↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/10

二話目  イカれてるなあいつ

 龍の剣が展示されていた部屋に一人剣を手に、Aは考える。


 (思っていた以上に楽勝だったな)


 彼、Aがそう感じるのも無理はないだろう。不気味なくらいに隊員たちの歯ごたえがなかったからだ。


 (いくら職員、隊員の顔や仕草、その他もろもろを知っていたとはいえ、ここまで簡単に龍の剣を手に入れられるとは・・・)


 Aは周囲を普段以上に警戒し、見渡す。だが異変はない。防犯カメラにはすべて細工を施しているから問題ないだろう。周りにいた隊員たちも既に頭部を弾丸で打ち抜いている。これも問題ない。だが龍の剣は仮にも日本の国宝だ。こんなにもあっさりと事が進むのは明らかに異常である。それはAも感じ取っていた。


 (脱出の準備は既に終わっている。あとはアンナに合図を送って、この展示室から脱出すればミッション終了。なのにどーにも腑に落ちないな。いや、事が上手くいくのは良いんだけど、絶対おかしいよな。・・・一人ぐらい生かしておけばよかったな。)


 Aがそう思考を巡らせた瞬間、周囲から薄白のガスが噴き出し、展示室内を埋め尽した。Aは瞬時に口をハンカチでふさぐ。これが何のガスかはわからないが、あの鈴木太一という男たちの仕業だということは理解できたからだ。


 (これは毒?殺すようなことするか?まだ息のある隊員もいるかもしれないのに?考えられるのは……睡眠ガスか!)


 睡眠ガスは現代の科学では再現ができないとされている。


 だが太一たち、日本はひそかにその開発をしていた。日本では拳銃の使用が他国より厳しくなっている。それにより、立てこもりや人質を取られた際には対処がどうしても遅れてしまう。


 そこで睡眠ガスの出番である。これにより、犯人やその周りにいる人を傷つけずに安全に確保することができ、現在の日本ではそういった事案に国民やマスコミなどに秘密で取り扱われるようになった。だがAはそのことを知らなかった。それもそのはず、睡眠ガスが使われることは滅多にないうえ、Aは他国の人間だからだ。まだ即効性はなく効きが出るまでに時間がかかるが、それでも十分な性能だ。


 Aは咄嗟に部屋を出ようと駆け出す。しかしシャッターは無情にも行く手を阻むように降りた。


 (まさか睡眠ガスを使うとはね。他国や、国民にばれたら面倒なことになるだろうに)


 「奴が眠るまで徹底的にガスを出し続けろよ。ここで確実に捕らえる」


 「鈴木警視」


 「怪盗の任務をしてる時は隊長と呼ぶように」


 「——隊長。今回の作戦、人として最低の作戦ですよ」


 鈴木太一が黙ってモニターを見る中部下の女、里見桃(さとみもも)が言葉を続ける。


 「睡眠ガスを使っての作戦、部屋で倒れてる人たちに伝えてませんよね。私も直前まで知らなかったですし。もしかして彼らを捨て石のように使ったのですか⁉彼ら、死んでいますよ。あなた、人の命を何だと思って——」


 「この作戦はだれにも話してはいけなかった」


 先ほどまで口を開かなかった太一が話し始める。


 「私は初めから隊員か従業員の中にAが隠れていると踏んでいた。事実奴は隊員に変装していたからな。だからこの作戦は私が完全に信用している者にしか話していない。他の者にはAを待ち伏せて、Aが現れたら確保するという作戦を伝えている。——申し訳ないことをしたと思っている。彼らにも、彼らの家族や友人にも」


 どれだけの言葉を発しても里見はこの作戦を認め、褒めることは絶対にできない。だが、太一のまっすぐな目を前にそれ以上の言葉は出てこなかった。


 「私は彼らを殺してしまった。最低なことをした。だが最善の行動だったとも私は思う。このままAを放っておけば被害者は増え、世界中の宝が盗まれてしまう。必ずAを捕らえ、私の手で死刑台に送ってやる。それが私のこの行動に対する償いだ」


 ——沈黙が続く。するとモニターを見ていたひとりの男が太一に向かって言葉を発する。


 「隊長!Aが行動停止!脈拍や呼吸から睡眠ガスにより眠っていると考えられます!」


 「本当か⁉」


 太一が即座にモニターを見る。確かにAは横たわっていて眠っているように見える。その映像を見て、その場にいたものがみな同じことを考えた。


 多くの死人を出してはしまったがこんなあっさりとAが⁉と。


 太一は冷静に、的確に判断し、その場の者に伝える。


 「あと十分ほどこのまま放置する。それがたてば武装をして部屋に行くぞ。担架の準備をしろ。十分待つとはいえ、油断は禁物だ。ガスは出し続けているが不測の事態もきちんと考慮しなければならない。今すぐに準備をしろ!」


 ——————————————————


 

 十分が経過した。全員、武装をしているが不安や恐怖はまだ彼らの中にこびりついていた。目の前にある扉を開けばAがいる。その事実が彼らを怖がらせる。Aのことは監視カメラで今も尚見ているし、睡眠ガスも放出し続けている。だがやはり——、


 「怖い」


 誰かがそう呟く。扉の前、一番近くにいた太一がその言葉を聞いた瞬間声を発する。


 「俺もだ」


 その場の全員が心の中で思った。「は?」と。


 「俺も怖い。眠っているとはいえ相手はあのAだ」


 続くその言葉に隊員たちは怒りや更なる恐怖を感じる。だがそんなこと知らないかのように太一は喋り続ける。


 「だがな、やらなきゃならないんだ。嫌でも怖くても、一度やるといったことは最後までやらないといけないんだよ」


 その言葉を聞き、隊員たちは何も言えなかった。


 この対怪盗用特殊部隊超警察は志願制だ。階級関係なく志願すれば入隊できる。彼らは自ら望んで入隊したのだ。

 

死ぬかもしれない。二度と家族に会えないかもしれない。だがそれでも思ったのだ。怪盗を捕らえ、国民を安心させたいと。


 「ここでAを捕まえれば確実に世の中は変わる。だから頼む。私と一緒にここで死んでくれ!」


 その言葉を聞いてその場にいた者たちの心の中にあった不安や恐怖は一気に晴らされた。


 「当たり前だ!この部隊に入った時からもう決めてたんだ!この命はあんたに捧げるって」


 「まだ二日しか一緒に過ごしていませんが、それでもあなたは信用できる。行きましょう!」


 「てめぇら!契約金はたんまり貰ったろ!ならその分の仕事はきちんとすべきだぜ!」


 隊員たちはみな元気を取り戻し、それぞれが隊員を鼓舞するように発言する。もう彼らに恐怖心はない。あるのはAを必ず捕まえるという意志だけだ。太一もそれを見て笑みをこぼす。そして、


 「全隊出撃!」


 その発言で扉が開く。一斉に隊員が部屋の中に入り、周囲を警戒。中には仲間の死体も多くあるがその場にいた全員がそれらに駆け寄ろうとはせず今やるべきことをと、Aに駆け寄る。


 「担架もってこい!」


 Aのそばに寄った隊員がそう叫ぶ。担架もすぐ運ばれてきて、あとはAをそれに乗せるだけだ。


 「ん?こいつ、なんだ?睡眠ガスでカメラからはよく見えなかったが、防弾ジョッキを着ている?」


 「おい!なにもたもたしてるんだ!早く担架に乗せろ!」


 「ああ。すまん。今やる」


 隊員の一人がAを持ち上げ、担架に乗せようとしたとき、カチッという音が部屋に鳴り響いた。


 ———部屋に轟音が響く。


 周りの隊員たちは吹き飛び、その炎から焼けこげる。防護服をも吹き飛ばすその爆発は部屋中を衝撃で埋め尽くす。


 周りにあった死体は体がちぎれ、その上に新しい死体が乗っかる。扉付近にいた一部の隊員と太一は吹き飛ばされ壁に打ち付けられる。幸いにも意識は保っているがその衝撃はすさまじく、太一たちの胸骨や肋骨、背骨などを粉砕した。


 「なにが・・・起こった・・・」


 重傷を負いながらも太一がそう言葉をこぼすと、煙と睡眠ガスが充満した部屋から一つの人影が見える。そしてそれはこちらに向かって走ってくる。煙の中から出てきた男は笑顔で太一に話す。


 「おはよう」


 「——っ。A!」


 叫ぶと同時にAからの蹴りを頭に食らう。太一の意識がもうろうとする中かすかに聞こえた声は、


 「さて、やりますか」


 それだけだった。


 ————————————————


 「Aだ!捕らえろ!」


 「Aがこっちに向かってくるぞ!」


 警報が鳴り響く中、館内にいる隊員たちが叫ぶ。彼らが拳銃を構えトリガーに指をかけるよりも速くAはその二人の頭部を弾丸で打ち抜く。


 (こいつら、トリガーに指をかけたな・・・。日本での拳銃の取り扱いは、警察であってもかなり厳しい。しかしこいつらは私を撃とうとした。対怪盗用特殊部隊超警察に限りオッケーってことなのかな?)


 「いたぞ!こっちだ!」


 さらに数人の隊員たちがAを捕捉し拳銃を構える。


 (うだうだしてる場合じゃなさそうだな)


 Aは瞬時に、足元に横たわった死体の一つをつかみ、肉壁にして隊員たちのほうに突っ込む。その行動に驚いた隊員に生じた一瞬の隙をAは見逃さない。


 Aは自身が所持するハンドガンは、

 |S&W M500《スミスアンドウェッソン エムごひゃく》。史上最強ともいえるリボルバー。

 

 アメリカのS&W社が二千三年に開発したとされる、一般市場向けとしては世界最強と言われる超大型のリボルバーである。


 射撃時の反動はすさまじく、基本的に連射をするようなものではない。しかしAの筋力やバランス力は常人のそれを遥かに超えており、隊員の頭部を寸分違(たが)わず撃ち抜く。


 「まさか隊員を肉壁にして、向かってきた隊員をその肉壁ごと打ち抜くなんてねぇ」


 モニタールームで一部始終を見ていた里見桃が冷や汗を垂らしながらつぶやく。


 (イカれてるなあいつ。あのリボルバーで反動を最小限にして連射。それでも的確に頭部に打ち込む技量。そしてなにより、先ほどの爆発。・・・推測に過ぎないけど、あいつは確かにさっきまで確実に眠っていた。だけど眠る直前、隠し持っていた爆弾を体の下にいれたんだ。体をどかせばすぐ爆発するような仕組みにして。そしてその爆発の衝撃で体を刺激し目覚めたんだろうな。目立った外傷が見えないのはあの姿が変装込みの防護服だから?それとも爆破と同時に吹き飛んだ防弾チョッキのおかげ?しっかし、——)


 「思い立ってもふつうやるかね?」


 その常軌を逸したAの行動の数々に苦笑いすら出てくる。


 ——————————————————

 

 (無駄に広いな、この博物館。アンナに脱出開始の報告はしたけど、少し時間がかかりそうだ。それなら怪盗道具を使うって手段もあるけど、あれは一回限りの消耗品だからなぁ~)


 Aのもつ怪盗道具はどれも強力なものだが、消耗品なうえに、製造にも時間がかかる。本来であれば使わずこの場を脱するはずだったが、その考えは突然目の前に現れた受け入れがたい事実にその考えは揺らぐ。


 先程のAはしっかりと本気で頭を蹴り飛ばしていた。油断と慢心は敗北につながると熟知しているからだ。だからこそ、本気でやったからこそ、それでも立ち上がってきたこの男に、Aは驚きと笑いが込み上げてくるのだった。


 「クックック。まじかお前。僕本気で蹴ったよね?」


 「あぁ?あの羽虫がやったのかってくらいへなちょこだった蹴りのことかよ?」


 そう言うと太一は拳銃をゆっくりとAに向けた。

二話目ぇぇ。

次でこの戦いは終わらせる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。