【#3】掲示板を見て眷属を召喚してみた
ゴブリンが光になって消えた後、ダンジョンの壁を背にして俺はしばらく動けなかった。
まだ手が震えている。
「……マジか」
床に落ちた配信用ゴーレムをふと眺める。俺は少し前まであっち側だった。アイツらにとってはいつもの娯楽とそう大して変わらないんだろう。
「俺、生き物殺したのか。肉を食うとか魚を釣るとかそういうんじゃなくて……
まぁ、やらなきゃ死んでたのか。眷属召喚欲しいもんな!」
軽口で押し流す。いつものやつだ。んま、考えるのは後回しにしますか。そう決めて落ちていたゴーレムを拾い、拠点への道を歩いた。
――――1時間前――――
「これが配信用ゴーレムねぇ……金のス〇ッチにしか見えないんだけど?」
卓袱台に置かれたノートパソコンの説明を何度も読み返しながら、足元の箱に入っていた配信用と言われた謎の玉を手に取る。
俺は結構説明書とか読むタイプなのだ。そしてやった気になるタイプでもある。
手元でコロコロとゴーレムを転がしながら眺める。某魔法学校の人気スポーツに出てくるアレにしか見えない。ピンポン玉みたいなボールである。
「まぁ、それはそれとして? VPとはなんぞや、と」
テキストを読み込むが先ほど見た説明以上の事は分からない。それっぽいアイコンに購入だのスキルだの書いてあるのでここから操作するのだろう。どうやら最初に500pt貰えるようだ。
「なるほどねぇ、最初にとりあえず初心者セットっていうのを買っておく事を勧められてるし、買っておくか」
お値段300ptする武器と防具のセット。俺はまだ冒険に出ていない(最初のお試し散歩は除く)ので、安いんだか高いんだか分からんが武器が無い事には始まらんしな。と思いながらクリックして購入。
購入アイコンを開いた瞬間見えたが、パン(粗悪)が50ptだったので、50円のパンだと仮定したら300円の武器である。3C〇INSでは武器とかって売ってただろうか? 知ってたら良し悪し分かるんだが。
「ま、初心者セットって言うくらいだし値段と価値が連動してるわけじゃないか。それより他に情報はっと」
俺は一先ず、売られている商品とスキルをザーッと眺めることにしたが、どうやら冒険の進捗によって解放される物が変わるらしい。無駄遣い厳禁ってことか? と眺めているととても馴染み深い文字列が見えた。
掲示板解放 100pt
安い! パン二個分! 本当に安いのか? いやしかし情報大事。ちょっとガチで寂しさで頭おかしくなりそうだったんだよな。そう呟きながらなんのためらいも無く購入ボタンを押下。
「ついでにパンも買っておくか。ちょっと小腹すいたしスキルなんてまだ様子見でしょ」
ポチポチ。箱に出現したパン(粗悪)を齧りながら新たに出現したアイコンから掲示板を開き眺める。
――――
名無しのプレイヤー:231
眷属召喚てスキルが有能。冒険行く前にパン買うやつはアホだぞ。
名無しの視聴者:232
お前らってマジで転移したの?どうせ数人グループの自演
お前らってマジで転移したの?どうせ数人グループの自演
お前らってマジで転移したの?どうせ数人グループの自演
名無しのプレイヤー:233
攻略スレにまで湧いてんのかよ。
名無しのプレイヤー:234
相手にすんな。どうせこいつら俺らと違って大した事書き込めないっぽいから
ところで>>231はなんでそんな眷属召喚推してんだ?
名無しのプレイヤー:235
>>234
まず呼ばれた社会のお荷物たる俺らは戦闘とか出来ない!(断定)だからサポートのモンスターとか出ればいいなって買ったやつがいたんだ。安いし。
そういうのも出てくるんだが、普通に人間みたいな知性あるのをピックしたプレイヤーも出てきて、いまや専スレ立って検証されているってワケ。
ttps://~~
――――
ほう、眷属召喚とな。俺は手に持ったパンを恨めしく眺めながら最後のヒト欠けを口に放り込む。確かにコイツの書き込みは正しい。なぜなら説明テキストの通りならここに呼ばれた俺たちはあっちの世界では役立たず集団なのだから。
にしても掲示板面白いな。久しぶりに他人の文字を見て安心した気がする。
︎︎とりあえずこれ以上追っても眷属召喚のように買えないけど羨ましいスキルが目に留まるだけだ。冒険に行ってみるかー。
235番のリンクを踏んだが、検証スレではエルフだのサキュバスだのを獲得しているプレイヤーもいたのだ。俺はそういうんじゃないが、寂しさを紛らわすにはそういうんもアリだろう。本当にやましい気持ちはない。
急ぐ必要は無いはずなのに、俺は手早く箱に入った初心者セットを身に着け、ゴーレムを手に取ると勢いよく扉をあけ放つのだった。
――――現在――――
「そして現在ってワケ」
拠点へ戻り、卓袱台の脇に武器防具を脱ぎ捨てノーパソを開く。
「実際ゴブリン倒したし配信したし、ちょっとは入っててくれよポイント~~」
カチッカチッ
なんと今回の冒険で手に入れたポイントはきっかり100pt。出かける前に残しておいた50ptと足して150ptになっていた。
「ん? なんだこのアイコン」
新たに出現していた”配信記録”というアイコンをダブルクリックする。パッとウィンドウが開くとそこに表示されていたのはどこぞのムービーメーカーのような画面。
細かく色々と数字などが書かれている。直観的に分かった情報としては、俺の今回の冒険で見ていた人の数だったり、コメントの数などでポイントを獲得しているようだ。要はリザルトだな。
「あーそうか。モンスターを倒した経験値みたいなものはVPとは関係無いんだった」
なるほどね。1匹倒して即帰宅は損だが無理は禁物ってゲームね。とひとりごちながら配信リザルトを興味なさげに今回のメイン目的であるスキル習得ページを展開する。正直眷属召喚どうこうも大事だが、掲示板で有用スキルが判明したのは僥倖だった。地雷とかあったら命に直結するし。
とかなんとか言い訳をしながら早速眷属召喚を取得。残り50pt
「よし早速使ってみるか。豊穣なる双丘に住む森の賢者、母なる台地のさらに母(?)出でよ我が眷属!」
特に呪文はないがやれる事は全てやりたい。それっぽい言葉を並べて我欲を駆り立てつつ手を上げる。どうやらこのスキルは条件付きらしく今は一回しか使えない。えぇい! どうでもいいけど頼みますよ! お母さんエルフ!!!
白い光が部屋を埋める。どうやら発動したようだ。
「お前がオレを呼んだのか?」
ん? オレ?
――少年だ。
光が収まり、そこに立っていたのは白い短髪に赤い瞳をした少年だった。
「ちっ」
これは俺の舌打ちである。いや、まぁいい。そういうパターンもあるよね。物語とかじゃないし? 主人公は自称であって、これは現実だもんネ。はぁ。
まぁ子供の前であまり本人に対する期待関連の表情を張り付けるのは大人として微妙すぎる。キリッ。
「オレの名前はレオンハルト・ディア・アルシオン。ヴァンパイアの王子だ! ん? なんでオレの事をそんなキリっと凛々しい目線でみている?」
しまった。混乱して表情選択ミスったな。まぁこのまま変えるのも変か。で? ヴァンパイアの王子? なんだそれ。設定とか要らんのよな~そうか~そうくるのか~ダンジョン。
「まぁ、いいや、色々。レオ君ね? これからよろしく」
「れ、レオ君?! 無礼すぎない?! 俺はヴァン……」
「あー、いいからそういうの、我が家は身分とかないからさ。んで君ヴァンパイアだっけ? 血とか吸うの?」
手をヒラヒラと振り、レオの言葉を遮り質問する。別に不貞腐れているわけでも萎えているわけでもない。女の子じゃないのはともかく、このテンションの子供と共同生活の可能性があるのだ。聞くべきことは聞いた方がいいだろう。俺は態度と建前を分けられる大人だ。
「いや、分からない。ただ必要じゃなさそうな感じはする。名前と王子って事とヴァンパイアだって事しか覚えてないんだ」
しゅんとしながらレオはそう言った。なんだコイツ。ハツラツショタ子犬吸血鬼?!︎︎冗談じゃない属性盛りやがって。なーにがしゅんだよ。キィー!
「まぁいいだろう。俺がお前の主人、榊悠真様だ! 王族ではないが、まぁそれなりの、食って寝るだけの生活はしていたとだけ言っておこう」
「ここでは身分がないんじゃなかったのか?! まぁいいや悠真…さま? に従う。どっちにしろそういう事になっているらしいし」
なるほど。眷属召喚で”作られた記憶”なのか、どこかから連れてこられた奴が”主人に従うようにさせられているか”……わからんが、俺が主として無茶をさせなければいいだろう。一瞬可哀想になったが、後者だとしてゴブリン一匹でヒィヒィ言っている俺に返す手段ないし。
「悠真でいい。これからよろしく頼む。レオンハルト・ディア・アルシオン」
「名前覚えてたのかよ。レオでいい。こちらこそよろしく」
こうして24歳無職、残金50円とヴァンパイアショタ王子のダンジョン攻略生活が始まったのだった。




