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あの日消えたみんなが配信をしている件 〜集団失踪者のダンジョン攻略、コメントだけが命綱です〜  作者: にぎりウニ


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3/11

【#2】配信をつけてみた

――Side ???――


「おい! 本当につながったぞ!」


 どこかのアパートの一室で、男が興奮した様子でパソコンを操作していた。映し出された画面にはどこにでもあるような配信サイトが表示されている。


『あー、あー、これでいいのか? おーい、見えてますかー』


 デスクの脇に置かれたスピーカーからは、見ている配信の主から発されたどこか緊張感に欠ける間の抜けた声が流れる。


 1月程前から世界中を騒がせている集団失踪事件のニュース、その被害者がとあるサイトで配信をするという情報がリンク付きでネット中を騒がせていたのだ。

 当然様々な公的な機関や組織がこのサイトや情報の出処を調べたが、結局何も分からなかったというのが世界的な見解だった。

 当然何も分からなかった……などという事は発表されていないが、当初は大きな災害が起きたかのような緊張感のある空気だったメディアの反応から一変して、事件に触れないような火消とも取れる誘導が見えるようになってからは、世の中は各国の情報粒度を暗黙的に察していた。

 興味をもったネットの住人や失踪者の親族友人たちは、片や興味関心、片や藁にもすがる思いで情報の真偽を確かめるため日々そのサイトを巡回していたのだ。


「榊悠真? 公けに捜索願いは出てないな……被害者リストは公開されていないし、本当に被害者かわからんな」


 男は「見えてますよ」とコメント欄に文字を打ち込みながらサブモニターに映されたインターネットで調べられる限りの被害者名簿を眺めて言った。

 この男はどうやら好奇心で事件を追いかけているうちの一人のようだ。

︎︎ 実際の人数は分かっていないが、少なくとも数百万人という規模で世界から人間が消失しているのだ。当初各国では事件性の追及を行っていたし、現在も捜査はされている。

︎︎ しかし世界中で同時多発的に発生した事から、超常的な現象という説を世論の多くが抱き始めた頃には、ある種都市伝説やオカルト、陰謀論のようなある種娯楽的で緊張感も人それぞれという空気が流れていた。


『うお! ゴーレムがしゃべった! 見えてますよ? なるほどな。みんなのコメントはコイツがしゃべるのか。なんだかコイツと会話してるみたいだな』


「ほう、そういう仕組みなのか。ゴーレム? 何言ってんだコイツはやっぱり失踪事件を語ったイタズラなのか?」


 はぁ、と溜息をついてモニターに映る若者を眺める。背後に映る景色は何か薄暗い廊下のようになっていて、レンガで出来た壁のようなものが見えるばかりである。ゴーレムとはファンタジーに登場する土だとか鉱石で出来た怪物や人形である。

 画面に映った榊悠真という若者は、それがピンポン玉くらいのサイズの玉をそう呼ぶと説明を受けたんだ、と配信を通して説明をしているが、これじゃあまるでファンタジーを題材に失踪事件を揶揄したイタズラだと男は思った。


『集団失踪の被害者ですか?』


 スピーカーから別の声が聞こえる。内容的に他の人間が入力したコメントなのだろう。


『集団失踪? そっちではそんな事になっているのか……まぁ気づいたらダンジョンに連れて来られて、いや突拍子もない話だろうけどさ。本当なんだよ変な生き物とかもいてさ』


「チクショウ、せっかく面白そうだって張ってたのにこれじゃ出来の悪い与太話だ。結局集団事件を利用して自分の妄想を垂れながしている連中と変わらないってワケだ」


 画面に映った榊悠真という若者が言うには、ダンジョンで自分たちプレイヤーが冒険やクエスト、モンスターの討伐を頑張ったら元居た世界が少し豊かになったりするらしい。――なんだその詰めの甘い設定はと男は考えた。

 ダンジョンにはモンスターがいて、そこで冒険をするとプレイヤーは成長する。配信している理由は分からないが、皆が見たり応援してくれると拠点が豪華になったり装備やスキルが潤沢になる。

︎︎ 最初に用意されたポイントで初心者セットを購入し、装備はなんとかなったが食事などもポイントを必要とするのでとりあえず信じて欲しいという事だった。

 男にとってはまるでゲームのような、とてもじゃないが真剣に聞く気にはなれない話で、少しがっかりした気持ちを露わにしながらも、画面に映された若者が妙にリアルな短剣を見せてくるのを眺めていた。


「まぁ、せっかく張り付いてたんだ。コイツの妙に凝った設定でも眺めながら飯でも食うか」


 男がそう一人ごちながら席を立った瞬間、画面から他の視聴者のコメントであろう声――若者が言うにはゴーレムの声が聞こえた。


『おい! 後ろ! なんかいるぞ!』


『え? 後ろ? うわっ! さっきのゴブリン! いやマジか……でもやらないとだよな。

おい皆! 見ててくれ! アイツと戦ってみるからそれで本当だって信じてくれ』


 そう言いながら、悠真は先ほどまでカメラ越しに見せびらかしてた短剣を構える。

 素人目でも腰が引けていてハラハラする光景だ。そんな真剣な姿や緊張感を見るからに間の抜けてそうな男が演技で出せるのだろうか。食事の支度の事などすっかり忘れて男は画面にかじりついた。


「おい、そんなへっぴり腰じゃやられちまうぞ!」


『はぁ、はぁ、そ、そうだよな。まずは観察だ。当てるより観察……』


 悠真はそう言いながらじりじりと近づいて来るゴブリンを油断なく眺める。お互いに大きく一歩を踏み出せば手が届くような距離で、ゴブリンはこん棒を構えながら慎重にこちらの様子を伺っている。

 

 ダッ!


 焦れたゴブリンが地面を蹴り悠真に迫った。どうやらそこまで素早い動きでもないのか、悠真に焦りは見られるものの、余裕を持って横に避けていた。


『思ったより速くないぞ! ドッチボールのボールくらいの速さだ。これなら油断しなければ避けられる』


『こっちみんな! それは油断だろ。いいから剣を振れ』


 嬉しそうにゴーレムへ視線を向けた悠真に叱咤のコメントが飛んでいるようだ。それにしてもこの若者は緊張感が欠ける、いや、あえてそう現実から目を背けているのか。と男は思った。


『う、うるせぇ! こっち側やってみろって! 緊張で手が震えるんだよ!』


 そう言いながら不格好にヒョイ、ヒョイと本人の言うドッチボールの例えのようにゴブリンの振るうこん棒攻撃を避けていく。

 何発か横跳びを繰り返した頃、ギリと歯をくいしばったかと思うと、意を決したのか避けざまに袈裟切りで剣を振るう。


 ビシャッと血しぶきのような緑の液体が地面に飛んだ瞬間、ゴブリンがサァと光の粒子になって消えた。


『よ、よし……やったぞ。やったぞ!』


 手も膝も震えながら、短剣を杖のように地面について悠真が震えた声で言った。


『gg』

『ナイスー』

『実際手ごたえとかどうなん?』

『グロ注意』


 様々なコメントがゴーレムの声を通して流れていく。男も労いの言葉をコメントとして送ろうとして、ふと手を止めた。あまりにも現実離れしている非常識な光景。画面の向こう側がまるでフィクションかのように。いや、フィクションなのかもしれない。

 しかし、悠真の姿や、演技ではなさそうな真に迫るリアクションを見てこれは本当にどこかで起きた事なんじゃないかと過ってから、軽はずみに、まるでゲーム実況を見るようにコメントを打つ事はできなかった。


「不謹慎てワケじゃないが、こいつは今命が助かったんだよな」


 戦闘をして勝てた。それはゲームであれば簡単に処理される事で、ファンタジーな光景だからというだけではない。今自分たちが画面越しにそれを観察している事がより一層自分の倫理観が試されているようで、自分よりも社会経験も浅そうなその若者の命が今目の前で助かった。その事に安堵している気持ちを自覚した。


「ははっ、最初は面白半分だったのにな」


 そうボヤきながら画面に目を戻すと、悠真も流石にいっぱいいっぱいだったのか『そうだな、ちょっと今日は拠点に帰るわ。色々余裕ないかもしれん』と言いながら配信が切れた。


 気づくと男は手を強く握りしめて、前のめりにモニターを眺めていた。どうやら相当熱くなっていたらしい。結局この配信が集団失踪者によるものなのか分からなかったが、もう少しその不思議なサイト上で付いていた他の配信も見ようと、画面をそのままに忘れていた食事の支度のため再び席をたつのだった。


「まぁ、もう少しだけ観察してやるか」


 そんな独り言がこの日世界のあらゆる場所で聞こえたのだった。


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