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異世界の契約がガバガバすぎるので、現代知識で国家を回します  作者: 鱈場蟹


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第3話:信用がない約束は、約束じゃない


市場は、確実に変わり始めていた。


以前のような怒鳴り合いは減り、代わりに「条件」の話が増えている。


「期限は三日だぞ」

「保証人は誰だ」


言葉が変われば、空気も変わる。


(いい流れだ)


俺は少しだけ満足していた。


だが――


「おい、来てくれ!」


慌てた声が飛んできた。


振り向くと、顔見知りの商人が青ざめている。


「どうした」


「払えねえんだ!」


嫌な予感がした。



現場に向かう。


人だかり。


中央には、例の契約を結んだ三人。


借りた男。


貸した男。


そして――保証人。


全員、顔色が悪い。


「何があった」


貸した側が叫ぶ。


「期限だ!なのに払えねえって言うんだ!」


借りた男が俯く。


「……金がねえ」


「じゃあ保証人だ!」


全員の視線がそいつに集まる。


だが――


保証人も、目を逸らした。


「……俺も、ねえ」


空気が止まる。


(ああ)


理解した。


(最悪のパターンだ)


「ふざけるな!」


貸した男が怒鳴る。


「約束だろうが!」


「分かってる……でも本当にねえんだ……!」


言い訳にもならない言葉。


だが、事実なのだろう。


ポケットをひっくり返しても、出てくるのは数枚の銅貨だけ。


(終わったな)


この瞬間、この仕組みは崩れる。


「どうするんだよ、これ!」


周囲がざわつく。


「結局同じじゃねえか!」

「紙なんて意味ねえ!」


来ると思っていた反応。


だが、想像より早い。


俺は少しだけ考えて、息を吐いた。


そして、懐から銀貨を取り出す。


「……俺が払う」


一瞬、全員が固まった。


「は?」


貸した男が間抜けな声を出す。


「十枚だろ」


そのまま手渡す。


音を立てて、銀貨が重なる。


「……いいのか?」


「よくはない」


はっきり言う。


「でも、このままじゃ終わる」


仕組みごと、信用が消える。


それだけは避けたい。


ざわめきが広がる。


「マジで払った……」

「なんでそこまでするんだ……」


理由は単純だ。


(まだ完成してない)


未完成の仕組みで、結果だけ求めた。


そのツケだ。



三人を睨む。


「今回だけだ」


声を落とす。


「次はない」


借りた男が何度も頭を下げる。


保証人も同じだ。


だが、問題はそこじゃない。


(個人の問題じゃない)


(構造のミスだ)



その場を離れる。


鎧の男がついてくる。


「……なぜ払った」


当然の疑問だ。


「簡単だ」


俺は歩きながら答える。


「穴を見つけたからだ」


「穴?」


「ああ」


立ち止まる。


「金がないやつは、そもそも払えない」


当たり前の話だ。


でも、この世界では考慮されていなかった。


「保証人も同じだ」


「信用があっても、金がなければ意味がない」


鎧の男は黙って聞いている。



「つまり」


指を一本立てる。


「条件が足りなかった」


・約束

・保証人


それだけでは不十分。


「“支払能力”が抜けてた」


言い切る。



鎧の男が低く言う。


「では、どうする」


「簡単だ」


口元が少し上がる。


「最初に確認すればいい」



翌日。


同じ市場。


だが、やることは変わる。


「契約を結びたいなら」


紙を広げる。


「まず“資産”を見せろ」


ざわつき。


「資産?」


「金だ。どれだけ持ってるか」


当然、反発が出る。


「そんなの見せるか!」

「盗まれたらどうすんだ!」


想定通りだ。



「全部見せろとは言ってない」


手を振る。


「最低限でいい」


「この契約を守れるだけの金があるか、それだけ確認する」


そして、もう一つ。


「それを“書く”」


紙に追加する。


・保有資産(確認済み)


「これで逃げられない」


「嘘を書けば、即アウトだ」



鎧の男が口を挟む。


「なぜだ」


「簡単だ」


俺はそいつを見る。


「記録が残るからだ」


一度書いた情報は、あとで突き合わせられる。


「嘘がバレた時点で、信用が終わる」


つまり――


「次から誰も契約しなくなる」


それが一番の罰になる。



周囲が静かになる。


考えている。


「……なるほどな」


ぽつりと誰かが呟く。


「金があるやつしか借りられねえのか」


「違う」


俺は首を振る。


「信用を作れるやつだけが借りられる」



しばらくの沈黙の後。


一人が手を上げた。


「……やる」


別のやつも続く。


「俺も」


流れが戻る。


いや、前より強くなっている。



鎧の男が小さく言う。


「……さっきの失敗がなければ、気づかなかったな」


「ああ」


俺は頷く。


「失敗は必要だ」


ただし――


「一回で十分だ」


同じミスはしない。



空を見上げる。


(一段上がったな)


仕組みは、少しずつ完成に近づいている。


「次は」


呟く。


「記録を残す場所だな」


紙は増えていく。


人の記憶では、もう追えない。


(そろそろ、“管理”が必要だ)


そう思った瞬間。


遠くから兵士が走ってくるのが見えた。


「おい!」


嫌な予感。


「王がお呼びだ!」


来たか。


俺は小さく息を吐いた。


(次は、国か)


王城に呼ばれた時点で、嫌な予感はしていた。


ただの報告で終わる空気じゃない。


広間に入った瞬間、それは確信に変わる。


空気が違う。


前回より重い。


そして――人数が多い。


玉座の前。


王の左右に、見慣れない連中が並んでいた。


豪華な服の男。


白い法衣の集団。


無表情な役人。


(なるほど)


一瞬で分かる。


(“関係者”が来たな)


「来たか」


王が短く言う。


俺は膝をついた。


視線だけ上げる。


全員、こっちを見ている。


歓迎じゃない。


明らかに――警戒だ。


「貴様の仕組みの噂を聞いている」


低く響く声。


さっきの大臣とは別の男だ。


装飾の多い服。


いかにも金と権力を持ってそうな顔。


「市場で勝手に“契約”とやらを広めているらしいな」


「王の許可は得ている」


淡々と返す。


事実だ。


だが、それで黙る連中じゃない。


「許可と、容認は違う」


即座に返された。


(面倒なタイプだな)


「まず一つ」


今度は白い服の男が前に出る。


神官だ。


「“誓い”を軽んじていると聞く」


空気がピリつく。


周囲の兵士ですら、少しだけ緊張したのが分かる。


(ああ、こいつらか)


“神への誓い”で判断してる連中。


つまり――


(今の仕組みで食ってる側)


「軽んじてはいない」


俺は正面から答える。


「ただ、“それだけでは足りない”と言っている」


「神の言葉を疑うのか」


声が低くなる。


完全に敵意だ。


だが、引かない。


「人間は嘘をつく」


一言で返す。


「誓っても、破る」


沈黙。


誰も否定できない。


「だから記録を残す。それだけだ」


「ふざけるな」


今度は別の男。


無表情な役人が一歩前に出る。


「そんなものが広まれば、混乱する」


(嘘だな)


表情は動いてないが、分かる。


本音じゃない。


「何が困る」


あえて聞く。


すると一瞬、言葉に詰まった。


分かりやすい。


横から別の役人が口を挟む。


「税の管理が難しくなる」


(それも違う)


「今はどうやってる」


「我々が確認している」


つまり――


(裁量で決めてる)


(好きにいじれるってことか)


最後に、豪華な服の男――貴族が口を開いた。


「単刀直入に言おう」


視線が鋭い。


「その仕組みは危険だ」


「なぜ」


「力の均衡が崩れる」


少しだけ間を置く。


「平民が、我々と同じ“武器”を持つことになる」


なるほど。


(それが本音か)


頭の中で整理する。


・神官 → 誓いで判断する権限が消える

・役人 → 裁量で金を動かせなくなる

・貴族 → 情報とルールの独占が崩れる


(全部、損する側だな)


「だから潰すと?」


そのまま言う。


空気が一気に冷えた。


「言葉を選べ」


貴族が低く言う。


「我々は“国の安定”を考えている」


「便利な言葉だな」


思わず笑いそうになる。


「では聞く」


俺は一歩だけ顔を上げる。


「今のやり方で、揉め事は減ってるのか」


誰も答えない。


「王が毎回裁いてるのが、効率的か」


沈黙。


「誓いだけで、嘘が消えるのか」


完全に止まる。


「……理屈は分かる」


王が初めて口を挟んだ。


全員の視線が集まる。


「だが、現実は別だ」


低い声。


「仕組みは、人を動かす」


「そして、人は利で動く」


そのまま続ける。


「お前のやり方は、“多くの利”を奪う」


核心だ。


「敵が増えるぞ」


はっきりと言われた。


脅しでもあり、事実でもある。


俺は少しだけ考えて――


肩をすくめた。


「知ってますよ」


全員が一瞬、止まる。


「むしろ、いない方がおかしい」


正しいことをやれば、得してるやつが損をする。


当たり前だ。


「じゃあやめるか?」


王が問う。


試している目だ。


「やめません」


即答。


迷う理由がない。


「むしろ――」


少しだけ笑う。


「分かりやすくなって助かります」


敵が誰か、はっきりした。


それだけで十分だ。


ざわつきが広がる。


「強気だな」

「馬鹿か、こいつは」


聞こえているが、無視する。


「ならば条件を変える」


王が言った。


空気が締まる。


「市場だけではなく、税にも使え」


来たな。


一気に難易度が上がる。


「記録を残し、徴収を安定させろ」


役人たちの顔が歪む。


明らかに嫌そうだ。


「できなければ?」


俺が聞く。


王は笑った。


「当然、処刑だ」


軽い調子で言う内容じゃない。


「いいですよ」


俺は頷く。


むしろ好都合だ。


「やります」



帰り道。


鎧の男が隣に並ぶ。


「……完全に敵に回したな」


「ああ」


否定しない。



「怖くないのか」


少しだけ考える。


「怖いかどうかで言えば――」


正直に言う。


「まあ、普通に危ないな」


苦笑する。



「でもな」


空を見上げる。


「止める理由にはならない」


仕組みは動き始めている。


もう戻れない。



「次は、税か」


呟く。


一番でかい利権。


一番でかい抵抗。



(面白くなってきた)


そう思った時点で、


もう引くつもりはなかった。


王城を出る。


横に、いつもの鎧の男。


「……面倒なところに踏み込んだな」


低い声。


「ああ」


否定しない。


「税はな」


少し間を置いて続ける。


「一番揉める」


「一番ごまかせる」


「そして――一番恨まれる」


全部、その通りだ。


俺は軽く笑った。


「最高じゃないか」


鎧の男が呆れた顔をする。


「じゃあまずは」


前を見る。


村だ。


「どれくらいズレてるか、見に行こう」


俺は村について、早速調査をしようとした。

その時、


「そんなことをすれば混乱する」


徴税官の一人がそう言った。しかし、俺はすぐに言葉を返さなかった。


代わりに、机の上の紙を一枚持ち上げる。


「じゃあ聞く」


視線を向ける。


「この国が回るのに、どれくらい税が必要か分かってるか?」


一瞬の間。


だが――


「当然だ」


即答だった。


迷いがない。


(やっぱりな)


「どれくらいだ」


さらに踏み込む。


徴税官は一歩前に出て、淡々と答えた。


「地域差はあるが……収穫の三〜四割」


空気が少しだけ揺れる。


農民たちがざわついた。


「理由は?」


俺はそのまま続ける。


「それ以上取れば生活が崩れる」


即答。


「それ以下では、兵と備蓄が維持できない」


完璧な答えだ。


理屈も通っている。


(知ってるじゃねえか)


「じゃあ今は?」


静かに聞く。


一瞬、沈黙。


誰も答えない。


「五割以上取ってる場所もあるよな」


追い打ちをかける。


空気が凍る。


農民の一人が小さく呟く。


「……うちは六だ」


別の声。


「俺のとこは五……」


ざわめきが広がる。


徴税官の顔が明らかに固くなる。


「つまり」


俺は紙を机に置いた。


「正解は知ってる」


一拍置く。


「でも守ってない」


誰も否定しない。


「なぜだ」


あえて聞く。


「……現場の事情がある」


絞り出すような声。


(便利な言葉だな)


「違うな」


俺は首を振る。


「“調整できるから”だろ」


一歩近づく。


「多く取ってもバレない」


「少なくしても誤魔化せる」


「だから、好きにできる」


沈黙。


それが答えだ。


「ならやることは一つだ」


俺は新しい紙を広げる。


・収穫量

・税率(三〜四割)

・税額


「これを“固定”する」


「全員同じ基準で取る」


徴税官が低く言う。


「そんなことをすれば……」


「困るか?」


即座に返す。


言葉が詰まる。


「困るのは誰だ」


視線を向ける。


答えは出ている。


「……」


誰も口を開かない。


「やるぞ」


鎧の男が言った。


「王の命だ」


その一言で、流れは決まった。


村へ移動する。


畑。


作物。


農民。


「収穫量を数える」


俺は言う。


袋に詰める。


積み上げる。


数える。


「全部で十とする」


紙に書く。


「税率は四」


「これは定めだ」


シンプルに決まる。


農民が息を吐く。


「……初めて納得した」


ぽつりと呟く。


「なんでそれか、分かる」


これが重要だ。


「記録も残す」


紙を渡す。


「お前も持て」


徴税官にも渡す。


逃げ道を消す。


「これで終わりだ」


その瞬間。


「待て」


徴税官が前に出る。


「……それでも問題は残る」


(来たな)


「記録が正しいとは限らない」


いい指摘だ。


「嘘を書けばどうする」


俺は少しだけ笑う。


「その通りだ」


認める。


「そのために徴税官がいる」


一歩踏み出す。


「もちろん、徴税官が嘘をついても罰せられる」


「…」


ーー

遠くで、徴税官たちが小さく話している。


今度ははっきり分かる。


(敵だな)


“対策を考えてる顔”だ。


税は形になった。


その時、


「王が呼んでいる」


鎧の男が言った。


「よし、行くか」


俺は呟いた。

もし面白かったら、評価やブクマしていただけると励みになります!次回、王への報告!お楽しみに!

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