【#5】投げ銭をもらってみた
クエスト:眷属の生活を充足させよ
クエスト報酬:キッチン拡張
「え、クエスト……? なになに? 3時間以内に眷属の環境を改善し生活を安定させろ? いや、フワっとしてんな。げっ、ペナルティあるのかよ。1週間の獲得ポイント制限?! このタイミングで出たって事は衛生周りだよな。確か部屋の機能拡張とかがあるんだっけ? どれどれ」
シャワールーム 2000pt
マジか。まぁでも40粗悪パンと考えたら安いのか。まじで基準分からんなコレ。今の手持ちが250。あと35粗悪パン。……高いな普通に。いや安いか。まぁいい。とりあえずダンジョンデバイスは保留か? 本当は買わなきゃいけないんだろうがこっちが優先だな。
「んん! レオ君や。壮大なるダンジョンからクエストが出ましたよ」
「なんだよ急にまた変なしゃべり方して。そんな事より悠真やっぱ臭いよ」
ぐぬ……このクソガキ一応ポイントの利用に関わるから相談しようと思ったのに。子供の扱いは難しいな。
「ごほん。まぁそれはさておきクエストがでました。その匂いにも関わる事であと3時間弱で1750ptが必要となりました」
「えぇ!? またダンジョンに行くのか。時間も少ないね。分かったよ」
神妙な表情のレオを眺めながらポチポチとノーパソを操作する。よし。とおもむろに立ち上がり初心者セットが現れたのと同じ箱の前に歩いていく。
「これで必要ポイントは2000になりました!」
ジャーンと箱に入ったそれをレオに見せびらかすように俺は告げる。先ほどまでパソコンの端に表示されていた250ptきっかり。
「えぇ! なんで?! なんでそんな事するんだよ!」
「お黙りなさい。これは投資です。稼ぐための」
ダンジョンデバイスは諦めた。しかし先ほどの戦闘を経験し、もっと安全に3時間いっぱいを使って稼ぐにはどうしたらいいか俺は考えた。そう盾である。身長の半分程ある大きめのオーバルシールドである。ギリギリ250ptで購入できた。
「クエストで必要なポイントは2000pt、そしてこれを購入してしまったので今日のごはんもありません! この盾で俺が攻撃を受けて敵の注意を引くからその隙にレオが敵を倒す作戦だ。マジで色んな意味でお前にかかっている」
「な、なるほど……そこまで考えて。ごめん悠真、俺悠真の事誤解してたかも」
いや、このショタの考えている通り俺は何も考えていない。
強いて言えば、この人気ショタを活躍させるしか活路が無いと思ったのだ。
このダンジョンでは敵を倒す方の成長もあるらしいがステータスが見られない俺たちにはさっぱりだ。そんな物に期待するより今の視聴者に媚びる作戦がいいだろう。
俺だって業腹である。全然ありえないから。極振りだとか、アーティファクトだとかそういうの無しに主人公が前衛タンクするの。数時間前までスマホみてゲタゲタ笑ってた運動不足無職のチャレンジにしては荷が重い。
てか主人公じゃないとしても主人に盾持たせるの全然意味わからない。が、今の俺には2000ptを一気に稼ぐのは難しい。
ポイントがどういうロジックで入っているのか分からないし、今視聴者って何人いんの? って感じだが、とにかく継戦能力を高くするしかできる事がないという判断だ。あれ、意外と俺考えてるじゃん。
「うむ、レオよ。ここからは激しい戦いになる。心して付いてくるように」
「俺、悠真のキャラがよくわからないよ」
バカタレ。分からないようにする照れ臭さが俺の本質なんだよ。避けて透かして茶化してチョケて。そういうのを見せたら恥ずかしいって思っている恥ずかしいヤツなんだ。言わせんな。
——直後、ダンジョン——
「はいどーも。というワケで数時間ぶりの配信です! 申し訳ないですな、一日に何度も。これも最初の検証に付きまとう足掻き。試行錯誤の証拠だと思って楽しんで頂ければと思います!」
『いや、ほんとに何分置きに配信すんだよ』
『何がお前をそうさせるんだ』
『少しづつお前の胡散臭さが癖になってきた気がする』
ちっ、好き勝手言いやがって。この反応からすると他のプレイヤーはそう何度も配信はしていないのか。それともまだダンジョンに出ていないヤツとかもいるのか……? いかんいかん。人様の事を気にしているほど我が家は裕福ではないのだ。
ごはんも食べられないひもじいショタと異臭のする無職の共同生活。そりゃクエストの一本くらい生える字面だ。俺がモンスターとして攻略されるようなクエストじゃなかったのが救いだぜ。
「今回はね! この大きな盾で攻略してみたいとおもいまーす!」
『えー! なんでレオきゅんの装備じゃないの?』
『女子には分かりづらいだろうが、悠真がモンスターを抑えるタンクって役割をするんだろ』
『なるほどね。しっかり守りなさいよー!』
なんだこのゴーレム独り言言って。気持ち悪い。何人が見ているんだろう。なんとなくコメントの人格で複数人いる事は感じる。
「よし、レオ。今回もゴーレムはいないものだと思って進もう。モンスターの気配を感じたら言うように」
「わかった! でも盾持ちの悠真が先を歩かなくていいの?」
「お前の索敵能力なら結構手前から分かるだろう。検知したら俺が出る作戦にしよう」
何故なら動きづらいからだ。わざわざ俺の後ろをペース合わせて歩かせるのは、微妙な感じがする。いや本当に分からないんだけど。斥候のDPSってなんだよ。まぁあるにはあるのか? などと前までやっていたゲーム達に思いを馳せるが、ダンジョンでの妄想は命取りなのですぐに思いなおす。
しばらく歩くとレオが険しい表情をするので、盾を構えながら隣に立つ。
「いるのか?」
「うん。でも2匹。大丈夫?」
「まぁ攪乱されないよう2匹ともまとめて相手をすれば盾自体は頑丈そうだから大丈夫だろう。コメントの皆も出来たらよく見て助けてほしい」
『俺たちを利用する配信者はまだいなかったな』
『まぁでもこのサイト開いて数時間だし』
『ヒーローショーの応援よりなんつーかリアルでアダルトな感じだな』
「俺たちは命がけなんだ。頼むよ」
『珍しくシリアスじゃん。あんま信用しすぎんなよ』
あんま信用しすぎんな。荒らしや嘘コメントの事を言っているのだろう。俺が元々そっち側にいた人間だと分かっている助言だ。「当たり前だ」と言いながら盾を構えて前進する。
グギャギャ! グギィ!
そろそろ聞きなれたが、それでも耳障りなゴブリンの声が聞こえる。
本当に二匹いるようだ。俺はレオを庇うように背中に隠しながら、自身も盾の後ろ側に隠れる。
その瞬間、ビュッという風きり音が聞こえて頭のあった箇所を何かが抜けて行った。
カツンと壁に当たって落下したそれは、弓矢だった。
『おい! 片方は弓を持ってるぞ! 初めて見たな』
空中をふよふよ浮くゴーレムから少し遅れてコメントの叫びが聞こえる。
タイピングのラグなのか配信と視聴のラグなのか、今後はあまりアテにしない方がよさそうだ。ズルは出来ないってワケね。
やはり盾を購入しておいてよかった。ジリジリと距離を詰めて俺でも盾の向こう側に何かの気配を感じる距離まで迫った。
ガインッ。
盾に重たい衝撃。来ることは予想できたのでひるまない。
「レオ、俺はこん棒の方を短剣でけん制して、盾で弓の射線を切る。こん棒の方を先にやれるか?」
「あぁ! わかった」
俺はガンッと盾でこん棒の衝撃を跳ね飛ばして、すかさず弓持ちの方向に盾を構え急所を隠す。
ゲームとかをやりこんでいる分戦い方のアイディアは出るんだが、身体が動くかは別だ。
不格好に片方の手でもった短剣を振り、こん棒持ちをけん制する。
「悠真いくよ!」
「行け! レオ」
その隙に俺の盾の持ち手とは逆側からレオが踊りだし、こん棒持ちにストレートを放つ。弓持ちの射線を意識しながら場所取りをしつつ、こん棒持ちが消滅するのを油断なく見届ける。
「あとは弓持ちだ。距離は……残り3歩って所か」
先ほどからヒュッヒュッと飛来する弓の距離や音などの気配から距離を予想する。射撃の合間を見極めて盾から覗き見る。体当たりでもかましてみるか……。
「悠真! 伏せて!」
ん? レオの叫びを聞き咄嗟に身をかがめる。なんだ? と思った瞬間ビュオッとゴブリンの弓なんか比較にならない風きり音が頭上を横切った。
瞬間、ドガァンという衝撃と、ピキパキという夏場に氷をたっぷり入れたグラスに麦茶を注いだような音が聞こえた。
恐る恐る視線を上げると、大きなーー成人男性の胴体ほどの直径があろう氷柱がゴブリンに刺さっていた。
『ま、魔法……』
『ウッソだろ』
『他の配信でもまだ見てないわ』
————
——
それから俺たちは、再び陣形を整えダンジョンを歩いていた。継戦能力がどうとか御託抜かしたしな。先ほどの大サプライズでめちゃくちゃ注目は浴びただろうが、念のためである。
あれから何回か戦闘が発生したが、俺の盾なんか無駄だって言うように、あるいは視聴者に褒められて調子にのったレオが接敵次第、氷柱をぶち込んで終わり。
輝かしいレオきゅんの配信に映りこむ重たい鉄の塊をもったおじさんが俺である。
「最初に魔法がどうとか言ってたもんな」
「初めての戦闘では見せられなかったもんね。オレもさっき使い方を思い出した感覚があったんだ」
はははと笑顔を浮かべながらレオは言う。どうやら魔法を撃つ事でそんなに目に見えた負担は無さそうである。少なくとも表面的には。
「あれってなんかコストとか、詠唱とかないのか?」
「詠唱? は何の事か分からないけどムンッてやったら出たよ! コスト? も分かんないや! 10回くらいは連続で出せそう」
「要検証だな」
子供故なのか、単にレオが感覚派なのか一つも情報が増えていない。
「はぁ~そろそろ帰るか。ポイントも溜まっただろきっと」
『ポイント? 視聴ポイントの事か?』
「あぁ……あっ、いや、はい! そうなんです! 私たちクエストなるものを課されてまして」
アブね。戦闘中ならまだしも媚び口調忘れてた。俺はゴーレムにクエストの事、ポイントの事、そしてレオにはまだ飯も食わせられてない事を説明した。
『おいそんな事になってたのかよ。確かVPって俺らの投げ銭でも溜まるんだよな?』
『そうなの?! このボタンね。レオきゅん! これお姉さんからのお小遣い』
『俺も少ないけど投げておくわ。これから頑張れよ』
『他の魔法も見てみたい!』
「え、あっ、ありがとうございます! ほらレオも」
「ありがとう皆!」
『悠真も、無理にそんな媚びた口調じゃなくていいからな。お前も頑張れ』
そんなコメントに添えられてた投げ銭。鼻の奥にツンとした感覚がこみ上げる。
ダメだ。こんな所で感情を見せちゃ。陽気に芯をズラしてつかみどころなく。
「礼を言おうオタクたち。今回はウチのレオが大活躍で魔法なんぞぶっ放したが、次も君たちを驚かせる事を約束する。それが私からのささやかな魔法」
ちゅっとゴーレムのカメラにキスをして配信の電源ボタンを落とす。最後に金返せだの阿鼻叫喚が聞こえたが無視だ。なるほど、そういう奴もいるのか。
「なんか楽しくなってきたなレオ」
「オレは腹減ったよ……」
「そういや召喚してこっちなんも食わせてなかったな。帰ったらなんか食えるくらいポイント溜まってるといいな」
「食事、記憶には無いからたのしみだ!」
大きな驚きはあったものの、俺たち主従が少しだけ仲良くなれた初日なのであった。早く帰ってクエスト達成の条件を満たそう。




