【#11】ドロップ品を拾ってみた
まずは検証もしていない技をぶっつけで使った説教と、突然のフラッシュで怒っているであろう視聴者への謝罪だ。
「いやぁ!皆さんすみません急に眩しかったですよね」
『全くだよ、と言いたい所だが全然眩しくなかったぞ』
『普段の悠真の発光よりちょっと強いかな?って程度だった』
なるほど。もしかして掲示板等の謎検閲よろしくダンジョン側で何か調整しているのか? あれはちょっと眩しい程度じゃ済まされない。本当に失明の恐れがある光量だったハズだ。そんなもの突然放つなという話だがこっちも命がかかっていたのだ。視聴者の事まで考えが及ばなかった。というか及ぶようになりたくない。命大事にである。
「ほっ、なんともないなら良かったです!」
『お前そんな光を突然ぶっ放したのか』
『なんか合図とかしろよ…』
『いや、だがコイツらも命がかかっているワケだし』
『しらねーよ! こんなのただのエンタメだろ?』
なんだか視聴者同士で揉め始めたぞ……厄介だな。一旦無視するか。
「なぁレオ、俺が言いたい事わかる?」
「うん。ごめん。俺、使えるかどうかも分からないスキル使って無茶した。浮かれてたのかも」
「それが分かってんならいいよ。お前にも考えがあったワケだしな。次同じ事をしなければいい」
そう、コイツはコイツなりに頭を使って戦闘に臨んだのだ。当然悪ふざけや悪意なんてものは持ち込んでいるハズはない。チャレンジは誰だってする。
大事なのは着地点の見積りは取るべきという事で、途中式のミスではないのだ。
俺はふと以前働いていた会社の、そういう途中の計算ミスばかりを責める上司を思い出していた。
「今回レオがすげぇ良かったのは、何をしたかったか言語化して応えてた事だ。やりたい事の実現精度はさ、これから上げてこうぜ。俺も苦手だからさ……一緒に」
「うん……おう! ありがと! 悠真」
くぉ~~ガラじゃね~~やっぱ説教なんて似合わないよな〜。穴があったら入りたい気分である。その時その穴はダンジョン以外でお願いしたい所だ。レオはすっかりいつも通りの調子を取り戻したようだが、俺はその代わりにらしさを失っている。
居心地の悪さでソワソワするが、片や喧嘩中のゴーレム、片やキラキラした目の眷属。今この瞬間、俺の居場所はどこにもなさそうである。そういや、さっきイノシシ倒したあたりになんか落ちてたな。
ふと、きになってイノシシがいた辺りに駆けよる。
「なんだこれ? 肉?」
そこに落ちていたのは、目算1㎏ほどもあるブロックの肉だった。きめ細かいサシの入った品の良さそうな肉で一見すると食用である。……が大丈夫なのであろうか。
『うお! ドロップ品じゃねぇか』
ゴーレムがふよふよと近寄って来て驚いた声を上げている。お前ら喧嘩はもうよかったのか?
『わ、悪かったよ。俺らにもドロップ品見せてくれ』
俺が胡乱気な視線を向けた事に気づいたのか、謝罪の言葉を向けてくる視聴者。どうやら先ほどエンタメ呼ばわりしたヤツだろう。まぁいいんだけどな。どちらかと言うとその後の喧嘩の方がしんどかった。
「ほらよ……じゃなくて、皆さん見てくださいこのお肉! 急に現れたんですが食用なのでしょうか!」
『もういいよ悠真』
『取り繕うのもしんどいだろ。こっちが悪かったしな』
『気楽に話せよ、どうせこっちなんか気にせず光魔法放つお前だハナから媚びなんて無理だ』
「……はぁ、わかった。ただ魔法の事はガチでスマン。考えてる余裕なかった」
『いいって』
『それより肉だが、それは恐らくドロップアイテムだな』
『そりゃ見りゃ分かるだろ』
『いや、ダンジョン配信にすっかりハマって視聴者のはしくれとして掲示板を漁ってたんだが、たまにそういうアイテムを落とすらしい』
「いや、見りゃ分かる情報から何も増えてないよ」
『まぁ、慌てんな。それでな他のプレイヤーのダンジョンではドロップアイテムは何に使うかわからん素材か、食材か装備が落ちるようになっているらしい。確率は運だ』
なるほどな。この視聴者が妙にもったいつけて言葉を濁すからか、既にドロップしているからなのか、ネタバレの検閲は発動していない。これじゃ真偽分からんぞ……
『検閲発動しないんじゃ嘘じゃねーか?』
『既にドロップしてるヤツにネタバレも何もないだろ』
案の定視聴者同士でも物議を呼んでいる。喧嘩第2ラウンドが始まる前にここは収めるか。
「ん~一見して食い物っぽいし、明日食う配信するって言ったら来るか?」
『なんだと?!』
『いいのか?』
『ここまでそういう配信他でもなかなか無かったからな……』
『拠点内は妙にプライベート感あって皆配信しないんだよな』
『配信するなら絶対来る!』
「いや、拠点では食わん。明日の昼はダンジョンで食ってそのまま配信を続けようと思うんだがどうだろう」
俺は先ほど買おうとしていたクッカーとファニチャーの存在を思い出していた。
「なぁ、悠真それ食うのか?」
先ほどまでのゴーレムの雰囲気からあまり近づく気配の無かったレオだが、とてとてと近づいて来て尋ねる。鋭い聴力で食うという単語を拾ったのだろう。
「流石野生の聴力だな」
「ヴァンパイアに野生とかないから。外飼いとか室内飼いもないから。悠真たまにオレの事犬扱いしてないか?」
してるぞ普通に。今のところ吸血鬼要素ないしな。ケチャップ好きとかいうマイルドファンタジー吸血鬼設定を付与しようとしているのが涙を誘う。
「ケチャップは本当に好きなの!」
「俺のモノローグを盗聴するな」
どうやってやったんだ? 吸血鬼は心が読めるのだろうか。本当にロクな事をしない眷属だ。俺はなんか嫌だなという顔をしながら身構える。
「大体悠真の考える事は分かるようになったよ。能力とかじゃなくてね」
『おいおい、俺たちを置いてきぼりにするな』
『で、拠点で食わないってどういう事なんだ?』
『レオきゅんは犬でも吸血鬼でも可愛いよ』
「おぉ、そうだった。今ダンジョンで調理出来るアイテムを購入しようと思ってさ。まぁでも問題はこの肉どうやって持って帰るかだよなぁ」
当然アイテムボックスなんてスキルは習得していないし、普通に生肉を入れる入れ物の用意もない。手で持って帰るのは微妙だしはてさて。
『レオきゅんの魔法で凍らせたら?』
「『それだ!』」
「おいレオ、この肉を凍らせたいんだができるか?」
俺は肉をレオの前に差し出して尋ねた。うーんとレオは考え込んだ反応を見せたあと生肉に手を翳した。
「もしミスって手まで行っちゃったらごめん!」
ギョッ、怖い事を仰る……しかし既に肉からパキパキと霜がかかる音が聞こえている。俺は心なしか指先に力を入れてフイと肉を浮かす。流石に手のひら密着よりいいだろう。
「そんな怖がらなくていいよ。ちょっと反対にしてもらっていい?」
レオが言うので、言われた通り肉を裏返す。めちゃくちゃちべたい。普通にこれ持って帰るのもしんどいんですけど。
「はい! これでおっけー!」
良かった俺の肌はどうやら凍らないで済んだようだ。しかし温度問題……どうしよう。こんなものを抱えて帰った日には溶けるし凍傷になるし大変な事だ。
『そのまま持って帰るの大変そうだよなぁ』
『レオきゅんの影潜りで仕舞うとどこに行くの?』
「『それだ』」
「レオ、その場合どこ行くんだ?」
「うーん難しいな。技を使った人——この場合オレの異空間て表現が正しいかも」
レオの説明を聞くところによるとつまり、俺の影だろうがレオの影だろうが、イノシシの影だろうが同じ空間に行っているらしい。影渡りっぽい事が出来そうと言っていた根拠がコレである。しかし、空間として時間も座標もない次元としてあんまり成り立っていない場所となっていて、つまり推進力の生まれない水中をイメージしたら分かり易いだろうか。
動こうとしても動けない、潜ろうとしても潜れないそんな場所なのだ。しかし、それはあくまで生き物が入った場合である。生肉を入れるくらいなら問題は無いし、取り出すのも好きな時に取り出せるとの事だ。
怖い思いをして凍らせる前に気づいて欲しいものである。
『まぁ、それはそれで時間経過とかも安心出来るしいいだろ』
「うん、俺の闇魔法レベルが急に上がって時間の概念が生まれても困た事になるだろうし」
なるほどな。まぁそんな不安定な空間だからあまり多用すべきではないのだろう。
「よし、そしたら皆、今日は俺たちはこの辺で引き上げるけど、明日は多分約束してた飯回にするからぜひ来てくれよな」
そう言いながら俺は配信を締めくくりゴーレムのスイッチを切った。
————
——
俺たちは拠点に戻り、一先ずシャワーを浴びる事にした。レオに先に入る用に促し俺はノートパソコンと畳んだ煎餅布団の間に収まる。すっかり背もたれ代わりだな。
いてて、あれさっきは気付かなかったが腕に怪我してやがる……恐らくイノシシの体当たりをガードした時に盾と擦れて出来たのだろう。
「……せっかくだし、回復魔法の練習でもしてみるか」
そう呟きながら俺は腕の裂傷にとりあえず光を当てて治る事をイメージしてみる。完全な腕を思い出しながら、皮膚組織や毛細血管が元通り繋がるようなイメージをしてみる。
「ふぅ、だめだな。ウンともスンとも言わん。何が足りないんだろう」
俺は立ち上がりながら、キッチンへと向かい傷口を洗い流す。まぁガーゼとかも無いし一旦このままか……。
気を取り直して俺はノートパソコンを開いた。現状の確認である。昼間から持ち越しで余ったポイントは4250あった。
午後の配信では揉め事のような一幕もあったし、レオへのお小遣いもあったので多めに10000ptの増加をしていたので、合計14250ptである。
「ファニチャーとクッカーか。いや、持ち運びをどうするか……だよな」
ショップの購入画面を開くとどうやら検索機能があるようで、まずは持ち運びのためのリュックサックを検索した。表示されたのは一般的なバックパックから本格的なサバイバル用のもの、そして魔法の収納袋である。
「魔法の袋……これは、容量が見た目以上に入るとかそういうヤツだろう」
やはり高いのかと言われればそうでもない。実は手が届くお手頃2000ptぐらいで購入出来るのだが、それではロマンがない。俺はすぐに候補から外した。
魔法の袋を買えば楽なのは分かっている。レオの影収納だってしかりだ。
だが、楽すぎる道具に初手で頼ると、何がどれだけ必要なのか、それを失った時どうするかが分からないままになる。
勿論そんな事を言っていて戦闘で遅れをとってしまっては元も子もないのだが、かさばらず邪魔をせずスタッキング——アイテムを重ねて収納する事などを工夫して安全マージンを確保する方針の方が配信ウケもいいだろう。まぁ、そんなのは単に言い訳で男の子の拘りというヤツなのかもしれない。
俺は手頃な少し小ぶりながらも、ポケットやベルトの多いバックパックを2000ptで二つ購入した。泊まる予定もないし本当は一つでいいのだろうが、レオにも自分でパッキングをさせておいた方が今後のためだろう。記憶喪失らしいしこれも生きる術だ。
「次は入れるものだが……うお、これは異世界パチノックス……こんなのまであるのか」
パチノックスとは、超有名ファニチャーブランドHe〇inoxの軽量チェアであり、そのあまりの高性能さに、こぞって類似の品を各メーカーが販売した際につけられた同型チェアの総称だ。
そんなものも含めてポチポチとクッカーやカトラリー、ストーブ、折り畳みの焚火台等を購入していく。ファニチャーは異世界パチノックスとローテーブルくらいでいいだろう。計8200ptである。
「残り4050pt……まぁこんなもんか。明日ぶっ続けで配信出来れば十分ペイ出来るだろう」
「悠真! お風呂でたよ!」
俺がノートパソコンと睨めっこしていると、部屋着に着替えたレオが近寄ってきた。
「おう、丁度よかった、コレがお前の道具だ。実際に明日はそんなに使うものはないと思うが一応背負いながら戦えるように練習しておこう」
俺は購入したアイテムのうちレオの分を渡しながら言った。一人あたり5㎏って所だろう。数字だけ見れば大した事ない。むしろレオの身体能力であればなおさらだろう。
だが、荷物は重さだけじゃない。かさばるし揺れるし引っかかる。背中に何かを背負ったまま、走ったり避けたり攻撃したりしなくてはならないのだ。時には装備を捨てたり何かが欠けた状態で挑まなければならないという判断も要求されるだろう。
俺は常に最悪を考えているのだ。というのは逆張りオタクの言い訳である。だが出来てやらないのと出来ないのは違う。
「ふぅん。これは何に使うの?」
「シェラカップか。それは調理にも使えるし食器にも使える万能アイテムだ。本当は空焚きは危ないし、長くやるもんじゃない。数秒だけな、見てろよ?」
そう言いながら、俺は小型ガスストーブに火をつけ、シェラカップの底を軽く炙った。
底面がじわりと色づき始めた所で火から離す。
「わっ! なんか青くなってきた!」
紫から青へ、薄いグラデーションが浮かび上がった。チタンブルーと言われる鮮やかな色で底面は染まっていた。酸化皮膜だとか光の干渉だとか詳しい事は分からん。ただ少しだけコレは自分だけの道具なんだという実感が湧いてくる。
「こうやって明日は調理するんだが、このカップみたいに今日買った道具は、使い込む事で自分独自の色や味が出る。それを楽しんだり自分のオリジナルなアイテムとして昇華させるんだ。大切につかうんだぞ」
「うん! すっげー! でも、料理の話したらお腹すいてきたよ……」
「そういやそうだった。俺もシャワー浴びたら飯にするから昼間の肉出して氷を溶かしておいてくれ」
「わかった!」
レオから肉の塊を受け取ると、それをキッチンのカウンターに置いて、風呂に直行する。あの程度の氷だったら数分で溶けるだろう。
にしてもさっきの俺はちょっと”らしく”なかったか? なんだかまるで面倒見が良いかのようで。レオと出会ってから、いや、ここに来てから随分自分のキャラを崩されるな。イカンイカン。
俺はかぶりを振って頭の中を整理する。今のこの葛藤が、レオに湧いている愛着が、一方でダンジョンという非現実的な現象への恐怖や不安が全てシャワーが洗い流してくれる事を祈って。




