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異世界の契約がガバガバすぎるので、現代知識で国家を回します  作者: 鱈場蟹


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第11話:組織は、内側から腐る

朝。


記録庫。


人が増えた。


紙の量も、足音も、声も。


全部が増えている。


「……騒がしくなったな」


鎧の男が言う。


「ああ」


俺は短く答える。


机の上には、新しい名簿。


昨日書かれた名前。


その横に、役割。


運搬、記録、確認。


(形にはなってきたな)


だが――


「問題も増えた」


元商人が低く言う。


紙を一枚差し出す。


目を通す。


止まる。


「……遅れか」


「ああ」


名前の横に小さく書かれている。


“遅刻”


一回。


二回。


三回。


「他にもある」


別の紙。


“未記入”


“確認漏れ”


「……もう出てきたか」


俺は小さく呟く。


鎧の男が腕を組む。


「人が増えりゃ、こうなる」


正しい。


だからこそ――


「放置はできない」


空気が少し締まる。


「どうする」


短い問い。


俺は少しだけ考えて――


「残す」


「は?」


視線が集まる。


「全部、記録する」


紙を叩く。


「遅れた、サボった、ミスした」


「全部だ」


沈黙。


「それで?」


元商人が言う。


「それだけじゃ意味ねえ」


「意味はある」


俺は答える。


「積もる」


一拍。


「一回はいい」


「二回もまだいい」


「だが三回、四回――」


紙をめくる。


「無視できなくなる」


空気がゆっくり変わる。


「つまり」


鎧の男が言う。


「回数で見るってことか」


「ああ」


俺は頷く。


「一発じゃなく、積み重ねだ」


沈黙。


「……それなら納得はしやすいな」


元商人が呟く。


いい。


そこだ。


「もう一つ」


俺は続ける。


「見るのは結果だけじゃない」


紙に線を引く。


「量と質」


「量は回数」


「質は影響」


「影響?」


「例えば――」


紙を指す。


「運搬が遅れる」


「これは小さい」


次。


「記録を間違える」


「これは中」


そして。


「確認を飛ばす」


一拍。


「これは大きい」


沈黙。


「なぜだ」


鎧の男が聞く。


「全部ズレるからだ」


即答する。


「鎖に影響が出る」


空気が締まる。


「つまり」


元兵士が言う。


「同じミスでも重さが違う」


「ああ」


頷く。


「だから分ける」


紙に書く。


小 中 大


「回数×影響で判断する」


沈黙。


理解が広がる。


「じゃあ罰は?」


誰かが言う。


俺は少しだけ考えて――


「段階を作る」


空気が動く。


「まず注意」


「次に制限」


「最後に排除」


ざわめき。


「排除だと?」


「ああ」


俺は頷く。


「組織から外す」


静寂。


重い言葉だ。


「……厳しいな」


鎧の男が言う。


「当然だ」


俺は答える。


「中にいるやつは、守る側だ」


一拍。


「壊すなら外に出ろ」


沈黙。


誰も軽く受け取らない。


それでいい。


昼。


問題はすぐに起きた。


「おい」


元商人が俺を呼ぶ。


紙を指す。


「こいつ、三回だ」


名前を見る。


昨日入ったばかりの男。


運搬係。


“遅刻 三回”


「……早いな」


鎧の男が呟く。


「確認する」


本人を呼ぶ。


男が来る。


顔が強張っている。


「遅れたな」


俺は言う。


男は黙る。


「理由は」


しばらくして。


「……道が混んでた」


小さな声。


沈黙。


「昨日も同じことを言ったな」


男が顔を歪める。


「仕方ねえだろ!」


声が上がる。


「人が多いんだよ!」


周囲がざわつく。


(いい)


俺は静かに頷く。


「事実だな」


一拍。


「だから改善しろ」


空気が止まる。


「……は?」


「時間を変えろ」


「道を変えろ」


「手伝いを頼め」


淡々と言う。


「やり方はいくらでもある」


沈黙。


「やらなかったのはお前だ」


男が言葉を失う。


「今回は注意だ」


紙に書く。


“一段階目”


「次は制限に入る」


静寂。


男は何も言えない。


「戻れ」


小さく言う。


男は黙って去る。


空気が少し重くなる。


「……甘くねえか?」


鎧の男が言う。


「いや」


俺は首を振る。


「これでいい」


紙を見る。


「いきなり切ると壊れる」


「だが放置すると腐る」


一拍。


「だから段階だ」


夕方。


別の問題。


「これ、おかしい」


元兵士が紙を持ってくる。


見る。


止まる。


「……未記入?」


確認欄が空白。


しかも複数。


「誰だ」


名前を見る。


同じ男。


さっきのやつだ。


沈黙。


「呼ぶか」


鎧の男が言う。


「いや」


俺は止める。


「もう一つ見る」


紙をめくる。


他の記録。


同じ時間帯。


同じ場所。


そして――


別の名前。


(……そういうことか)


「一人じゃないな」


小さく呟く。


「何だと?」


「手伝ってるやつがいる」


空気が一気に張る。


「サボりを隠してる」


沈黙。


「……内側か」


鎧の男が低く言う。


「ああ」


俺は頷く。


「始まったな」


夕方。


全員を集める。


広場じゃない。


記録庫の中。


閉じた空間。


ざわめきが広がる。


「何だよ」

「またか」


俺は前に立つ。


紙を一枚持つ。


「未記入がある」


空気が止まる。


「一人じゃない」


視線を動かす。


「複数だ」


沈黙。


「誰がやった」


静かに言う。


誰も動かない。


当たり前だ。


「いい」


俺は頷く。


「じゃあ見る」


紙を並べる。


時間。


場所。


担当。


線で繋ぐ。


「ここだ」


一点を指す。


三人の名前。


沈黙。


空気が固まる。


「この時間、この場所」


「同じだ」


「つまり――」


一拍。


「関わってる」


三人のうち、一人が顔を上げる。


「違う!」


声が響く。


「俺は知らねえ!」


「俺もだ!」


もう一人も叫ぶ。


最後の一人は黙っている。


(分かりやすいな)


「順に聞く」


俺は言う。


一人ずつ。


言い分を聞く。


矛盾が出る。


時間が合わない。


場所がズレる。


そして――


最後の一人。


黙っていた男。


「……書かなかった」


小さく言う。


沈黙。


「頼まれた」


視線が集まる。


「誰にだ」


男は迷って――


横を見る。


さっきの遅刻の男だ。


空気が凍る。


「……そうか」


俺は小さく頷く。


「理由は」


沈黙。


やがて。


「……間に合わなかった」


絞り出すような声。


「だから……隠した」


静寂。


「終わりだな」


俺は言う。


空気が震える。


「二人とも、制限だ」


ざわめき。


「確認業務から外す」


「軽い仕事に回せ」


「そして――」


一拍。


「記録は残す」


沈黙。


「次で排除だ」


重い言葉。


だが、誰も反論しない。


できない。


(見せたな)


俺は紙を閉じる。


「これが内側だ」


静かに言う。


「外より厄介だ」


誰も否定しない。


夜。


焚き火。


静かな時間。


「……やっぱり出たな」


鎧の男が言う。


「ああ」


俺は頷く。


「組織は必ず歪む」


火を見る。


「問題は――」


一拍。


「どこまで許すかだ」


沈黙。


「全部潰すと人がいなくなる」


「甘くすると腐る」


「だから線を引く」


鎧の男が小さく笑う。


「また線か」


「ああ」


俺も笑う。


「今度は内側だ」


火が揺れる。


影が伸びる。


その向こうで。


誰かが見ている気がした。


王城。


暗い部屋。


「……始まりましたね」


リオネルが呟く。


貴族が静かに座る。


「内部の歪みか」


「ええ」


リオネルは微笑む。


「ここからが本番です」


沈黙。


「どう動く」


貴族が問う。


リオネルは少しだけ考えて――


答えた。


「簡単です」


一拍。


「正しさを、疲れさせる」


静寂。


「人は厳しさに耐えられない」


「必ず緩める」


「その瞬間を狙う」


貴族がゆっくり頷く。


「なるほどな」


「崩すのではなく、待つか」


「ええ」


リオネルは笑う。


「崩れる時は、内側からです」


静かな笑いが、部屋に落ちた。


その頃。


俺はまだ知らない。


敵は外じゃない。


中でもない。


“疲れ”だ。


それが一番、厄介だということを。

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