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異世界の契約がガバガバすぎるので、現代知識で国家を回します  作者: 鱈場蟹


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第4話:記録は、嘘を逃がさない


王城。


前と同じ場所。


だが、空気は明らかに違っていた。


(早いな)


俺はそう思いながら、中央に立つ。


視線が多い。


前回よりも、ずっと。


神官、貴族、役人。


全員いる。


しかも――全員、“結果を知りに来てる顔”だ。


「報告しろ」


王の一言。


短い。


俺は一歩だけ前に出る。


「税の記録、開始しました」


ざわ、と空気が揺れる。


「収穫量を測定、税率を固定、記録を双方保持」


「結果――」


一拍置く。


「徴収のブレが消えました」


「証拠は」


即座に飛んでくる。


役人だ。


想定内。


俺は紙を差し出す。


「同じ村、三日分の記録です」


王の側近が受け取り、広げる。


視線が集まる。


「……収穫量、十」


「税、四」


「全て一致している」


小さなざわめき。


「以前はどうだった」


王が聞く。


「五〜六までバラついてました」


即答。


「理由は単純です」


「調整できたからです」


視線を役人に向ける。


一瞬、空気が張る。


「だが」


神官が口を開く。


「記録が正しい保証はない」


来たな。


俺は頷いた。


「その通りです」


肯定する。


「だから――“重ねます”」


新しい紙を広げる。


・農民の記録

・徴税官の記録

・第三者の確認


「三つ残します」


空気が変わる。


「一つ嘘を書いても、他とズレる」


「ズレた時点で、嘘がバレる」


「……誰がその“第三者”になる」


貴族が低く言う。


「利害のない人間か?」


いい質問だ。


だから、答えはもう決まってる。


「違います」


俺は首を振る。


「“利害がある人間”です」


一瞬、理解が遅れる空気。


俺は続ける。


「村の中で、別の農民にやらせる」


「お互いに確認させる」


「ズレたら、両方に罰」


沈黙。


そして――ざわめき。


「……監視させるのか」

「互いに……?」


「そうです」


はっきり言う。


「人は、人が見てると嘘をつきにくくなる」


「しかも今回は――」


少しだけ間を置く。


「バレたら損する」


これで終わりだ。


「……なるほどな」


王が小さく呟いた。


初めて、はっきりと興味を見せた声。


「仕組みで縛るか」


「ああ」


俺は頷く。


「人を信用しない仕組みです」


その瞬間。


「危険だな」


貴族が前に出た。


空気が一気に冷える。


「なぜだ」


王が聞く。


「簡単です」


視線が俺に突き刺さる。


「この仕組み、“誰でも正しくなれる”」


言葉の意味が、ゆっくり広がる。


「我々でなくてもいい」


「神官でなくてもいい」


「王でなくても――」


一瞬、止める。


「判断ができるようになる」


静寂。


誰も口を開かない。


だが、全員理解している。


(そこが本質だ)


「権限の分散、か」


王が低く言う。


「……面白い」


笑った。


ほんの少しだけ。


「だが問題は残る」


王の声が変わる。


試す声から、踏み込む声へ。


「記録が増えれば、管理が必要になる」


「そうですね」


即答。


「今のままだと、すぐに破綻します」


「ではどうする」


来たな。


ここが次の段階。


俺は一歩前に出る。


「集めます」


「記録を、一箇所に」


空気が止まる。


「全ての契約」


「全ての税」


「全ての履歴」


「一つの場所にまとめる」


言い切る。


「そうすれば――」


「過去が消えなくなる」


沈黙。


重い、長い沈黙。


「……それは」


神官が口を開く。


「神の領分だ」


予想通りの反応。


「違うな」


俺は首を振る。


「神は覚えてるかもしれない」


「でも、人は忘れる」


一拍。


「だから、残す」


「名は?」


王が聞いた。


短く。


だが、重要な問い。


俺は少しだけ考えて――


答えた。


「記録庫」


「この国の全部を残す場所です」


空気が変わる。


ざわめきじゃない。


“圧”だ。


「……そこまでやるか」


王が言う。


「やります」


即答。


もう止める理由はない。


「ならば作れ」


王が言い切る。


「場所も、人も、用意してやる」


ざわっ、と揺れる。


「だが――」


視線が鋭くなる。


「そこを抑えた者が、この国を握る」


静寂。


「理解しているな?」


試す目。


俺は、軽く笑った。


「ええ」


「だから作るんですよ」


「“誰にも握れない形”で」


一瞬。


空気が、完全に止まった。


王の口元が、わずかに歪む。


「……いい」


「やってみろ」


決まった。


その瞬間。


背後で、小さく声がした。


「……止めるべきだ」


振り向かなくても分かる。


敵だ。


(いいね)


心の中で呟く。


敵が増えるほど、


この仕組みは正しい。


王城を出る。


隣に、鎧の男。


「……本気か」


「何が」


「国の全部を握る気か」


少しだけ考えて――


答える。


「違う」


「“誰も握れないようにする”」


鎧の男が黙る。


空を見上げる。


「仕組みを、もう一段上げる」


王城の外。


石の階段を降りながら、俺は紙を見ていた。


(“記録庫”……か)


名前はシンプルだ。


だが、中身は単純じゃない。


「……本気でやる気か」


横の鎧の男が低く言う。


「やるって言っただろ」


「違う」


少しだけ間。


「“誰にも握らせない”なんて、できるのか」


足を止める。


いい質問だ。


そして――


(無理だな)


心の中で、あっさり結論を出す。


「できない」


「……は?」


鎧の男が顔をしかめる。


「じゃあさっきのは――」


「理想だ」


あっさり言う。


「だが現実は違う」


再び歩き出す。


「だから、“握らせ方”を決める」


仮設の記録所。


市場の端に作られた、簡素な小屋。


中には机が三つ。


紙の束。


そして――人。


「今日からここが記録庫だ」


集めたのは三人。


・元商人

・元兵士

・村の老人


「共通点は一つ」


俺は言う。


「利害がバラバラ」


三人が顔を見合わせる。


「誰か一人が嘘をついても、他が得しないようにした」


「だから――」


紙を机に叩く。


「全員で書け」


最初の記録が始まる。


農民が収穫を持ってくる。


徴税官が数字を言う。


三人が書く。


同じ内容を。


別々に。


「……面倒だな」


元商人が呟く。


「そうだな」


俺は頷く。


「だからいい」


数日後。


異変はすぐに出た。


「おい、ズレてるぞ」


元兵士が紙を叩く。


「収穫量が一つ違う」


空気が張る。


農民が青ざめる。


徴税官が目を逸らす。


(来たな)


「どっちだ」


静かに聞く。


沈黙。


そして――


「……俺だ」


徴税官が口を開いた。


「少しだけ、減らした」


理由は簡単だ。


「余分を、別で取ろうとした」


ざわめきが広がる。


「……やっぱりか」

「結局そうなるんだな」


俺は一歩前に出る。


「で?」


徴税官を見る。


「罰は理解してるな」


顔が歪む。


「ああ……」


「職を外す」


短く言う。


「そして、記録に残す」


「……は?」


徴税官が顔を上げる。


「残す?」


「当然だろ」


紙を指で叩く。


「“嘘をついた”ってな」


空気が凍る。


「そんなの……」


「次、誰も雇わねえぞ……」


その通りだ。


俺は頷く。


「それが罰だ」


沈黙。


重い空気。


だが――


誰も反論しない。


(効いてるな)


その日の夜。


「……やりすぎじゃないか」


鎧の男が言う。


焚き火の前。


静かな時間。


「何が」


「一度のミスで、人生が終わる」


少し考える。


「終わらない」


「ただ、“信用が下がる”だけだ」


火を見ながら続ける。


「でもな」


一拍。


「信用がないやつと、約束するか?」


「……しないな」


「だろ」


それだけの話だ。


翌日。


問題は、別の形で起きた。


「おかしい」


元商人が眉をひそめる。


「記録が……増えてる」


「は?」


紙を見る。


確かに、あるはずのない契約が書かれている。


名前。


金額。


期限。


全部、それっぽい。


だが――


(こんな契約、見てない)


「誰が書いた」


全員を見る。


三人とも首を振る。


農民も知らない。


徴税官も関与していない。


「……外から入れられたか」


鎧の男が低く言う。


その可能性はある。


だが――


俺は紙を手に取る。


(違うな)


少しだけ、笑った。


「これ、“本物”だ」


「何?」


「ただし――」


指でなぞる。


「“過去に存在しなかった本物”だ」


沈黙。


誰も意味が分かっていない。


「偽造だよ」


はっきり言う。


「最初からあったように見せてる」


空気が一気に冷える。


「……そんなことができるのか」


「ああ」


俺は頷く。


「記録は、残すだけじゃ足りない」


一歩踏み出す。


「“守らないといけない”」


(やっぱり来たか)


敵は、止めに来た。


正面からじゃない。


もっと厄介な形で。


「どうする」


鎧の男が聞く。


俺は少し考えて――


口元を上げた。


「簡単だ」


紙を机に置く。


「“改ざんできない記録”を作る」


「そんなものがあるのか」


「今はない」


即答。


「だから作る」


空を見上げる。


記録は力だ。


だが同時に――


「嘘も、力になる」


だからこそ。


「絶対に壊れない仕組みが必要だ」


(次は、“改ざん対策”だ)


敵は一段、上げてきた。


ならこっちも上げる。


「面白くなってきたな」


小さく呟く。


今度は――


“記録そのもの”を守る戦いだ。

もし面白かったら、評価やブクマしていただけると励みになります!次回、記録連結!?お楽しみに!

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― 新着の感想 ―
久しぶりに作品を読ませていただきました!! 今回の連載作も面白くてよきです(*^^)v
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