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異世界の契約がガバガバすぎるので、現代知識で国家を回します  作者: 鱈場蟹


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第2話:破られない約束を作ってみた

石の床は、やけに冷たかった。


引きずられるようにして連れて来られた先は、でかい建物の中だった。


高い天井。無駄に広い空間。左右に並ぶ兵士。


そして、一番奥。


段の上に置かれた椅子――いや、玉座。


(分かりやすいな)


俺は軽く息を吐いた。


縛られたまま、中央に立たされる。


周りは無言。


妙に静かだ。


「……ひざまずけ」


低い声。


誰が言ったか、見るまでもない。


玉座の上の男だ。


俺は一瞬だけ考えて、従った。


逆らう意味がない。


今ここで張り合っても、ただのバカだ。


(ルールは一つ)


(上にいるやつが全部決める)


膝をついたまま、顔を上げる。


王と目が合った。


年齢は分からない。だが、目だけで分かる。


「慣れてる」


人を裁くことに。


「貴様が例の男か」


横から声。


視線をずらすと、豪華な服の男が立っていた。


いかにも“偉い人”って感じのやつだ。


「妙な紙を使って争いを止めたと聞いた」


「ああ」


普通に答える。


ざわ、と空気が揺れた。


兵士の視線が一斉に刺さる。


(なるほど)


(ここ、“普通に話すだけで浮く”場所か)


「その態度……」


大臣っぽいやつが眉をひそめる。


だが、その瞬間。


王が指を軽く動かした。


それだけで、空気が止まる。


すげえな。


言葉すらいらないのか。


「話を続けろ」


短い一言。


許可。


大臣は一歩下がる。


「……この国ではな」


少し間を置いて、口を開いた。


「争いは二つで決まる」


指を二本立てる。


「一つ、“王の裁定”」


視線が玉座に向く。


「もう一つ、“神への誓い”だ」


俺は黙って聞く。


「誓いがあれば、それを信じる。なければ、王が決める」


「記録は?」


即座に聞いた。


「いらん」


即答。


「前例は?」


「王が覚えておられる」


(終わってるな)


思わず、心の中で笑った。


完全に一致した。


(ブラック企業よりひでえ)


ルールはある。


でも、それは“固定されてない”。


全部、その場の人間次第。


つまり――


(責任が残らない)


「ちょうどいい」


王が口を開いた。


低く、よく通る声。


「今から裁定を行う。見ていけ」


合図。


扉が開く。


兵士に連れられて、二人の男が入ってきた。


一人は派手な服。もう一人は地味だが、落ち着いた雰囲気。


貴族と商人、ってところか。


「申せ」


王の一言。


貴族が一歩出る。


「この者は税を誤魔化しました」


「しておりません!」


すぐに商人が返す。


声が強い。


だが――証拠は、出てこない。


(来たな)


俺は黙って観察する。


「証拠はあるか」


王が聞く。


「ございません」


「ない」


終わり。


あっさりだ。


「では、誓うか」


二人とも、うなずく。


「神に誓って、嘘はないか」


「誓います!」


「誓う!」


同時。


完全に同条件。


場が静まる。


全員が王を見る。


(ここだな)


どうするか。


俺は少し身を乗り出した。


王は、数秒だけ考えて――


「……顔が気に入らん」


空気が止まる。


「商人が払え」


決まった。


それだけで。


「なっ――!」


商人が声を上げる。


だが、兵士が一歩前に出るだけで黙った。


終わりだ。


覆らない。


(……は?)


思わず、素で呟きそうになった。


いや、予想はしてた。


してたけど――


(雑すぎるだろ)


理由になってない。


根拠もない。


ただの好み。


それで、金が動く。


(これが、この国の“法律”か)


違うな。


(これは法律じゃない)


(ただの“命令”だ)


そして、その瞬間に理解した。


(だから、揉めるんだ)


(だから、繰り返す)


(だから、止まらない)


「終わりだ」


王が言う。


兵士が二人を連れていく。


納得してない顔のまま。


でも、逆らえない。


(非効率にも程がある)


頭の中で、計算が回る。


同じような案件が、毎日あるはずだ。


全部、ここに持ってくるのか?


(処理しきれるわけないだろ)


自然と、口が動いた。


「それ、損してますよ」


言った瞬間。


空気が凍った。


兵士の手が剣にかかる音がした。


大臣が目を見開く。


「貴様――」


王が、手を上げる。


止まる。


全員が止まる。


「何がだ」


静かな声。


でも、圧がある。


俺はそのまま続けた。


「今の裁定です」


ざわつき。


当然だ。


普通なら死ぬ発言。


でも、止まらない。


「証拠も記録もないなら」


一歩、顔を上げる。


「同じ問題、また起きますよね?」


誰も答えない。


分かってるからだ。


「そのたびに、ここで裁く」


視線を玉座に向ける。


「全部、王がやる」


間を置く。


「無駄です」


大臣が怒鳴る。


「黙れ!貴様ごときが――」


遮った。


「しかも」


全員の視線が戻る。


「間違えたら終わりです」


一瞬の沈黙。


「信用、落ちますよ」


ピクリと、王の目が動いた。


(当たりか)


「記録を残せば」


俺は続ける。


・誰が

・何を

・どうしたか


「あとで見返せる」


「同じ揉め事を減らせる」


「王がいなくても、回る」


一歩踏み出す。


「つまり」


言い切る。


「国が“勝手に回る”ようになります」


完全な静寂。


誰も動かない。


誰も喋らない。


ただ、王だけがこちらを見ている。


長い、数秒。


やがて――


口元が、わずかに歪んだ。


「……面白い」


空気が揺れる。


大臣が驚いた顔をする。


「ならば」


王が体を少し前に出す。


「証明しろ」


来たな。


「その“仕組み”とやらが、この国で使えることをな」


条件提示。


「期限は一ヶ月」


短いな。


「失敗すれば――」


一瞬の間。


「処刑だ」


分かりやすい。


俺は小さく息を吐いた。


(いいね)


むしろ望んでた形だ。


「いいですよ」


即答。


また、ざわつく。


でも、関係ない。


「やります」


王が目を細める。


「自信があるな」


「ああ」


軽く笑う。


「だって――」


視線を上げる。


「この国、ルール無さすぎるんで」


一瞬、空気が張り詰める。


でも、もう止まらない。


(だから、できる)


(全部、上書きできる)


「まずは」


縛られた手を、軽く持ち上げる。


「これ、外してもらえます?」


兵士が王を見る。


王は、少しだけ考えて――


「外せ」


縄が解かれる。


自由になった手を握る。


感触を確かめる。


(よし)


「最初に作るのは一つです」


ゆっくり言う。


「“破られない約束”」


静かな宣言。


(ルールがないなら)


(作ればいい)


(上から全部)


俺は、玉座をまっすぐ見た。


「この国の“正しさ”ごと」


奪うつもりで。


———

王城の外に出た瞬間、張り詰めていた空気が一気に緩み、肺の奥に溜まっていた重さがようやく抜けていくのが分かった。


さっきまでの空間とは、まるで別世界だ。


「……で、何をするつもりだ」


横から低い声が飛んでくる。


振り向けば、あの鎧の男が当然のように後ろについてきていた。どうやら監視役らしい。


「仕事だよ」


俺は足を止めず、そのまま市場の方へ歩き出す。


「約束を守らせる仕組みを作る。それだけだ」


「そんなものが本当に機能するのか」


疑いの色が濃い声だったが、無理もない。この世界に存在しない概念なのだから。


「見てれば分かる」


短く答える。ここで説明を重ねても意味はない。結果を見せる方が早い。



市場は相変わらず騒がしかった。


人の声、物を運ぶ音、値段交渉のやり取りが入り混じり、雑然とした空気が広がっている。


そして案の定、また揉め事が起きていた。


「だから貸したって言ってんだろ!」


「知らねえって言ってるだろ!」


昨日とほとんど同じ構図だ。


俺は小さく息を吐き、そのまま二人の間に割って入った。


「何があった」


男の一人が苛立った顔でこちらを見る。


「こいつに銀貨五枚貸したのに、返さねえんだよ!」


「借りてねえ!」


即座に否定。


(典型例だな)


「証拠はあるのか」


「ねえよ!」


「あるわけねえだろ!」


周囲も同じ反応だ。もはや様式美に近い。



「いいから、少し黙ってろ」


少しだけ声を強める。


すると周囲がざわついた。


「あの紙のやつだ」

「昨日の……」


認知されている。悪くない。


俺はそのまま地面にしゃがみ、紙と炭を取り出した。


書く内容自体は、昨日と大差ない。


名前、金額、期限。


ただし今回は、それだけでは終わらせない。


一行、付け加える。


――保証人。


「……なんだそれは」


貸した側が訝しげに覗き込む。


「こいつが払わなかった場合、代わりに払う人間だ」


一瞬で空気が変わる。


「ふざけるな!」


「そんなのやるやついるわけねえだろ!」


当然の反応だ。


だが、ここが肝になる。


「逆だ」


紙を軽く叩く。


「これがあるから、貸せるようになる」



周囲を見回しながら、あえてゆっくり説明する。


「今の状態だと、どうなる」


「逃げられたら終わりだ」


誰も否定しない。


「でも保証人がいれば、逃げるとその人間が損をする」


つまり、借りた側には常に監視がつく。


「信用がある人間しか借りられなくなるし、貸す側も安心して金を出せる」


少し間を置く。


「結果として、金が回る」


沈黙が落ちる。


誰も軽く反論できる内容ではないからだ。



「……誰がそんな役をやるんだ」


借りた側が吐き捨てるように言う。


その瞬間だった。


「俺がやる」


横から声が入る。


振り向くと、中年の男が腕を組んで立っていた。


「同じ村のやつだ。逃げねえのは知ってる」


現実的な判断だ。


「ただし、ただじゃやらねえ」


にやりと笑う。


「一枚、俺にもよこせ」


「いいな」


即答した。


リスクには対価が必要だ。それがないと仕組みは回らない。



三人分の名前を書き、条件を整理する。


期限までに返済。


守らなければ倍額。


保証人が責任を負う。


「書け」


三人が順番に名前を書く。


躊躇はあるが、さっきよりは明らかに納得している顔だ。


「これで成立だ」


「……それだけで変わるのか」


鎧の男が低く呟く。


「ああ、変わる」


俺は立ち上がりながら答えた。


「人間は、損をするって分かった瞬間に行動が変わる」



数日後。


市場の空気は、目に見えて変わっていた。


「返せよ、期限だぞ」

「分かってる、分かってるって!」


逃げようとした男の腕を、保証人が必死に掴んでいる。


「逃げたら俺が払うんだぞ!」


切実だ。


だが、それでいい。


それが“拘束力”になる。



さらに変化は広がる。


「貸してくれ」

「保証人はいるのか」

「いる、こいつだ」


やり取りが成立している。


条件付きだが、確実に“信用”が生まれている。



「……揉めていないな」


鎧の男がぽつりと呟いた。


「ああ」


俺は軽く頷く。


「止めなくても勝手に回る。だから仕組みなんだ」



だが、当然問題は起きる。


「おい、逃げたぞ!」


声が響く。


振り向くと、商人が血相を変えて走ってくる。


「借りたやつと保証人、両方だ!」


(想定内)


俺は即座に走り出した。



門の近く。


荷物を抱えた二人の男が、必死に外へ出ようとしている。


兵士が制止するが、押し切ろうとしている。


「止まれ!」


だが足は止まらない。


ここで止められなければ、この仕組みは崩れる。


俺は叫んだ。


「そいつらは契約破りだ!」


兵士の動きが一瞬止まる。


「何?」


鎧の男が前に出る。


「王の命で試されている仕組みだ。違反には罰がある」


権威を乗せる。


それだけで空気が変わる。


「……拘束しろ」


判断は早かった。


兵士たちが一気に動き、二人を取り押さえる。



市場に引き戻される。


全員の視線が集まる中、俺は短く言った。


「十枚払え」


「無理だ!」


即答。


「なら保証人が払う」


保証人の顔が青ざめる。


逃げ場はない。


しばらくの沈黙の後、震える手で銀貨を差し出した。



ざわめきが広がる。


「本当に払った……」

「逃げても意味ないのか……」


違う。


逃げたからこそ、払うことになった。


俺は周囲に向けて言う。


「破ったら損をする」


「だから守るようになる」


シンプルな構造。


だが、この世界にはなかった。



「……これが法律か」


鎧の男が呟く。


俺は少しだけ考え、首を振った。


「いや、まだ違う」


視線を市場全体に向ける。


「これは“約束”だ」


一拍置く。


「でも、これが広がれば――法律になる」



空を見上げる。


確信があった。


このやり方は通用する。


「次は、逃げられない仕組みを作る」


最後まで読んでいただきたいありがとうございます!もし面白かったら、評価やブクマしていただけると励みになります!次回、敵の登場!?お楽しみに!

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