【#15】ボスを倒してみた
——Side レオンハルト・ディア・アルシオン——
暖かい。薄れゆく意識の中で感じたのは温もりだった。先ほどまで感じていた骨が砕けたような激しい痛みを忘れるような温かさだった。
「そうだ! 悠真!」
オレは先ほどまでの戦闘を思い出し、身体を起こす。気のせいではなく痛みはもうない。しかし、感覚的にわかる。これは折れた骨が接がれ壊れた内臓を修復した所謂応急的な回復なのだろう。
だが、キングの拘束は解かれこちらに歩みよってくるのが横目に見えた。
「今は悠真だ」
あたりを見回すが自分の主人の姿はない。どこに行ったのだろうか。気持ちが焦るのを感じる。頭に血が上り冷静な判断が難しくなっている。
ドスンドスンと一歩、また一歩とキングが近づいてくるのを感じる。それなりに疲労とダメージが溜まっているのだろうその速度は遅い。
「もしかして、この回復は悠真が?」
真偽はわからない。だが自分の主人がそんなような技を練習していると言っていたような気がする。
「オレがあいつを倒すのか? ……やってやる。やるぞ」
頼れる悠真は何故か居ない。自分の何倍もの大きさを持つモンスターだ。いつもなら悠真が的確な指示と安心できる盾で守ってくれていたが、今はそれもない。
そういえば、ダンジョンを探索するときについてくる変なゴーレムも見当たらない。
独りだ。しかしレオはギリと歯を食いしばり、いつもより小ぶりな、しかし複数の氷柱を形成しキングに放つ。
「くらえ!」
ガガガと雹のように数多の氷柱がキングを襲う。キングはそれを鬱陶しそうに払うと駆けだした。目的は先ほど自分の近くに落ちていたこん棒だろう。改めて武器を手にして戦闘を再開するつもりなのだ。
「そうはさせるか!」
レオも負けじと駆け出す。途端忘れていた痛みが身体を刺すように巡った。
その差だった。キングはついにこん棒へと到達し、拾い上げざまに大上段に構える。振り下ろせばレオに直撃するだろう。
ビュオッ! ドガァン!
凄まじい風切り音とこん棒が地面に叩きつけられる音。痛みはない。
「あれ? オレどうなったんだ?」
目を開いて辺りを見回す。そこは真っ暗な闇だった。自分が進んでいるか止まっているのかもわからない。
そうか、成功したのか。これは影潜りである。こん棒が振り下ろされる瞬間、その体格差で出来た影へ咄嗟に潜ったのだろう。
見上げると薄っすらと地上の世界が見える。よし、オレを見失ってる! 今だ!
レオは勢いをつけて影から抜け出し、その勢いのまま混乱していたキングの顎を捉え、キングの身体が少し浮く。
「くそっ倒しきれないか!」
キングはそのまま振り下ろしたこん棒を持ち上げるように、裏拳の要領で突然現れたオレを殴打した。
(ダメだ。ここで意識を飛ばしちゃ。痛い、身体がバラバラになりそうだ)
オレは吹き飛ばされながらも目を閉じまいと、キングの姿をなんとか捉えて最後の魔法を振り絞る。なけなしだが全力だ。今出来る最大限。
グシャッ
これが何の音か分からない。オレが叩きつけられた音? それとも倒したのか?
意識が薄れゆく中、最後に見た光景は光の粒子になって消えるキングの姿だった。
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——Side 榊悠真——
あれ、ここどこだ? 俺死んだ? でも身体は痛くないな。てか身体どこだ?
俺は上下も左右もない、床も壁も天井もない白いような黒いような、いや、色という概念がサボっているみたいな空間にいた。感覚的には白か? 多分白だ。
『初めまして榊悠真。僕の愛しい子』
なんか声がする。怖い。姿は見えない。
「悠真! 大丈夫か!」
その声、レオか?! あの後どうなったんだ? お前はどこにいる! いや普通に横にいた。俺と同様ぷかぷか浮いているようだ。
『僕は君たちの概念にあてはめると多分……そう神様』
何か始まった。俺は自分の状況も理解できていないんだが、なかなかカオスな演出である。少なくとも話を聞く態勢ではない。
『良いニュースと悪いニュースがあって君たちの元に現れたんだ。まず悪いニュースだけれど、君たちは予想通り死んでいる』
っ!? やはりそうか。あの時キングの攻撃で……だが何故そんな事を伝えに来たんだ? てかそのニュースを2つ並べるフォーマットって選ばせるものじゃないのか?
『そして良いニュースだけどね、君たちは無事ダンジョンの1層ボスを撃退して、クエストをクリアした。だから僕が現れたんだ』
連続して良し悪しニュースを告げるタイプだった。そうか、あの後レオがやったんだ。そんで俺は回復魔法をやっぱり発動出来ていたのか。
俺の熱意が、努力が素直に実を結んだ事になんだか心が温かくなるのを感じた。
「悠真! オレやったんだ! 影潜りできた!」
おぉ、そうなのか。てかまた土壇場で使ったのかよ! 学ばないヤツだな。まぁでも成長ではあるのか。良かった。
『だからね、君たちには世界の秘密を少しだけ知る権利がある。どうか少しの間、聞いてほしい』
俺は頭の中の独り言を押し黙らせる。だってなんだか切実な気がしたからだ。
『僕はね、元々日本という国にいたどこにでもいるただの人間だった』
ニホン? 聞いた事もない言葉だった。星の名前でも国の名前でも思い当たる名詞は存在しない。
『僕はそこに帰りたいんだ。ずっとね。僕は異世界転生って呼ばれる不思議な現象に巻き込まれて、とある力を手に入れた。所謂チートってやつだね』
よくあるネット小説の設定だ。俺たちの世界にも存在する聞き馴染みのある言葉だった。
『僕の手に入れた能力は可能性の具現化。戦っている時に剣があったかもしれない、魔法が使えたかもしれない。そういうもしもを本当にする能力。便利だよね? 僕もそう思った』
自称神様の言葉に合わせて白い空間に剣が、炎や氷が浮かぶ。
『でもね、この能力は僕が思ったよりもすごい力だったんだ。いやその可能性を僕が想像しただけなのかもしれない。ある時思ったんだ。可能性を現実に出来るのならば僕が日本に帰る可能性を手繰り寄せられるのかもしれない。ってね』
なるほど。こんがらがってきた。俺たちは既に死んでいるらしいという情報も相まって感情が渋滞している。横を見るとレオはおねむなのか船をこいでいる。コイツが王子の国大丈夫なのかな。
『ふふ、大丈夫だよ。何故ならレオ君の国はまだ無いから』
どういう事だ? てかサラッと思考読んだな。まぁこういう空間の神様が心読むのは定番か。俺は動じていないフリをして話の続きを促す。
『さっきの話に戻すけれど、結論僕は僕の能力では日本に帰れなかった。それはその可能性がないのか、あるいは日本の存在を確約するだとか別の可能性を手繰り寄せる段取りが必要なのか分からないけど、当然僕は後者に賭けた』
ふむ。全然意味わからんがつまり、ない所には帰れないわけで、無いならそっちを先に具現化してから帰ろうって事ね。
『察しがいいね! その通りだよ。だから僕は、僕がいたかもしれない世界を作った。物語を書くみたいに。概念としての世界をね』
概念としての世界……まさか。
『そこに魂が生まれた。自我が芽生えた。生活が生まれた。誰かが誰かを見て、誰かが誰かを覚えて、世界は勝手に厚みを持っていった』
おい神様ってそういう事かよ
『そう、君たちだ。君たちは僕が生んだ物語で生きる概念としての子供たち。僕が元居た世界にそっくりな世界で生まれた魂の具現化』
じゃあ俺たちは作り物なのか?
『そうとも言えるし、違うとも言える。君たちは互いに観測し存在を確かめて、君たちだけで物語と可能性を生んだ。
少し遠回りになってしまったね。このダンジョンはね僕の世界からの逸脱、魂の試練なんだよ。
僕は通路って呼んでいるけどね。君たちが彼らに観測されて物語を作り、新しい世界へと旅立っていく。
それは、異なる世界かもしれないし、これから出来る新しい世界かもしれない』
頭が沸騰しそうである。意味が分からない。俺たちが概念? 物語の登場人物? ダンジョンをクリアしたら具現化される? とてもではないがすんなり飲み込める内容ではない。
『今日はここまでにしようか。あ、そういえば悠真君が気にしていた眷属魔法についてだけど、レオ君は魔法で強制されているわけじゃない。
敢えてさっきの説明に絡めるとしたら、レオ君の出会いはこの先君が進む世界の出会い、その可能性なんだ。言ったでしょ? ”レオ君の国はまだ無い”って。
運命みたいなものって今は思っておいて。
あ、そろそろ時間だ。それじゃあまたね』
俺の視界は再び暗転した。おい! 悪い方のニュースの説明はよ!




