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竜の墓標が朽ちるまで  作者: よしゆき
第四章 勇者復活
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第十八話 増え続ける敵意

 前へと踏み出し、脇腹を貫いていた骨を抜く。

 直ぐさま体を反転させると向き直ると、頭部を失っているシャニアの死体がそのまま襲い掛かって来た。


「くっ!」


 問答無用にそのまま死体と戦闘させられ歯を食いしばる。

 ただでさえ、周りは敵だらけだというのに無駄な負傷をしてしまった。

 俺は脇腹からの出血を感じながら、こんな状況になる度に治癒魔術を使える奴らが羨ましいと思ってしまう。

 同時に自分の魔術の才能の無さに悲しくなってくる。


「ジグオールの仲間なだけある。相当な気狂い野郎だとは思っていたが、噂に違わぬぶっ飛び具合だ」


 オーウェンと殺し合おうという際だというに、ガデルは緊張感がない。

 竜殺しが四人もいるこの戦場で、死体を使った姉妹ごっこをしているシャイルに寧ろ感心しているようだった。


「そうは思わねぇか、旦那――あぁ?」


 対して槍を構えるオーウェンはシャイルに全く興味がないらしく、眉の一つも動かさないままガデルに襲い掛かる。

 竜喰らいであるガデルの攻め入る隙を探っていたのだろう。

 ガデルも迫る槍に反応し、竜となっている右腕を振るう。


「おう、おっかねぇなぁ」


 だが、竜斬りの前では竜の鱗も無力なのか、その右腕は意図も簡単に斬り落とされていた。

 それでも竜の姿をした竜殺しは右腕が斬り落とされたというのに、やはり他人事のようだった。

 そのままガデルとオーウェンという二人の竜殺しも殺し合いを始める。

 そして、更にこれから殺し合おうというのがもう一組。

 というか既にそれぞれが使役しているであろう数体の竜と、凄まじい数の死体たちが既にそこらで争っていた。


「竜殺しのお姉さん、あなた悪い人ね。私はただあなたと仲良くなりたかっただけなのに。その銀色の髪が(うらや)ましかったから、分けて欲しいだけなのに」


 姉の生首を大事そうに抱えるシャイルがいた。

 だが喋り掛けているのは首だけになっている姉のシャニアだ。

 いや、正確にはシャイルがシャニアの首を使って発声させているのだろう。


「シャニア姉様、あの人危ない。それに何か怒ってる」


「んー、さすがに突然背後に現れて髪の毛を触ってしまったのは、私も良くないと思ったわ。ごめんなさい、謝るわ。でも、突然人の首を斬ってしまうあなたもどうかと思うの?」


「でも、女の人は髪を大事にしてる人が多いし。やっぱり姉様が悪いかも」


「もう、だから私も悪いと思ってるのよ? 次からは気を付けるから。きちんと髪を触る前に許可を得るようにするから。だから、その話はここでお終い」


 聞いているだけなら、二人の姉妹が仲良く会話をしているだけだ。

 しかし、実際はネクロマンサーであるシャイルが首だけになった姉を使って、会話をしているように演じている。

 シャイルという魔術師の一人芝居に過ぎない。

 周りにもバレているというのに平然とあの茶番を続ける辺り、芯まで狂気にどっぷりと浸かっている魔術師なのが窺える。


「本当に気持ち悪いわね、あんた」


 そんなシャイルを見ているカリアンの表情は変わらない。

 生理的に無理なんだと一瞬で理解出来るほどの険しい表情をしている。


「ねぇ、竜殺しのお姉さん? 私たちはね、お姉さんみたいな――」


「黙れ、死ね」


 生首であるシャニアに話し掛けられても、カリアンは一蹴した。

 和解は当然ながら、会話も受けつけない。

 ネクロマンサーの言葉を遮った竜騎手は魔術による火球を形成し放った。


 その直後、生首であるシャニアは白目を剥いたかと思うと、発狂したような金切り声を撒き散らした。

 常人が聞いたら気が狂うような恐ろしい叫び声。

 それはこともあろうに迫っていた魔術の火球を掻き消した。

 しかも周りにいた俺は頭痛が起こり、一気に気分が悪くなる。

 恐らく、俺以外の竜殺したちも同じ症状が起こっているだろう。


「やっぱりあの方怒ってます、姉様」


「だからもう、ごめんって。私、さっき謝ったのに。竜殺しのお姉さん、そろそろ機嫌直してくれてもいいんじゃない? せっかく可愛いお顔しているのに、そんな怖い顔ばっかりしてると台無しだよ」


 シャイルが怖がった素振りを見せ、生首のシャニアが再度謝る。

 それが余計にカリアンの神経を逆撫でする。

 放った火球をあっさりと防がれた上に、未だにふざけた態度を止めないシャイルに対して怒りの上昇が収まらない。


 もはや無言だった。

 竜騎手の竜殺しは剣に殺気を込めて駆けだした。

 魔術が対策されるなら直接斬り殺してしまえと、カリアンはその距離を詰めようとして――。


「一人目――」


 しかしそこでシャイルが静かに呟いた。

 詰め寄ろうとしていたカリアンの地面から噴水のごとく、赤茶色をした挽肉が地面から噴出する。


「なっ? 何よ、これ!」


 さすがのカリアンも動揺し剣を振るうが、地面から噴出している肉は斬ったところで手応えが無い、それどころか彼女の体に纏わり付いてゆく。


「くそっ、くそっ! 離れない! どうなってるのよ、これは! くっそぉ!」


 カリアンは苛立った様子で藻掻(もが)きなんとか噴射される肉から逃れようとするが、肉は徐々に彼女の体を覆ってゆく。

 だが、竜殺しの身体能力を持ってしても逃れることが出来なかったのか、最終的には大きな肉の塊が出来上がった。


 ――あれ、捕らえられたのか?

 俺は首の無いシャ二アの胴体と戦いながら、その一部始終を目撃した。

 竜殺しである彼女があそこまで簡単に捕まってしまうとは、あのシャイルというネクロマンサーは本当に強い。

 竜殺しでこれだとすると、並の人間じゃまず歯が立たないレベルだろう。


「やった。お姉様、竜殺しを一人捕まえたよ」


「偉いわ、シャイル。竜殺しを持ち帰ればきっとおじ様も褒めてくれる」


「おじ様が褒めてくれる? 私、嬉しい。この前、人の加工も上手くなったって褒めて貰えたし。もっともっと褒めて貰う」


「うん、その調子よシャイル。あと三人も頑張って持ち帰りましょう」


 あのシャイルというネクロマンサーはどうやら勝った気でいるのだろう。

 だが、カリアンは確かに捕らえたのだろうがそれだけだ。

 その証拠にオーウェンとガデルは今も戦闘を続行している。

 全く気にしている様子はない。

 俺たち竜殺しを捕らえると言った言葉も響いていない。

 奴らも俺と同じ予想なのだろう。

 つまりは、そういうことなのだ。


 次の瞬間――激しい閃光と共に音が炸裂した。


 強烈な爆発と共に、竜殺しを捕らえていた肉の塊が木っ端微塵に吹き飛んだ。

 鼓膜を揺るがす轟音の後には当然彼女が姿を現す。

 概ね予想通り。

 捕獲するだけなら一時的に出来るだろうが、それを維持できるかはまた別問題という訳だ。


「ネクロマンサー、正直あなたのこと舐めたわ」


 竜騎手カリアンは今ので頭が冷めたかのように落ち着いている。

 先ほどまでの怒りは爆発と一緒にどこかへ吹き飛ばしたらしい。


「でも、私のことも舐めすぎよ。他の連中は知らないけど、この私がこの程度でどうにかなるなんて思わないことね」


 剣を携えるカリアンがゆっくりと歩み寄る。

 姉の生首を抱えたままシャイルは無言だった。

 肉の拘束を地力で突破したカリアンへの反応は見られない。

 彼女は何を考えているのかわからない。


「ねえ、竜殺しの皆さん」


 すると、俺に襲い掛かっていた首の無い死体が突然その動きを止めた。

 シャイルがの様子が変化したことに気づいたからか、彼女がここにいる竜殺し全員に話し掛けたことを理解したからか、戦っていたオーウェンとガデルも相手を警戒しつつ手を止める。


「思ってたよりも早かった。本当に残念だけど時間が来てしまったわ。まさか、一人も捕まえられないなんて」


 ネクロマンサーの少女は竜殺したちを無視して、遠くの暗闇をじっと見つめる。

 まるで何かの来訪を察した野生動物のように彼女は動かない。


「パルムーン様は逃げろとおっしゃっていたけど、きっとあなたたちは逃げずに戦ってしまう。何故なら竜殺しだから。でも私はあなたたちを持ち帰りたいし、おじ様もきっとあなたたちを材料にしたい。だから、あなたたちの体が食べられてしまったり、欠損してしまうのはきっと不本意だから」


 俺はやはりシャイルが何を言っているのかわからない。

 カリアンも俺と同じ気持ちなのか、彼女に尋ねる。


「あんた、なんなら最初から何を言いたいのか全然わからないんだけど? もっと簡潔に出来ないの? 頭のおかしい魔術師はそんなことすら出来ないの?」


「えっと、その、だから――私があなたたちを守ります」


「は? 守る誰を? これ以上気が狂うんなら勘弁して欲しいんだけど?」


「あっ、来ました」


 そのシャイルの一言が合図かのように『そいつ』は現れた。

 四人いる竜殺しの視線が一致する。


 巨大なトカゲのような生き物。

 夜闇の奥底から全力で走ってきたのは一体の竜。

 俺はこいつを知っていた。

 翼を体内に収納しているその竜は空高く跳躍すると、その口から人間の手を思わせる青白い腕を生成する。


 青白い腕の竜フォラン。

 その竜が作り出した青白い腕は握り拳を作ったかと思うと、それを俺たちのいる地面へと鋭く振り下ろした。

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