第17話 豚丼の後のお出かけ
2週間に一度の更新をするつもりが、すごく間が空きました。
他の小説の方に力を入れてばっかりで……
俺の高校生活、そして凪沙の6年生としての生活の最初の1週間は終わり、休日がやってきた。そして今日は、その休日の最初の日。土曜日だ。
洗濯物の干しながら見上げた空は、雲が所々に存在するものの、太陽の光を遮断するには至らない。天気予報でも今日一日はずっと快晴だと言っていた。
本当に、今日という一日が晴れてくれて良かった。
今日は凪沙と一緒に行くべきところがある。とても大切なことで、こういうのは早めにやっておきたかったから凪沙の友達が来るのを明日の日曜日にしもらったのだ。
今日の予定として、凪沙と一緒に出掛けるのは午後からでいいのだが、それとは別に俺自身の用事でやって起きたこともあった。凪沙にすこし出かけてくる旨を伝え、自転車にまたがって目的地へと向かう。
目的地に到着して、とある店に入れば席に案内され、首に何かしらの布を二重にまかれる。その布の二枚目は俺の首から下を覆い隠すほどの大きさだ。少し美人な店員にドキッとしながらも、俺はこう言う。
「かっこよくしてください」
店員はクスっと笑った後、にこやかにかしこまりましたと言った。
俺の髪に軽く水を吹きかけ、一対の刃を持つ交差した得物を俺の頭に近づける。その様子を、俺は動じることなく鏡越しに眺める。その獲物は、だらしなく垂れ下がった黒のブラインドを刈り取り、俺の視界を明るくした。
恐怖は全くない。
世の女性のように大切と言うわけでもない。
凪沙のために、俺は変わらなければいけないんだ。
無数の黒が、ぱらぱらと地面に舞い落ちた。
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凪沙side
午前10時ごろ、秋人さんはどこかへ出かけていった。宿題は少し出ているけど、それは日曜日に友達と一緒にやる約束をしたから、今は何もやることがなくて暇な状況だ。今から友達の家に遊びに行って暇をつぶすのもありだけど、秋人さんは今日大切な用事があると言った。それには私も一緒じゃなきゃだめらしい。その用事は今日と言うことしか聞いてなくて、いつからなのかは知らない。だから外で友達の家に行くことはできないのだ。
私はテレビを見てまつことにした。
しばらくして、秋人さんが帰ってきた。玄関からこっちに向かってくる足音の後、この部屋に通じる扉を開ける開ける音が聞こえた。
「ただいま」
その声に返事をすべく、私はソファーに座ったまま後ろに振り返った。本来ならここで「おかえり」と返すのだが、私の目に映った物がその言葉を出させなかった。
この家に入ってこれるのは秋人さんと伯父さんだけ。遠くに住んでいる伯父さんなわけがなく、この家に入ってきたのは秋人さん以外ありえない。それに聞こえてきた声も秋人さんの物だった。なのに、私の目に映るのは秋人さんとはだいぶ雰囲気の違う人だった。
服は朝秋人さんが着ていた物。顔は見たことな……いや、見たことあるかも。秋人さんは普段、長い前髪のせいで顔全体をみることはできないけど、お風呂上がりの時、たまにオールバックにしていることがある。その時だけ、秋人さんの目を隠す前髪はなく、顔全体を見ることができる。私の目の前にいる人は、その時見た顔をしている。
この人は間違いなく秋人さんだけど、前髪がないだけで……いや、前髪だけじゃなくて髪全体が短くなっている。パッと見の暗い雰囲気はなく、初対面でも普通に接することができるような雰囲気……なんと言えばいいのかよくわからないけど、すごくかっこよく見える。前の髪型とのギャップのせいかもしれないけど。とにかく、秋人さんじゃない誰かじゃないかと思ってしまうほど変わっていた。
もっと秋人さんの変化を見つけるべく、私は秋人さんを見つめ続けた。すると、私のまじまじとした視線に気づいた秋人さんは短くなった前髪をいじりながら言った。
「……その、髪を切ったんだ……変か?」
「ぜ、ぜんぜん変じゃないです!その、かっこいいってい言うか、なんて言うか……とにかく!前よりは断然いいと思います!」
「そ、そうか……」
「…………」
「…………」
「……その、おかえり」
「ああ、ただいま」
秋人さんは一端この部屋を出て、自分の部屋に荷物を置きに行った。そしてまたこの部屋に戻ってきて、私の隣に座って一緒にテレビを見始めた。その横顔を、私はまだ見つめ続けた。
今まであまり見ることのなかった秋人さんの顔。なんだかめんどくさそうというか、気迫の無い目をしているけど、一見鋭そうにも見える。顔のパーツも全体的に整っていて、そこらへんに転がっている男子よりはかっこよく見えるが、特出したものがあるわけでもない。
「……凪沙、そんなにじろじろ見られると、さすがに恥ずかしいのだが」
「あっ、す、すいません」
「別に謝らなくてもいいけど」
「はい……」
最初の方はあまりの代わり映えに戸惑ったけど、会話を繰り返すうちにいつも秋人さんだという実感がわいて、すぐに慣れた。
それからは、お昼ご飯に豚丼を食べて、1時くらいに家を出た。いい加減に教えてくれてもいいんじゃないかと思い、今からどこに行くのかを聞いてみた。
「凪沙の両親の所だ」
え?私とお父さんとお母さんのところ?それってつまり……
買い物に出かける時とかは自転車で出かけていたけど、今日は徒歩で移動した。目的地までは電車で行くみたいだし、駅は近くにあるからだ。
電車に揺られながら目的地付近の駅に到着するのを待つ。その駅から降りて秋人さんの後をついていけば、そこは私の思っていたところではなく、お花屋さんだった。秋人さんはこう言った。
「好きな花を選んで」
そう言われたから、私は店の中まで見て回って、一つの花を選んだ。これといって好きな花はないけれど、この花がきれいだと思ったからだ。店員さんに聞いてみたら、八重桜と言うらしい。
秋人さんも店員さんに何か話しかけていた。
「あの、あれの花言葉って……」
「理知に富んだ教育、です」
「ははは。まぁいっかな?」
その会話は私には聞こえなかったけど、この花が気に入ったから気にしない。
それからは、秋人さんは私の選んだ花を含めて店員さんに見繕ってもらい、花束にしてくれた。
花屋を出て歩くこと数分。いくつもの石が左右に並ぶ道を進み、立ち止まる。周りの石とそんなに変わらないそれには、こう彫られている。
新垣家之墓
お葬式の日、たくさんの人がここに集まって、みんな黙って手を合わせていたのは、まだ記憶に新しい。
秋人さんはさっき見繕ってもらった花束を添えると、しゃがみ込んで、手を合わせて目を瞑った。私も秋人さんと同じように手を合わせる。
あの日、いつかまたここに来るだろうとは思っていた。その時きっと、私は泣いてしまうだろうと思っていた。
だけど、出てきたのは涙ではなく、言葉。
「……お父さん、お母さん。私ね、今この人と一緒に暮らしてるんだよ。すごく優しい人でね、家事もできるし、料理もおいしんだ。お母さんの方がおいしいけど、そのうち追い越されちゃうかもね。後ね、秋人さんて、年齢的にはお兄ちゃんだけど、お父さんみたい。お父さんに似てるところもあるし。他にもね、秋人さんのいいところはたくさんあるんだよ。まだ一緒に暮らして2週間だけど、秋人さんのいいところをたくさん見つけれたし、楽しいこともあった。私ね、お父さんとお母さんがいなくなっちゃってすごく悲しかったし、寂しかった。でもね、今はそんなことないんだ。秋人さんがそばにいてくれるから、寂しくないしよ。だから安心して」
「……とのことです。俺も、凪沙と一緒にいれて楽しいですよ。頼りないかもしれないけど、あなたたちの代わりに、俺が凪沙を守ります。立派に育ててみせます。安心できないかもしれない。でも、信じてください」
私は、私の思っていることを正直に話した。その後、秋人さんが言ったことは嬉しかったのと同時に、少し驚きだった。秋人さんの方を見てみると、笑っていた。話し方も、お世辞とかじゃなくて本心を言っていると確信をもてる。それが本当に嬉しい。
秋人さんとは血の繋がりはないけど、今じゃもう家族の一員だと私は思っている。お兄ちゃん、って呼んだら怒るかな?怒らないよね。私一人っ子だったから兄妹が欲しいって思ってたんだ。でもちょっと恥ずかしいから今はまだ無理かも。
ならせめて、敬語はやめようかな。家族なのに敬語っていうのも変だし。
「秋人さん。今日はありがと」
「どういたしまして。でもこれは、俺の中でのけじめっていうか、なんていうか……とにかく、俺にとっても大事なことだったから」
「それでも、ありがと」
「……じゃ、そろそろ帰るか」
「うん。……あの、秋人さん。私も秋人さんのご両親にあいさつしたい。いい?」
「……ああ……またその内にな……」
秋人のイメチェン。もう陰キャラだなんて言わせない!
凪沙の両親のお墓参り。お墓参りにはもっと正式な作法?とかがありますが、2人と作者はそれを知らないので、とりあえずは花を添えて手を合わせるだけ。
髪を切る描写とか、あえて散髪に行く、という言葉を使わずに表現。まったく隠せてなくて、意味がありませんでしたね。こういうのって難しい……




