は、爆弾のような面での威力ではなく一点集中の威力で仕留めること!)


 「桃ちゃんさぁ、近付きすぎじゃない?こっちには人質がいるんだけど」


 里見桃を小馬鹿にするように笑い、Aは太一に向けて引き金を引く・・・が、肉に当たった音がしない。


 ふと横に目をやると太一は数メートルは離れた場所に避難していた。


 「ありゃ?いつの間にか逃げられちゃってる」


 「次は私が相手です」


 そう言葉が聞こえAは里見桃の方向を見る。距離は大体十メートル程だろうか。


 「僕と一騎打ちでもしたいのかい?無理だよ。相手にならない。知らないかもしれないけど僕強いよ」


 「そうですか。ご忠告ありがとうございます。それでは私からも一つ忠告を。戦闘能力という点では、私は太一隊長よりも強いですよ」


 言葉を返すと同時に桃はライフルをAに向け頭部めがけ発砲。先ほどと同様にAは弾丸をキャッチする。弾を掴んだ手がAの目線に被さった、その一瞬の隙を見逃さずに桃は姿勢を低く構えた。視界から消えた桃を捉えるまでにできた更なる隙をまた縫って、Aの腹部に銃口を押し当てる。そして間髪入れずに引き金を引く。


 ライフルから放たれた弾丸がAの腹を直接貫く。


 「・・・っぐ・・・ぅ!?」


 腹部から流れ出した血液が床を赤く染め上げる。Aの腹には熱い鉄の棒を突っ込まれたような感覚が広がった。


 イタイ。アツイ。ツメタイ。イタイ。クルシイ。キモチワルイ。イタイ。シビレル。イタイ。シンドイ。イタイ。アタマガワレル。イタイ。イタイ。イタイ。イタイ。イタイ。イタイ。イタイ。イタイ。イタイ。


 その場に座り込み脳がその言葉以外の情報を受け付けない、そんな状態の中、Aの目の前に立った里見桃が冷たい目を向けながら話しかける。


 「この弾丸はただの弾丸ではありません。怪盗、主にあなた用に作られた特殊な弾丸です。原理は説明しませんが、撃たれると体がしびれ少しの間動けなくなりますし、なにより痛いらしいですよ。撃たれたら痛いのは当たり前なんですけど、本当に痛いらしいですよ。どうです?痛みの加減は。私はくらったことがないから分からないので。ぜひ感想を聞きたいです」


 「——っ。・・・うん。超痛いよ。うん。だから逃げることにした」


 「その怪我で?往生際が悪いですよ。おとなしく捕まって今までの行いに反省した後、死刑判決をくらいなさい」


 「おい、お喋りはその辺にして早くAを無力化するんだするんだ」


 少し離れた壁に腰を掛けて座っていた太一が弱弱しく桃に言った。その言葉を聞き、桃はその判断が正しいと考え、指示に従い手錠をかけようとポケットの中を探る。そんな絶体絶命の状況の中Aは焦るでもなく、逃げようとするわけでもなく、ただ薄ら笑いを浮かべて太一に向けて話し始める。


 「ねぇ太一さん。あんた言ってたよなぁ。『俺がAなら潜入を選ぶ』って。でもさぁ、少し考えが甘いんじゃない?」


 「どういうこ——」


 「この博物館、龍の剣が保管されているから日本の博物館の中でとびぬけてセキュリティが高い。そこに僕の招待状が加わったことにより、多少ではあるけど更にセキュリティレベルが上がった」


 鈴木太一、里見桃。両者共に緊張が走る。最悪な事態が起こったわけではないが、これからなにか、自分たちの想像を超える何かが起こる。そのことを強く感じ取ったからだ。


 ライフルの持ち手が自身の体温で温まっていく。


 腹からはとめどなく流れた血が滲んでおり、体は冷えていく。


 ライフルによる攻撃を受けた腹部はその威力から焼けており、出血こそ少ないが痛みは全身に巡る。

 そんな彼らの変化とは裏腹に、場には静寂が広がる。


 「そんな中僕が潜入して、セキュリティを確認後、即実行。・・・なわけないだろう」


 Aがいつの間にか付けていたワイヤレスイヤホンのようなものに指を置き。



 「なんで僕一人で来たと思っていたの?」



 ——瞬間、博物館内に轟音が響いた。数多くの美術品が吹き飛び、その場にいた隊員を焼き飛ばす。幸いにも太一たちがいる場には爆発が届かなかったが、爆発に気を取られた二人はAから目を離してしまう。


 ・・・爆発。なぜ。隊員の安否。Aの言葉の意味。Aの仲間がまだ館内に?


 「避けろ!里見!」「よそ見」


 太一とAの声が重なり、次いで銃声が響く。ハッとした桃は咄嗟に首を傾けたが、避け切れなかった弾の一部が、桃の首に赤い線を引く。


 命中していないことに首を少し傾げたAは、太一と同じように容赦なく桃の頭を蹴り飛ばした。衝撃で吹き飛ばされた桃は、言葉を発することなく壁に打ちつけられる。


 「いや~間一髪だった。危ない危ない」


 平然と立ち上がっているAを見て、太一は愕然とする。「なんで・・・」そう小さく太一は呟き、その言葉を聞いたAは顔に笑みを浮かばせながら口を開いた。


 「教えてあげようか。答えはシンプルさ。最初から僕は痺れてなんかいなかった」


 「そんなはずはない!あの弾丸の効力は確実だ!打ち込めばどんな屈強な者でも数時間は指一本すら動かせないはずなんだ!」


 太一はよろよろと壁にもたれながら立ち上がり、大声を上げた。Aはそんな太一の言葉に舌を出しながら耳を塞ぐ。


 「結果は結果として受け入れなければならないよ太一君。この弾丸は僕には効かなかった、まずはその事実を受け入れるべきだ。起こってしまったことはもうどうしようもないだろう?大切なのは次どうするかだよ。まぁ痛みはただ我慢してるだけだけどね」


 「——っ」


 そんなAの言葉に太一は唇を嚙みながら打開策を考える。里見は壁に打ち付けられ意識不明。先程の爆発に多くの隊員が巻き込まれ、救援もあまり見込めない。自身の体もあまり言うことがきかないこの状況下の中、どうAを捕獲、龍の剣を回収するか。


 太一が必死に考えを巡らせていると、突然廊下からバイクの音が響きだした。その音はだんだんとこちらに近づき、遂には部屋の中にバイクに乗った一人の女が飛び込んできた。背丈はおよそ百七十センチほど。ヘルメットのしていない剝き出しの頭で、その顔立ちは少し幼い。その姿を見て太一はおそらく十代後半程だと推測した。太一がそう考えを巡らせ終わったと同時にAはその女のもとに駆け出す。


 「ボス~遅いですよ。まさか任務失敗したんじゃないかと思ったじゃないですかぁ~」


 「この僕が失敗するわけないだろう。・・・というかヘルメットは?なんで素顔さらしてるの?」


 「いや~、それがですね~さっきの爆発思ったより威力が強くて、ヘルメット壊れちゃったんですよね~」


 「はぁ?」


 「なはは」


 「お前は本当に・・・。まあ説教は後だ。とんずらするぞ」


 「え?説教されるんですか私」


 のんきな会話をする二人に太一はバイクの進行方向上に立ち、銃口を向ける。立っているのもやっとの状態。派手に動けば出血死する状態にあるにもかかわらず、二人を逃がさないという執念と根性だけで体を奮い立たせる。


 (あの女、状況から察するにAの仲間だろうな。Aはあれを素顔だと言っていたが、おそらくその発言はブラフ。ほぼ確実にあれもマスクか何かだろう。あいつらは絶対逃がさない。あいつらは、世に放ったらダメな奴らだ)


 二人は銃口を向けられたことに気が付いたが、Aは動きを止めるでもなくバイクに乗り、もう一人の女もエンジンをかける。Aは銃口を向けられても焦らなかった。なぜなら彼は銃弾を素手で受け止めることができるから。しかしもう一方の女が焦らない理由はなぜか。彼女も銃弾を受け止められるのだろうか。


そんな考えを再び巡らせる太一。しかし女がアクセルをかける音で思考時間は終了する。


 「いっくぞー!」


 「くっ!」


 どちらにせよ迷っている時間は残されていない。

 太一は弾丸が二人に効かないことを考慮し、バイクをタイヤめがけて発砲した。一発、二発と弾丸を打ち込んだが、驚くことに正確に撃ち込んだはずの弾丸はバイクを避け後ろの廊下に消えていった。

 

 太一が何が起きたかを認識する前にバイクは発進し、考える間もなくもう一度発砲するが、依然として弾丸はバイクに当たらず軌道を曲げる。


 バイクは太一の方向にどんどん近づき、ほぼ真正面までくる。太一はすんでのところでそれを交わし転がり、バイクは窓ガラスの方向に進み続け、ガラスを割り外へ飛び出した。この博物館はビルの四十八階から五十階にあり、二人は五十階から飛び出す結果になった。


 「ひゃっほー!」


 「そんなのはいいから早くボタン押せボタン」


 はしゃぐ女とは対照的にAは落ち着いた態度で指示を出す。その言葉を聞いた女がバイクのハンドルの横部分にあるボタンを押すと、瞬時にタイヤがロケットのノズル部分のような形に変化。火を噴きだし、バイクは浮き出した。


 「あっ!みかんに連絡し忘れた」


 Aがハッとしてそう声に出す。激戦だらけでみかんに連絡をする暇もなかったのだ、無理もない。「まいったなぁ。後でどやされるぞ」苦い顔をしながらAがそう呟く。


 「みかん?あぁ!アンナちゃんね!ボスが僕に連絡してきたってことは非常事態だったってことでしょ?俺が何とかするから帰ってていよ~って連絡しちゃった」


 「・・・お前、調子に乗ってなかったらとことん有能だな」


 「え?僕が有能?いや~困っちゃうな~」


 その言葉を聞きニヤつく女——平野有人(ひらのあると)。


 彼を横目にAは「そういうとこだぞ」と呆れながら口にしたのだった。



 隊員死者数・二百名中、百六十五名

 被害総額四十億円以上(現在も調査中)

 この出来事は後日マスコミや新聞に取り上げられ、世界的大ニュースとなるのだった。

最初のバトル終わったーーー!!

次はの話はめちゃくちゃ長いので、覚悟しといてください。

……バトルシーンで()が多くなるのは大目に見てね。魔法とかはないから心理戦で盛り上げるしかないんだよぉ(泣)

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