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異世界の契約がガバガバすぎるので、現代知識で国家を回します  作者: 鱈場蟹


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第5話:記録は、連なった瞬間に壊せなくなる

朝。


記録庫。


机の上に、紙が積まれている。


「……増えたな」


元商人が呟く。


「増えるのはいい」


俺は紙をめくる。


「問題は、“混ざる”ことだ」


昨日の偽造記録を机に置く。


一見、本物と変わらない紙。


(ここを潰さないと終わる)


「全員、集まれ」


三人と、鎧の男。


簡単な説明でいい。


「結論から言う」


紙を持ち上げる。


「今の記録は、後から足せる」


偽造の紙を叩く。


「だから混ざる」


誰も反論しない。


「じゃあどうするか」


紙を並べる。


昨日、一昨日、その前。


順番に。


「繋ぐ」


鎧の男が眉をひそめる。


「繋ぐ?」


「ああ」


俺は頷く。


「前の記録を、次の記録に書く」


昨日の紙を指す。


「この内容を、そのまま次に写す」


新しい紙を見せる。


「こうすると――」


偽造の紙を途中に差し込む。


「ズレる」


空気が止まる。


「前と一致しない」


元兵士が小さく言う。


「……後から入れたって分かるのか」


「ああ」


俺は即答する。


「前と繋がってないからな」


「さらに」


紙に数字を書く。


「全部に番号を振る」


一、二、三。


「抜けても分かる」


「増えても分かる」


「これで終わりだ」


一拍。


「記録は、繋がった瞬間に壊せなくなる」


沈黙。


だが、理解は広がっている。


「……面倒だな」


元商人が呟く。


「そうだな」


俺は頷く。


「でも、嘘は続けられない」


作業が始まる。


新しい記録。


前の内容を写す。


番号を書く。


慎重に。


一枚ずつ。


「……緊張するな」


元兵士が言う。


「ズレたらバレる」


「そうだ」


俺は答える。


「だからズレるな」


昼。


「おい」


元商人が手を止める。


「これ、数字が違う」


確認。


前の記録。


今の記録。


確かにズレている。


空気が張る。


「……俺だ」


農民が手を上げる。


「写し間違えた」


すぐに分かる。


修正。


そして――そのまま残す。


「消さない」


俺は言う。


「間違えたことも記録だ」


夕方。


また一件。


「待て」


鎧の男が低く言う。


紙を指す。


「これ、おかしい」


確認。


前の記録と合わない。


番号も、位置も。


(来たな)


俺は紙を持つ。


「誰が書いた」


全員が首を振る。


知らない。


関与していない。


「……外からか」


「ああ」


俺は頷く。


「でも、もう無理だ」


全員がこっちを見る。


「これ、繋がってない」


紙を叩く。


「前と一致しない」


「つまり――」


「途中で入れた」


沈黙。


「しかも雑だ」


少し笑う。


「急いだな」


外が騒がしくなる。


「逃げたぞ!」


声。


足音。


鎧の男が動こうとする。


「追うか」


「いや」


俺は止める。


「いい」


「いいのか?」


「ああ」


紙をまとめる。


「もう意味がない」


「この仕組みを使った時点で」


一歩前に出る。


「改ざんは残る」


消せない。


隠せない。


「逃げても無駄だ」


それが一番重要だ。


夜。


焚き火。


静かな時間。


「……本当に、これで防げるのか」


鎧の男が言う。


「完全じゃない」


俺は答える。


「でも」


火を見る。


「続ける嘘は、無理になる」


「名前をつけるか」


ふと呟く。


「何にだ」


「この仕組み」


少し考える。


繋がる記録。


消えない履歴。


「……鎖だな」


「記録の鎖」


鎧の男が小さく笑う。


「壊れなさそうだ」


「実際、壊れない」


俺も笑う。


翌日。


王城。


「ほう」


王が紙を見る。


「繋いだか」


「はい」


俺は頷く。


「一枚じゃ意味がない」


「連なって初めて意味がある」


「……面白い」


王が低く笑う。


だが――


横の貴族が静かに言う。


「しかしそれでは」


目が細くなる。


「最初を壊せばいいのでは?」


空気が止まる。


(来たな)


俺は顔を上げる。


「やってみろ」


静かに言う。


王が笑う。


「良い」


「続けろ」


王城を出る。


空を見上げる。


(一段、上がったな)


だが同時に――


(次が来る)


最初。


起点。


そこが狙われる。


「なら」


小さく呟く。


「そこも、繋ぐか」


鎖はできた。


だが、まだ足りない。


次は――始まりだ。


朝。


記録庫。


机の上に、紙が並んでいる。


番号。


鎖。


ズレのない記録。


「……落ち着いたな」


元商人が言う。


「ああ」


俺は頷く。


「“途中”はもう壊せない」


だが――


紙の一番下。


番号「一」。


そこに指を置く。


(問題はここだ)


「最初か」


鎧の男が言う。


「そうだ」


俺は答える。


「ここを書き換えられたら、全部が変わる」


昼。


広場。


人を集める。


農民、商人、徴税官。


ざわつきの中、俺は紙を掲げた。


「これが最初の記録だ」


静かに言う。


「そして、一番弱い記録だ」


「どうすんだ?」


声が飛ぶ。


俺は紙を机に置いた。


「分ける」


新しい紙を三枚用意する。


同じ内容を書く。


・日付

・収穫量

・税率


「これを――別々に持たせる」


指をさす。


「村」


「市場」


「王城」


ざわめき。


「意味あんのか?」

「同じじゃねえか」


いい反応だ。


俺は続ける。


「さらに――」


三枚それぞれに、印をつけさせる。


別々の人間に。


「これで、一枚じゃ成立しない」


「……どういうことだ」


鎧の男が聞く。


「照らし合わせる前提にする」


俺は言う。


「一枚だけじゃ“正しいか分からない”」


「三枚揃って、初めて正しい」


沈黙。


理解が広がる。


「……一枚書き換えても意味がないのか」


元兵士が呟く。


「ああ」


頷く。


「他とズレる」


その日の夜。


異変はすぐに来た。


「おい」


元商人が俺を呼ぶ。


「王城の記録、来たぞ」


紙を受け取る。


目を通す。


(来たな)


内容が違う。


微妙に。


数字が、一つだけズレている。


「……改ざんか」


鎧の男が低く言う。


「だな」


俺は頷く。


「しかも雑だ」


三枚を並べる。


村。


市場。


王城。


「ここだ」


一点を指す。


収穫量。


「二つは一致してる」


「一つだけ違う」


沈黙。


「……王城か」


元兵士が呟く。


空気が張る。


「どうする」


鎧の男が聞く。


俺は少しだけ考えて――


「決めるルールを作る」


翌日。


広場。


三枚の紙を掲げる。


「ズレた場合」


全員を見る。


「“多数を正”とする」


ざわめき。


「二つ一致してる方が正しい」


「一つは――誤り」


「待て」


役人が前に出る。


顔が強張っている。


「それでは――」


言葉が詰まる。


「……困るか?」


俺は聞く。


沈黙。


それが答えだ。


「さらに」


俺は続ける。


「ズレた記録は、残す」


空気が凍る。


「消さない」


「“どこでズレたか”を残す」


ざわめき。


「犯人分かるじゃねえか……」

「どこで改ざんされたか……」


その通りだ。


俺は頷く。


「これで終わりだ」


その日の夕方。


王城から呼び出し。


広間。


いつもの顔ぶれ。


だが――


空気が違う。


明らかに重い。


「報告を受けた」


王が言う。


「記録がズレたと」


「ああ」


俺は頷く。


「そして直した」


紙を差し出す。


三枚。


ズレ。


修正。


全て残っている。


王が目を細める。


「……面白い」


小さく笑う。


横で、貴族が低く言う。


「だが」


視線が刺さる。


「“二つ”を押さえればいい」


空気が止まる。


(そこまで読むか)


俺は少しだけ笑った。


「やってみろ」


静かに言う。


「簡単じゃない」


一歩前に出る。


「三箇所は、別の人間が管理してる」


「利害も違う」


「同時に二つを動かすには――」


一拍。


「かなり無理をする必要がある」


沈黙。


誰も否定できない。


王がゆっくり頷く。


「……確かにな」


「だが」


視線が鋭くなる。


「“無理”と“不可能”は違う」


来たな。


核心だ。


「その通りだ」


俺は答える。


「だから――」


少しだけ笑う。


「次をやる」


王城を出る。


空を見上げる。


(一段上がった)


だが終わりじゃない。


「次は」


小さく呟く。


「改ざんそのものを“割に合わなくする”」


鎧の男が言う。


「まだやるのか」


「当然だ」


俺は笑う。


「まだ抜け道がある」


風が吹く。


紙が揺れる。


だが――


「崩れない」


誰かが呟く。


その通りだ。


記録は、もう一枚じゃない。


「分かれた時点で、守られてる」

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