5ページ目 — 「嘘の始まりと終わり:錯乱」
「若者よ、人生の意味とは何か、教えてくれないか?」
その言葉を聞いたタツは腕を組み、少し顔を上げて木を横目で見ながら言った。
「なんでその質問ばっかり繰り返すんだ? しかも、聞く相手を間違えてるし」
木は何かを考えるように小さく唸ったが、それも一瞬のことだった。すぐに口を開き、こう答えた。
「なぜ、その質問に答える相手として、お前はふさわしくないのだ、若者よ?」
タツは、果てしなく広がる森へと視線を戻した。
「そもそも……人生に意味を見いだせない人間に、そんな質問をするべきじゃない」
木は黙ったまま、タツの言葉に耳を傾けていた。
「充実した人生を送っている人に『人生の意味』を尋ねたら、たぶんこう答えるだろうな。『良い人生っていうのは、そばに誰かがいてくれる人生だ』って。でも、実際のところ、そんなものは人それぞれだ。同じ質問を、惨めな人生を送っている人にしたら、黙り込むか、どうでもよさそうに答えるだけだろう」
タツの言葉は風に乗り、木のもとへと届いた。
「では、若者よ。お前は良い人生を送っているのか?」
その言葉を聞いたタツは、特に面白いことを言うつもりもなかったが、ただ微笑み、軽く笑ってみせた。
「どう思う?」
「お前の人生には、良い面も悪い面もあると思うぞ、若者よ」
「どうしてそう思うんだ?」
「お前は、良いことも悪いことも経験してきたからだ、若者よ」
「それで何がわかるんだ?」
「それを私に教えるのは、お前の役目だ、若者よ」
「昔、誰かに言われたことがあるんだ。会話っていうのは、一人が質問して、もう一人が答えるものだって」
タツはわずかに首を傾け、挑発するような口調で言った。
「お前はもう二つも曖昧なことを言ったのに、自分じゃまったく気づいてないんだな、若者よ」
「はぁ……面倒くさいな」
しかし、すぐに真剣な表情へと戻った。
「本題に戻ろう。お前の人生は良いものなのか、若者よ?」
「『良い人生』が、いつも『幸せに生きること』を意味するなら、答えはノーだ」
「だが、良い時間を過ごしたこともあるだろう、若者よ?」
「そういうわけでもない。すごくおいしいものを食べたあとに気分が悪くなったとしても、それでその食事が良かったことになるわけじゃないだろ?」
「面白い例えだな。だが、人生を食事に例えるのは正しいことだと思うか、若者よ?」
「お前、さっきから『若者よ、若者よ、若者よ』って、そればっかりだな。なのに、今のところ何一つまともなことを言ってない」
「そもそも、これは何なんだ?」
タツはいつもの調子で立ち上がった。膝に手を置き、力を込めて体を起こす。そして木のほうへ向き直ると、両腕を広げ、地面を指差しながら言った。
「夢なのか、幻覚なのか、昏睡状態なのか……一体ここは何なんだよ?」
その間も、木はタツの動きを注意深く見つめていた。
「お前、今まで何一つ答えてないじゃないか。何も説明してくれない。なんで俺はここにいるんだ? ここで何をしてるんだよ?」
タツはそう言いながら頭を掻いた。
「ここへ来る前に何があったか、覚えているか、若者よ?」
「は? 何だよ?」
「もう話をそらそうとしているのか……」
タツは頭から手を離し、歯を食いしばって言った。
「ここへ来る前に、お前が何をしたか覚えているか、若者よ?」
「何を言ってるんだよ!?」
「思い出してみろ、若者よ」
「俺のことを何でも知ってるみたいに話すなよ。俺は学校にいたんだ。先生に顔を洗ってこいって言われただけだ!」
タツは木を指差し、すぐに腕を組んだ。
「俺は……たぶん、トイレで寝ちゃったんだろ……。先生、心配してるかもな」
「タツ……」
「でも……別に問題ない。今まで何人もの人を失望させてきたんだ。もう一人増えたところで、何が変わる? 先生だって、俺がトイレで寝てるのを見つけて、また校長室に呼び出すだけだ。もう慣れっこだよ」
そう言いながら、タツはまるで自分が状況を完全に把握しているかのように笑った。
「別に、そういうのが好きなわけじゃないし、好きになりたいわけでもない。でも、こういうことって起きるもんだろ。仕方ないよな?」
「タツ。その先生は、もう亡くなっている」
その言葉を聞いた瞬間、タツはまるで内側から引き裂かれるかのような感覚に襲われた。無数の手が腹部を締めつけているようだった。目を見開き、頭がずきずきと痛み始めた。しかし、なぜか痛みそのものはまったく感じなかった。
「お……お前、今、何て言った……?」
「記憶が戻り始めているのだろう。お前が知っていることは、もうすべて過去のことだ。思い出してみろ、若者よ」
「何を言ってるんだよ……?」
「今さら過去について考えていても遅い。あのあと、お前が何を経験したのか思い出してみろ、若者よ」
木はため息をつき、目を閉じて言った。
「少しずつ思い出していけば、理解しやすくなるかもしれません……」
タツは膝をついた。両手で自分の腹部を強く押さえていた。奇妙な感覚だった。内臓が回転し、引き伸ばされているようでありながら、引き裂かれたあとに再び縫い合わされているようでもあった。それなのに、タツはそのどれにも痛みを感じなかった。
「あれは、お前が学校に通っていた最後の月だった。学年の終わりまであと少しで、卒業パーティーの準備も始まっていた。だが、お前は手伝いにすら誘われなかった。覚えていないか、若者よ?」
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【「これを入り口に置いたら、きっときれいだよね」
「この色はあんまり合わない気がするけど」
「色はあとで決めようよ。でも、アイデア自体はいいよね?」
「うん、この部分はいいと思う」
生徒たちは学校の卒業パーティーに向けた準備について話し合っていた。
突然、タツがリュックを背負って教室に現れ、笑顔で皆に挨拶をした。
「よっ、みんな。俺も手伝っていい?」
生徒たちは、まるでタツを値踏みするかのように彼を見た。
「こういう創造的なことはあんまり得意じゃないけど、何か手伝えることはある?」
そう言いながら、タツはグループの男子や女子をじっと見つめた。しかし、誰かが答えるよりも先に、その笑顔は少しずつ消えていった。
眼鏡をかけた男子が口を開く前に、彼はほかのメンバーへ目を向け、片眉を上げた。それから再びタツを見ると、こう言った。
「ちょっと無理かな……『ツ』、だっけ? もう十分人数は足りてるし、みんなそれぞれ担当があるんだ。そんなに難しい作業でもないから、こっちで何とかするよ」
そう言いながら、男子は眼鏡を直そうとしたが、うっかり手で口元を覆ってしまった。タツがほかのメンバーに目を向けると、全員が笑いをこらえていることに気づいた。
それでもタツは、ただ笑顔を返し、わずかに首を傾けて言った。
「そっか。何かあったら呼んでくれよ……」
タツは踵を返して歩き始めたが、ふと思い出したように足を止め、振り返らずに言った。
「あ、そうだ。俺の名前はタツだからな。忘れないでくれよ……」
「忘れるわけないだろ。心配すんなって」
タツが遠ざかるにつれて、彼らの笑い声は次第に聞こえなくなっていった。彼はパーカーのポケットに手を突っ込み、うつむきながら歩いていた。】
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「その日の午後、お前はいつもと変わらない様子で学校を出た。だが、ある光景を目にした。そのときのお前にとっては――あるいは、それ以外のときにとっても――ごくありふれた光景だったのかもしれない」
「それ以外のとき」と口にしたとき、木の声はあまりにも小さく、タツの耳には届かなかった。
一方、タツは次々と頭に浮かぶ記憶と、胸の内のざわめきをどうにか整理しようとしていた。やがて前かがみになり、額を地面につけたまま腹部を押さえ続けた。そして、目を閉じた。
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【学校の門を出たタツは、飾りつけられているにもかかわらず、見知った顔が一つもない門の周辺を眺めた。それから携帯電話を取り出し、不思議なことに、「Star Choosers」という友人グループの最新のやり取りを開いた。
「もうおばさんの家に着いたよ」――ハルキ。
「おばさん、唐揚げと餃子を作ってくれたよ」――ユナ。
「早く来いよ。冷めちゃうぞ」――ダイキ。
「今からすぐ向かう!」――タツ。
携帯電話をしまう前に、タツは微笑んだ。それは心からの笑顔だった。まさに、その瞬間のために一日中取っておいた笑顔だった。
携帯電話をしまいながら、タツは門のすぐそばにいた守衛を呼び、倉庫の鍵を借りた。倉庫に着くと、大きな扉を開けて中から自転車を取り出した。扉を閉め、自転車にまたがる。それから自転車を漕いで門まで戻り、鍵を返した。学校を出たあとも、タツの顔には変わらず心からの笑みが浮かんでいた。
彼は平均より少し速いペースで自転車を漕いでいた。方向を変える時以外はほとんど周囲を見回さなかったので、かなり集中しているようだった。
しかし、空から落ちてきた雨粒に不意を突かれた。立ち止まって空を見上げると、雨粒が目に直撃した。
「チッ……」
目を拭ったあと、自転車を降りた。時間が経つにつれて、雨はますます強くなっていった。
タツはため息をついた。周囲を見回すと、コンビニが目に入った。運がいい。そう思い、自転車を押しながら店へ向かった。
「雨の日に自転車に乗るのはよくないって言われてるけど……まあ、せっかくここまで来たんだし、何か買っていくか……」
店の入り口で、タツは頭だけを中に入れ、首を左右に回して店員を探した。右側に店員を見つけると、声をかけた。
「おい、そこの人。自転車用の鍵ってある?」
「ああ、ありますよ」
その店員は、タツより年上には見えなかった。おそらく同い年か、それに近い年齢だろう。片耳だけに有線イヤホンをつけ、音楽を聴いていた。タツの質問を聞くと、引き出しを開けて鍵を取り出し、すぐさまタツに向かって放り投げた。
タツは扉をさらに開き、腕を中に伸ばして鍵を受け取った。そして礼を言った。
「ありがとう」
店員は親指を立てて返事をするだけだった。
そのあと、タツは自転車を駐輪場まで押していった。自転車を置こうとしたとき、六つある駐輪ラックのそれぞれに鍵がかかっていることに気づいた。すべての鍵が閉まっていたため、まず一つを開け、車輪を通してから、もう一度鍵をかける必要があった。タツはその通りにした。素早く済む作業ではなく、一分と少しかかった。
終わると、彼は入り口まで歩いて扉を開けた。店内に入ると、パーカーのポケットに両手を突っ込み、周囲を見回した。食品や飲み物、包装された商品、ゲーム、トランプなど、さまざまなものが並んでいた。だが、その中で彼の目を引いたものがあった。漫画とライトノベルのコーナーだった。
「何か面白いもの、ありますか?」
タツは店員に振り向き、そのコーナーを指さして尋ねた。
「ええと……ああ、そうですね。最近読んだ中に、すごく面白い作品があったんです。あそこを見てみてください。『ステラ年代記』っていう作品です」
それを聞くと、タツは再びそちらを向き、そのコーナーへ歩いていった。
「改めて、ありがとう」
店員は、また親指を立てただけだった。
そのコーナーの前に立った瞬間、タツは小さな棚がいくつも並び、漫画や本が整然と陳列されていることに気づいた。彼は並んだ作品のタイトルを指でなぞりながら、勧められた作品を探した。
「ええと……『Re: One――初めから始まる新しい人生』か……。面白そうだな。いつか読んでみるか。おっ、『カーロット』……これは変わってるな……。『あの時、俺はおにぎりに転生した』か。ふむ……これが一番ぶっ飛んでそうだな……」
タツは数秒間、作品のタイトルやあらすじをざっと眺めて楽しんだ。ときどき本を裏返し、裏表紙の説明にも目を通していた。
そうしていると、雨が降り続く中、携帯電話にメッセージが届き、かすかな通知音が鳴った。
タツは携帯電話をポケットから取り出し、画面を点けた。通知欄にメッセージが表示されていた。
「おい、タツ。そっちは雨、強いのか? こっちは小雨だけど、いつ強くなってもおかしくなさそうだぞ」――ヒナ。
「そういえば、着くまでまだちょっとかかる?みんなお腹が空いてるし、おばさんがもう『先に夕食にしない?』って聞き始めてるよ、へへ」――ヒナ。
メッセージを読んだあと、タツは文字を打ち始めた。
「もう雨の中を行くよ。でも、俺を待たずに先に食べてていいから」――タツ。
すると、ヒナから親指を立てたスタンプが送られてきた。それからすぐに、タツは携帯電話を再びポケットにしまった。
もう一度顔を上げたとき、まるで魔法にかかったかのように、彼の視線は店の窓へと向かった。店内から見えるのは、ほとんどがガラスでできた壁――店の左側にある窓だった。
注意深く目を凝らすと、一人の少年が男に引きずられ、必死に抵抗しているのが見えた。少年は叫んでいるようだったが、少なくとも店内にいるタツの耳には、その声は届かなかった。
男は強そうにも、威圧的にも見えなかった。むしろ、かなり痩せていて、弱々しく見えた。一方、少年も筋肉質には見えず、男と同じくらい無力そうだった。
男が暗い路地の中へ消えていくと、タツはただ、虚空をじっと見つめていた。
タツの目には生気がなく、表情にも疲れがにじんでいた。
それでも彼は何事もなかったかのように振り向き、店員に尋ねた。
「すみません、ここに傘って売ってますか?」
店員はうなずき、傘が並んでいる方向を指さした。
「ありがとう」
「そういえば、これから雨の中を歩かなきゃいけないから、南京錠の鍵を取って、また開け直さなきゃ。」
そう言いながら、タツは適当な傘を一本手に取った。ちなみに、その傘は黄色だった。それから店員のところへ行き、代金を支払った。
「700円です。他に何かありますか?」
「いや、これだけで」
タツはポケットから財布を取り出し、店員にお金を渡した。
「ありがとうございました。またお越しください」
その礼の言葉には、あまりやる気が感じられなかった。だが、たとえ気のない礼だったとしても、礼を言わないよりはましではないだろうか?
こうしてタツは鍵と傘を受け取った。店の外へ出て、駐輪ラックの鍵を開けた。終わると、鍵を店員に返した。
そのあと、自転車にまたがると、最初から向かっていた方向へと漕ぎ始めた。雨は強く降っていたが、すでにしばらく時間が経っていた。おそらく、もうすぐ止むだろう。
タツは首と肩で傘を支えていた。少し不便ではあったが、それだけの苦労をする価値はあると思っていた。
やがて、男が少年を引きずっていった路地の前を通りかかった。路地のすぐ前で自転車を止めた。少し離れた場所ではあったが、中の様子を確認できる位置だった。
男が少年を蹴り、殴っているのが見えた。少年の体にはあざが広がっていた。タツの目からは、まだ意識があるのかどうかもわからなかったが、それでも男は殴るのをやめなかった。
なぜ男が少年を殴っているのか。タツにはまったくわからなかった。理由など、いくらでも考えられた。窃盗、強姦、喧嘩……。
正直なところ、タツにとって、あの光景は珍しいものではなかった。彼はこれまでにも、同じような場面を何度も目撃してきた。だからこそ、起きていることを無視し、そのまま再び自転車を漕ぎ始めた。
「俺には関係ない」
タツは小さな声でそう呟いた。】
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タツは汗をかいていた。吐き気に加え、あらゆる記憶が猛烈な速さで頭の中を駆け巡っていた。たった数秒の間に、まるで新しい人生を丸ごと生きているかのようだった。
「自分の選択を後悔しているのか、若者よ?」
歯を食いしばり、腹部を押さえたまま、タツは額を地面につけて言った。
「な……にが……起きて……るんだ……?」
「過去のお前の選択が、今の未来を形作ったのか、若者よ?」
「違う選択をしていれば、もっと良い未来が待っていたと思うか、若者よ?」
「もし、それが可能だったとしたら、お前はそうするのか、若者よ?」
木の言葉は、風のように頭の中へ押し寄せる記憶と対照をなしていた。奇妙な感覚だった。タツは、自分にとってはまだ起きてすらいないはずの出来事を思い出していた。
「もし変えられるとしたら、お前は何を変える、若者よ?」
「やめ……ろ……」
タツは顔を上げたが、すぐにまたうつむき、額を床に打ち付け、その現実を受け入れられない様子だった。
「本当に何かを変えようというつもりなのか? それとも、この運命に永遠に縛られ続けるつもりか、若者よ?」
「やめて……やめて……」
タツは再び頭を床に打ち付け、その言葉を必死に拒絶しようとした。
「君なら、幸せな人生を送るチャンスもあったかもしれないのに、若者よ。」
「やめて……やめて……やめて……やめて!」
タツは我を忘れ、同じ言葉を何度も繰り返し、床に頭を打ち付け続けた。
「やめて……やめて……やめて……やめて……!」




