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第16話 ハンバーグ改

 彦摩呂と総司が来るのを待っている間、俺と朝霧は先に弁当箱を開けて食べようとしていた。俺は昨日の夕飯の余りを筆頭として作った弁当を無言で口に運び、朝霧は一方的に俺に向かって延々と話しを続ける。一応は軽く返しているものの、だから何?としか思えない。はっきり言って興味がない。

 そもそも、なんで朝霧はそんなに俺に突っかかってくるのだろうか。これは朝も思ったことだ。昨日一緒に帰ったのは、朝霧いわく「マンションのお隣さんだから仲良くなろうと思って」。仲良くなったというわけではないが、メアドを交換した時点でその目的は十分に達成できていると思うのだ。それなのに、こいつは朝俺に「一緒に登校しようっていったじゃん!」と言ってきた。さらにさっき「私も一緒にいいかな?」と言ってきた。総司や彦摩呂にではなく、俺に。なんでコイツは、こうも飽きもせず俺に話しかけてくるのか。

 迷惑というわけではないが、こいつとよく一緒にいるせいで、傍から見れば仲がいいように見えるせいでクラスメイトの男子からはあまりいいようには思われていない。更には、俺が見るからに陰キャラだからっていうのも影響している。きっと男共は、なんであんな陰キャラなんかと、と思っていることだろう。

 知らなくてもいいことだが、気になってしょうがない。だから俺は朝霧に聞いてみた。


「おい、朝霧」


 朝霧も俺も箸を止めた。


「なに?って、名前で呼んでって言ってるじゃん」


「……なんでお前はこうも俺に突っかかってくるんだ」


「それは、マンションのお隣さんだから……」


「仲良くしようってか?昨日メアド交換したんだからそれで十分じゃないのか」


「秋人君、私のメール無視するじゃん」


「それは悪かった。でも、それだけが理由じゃないだろ。なんで俺と一緒に昼飯食いたかったんだ?……総司に気があるのか?総司の友達であり、マンションのお隣さんの俺を利用しようってことか?」


「……そんなんじゃないよ。私の目的は、天道君じゃなくて秋人君」


 それを言われて、俺の中に自意識過剰な考えが生まれた。その考えは、俺にとって嫌なことではない。どちらかといえば嬉しい。だけど、そんなことを考える自分が嫌だ。ありえない。そこまで親しくなりたくないし、信用もできない。朝霧だって、きっと何かの勘違いだ。そうじゃなかったとしてもやめた方がいい。


 ……こういうのはさっさと解決させてしまおう。俺のためにも、朝霧のためにも。


「……じゃあなんで俺が目的なんだ」


「そ、それは……なんと言いますか、ちょっと言いにくいな」


 頬を少し赤く染め、かわいらしく朝霧はそう言った。可愛いと思うが、そのしぐさがイラつく。そのしぐさは俺にさらに自意識過剰を埋め込み、それを思う自分がさらに嫌になった。だからイラついたんだ。

 朝霧の表情に反して、俺の気持ちと表情は険しくなる一方だ。


「……いいから教えろ」


 それでも朝霧はモジモジとしながら、やがて口を開いた。


「あのね、その……」


 朝霧はまだ頬を赤くしているが、言う決意をしたのが見てわかる。俺はそれを、目にかかった前髪の間から静かに見続けた。食堂に集まっている周りの生徒たちの話し声も、心なしか静まっている。それだけ俺は。朝霧の次の言葉を真剣に待っているということだろうか。

 少し顔が熱くなってきた。耳や背中辺りも同じ感じだ。

 そして、朝霧は続きの言葉を口にした。


「……秋人君て、見るからに陰キャラでしょ?」


 朝霧の口から放たれた言葉は、俺の予想とは全く違う方向性を持った内容だった。


「それでその……自分で言うのもおかしいけど、私可愛い方だと思うの。実際に、何人もの男子から告白されたこともあるし」


 ……あ、うん。それで?


「普段の生活から男子の視線を感じるし、よく話しかけられるし。少しならいいけど、いつもなの。それがちょっと、迷惑で……」


 ……だから何?


「だから、秋人君みたいな陰キャラと仲良くなれば、そういうのも少なくなるかなって思ったの」


 ……なるほどわかりました。一気に冷めました。


「予想通り、話しかけてくる男子も視線も減ったよ」


 そりゃそうだ。その視線は俺に来るからな。


「しかも秋人君も本当に陰キャラだったし。ありがとね」


 俺何もしてないけどね。むしろ言葉の暴力を受けたよ。


「でもね、今はそれだけじゃないよ?」


 ……なんかもう、期待できません。だからイラつかないし、自分を嫌にもなりません。


「私ね、秋人君の事嫌いじゃないよ?結構優しいし、ツンデレさんなのかな?って思った。でも予想以上に冷たかった。……だから逆に燃えてきたよ!秋人君の心を開いてみせようと思います!」


 朝霧は右手でガッツポーズをしてから「戦線布告だ!」とか言ってる。

 俺は今、勘違いから解放されてスッキリした気分だ。ただ、傷ついたのは本当。それと、男共から嫉妬の視線を受けて困っているのも事実。だからそれをやめてほしいと言いたい。でも多分朝霧はそれを聞き入れてはくれないだろう。朝霧が望んでいることは、人前で俺と仲良くすることで降下が発揮されるものであり、メールとかの人の目につかないやり取りでは意味がないのだ。

 こいつもきっと苦労していたのだろう。

 男子数人としか仲良くなかった俺にはなれた状況なのだ。女子の嫌悪の視線に男子の嫉妬の視線が加わっただけ。たったそれだけのことだ。俺は甘んじてこの状況を受け入れよう。


 ここで総司たちがやってきた。そういえば、総司も似たような理由で俺と彦摩呂に話しかけてきたんだったな。たぶん、正確には俺に。


「お?朝霧さん楽しそうだな。何話してたんだ?」


 こっちのさっきまでの会話を知らない総司は俺達にそう質問しながら彦摩呂と一緒に席についた。


「俺にとっては楽しくないハナシ」


「?」


 朝霧は笑顔でミートボールを口に放り込んでいた。

 俺もハンバーグを口に運ぶ。朝、焦げた表面をはがして焼き直したハンバーグ。当初よりサイズが少し小さくなっているものの、見た目と味は保証してもいい。それを咀嚼しながら、俺は思う。


 やっぱ俺、陰キャラに見えるんだな。


 そう思われるだけならいい。中学の頃から、女子からはこの見た目のせいで嫌悪の目を向けられていたから慣れているし、特に悲しくも思わない。その度に男友達が「男は見た目じゃなくて中身だ!」と励まそうとしてくれていたのはいい思い出。でも、別に悲しんでいるわけではないんだけど、と心の中でいつも思っていた。

 ただ、言葉にされると……。さっき総司の妹に言われた言葉。「キモイんだけど」。イラついたのと同時に、不覚にもちょっと心にダメージを受けてしまった。


 ……やっぱキモイのか……


 そう思いながら、前髪を指でいじる。

 初対面の人は大抵そう思うだろう。彦摩呂も、総司も、朝霧も……もちろん、凪沙も。

 凪沙はそんなそぶり全く見せなかったけど、もしかしたら俺みたいにキモイ人間と一緒に暮らすことによってストレスを感じているのではないだろうか。もしそうだったら……

 誰に嫌われてもいいと思ってたけど、凪沙には嫌われたくないな。

 次に俺の頭に浮かんできたのは、今後の予定。今度の日曜日に、凪沙の友達が家にやってくる。もし凪沙が、あんなキモイ人と一緒に暮らしてるんだね、なんて思われるようなことがあったら……そこからいじめとかに発展してしまわないだろうか。小学生はまだまだガキなんだ。そういう『いじめ』は起こりやすいと思う。


 保護者として、優先すべきは俺じゃないんだ。


 朝霧さんはこんな理由で秋人に関わっていました。いや~……秋人ドンマイ

 そして秋人めっちゃ保護者。大げさですね。


 次回、秋人イメチェンと休日




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