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異世界の契約がガバガバすぎるので、現代知識で国家を回します  作者: 鱈場蟹


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第10話:救いは条件と共に

朝。


記録庫の中は、いつもより静かだった。


紙の音だけが、やけに大きく聞こえる。


「……昨日の判定、荒れたな」


鎧の男がぽつりと言う。


俺は紙から目を離さずに答えた。


「ああ」


机の上には、名前が並んでいる。


その横に、判定。


そして――小さく書かれた、メモ。


“不満あり”


(当たり前だ)


線を引いた以上、こぼれるやつは出る。


「なあ」


元商人が低い声で言った。


「こいつら、どうすんだ」


指で示されたのは、“無被害”と判定された連中の名前だった。


だが実際には、余裕なんてない。


畑は無事でも、収穫は減っている。


倉庫は無事でも、中身がダメになっている。


「このままだと潰れるぞ」


誰も反論しない。


俺は一度だけ目を閉じて――


開いた。


「救う」


空気がわずかに動く。


「ただし」


続ける。


「タダではやらない」


沈黙。


視線が一斉に集まる。


「条件をつける」



昼。


広場。


昨日と同じ場所。


だが空気は違う。


怒りよりも、不安の方が強い。


「どうするんだ」

「また線引きか?」


ざわめきの中、俺は前に出た。


紙を一枚、掲げる。


「新しい選択肢を出す」


ざわめきが少しだけ収まる。


「昨日の基準は変えない」


はっきり言う。


「だが、それとは別に――」


一拍。


「条件付きで、生き残る道を作る」


沈黙。


「どういう意味だ?」


誰かが聞く。


俺はゆっくりと言葉を選んだ。


「今のままだと払えないやつがいる」


何人かが目を逸らす。


「そいつらは、このままだと信用を落とす」


「そして取引できなくなる」


「つまり、終わる」


静寂。


「だから――」


紙を軽く叩く。


「仕事を与える」


ざわめき。


「は?」


「仕事だ」


もう一度言う。


「記録庫の仕事を手伝え」


空気が止まる。


「運ぶ、書く、確認する」


「この仕組みを回す側に回れ」


沈黙。


「その代わり」


視線を上げる。


「期限を伸ばす」


ざわめき。


「完全に免除はしない」


「ただし、猶予を与える」


「働いた分だけ、信用を維持する」


空気がゆっくりと変わる。


「……つまり」


鎧の男が言う。


「働けば、落ちないってことか」


「ああ」


俺は頷く。


「何もしなければ落ちる」


「だが、関われば残る」


沈黙。


「もう一つある」


俺は続ける。


「途中で投げるな」


空気が締まる。


「やると決めたなら、最後までやれ」


「逃げたら?」


短い問い。


「その時点で、全部失う」


ざわめき。


「信用も、猶予も」


「二度と戻らない」


静寂。


重い沈黙。


しばらくして。


一人の男が前に出た。


昨日、半壊の判定で揉めていたやつだ。


「……俺は」


声が少し震えている。


「正直、もう無理だ」


誰も笑わない。


「でも、このまま終わるのも嫌だ」


顔を上げる。


「その仕事、やる」


空気が揺れる。


「きついぞ」

「楽じゃねえ」


周りが言う。


だが男は引かない。


「分かってる」


一歩踏み出す。


「それでもいい」


俺は少しだけ頷いた。


「なら名前を書け」


紙を差し出す。


男はゆっくりとペンを取り――


自分の名前を書いた。


(これで動く)


それを見ていた別の男が、小さく呟く。


「……俺もだ」


一人。


また一人。


前に出てくる。


全員じゃない。


だが、確実に増えていく。



夕方。


記録庫。


新しく書かれた名前が、紙に並んでいる。


「……思ったより多いな」


鎧の男が言う。


「ああ」


俺は頷く。


「外にいるより、中に入る方を選んだ」


紙を見ながら続ける。


「これで、ただの救済じゃない」


一拍。


「役割になる」


沈黙。


「でもよ」


鎧の男が言う。


「これ、結局――縛ってるだけじゃねえか」


火が揺れる。


その言葉は、正しい。


俺は少しだけ考えてから答えた。


「違う」


「選ばせてる」


一拍。


「沈むか、関わるか」


「自分で決めさせてる」


沈黙。


「……抜けられねえぞ」


「ああ」


俺は頷く。


「だからいい」


火を見る。


「簡単に壊れなくなる」



その頃。


王城。


静かな部屋。


「条件です」


リオネルが小さく笑った。


「逃げ道を作らず、役割を与えた」


沈黙。


「結果は?」


貴族が問う。


「人が集まります」


リオネルは即答した。


「しかも、自分から」


「つまり」


貴族が目を細める。


「組織になるか」


「はい」


リオネルは微笑む。


「小さいですが、確実に」


静寂。


「……面白いな」


貴族が呟く。


「王の外に、もう一つの流れか」



夜。


記録庫。


静かだ。


新しい名前が書かれた紙を、俺は見ていた。


増えている。


確実に。


(ここからだな)


人が増えれば、問題も増える。


サボるやつ。


嘘をつくやつ。


抜けようとするやつ。


「仕組みだけじゃ足りない」


小さく呟く。


「人を管理する段階だ」


火が揺れる。


影が伸びる。


「次は――」


紙を閉じる。


「中の問題だ」


仕組みはできた。


だが、本当の問題はこれからだ。


人が増えた瞬間、


それは“組織”になる。


そして――


組織は、必ず歪む。

次回もお楽しみに!

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