2ページ目 — 「星空の夜」
「道のりは険しかった。すべてに気づくまで、私はとても長い時間を要した。もう手遅れだった。」――ロート
太陽は沈みかけており、まもなく月が昇ろうとしていた。もはや姿は見えなくなっていたが、太陽はオレンジ色の光を放ち、その光は一帯に広がっていた。
村の中心部から立ち上る煙は、刻一刻と濃くなっていった。
タツは、まだ傷を負っていたにもかかわらず、立ち上がろうとした。両手のひらを地面につけたが、力を振り絞ることができなかった。
彼は真剣な表情を浮かべた。もう一度試みたが、やはりできなかった。
「なぜだ?」
突然、彼の目の前に緑色の光が現れた。その光は彼自身から発せられているようだったが、そんな考えは彼の頭には微塵も浮かばなかった。彼が本当に考えていたのは、さっきの女性のことだった。
後ろを振り返り、森の広がりを見渡すと、その一帯が深い闇に包まれていることに気づいた。
彼はただ、ゴクリと唾を飲み込んだ……
(ここにいたら……彼女に追いつかれてしまう)
今度は、タツはさらに力を振り絞ろうとした。うまくいっていないようだったが、行動しなければならない理由が、さらなる力を与えてくれていた。
(急がなきゃ……)
そう思いながら、タツは立ち上がった。まだ少し震えていたが、なんとか立ち上がることができた。
さっきの緑色の光を探したが、その気配はなかった。彼はただため息をついた。
(わかった……そういうことか)
彼の視線は目の前の村に向けられていた。月明かりが辺りを照らし始めており、日が暮れるのも間近だった。
彼は二軒の家のすぐ後ろにいた。その家々は質素な木造家屋で、周囲には樽がいくつか散らばっていた。
そこで、痛む足を引きずりながら、彼はゆっくりと前進し、路地を抜け、村の方へと向かった。
少し怪我をしており、一歩踏み出すたびに鋭い痛みを感じていたため、彼は家の一つに寄りかかりながら歩いていた。
一歩踏み出すたびに、オレンジ色の光はますます強くなっていった。彼の服は少し汚れており、顔にはいくつかの傷があった。
ようやく路地を出て村に入ると、村の真ん中に巨大な焚き火が見えた。その周りでは、一人で、あるいは二人一組で踊っている人々がいた。皆、タツと同じような服を着ていた。会話を楽しんでいる人もいれば、星空を眺めている人もいた。焚き火の周りには、彼が今まで見たことのない料理を売る屋台が並んでいた。すると、瞬く間に空が色とりどりに輝き始め、まるで花火のようだった。それはとても美しかった。タツはその光景に魅了され、目を輝かせながら、ただ呆然と立ち尽くしていた。
アコースティックギターのような優しい音楽が空気に漂う中、笑顔を浮かべた子供たちが彼の前を走り抜けていった。女の子も男の子もいた。
子供たちが通り過ぎた後、タツはさらに数歩進んだ。
歩いている間も、その音楽は耳に届いていた。まるで、大切な人たちと一緒に花咲く野原に横たわり、笑いながらその瞬間を楽しんでいるかのようだった……
焚き火に近づくにつれ、彼は友人たちのことを思い出した。一人、また一人と。
「行こう、タツ。頑張れ」
ハルキのシルエットがそう言った。
「本当にこれ、やらなきゃいけないの?」
ダイキのシルエットがそう言った。
「いつからそんなに詳しくなったんだ?」
ユナのシルエットがそう言った。
「ここを俺たちの隠れ家にしよう、タツ……」
ヒナのシルエットがそう言った。
タツは右手のひらを焚き火へ向け、左手を太ももの上に置いた。
「どこに……」
炎の熱は心地よく、途切れることなく続いていた。炎から放たれる光は強く、揺らめいている。
「みんな、どこにいるの?」
突然、誰かに背中を軽く押され、タツは少しよろめいた。
倒れながら振り返り、地面に手をついたあと、その場に座り込んだ。視線の先には、短い髪のシルエットがあった。
その人物も、タツと似たような服を着ていた。
「うわっ……ごめん、サトゥ」
その人影が身をかがめたとき、その顔がはっきりと見えた。
その少年は、わずかに緑がかった髪と、同じ色の瞳をしていた。髪は短く、何らかのヘアクリップをつけていた。
少年は腕を伸ばした。
彼は微笑んでいたが、その表情にはどこか落ち着かない様子が漂っていた。
しかし……手を差し伸べる緑髪緑眼の少年の姿に、タツはさっきの女性の姿を重ねてしまった。狂気じみた表情で、彼女は満面の笑みを浮かべていた。タツの視線は少年と女性の間を行き来した。周囲の空気が凍りつき、闇がその場を覆い始め……
「い…い…いや…」
タツは震え、その目はかつてないほど見開かれていた。
世界が縮んでいくようで、少年はどんどん大きくなっていくように見えた……
「い…いや…」
彼は地面を這い、なんとか立ち上がると走り出した。その間ずっと、叫び続けていた。
走りながら後ろを振り返ると、無数の怪物が自分を見つめているのが見えた。声は聞こえなくなり、音楽は物悲しい調子を帯びていった。
「え…?」
少年は口を開けたまま、遠くへ走り去るタツをじっと見つめていた。状況をよく理解できないまま、周りを見回すと、焚き火の周りにいた人々が皆、タツをじっと見つめているのが見えた。そこで、彼は皆に向かって叫んだ。
「おい、みんな!心配しなくていいよ!サトゥは大丈夫、ただ練習しすぎただけ、えっと……えっと……」
引きつった笑みを浮かべながら、彼は目を閉じ、両手をあちこちへ振り始めた。
「サトゥに一体何が起きたんだろう?」
「たぶん疲れだろうね。」
何人かが小声で話していた。
「頭がおかしくなったんだろう。」
「あんな父親だったら、誰だってそうなるよ。」
「声を小さくして、聞かれたらまずいよ。」
「聞かれたっていいじゃないか!」
緑髪の少年はため息をついた。そして、背筋を伸ばし、タツが走り去った方向を見つめ、心配そうな表情で言った。
「台無しにしないでくれ、サトゥ……」
***** この流れは、時間が経つにつれて、だんだんと明確になり、理解しやすくなっていきます。今のところ、「サトゥ」と聞いたら、たとえその人たちがタツのことを知らなくても、タツのことを指しているのだと覚えておいてください。*****
周囲の人々は、またそれぞれの行動に戻っていった。
タツは必死に走っていた。焚き火から少し離れた路地に着くと、そこなら隠れられると思った。そこには丸太がいくつかあり、斧が地面に突き刺さっていた。丸太の山の横には、何かが詰まっているような袋がいくつかあった。片側は暗闇、もう片側はかすかな明かり。そこはふさわしい場所、いや、完璧な場所だった――少なくとも彼にとっては。
立ち止まると、彼は後ろを振り返った。誰も追ってこないのを見て、ほっとした。そして、丸太の山に近づき、そこに身を縮めるように座り、身を隠した。
膝を立て、その上に腕を乗せ、頭をわずかに下げていた。彼の眼差しには、嵐のような混乱が浮かんでいた。――この状況でどこへ行き、何をすべきか、彼にはさっぱり見当がつかなかった。
風は弱く、ゆっくりと吹いていたが、彼の髪をわずかに揺らすには十分だった。
「サトゥ?」
大人の男の声がタツの耳に響いた。
「ここで何してるんだ? パーティーで楽しんでるはずじゃなかったのか?」
タツは声の方へ顔を上げた。そしてすぐに、自分に話しかけているのが男だと気づいた。だが、なぜ「サトゥ」と呼んだのだろう?
「誰だ……」
その男は作業用オーバーオールを着ていた。白く、所々に汚れがついていた。特に手には、工具を扱ってきた跡が残っていた。体は少し汗ばんでいた。
「ああ……」
すると、男はため息をつき、両手を腰に当てて言った。
「まさか、またこっそり練習していたんじゃないだろうな?」
続いて、タツを指差し、非難めいた口調で、少し興奮気味に言った。
「その姿や服装も、こんな状態じゃ……」
「お父さんがまた怒るぞ……」
――「お父さん」……奇妙な感覚だった。何しろ、その言葉を聞くのはもう何年ぶりだった。タツはそれを忘れたいと思っていたが、ほんの一瞬、和解したいという気持ちが湧き上がった。とはいえ、夜遅くまで練習していたら父に叱られると聞くと、やはりどこか不安な気持ちになった。
「ほら、かなり疲れているようだから。じゃあ、家まで送ってあげるよ。」
男は歩き出した。おそらく、タツが後をついてくることを期待していたのだろう。
「着いたら、風呂に入っておけ。」
タツはこれまで以上に混乱していた。悪魔、魔法、サトゥ、父……すべてが奇妙だった。今、一体何が起きているのか? そのことだけが頭から離れなかった。友人たちへの心配さえ、少なくともその瞬間は、消え去っていた。
彼が座ったまま壁を見つめていると、薄暗がりの中から男が叫んだ。
「サトゥ、来ないのか?」
――「誰を信じればいいんだ?」――その考えが、数秒間彼の頭をよぎった。あの女性との経験は、決して良いものではなかった。
「時間はあまりないんだ。明日テストがあるのは知ってるだろ? 休まないと、痛い目を見るぞ!」
男はもう一度叫んだが、それは叱責というよりは、警告のように聞こえた。
揺らめく焚き火の煙を横目に、タツは立ち上がった。立ち上がるや否や、鋭い痛みが脚を走った――片目を閉じ、歯を食いしばりながら、彼は左手を脚に当てた。
男は腕を組んでその光景を見守っていた。
タツはようやく立ち上がると、家々に寄りかかりながら男の後をついていった。
二人は並んで歩いていたが、それほど近くにいるにもかかわらず、二人とも何も話さなかった。タツには言うべきことがなかった。ただ、混乱した眼差しで地面を見つめ続け、頭の中では思考が絶え間なく巡っていた。一方、男はタツが何か言うのを待っているようだった。しかし、彼は諦めたかのように口を開いた。
「おい、サトゥ」
彼は前を見据えたまま、歩き続けた。
――「サトゥ」。タツは、これからはそう呼ばれることになるのだと、すでに気づいていた。――「あの人たちは、その『サトゥ』を知っているようで、僕を彼と間違えている。僕が彼になりすますのは正しくない。でも……なんで彼らは僕を『サトゥ』だと思っているんだろう?」――そう彼は考えていた。
そして、それまで戸惑っていた視線を、その男に向けた。
「君がアカデミーに入学するために、すごく頑張っているのは知っている。そして、君ならきっと合格する、みんな、特に君のお母さんは、この過酷な訓練のせいでとても心配しているんだ。君も知っているだろうが、お母さんは心臓に持病がある。もし君がいつも遅く帰ってきたら、万が一何かあったらどうなるんだ?」
「失礼なことを言うつもりはないが……もしかすると、君は訓練に集中しすぎて、家族を疎かにしているのかもしれない。もしアカデミーに入学したら、家族と離れて過ごすことになるだろう。」
「ええと……お節介かもしれませんが、君のことが心配なんです。みんなそう思っています。それは、君の才能だけの問題じゃないんだ。」
タツは、その誠実で感情に溢れた言葉を、少し戸惑った様子で聞いていた。男の言うことの多くは理解できなかったが、その言葉の一つひとつが心の底から湧き出ていることは感じ取れた。
「母さん」――会話の途中で、彼はその言葉を聞き逃してしまった。気づきたくなかったのか、それとも単なる偶然だったのか?
二人は家々が立ち並ぶ通りを歩いていた。どの家もよく似ていたが、中には建築様式がわずかに異なり、独自の装飾で際立っているものもあった。
サトゥの家に着くと、男はその家の真前で立ち止まり、タツもその後をついてきたため、同様に立ち止まった。
タツは戸惑いながら男を見つめた。男は家を見つめていた。
「明日は、君がこの村で過ごす最後の日になる。君が卒業するまでは、もう会えないだろうね。」
「君がいなくなったら、お母さんはどうするんだ?」
男は軽く笑った。
「何しろ、君のお母さんはいつも君を甘やかしているからね。」
男はタツを見つめ、返事を待った。しかし、返ってきたのは沈黙だけだった。
「でも、子供の頃に僕たち全員に約束したことを忘れないでくれ。」
「わかったか?」
男はタツに手を差し出し、握手を求めた。
「約束だよね?」
その言葉は興味をそそるものだった。男は、これからどうすればいいのかさえ分からないタツに、その約束を求めていたのだ。
そこで、数え切れないほどの物語を秘めているに違いない、傷つき、すり減ったその手を見つめながら、タツはその手を握り返した。
「約束だ……」
「よし!」
男は微笑むと、家とは反対の方向へと歩き始めた。
「またね、サトゥ。」
別れの合図として右手を振ると、彼は歩き続けた。
――「約束する」……そう言うのは正しかったのだろうか? 彼はそう考えていた。しかし、その考えは、目の前に広がった光景によって遮られた。
彼は、これまで一度も見たことのない家に入り、何らかの理由で自分を知っている、見知らぬ人々と出会うことになった。
村の中心部から聞こえてきた音楽は、すでにこもった、かすかな音になっていた。煙も、もはやそれほど濃くはなかった。そして火は、そこからでは見えなかったものの、おそらく消えかけていたのだろう。
タツは傷ついた手をドアノブへと伸ばした。
「どう振る舞えばいい? どうすればいい? 彼らの名前は……」。その瞬間、そうした考えが頭の中を駆け巡ったが、いくら考えても答えは見つからなかった。
(すべては瞬く間に起きた……どうやってここまで来たのか分からないが、たとえ知っていたとしても、同じことをしていただろう……たぶん。でも、今なら、何が起きているのか理解できた気がする。)
タツはベッドに横たわっていた。薄いシーツがかけられていたが、体を温めるには十分だった。部屋は窓から差し込む月明かりに照らされていた。カーテンがなかったため、彼はその光の下で眠らざるを得なかった。部屋は質素で、クローゼットを開けていなかったため、中に何か「特別な」ものがあるかどうかは分からなかった。しかし、特に何かがあるようにも見えなかった。
タツは月を見つめた。月の傍らでは、無数の星が一緒に輝いていた。
(変だけど、これはきっとただの夢なんだろう……)
「みんな……」
彼は小さな声で呟いた。
「わかってる……目が覚めたら……柔らかくて温かいベッドに横たわっているんだ、わかってる……」
「窓が大きい……海が見える……」
彼の目は潤んでいた。
「みんなで一緒にビーチに行こうよ、みんな……買い物したり、映画を見たり……最高に美味しいものを食べたり……」
「わかってる……そうなるってわかってる……」
話し始めたとき、彼は気づかないうちに涙がこぼれていた。大人の男が泣くなんて、なんて滑稽なんだ。ユナならきっとそう言うだろう。ヒナは彼を慰めようとするだろう。ハルキは冗談を言ったり、おじいちゃんの話をしたりして、彼を元気づけようとするだろう。ダイキはきっと、彼のためにすごく美味しいものを買ってくれるに違いない……
彼は右腕で目を覆い、鼻をすすりながら、体が軽くなっていくのを感じた。
風は強く、暖かかった。
タツは目を開けた。目の前には、星が散りばめられた空が広がり、月が空高く浮かんでいた。
立ち上がるのに何の支障もなかった。手を見ると、まだ仕事による傷や跡が残っていたが、痛みは感じなかった。足も同様だった。
「えっ?」
そこで、周囲を見回してみることにした。気がつくと、村の焚き火の真前にいた。
「な…ぜ?」
奇妙なことに、背筋に寒気が走った。耐え難いほどだった。
「助……けて……」
背後から女性の声が聞こえた。振り返ると、それまで困惑していた表情が、目を大きく見開き、口を開けた恐怖の表情へと変わった。
そこには、ついさっきまでその少年と遊んでいたあの小さな少女がいた。彼女は地面に倒れ込み、上半身は引き裂かれ、血がまるで水のように地面を流れ落ちていた。内臓が露わになっていた……横を見ると、先ほどまでの少年の服を着た首のない死体が、何かの鉄の棒に吊るされていた……
「お…お願い…」
突然、少女が破裂し、体に残っていた血がタツの顔に噴き出した。
まだ恐怖に震えながら、彼はさらに数歩後退し、振り返ると、焚き火はもうそこにはなかった。その場所には、不気味な闇が滲み出る巨大な穴が開いていた。
彼は悲鳴を上げ、這うようにして来た道を引き返した。
息は荒かった。
這い進むために右手を伸ばしたとき、何かがその手を踏みつけた。その瞬間、手は引き裂かれた。
彼は再び悲鳴を上げ、出血を止めるために、傷ついた手を胸に押し当て、もう一方の手でそれを押さえた。何が自分の手を踏みつけたのかを確かめようと覗き込むと、そこにはさっきの女性とよく似た人影があった。
耳にはただ一つの音が響いていた。笑い声――邪悪で、苦痛と殺意に満ちた笑い声……
タツは絶望の淵に立っていた……そして、まるで無意識の行動であるかのように……目を閉じた。
すべてが過ぎ去り、これがすべて、ただの夢の一部であってほしいと願いながら、彼は待ち続けた……
「タツ?」
女性の声が響いた。
彼にはその声が誰のものなのか分かった。間違いなくヒナの声だった。そう思った瞬間、閉じたときと同じように、今度もまた無意識のうちに目を開けた。
そこにはヒナと、他の三人がいた。周囲は真っ白だった。そして、四人は心配そうにタツを見つめていた。
まだ息を切らしながら、彼は安堵の笑みを浮かべた。全身は汗でびっしょりだったが、右腕はまだ半分ほどしか戻っていなかった……
「大丈夫か、タツ?」
「こっちへおいで。」
一見、それは完璧に見える光景だった。しかし、タツはその光景に何か違和感を覚えた。それは、さっきのあの女性のことを再び思い出させた。あの女性もまた、ヒナがしたのと同じように、彼に手を差し伸べていたのだ。
すると、その笑顔は消え、虚ろな眼差しに変わった。
「どうしたの、タツ?」
「何かあったの……?」
ヒナがさらに近づこうとしたその瞬間、突風が彼女を貫き、無数の破片へと引き裂いた。
タツは、まだ驚きを隠しきれずに身を乗り出した。そして叫び始めた。
「だめ…だめ…!」
叫びながら仲間たちの元へ駆け寄ろうとしたが、彼らもまた同じように切り裂かれていった。
彼の目からは、涙と憎しみが溢れ出していた。
「やめて…!」
息を切らしながら、タツはベッドに横たわったまま目を覚まし、慌てて前かがみになって再び座り直した。
目の前を見つめると、そこは自分の部屋だった……
「な……何……?」
そして、右腕に目をやると、無傷であることに気づいた。手を握ろうとしたが、少しこわばっていて、そうすると軽い痛みを感じた。
「なるほど……」
彼の視線は隣の窓へと向かった。そこには、星々に囲まれた月が見えた。
彼は数秒間、月をじっと見つめた。月は白く、彼の記憶に残っている月とは少し違っていた。それは、彼が恐れていたことをさらに裏付けるものだった。
ベッドから降りると、シーツを前に押しやり、素足で床に触れた瞬間、一瞬の冷たさを感じた。しかし、寝室のドアに近づくにつれて、足の冷たさは消えていった。
ドアを開けると、廊下が目の前に広がっていた。以前の家とよく似ていた。そこにも同じように3つの寝室があり、そのうち2つにはシングルベッドが、1つにはダブルベッドが置かれていた。廊下のドアの一つを見つめながら、彼はこの家に迎えられた時のことを思い出した。
《《—彼が家のドアを開けると、明るく照らされた部屋が目に飛び込んできた。少し年上で、繊細で若々しい顔立ちの女性が、テーブルの周りに並べられた椅子のひとつに座っていた。彼女はロザリオのようなものを手にしていた。ドアが開く音を聞くと、彼女はロザリオをテーブルの上に置き、心配そうな眼差しで少年を見つめた。一方、少年は驚いた。何しろ、外ではパーティーが開かれていたため、中に誰かがいるとは思いもよらなかったからだ。
「サトゥ!」
彼女は素早く椅子から立ち上がり、タツを力強く抱きしめた。
「ああ……私の息子……二度とそんなことしないで、絶対に……」
彼女の目から涙がこぼれ、体はわずかに震えていた。
――その瞬間、タツはあの男が自分に言った言葉を思い出した。彼は気づいていなかったが、その男はサトゥの母親について何か言及していたのだ。ただ、タツにはそれが具体的に何だったのか、はっきりと思い出せなかった。
「サトゥ!」
突然、廊下から一人の男が現れた。怒りを露わにした表情で、彼はタツに向かって猛然と迫ってきた。
一方、タツはまだその女性の腕の中にいたため、どうすべきか考える暇さえなかった。そのため、彼はその場に立ち尽くし、これから何が起こるのか見守っていた。
しかし、男はタツの目の前で立ち止まり、依然として怒りを露わにした顔で言った。
「サトゥ! なぜそんなことをしたんだ? 君がそういうことをすると、僕たちは心配になるんだ。特に君のお母さんは……」
女性はタツを抱きしめるのをやめ、彼の横に立ち、涙を拭っていた。
「アカデミーに入りたいと強く願っているのは分かっている。私たちみんなもそう願っている。でも、だからといって、お母さんをそんな風に扱う言い訳にはならないわ。」
突然、男は心配そうな表情を浮かべ、腕を組んで床を見つめながら言った。
「明日は、この村での最後の日になる。君はこれから長い間、ここから離れて過ごすことになる。」
そして、口を開けたまま立ち尽くしていたタツに視線を戻した。
「君は一日も休むことなく、ひたすら訓練を続けてきた。」
まるでタツがずっとそう感じていたかのように、男は彼を抱きしめ、母親も同様に抱きしめた。
「私たちは本当に、君のことを誇りに思っているよ……みんなね。きっと試験に合格できると信じている。そして、合格したら、あの馬鹿げた約束を果たせるね。」
「明日、もし合格したら、プレゼントをあげるよ。覚えてる? 子供の頃、君が私にそう頼んだよね?」
そう言うと、男は微笑み、目に涙を浮かべながら、タツをさらに強く抱きしめた。》》
そのことを思い出し、タツはドアから視線を外し、再び家の出口へと歩き出した。
ゆっくりとした足取りでドアまでたどり着き、それを開けると、強い風が彼の髪を揺らした。それは、夜と同じように冷たく、穏やかだった。一歩外へ出ると、彼は静かにドアを閉めた。
軽やかな足取りで、彼は村の通りを歩いていた。さっきまで着ていた浴衣はすでに脱いでいた。今はもっと暖かい服を着ていた。
通りは完全な静寂に包まれていた。焚き火の炎はすでに消えていたが、その場所はまだ温かかった。おそらく、まだ残っている火のせいだろう。
心地よさそうな場所――ある家の庭にたどり着くと、そこには色とりどりの花が咲き誇っていた。月明かりが弱かったため、どの花も区別がつかなかったが、彼はその花の上に横たわった。
夜空の星々を眺めながら。星々は透き通った水のように輝いていた。
(これが夢じゃないなら……なぜみんな私のことを知っているんだ?)
(変だな……)
タツは星に手が届くように手を伸ばそうとしていた。星は遠くにあったが、自分は何も知らないのだから、もしかすると届くかもしれない。
「私は毎日そうしているのよ」
子供のような女性の声が、彼の耳元で響いた。振り返ったタツは、少し前かがみになり、驚きと戸惑いが混じった表情で彼女を見つめた。
彼女は子供の体つきで、銀色の髪をしていた。その瞳は水のように青く、肌は月のように白かった。
「えっと、いつも星を見上げているの?」
「あそこの星が好きなんだ。」
少女は一つの星を指さしたが、タツが再び空を見上げても、それがどの星なのか見分けがつかなかった。彼には、どの星も同じように見えたのだ。
「どういうこと……?」
タツは尋ねた。
「ただ、適当に一つの星を指さしただけだよ。」
「星なんて、結局のところ特別なものじゃないんだね。」
「実は、どれもみんな同じなの。でも、それを特別にする何かがあるの。」
「私が指さしたあの星は、私が見た瞬間に特別なものになったの。」
「ただの星の一つではなくて、私のお気に入りの星になったの。わかる?」
「わからない……」
「大丈夫、いつか分かるよ。」
彼女は口元に笑みを浮かべて話していた。動揺している様子も、何かを心配している様子もなかった。それはタツとは正反対だった。
「星を本当に好きな人に出会えるなんて、思ってもみなかった。」
「あなたが初めてだった……だから……」
彼女は少し顔を赤らめた……
「あなたの名前を教えてもらえますか?」
そう言うと、彼女は視線をそらした。
みんなはタツのことを「サトゥ」として知っている。彼が「タツ」だった頃は、ひどく冷たく扱われていた。「サトゥ」のときは、優しく接してくれる……
「私の……名前は……」
「え……?」
「……サトゥ」
これから何が起こるのかまだ怖くて、タツは喉をゴクリと鳴らした。
「わあ……なんて素敵な名前なんだ、サトゥ……」
彼女はまだ少し顔を赤らめたまま、そう言った……
すると、彼女は立ち上がり、タツには何も聞こえなかったにもかかわらず、こう言った。
「サトゥ、誰かが私を呼んでいるみたい。また別の場所で、別の日に会いましょう……」
彼女は別れを告げるために背を向けたが、すぐに立ち止まり、彼の方を振り返った。
「あ……言い忘れるところだった。私の名前は……」
「ステラ」
彼女は最後にもう一度だけ微笑むと、闇の中に消えていった。
彼は、いつものように、その光景を呆然と見つめていた。
(あれ……一体、何だったんだ?)
今起こったことを理解しようとしつつ、彼は立ち上がって家路についた。
(ただ疲れているだけなんだろう……)
彼はもう一度拳を握りしめてみた。しかし今回は、何の支障もなく握ることができた。まるで傷が治ったかのようだった。傷跡は残っていたが、痛みは全く感じられなかった。足も同様で、庭に着くまでは痛かったが、今は羽のように軽かった。
タツはただそれを受け入れた。彼には、それを疑っている余裕などなかった。
家に着くと、できるだけ音を立てないようにドアを開けた。それから自分の部屋へ行き、ベッドに横になり、最後に、もう一度星を見上げた。
(特別…?)
そうして目を閉じ、すぐにまた開けた。今は昼間で、鳥たちがさえずっていた。
窓から差し込む光が部屋を照らしていた。タツは、眠りについた時とは異なる姿勢で目を覚ました。おそらく、寝ている間に少し体を動かしたのだろう。
彼は起き上がり、窓の外を眺め、これが夢ではないことを改めて確信した。子供たちがあちこちを駆け回り、焚き火の残り火があり、木造の家々が並んでいた。その村は、今もそこにあった。




