【#10】ダンジョンを進めてみた
俺たちは拠点に戻り、午前中の配信リザルトを確認してみた。入手していたのは8000pt。
レオへのお小遣いと、うっすら発光効果でそこそこ稼げたが昨日のピーク程ではない。てか、いちいち拠点戻って来るのもしかして非効率なんかな。せっかく掴んだ視聴者を離してしまうタイミングにもなるし、出発から行けるところまでとなると午前中のように退屈な道程を毎回見せる事になる。
継戦能力は盾のおかげである程度保障されているし、そもそも苦戦する難易度どころか安全マージンをとりすぎている説もあるか。妙に緊張感ないんだよな。
「うーん、今のうちにアウトドア系アイテムとか役立ちそうなスキル見てみるか」
掲示板で情報を集めるのも大事だが、自分達で開拓する力もつけないとこの先生き残れないだろう。探索も、配信も。
いや、キャラじゃないのは分かっているが、結構真面目に考えないといけないんだよな。夜中考えたけど生活の保障も職業選択の自由もないワケで。おなじ土俵で戦わないと毎日ケチャップおにぎりになるのだ。
「あうとどあ? ってなんだ悠真」
俺の独り言を聞いたいたレオが尋ねてくる。
「あー……俺も詳しくはないんだが、用は外で食事を作ったり場合によっては寝泊りするための装備だ」
「へぇー! なんだか面白そうだな」
他にも歩きやすい靴とか杖とかもあるが、そこらへんの優先度は今回は下がるだろう。悪路ってワケでもないし逆に凝り過ぎて戦闘に影響が出そうな装備も困るしな。
閑話休題。
とりあえず当初の目的であるマッピング機能の購入をする。最初はノートパソコンから購入するのかと思ったが、Dデバイスのアプリ購入からだったらしい。ちなみにアプリは500ptだった。
購入に手間取ったおかげで、色々ノートパソコンの方のショップを眺められたので今まで気づかなかった機能や気になるアイテムに目星をつけられたのは不幸中の幸いだろう。
「とりあえず寝床だよな。まぁ流石に煎餅布団だと身体痛めるだろうし、いっそベッド購入するか」
安くはないが、身体を壊したら詰みである現状ってこういう時に強く自覚するよな。心なしか身体に纏う光が強くなる。
「うわっ! 悠真、急に眩しいよ! なに?」
「おっとすまん。布団で寝れるという事が楽しみでさ。どうやらワクワクすると光量が増す体質らしい」
「オレ流石に適当言われてる時わかってきたかも」
コイツは本当に召喚してからこっち可愛くないガキだ。こんなのの何がいいんだか。おっと、とはいえレオはうちの稼ぎ頭である。有難みを思い出しつつツインのベッドを購入する。計2000pt使って残りは5500pt。
かぁ~レオ様様だぜ。こんど靴でも舐めようかな。
そういえば先ほどノートパソコンと格闘していた時に面白い機能を見つけたのだ。その名もレイアウト変更。どうやら部屋を拡張したり、場所を変えたり出来るらしい。
当然今は部屋を増やしている余裕などないが、1つだけやりたい事があったので画面に映された俺たちの拠点間取りをいじる。すると、フワっとした浮遊感に襲われすぐに元の卓袱台前に戻される。
なるほど。内部にいる時のリフォームはこんな感じで行われるのか。
「びっくりした~。また何も予告なしかよ悠真」
「すまんすまん。今回はわざとじゃなくて、俺もこうなるって分からなかったんだ」
俺が変えたのはキッチン。わざわざ扉を開けて行き来するのが面倒だと感じていたので、扉を取っ払い1LKという謎間取りから1DKに変えた。つまりカウンターキッチンにしたのだ。
「ここからキッチンが見える!」
「そうそう。これで配膳が楽になるだろ。まぁ食えるものが増えたわけじゃないんだどさ」
今の拠点間取りはダンジョンに出る扉を背にして左手側が洗面所や風呂、そして正面にカウンターキッチンだ。
俺たちはダイニングの左側に卓袱台を置き、二人並んで煎餅布団を背もたれ代わりに壁に寄りかかっている。部屋の右側にはツインベッドを並べているという形になる。
「よし、レオ。これで今夜からふかふかのベッドで眠れるぞ」
「ベッド! 初めてみるけどすげぇよ悠真!」
たたたと走って手前のベッドに飛び込むレオ。あ、おまえ帰ったばかりの汚れた服で行きやがって。これでどちらがどちらのベッドを使うかが決した。チクショウアクセス悪ぃな奥側……。
「お前王族なのにベッド知らないんだな」
「おう。だってオレ記憶ないし」
ゴロゴロと寝転がるレオを担ぎ上げる。そういやそんな事言ってたか。じゃあ王族ってマジでなんのための設定だよ。フレーバーテキストなの? あ、そうだフレーバーテキストと言えばステータス閲覧の詳細確認を二人分で合計1000pt購入する。
ステータスの確認は後でしよう。今はポイントの使い道と探索準備だ。
「あんま汚い格好でベッド乗るな。午後も探索あるし、楽しむのは夜にするぞ」
「え~ケチ。ちぇっわかったよ」
「分かればよろしい。で、このリフォームにはポイントがかからないらしいから今使ったステータス確認差し引いて、丸々4500pt残ってるんだよな。なんか欲しいものあるか?」
「ん~。武器はオレ使わないし、防具とかもスタイル的に攻撃受けてる時点で致命的なんだよな。やっぱオムライスかな」
「嫌だよ毎日オムライス。あ、そうかアウトドアアイテム見るんだった」
そう言いながら、再びノートパソコンを開く。一度全部じっくり見てみるか。午後の探索成果と合計して買った方がいい物とかもあるだろうしな。わざわざ今の財布事情に合わせて閲覧を制限する必要もないだろう。
全てを記述すると膨大なのでカテゴリに分けたがこんな感じのようだ。
アウトドアグッズ系
・カバン
・マント、ウェア
・シューズ
・ステッキ
・熱源系
・光源
・クッカー(調理器具)
・寝具
・ファニチャー
・テント系
ふむ。流石にまだダンジョンで寝泊りする勇気はないので、寝具やテント系は一旦不要として、この辺で今興味あるのはファニチャー(家具、椅子とかテーブルとか)系とクッカーか? 必要に応じて熱源と……いや意外と多いな。ポイント多分足りなそうだから、午後の探索終えてから総合的に判断するか。
あんまりしょぼいと撮れ高とまでは言わないがアイツらうるさそうだしな。
「レオ、悪いが昼飯はちょっと質素でもいいか。色々物入りそうだ」
「うーん。うん! わかった。仕方ないね。俺ももっと頑張って探索するよ!」
あんまり探索深度と視聴ポイント——VPって関係ないんだけどな。まぁ水を差すのもアレか。と俺は意気込むレオの頭をポンポンと撫でてキッチンへと向かう。流石に質素とは言ったが、粗悪パンはゴメンである。
冷蔵庫のモニターを操作して鶏卵を購入し、フライパンで目玉焼きを作る。100ptを使用し6枚切りの食パンを購入する。驚いたが、コレ1枚単位だと粗悪パンより安いのにクオリティが元居た世界準拠なのでコスパめちゃくちゃいいな。
キッチン備え付けの魚焼きグリルを使ってトーストを作り、目玉焼きを乗せる。
そう、その名もラ〇ュタパンである。パ〇ーのカバンよりも魔法じみたこの世界のキッチンだからこそこんなに簡単に作れるのだ。俺はそれに軽く塩を振ったバージョンとケチャップをちょいかけしたバージョンをカウンターに並べる。
目玉焼き何かける論争などくだらない。好きな物を美味しく食べられればいいのだ。と、いう事を俺は元居た世界でこのラ〇ュタパンに塩辛を乗せて食うやつを見た事があるのでそういう考えに着地した。
「これ食ったらいくぞー」
「やったー! ケチャップだ!」
想定通りこの吸血鬼はコレで正解だったようだ。
俺は片手でパンを頬張りながら詳細化したステータスを開いた。
名前:榊悠真 Lv6
種族:人間
職業:なし
能力値
攻撃力 20(100)
防御力 45(200)
魔力 520
素早さ 40
器用さ 30
運 100
スキル
短剣術Lv0、盾術Lv0、光魔法Lv5(New)
特殊
鬲ゅ?蜿ッ閭ス諤ァ
————
名前:レオンハルト・ディア・アルシオン Lv5
種族:ヴァンパイア
職業:魔法拳闘士
能力値
攻撃力 360
防御力 25
魔力 670
素早さ 280
器用さ 20
運 80
スキル
格闘術Lv10、氷魔法Lv7(New)
種族固有技
闇魔法
————
ブフゥッ! 俺は飲んでいたお茶(50pt)を勢いよく噴き出す。レオはめちゃくちゃ強い。それは今までの探索で分かっていた。いや、正直強すぎだろってステータスを見てもちょっと思ったんだが、それよりも驚いたのは俺だ。平均的には低いのだが魔力が突出して高い。恐らくこれは気絶昏倒法による修行の成果だろう。光魔法のレベルもめちゃくちゃ上がっていて、ここだけはレオ(眷属とかいうファンタジーの人)に迫る勢いだ。
というか昨日の今日でこんなに上昇してるって事は才能があったのか? 掲示板で見た光魔法の回復についてはあくまで誰かが呼んだ眷属の話で、当然プレイヤーが使ったワケではない。人類としては初めての回復魔法到達か? いやでも体感としては使える感覚一切ないんだよな。午後からの探索は少し意識してみるか。
————
——
「はい! という事でね。午後からの探索を始めて行きたいと思います!」
『おー』
『怪我すんなよ』
『お前眩しいから魔法いい加減切れよ……』
「お目が高い! 先ほどステータスを確認した所光魔法のレベルが5つも上がっていました! このままもう少しお付き合いください』
『お目が高いって……』
『そういう意味で言ってねぇよ』
『てか5ってめちゃくちゃ早くね?』
『魔法研鑽だけなら多分トップクラス。配信始まって2日目だからまだわからないけど』
『この育成法広まってほしくないなぁ……』
『安心しろ。こんなアホな方法広まらん。てか攻略情報だし検閲で弾かれるだろ』
お、ついに俺も検閲弾かれるレベルの攻略方法を開拓しちまったか。鼻が高いぜ。
『レオきゅん! お昼はなに食べたの~?』
「ケチャップパン!」
『え……』
『悠真、お前さすがにそれは』
『悠真! コレ投げるけどレオきゅんにちゃんとしたご飯食べさせて!』
「お前! ちゃんと貴重な卵乗ってたろ! てかそれを言うなら俺は塩パンだ」
『なんかオシャレ』
『最近カフェとかで置いてるよな』
なんでだよ。塩パン違いだよ全然。レオと俺でなんか扱いが違う……このままキャラクターが固定されるのは由々しき事態だ。
『ほら。あんたもまともなご飯食べなさい。レオきゅんはアンタだけが頼りなんだから』
思いがけない所でスパチャが飛び交う。嬉しい誤算だが、なんだか惨めな気持ちが同居するのは気のせいだろうか……
「へ、へへぇ! かしこまりました! 今夜はステーキでも頂いちゃおっかな!」
俺は身体の発光をつよめ感謝の気持ちを表現する。
『うわっ眩しい!』
『なんだお前!』
「おっとすいやせん。感情が高ぶるとつい』
全然嘘である。ていうかこのネタはさっきレオにやった。
「みんなありがと! オレ頑張る!」
ショタ王子が無意識に点数を稼いでやがる。地味な俺の反撃がより一層嫌がらせじみてしまった。これ以上は媚びないぞという気持ちを込めたささやかな弱者の反撃が、ただ頭のおかしいヤツとして処理されてしまった。
気を取り直してダンジョンである。早速手に入れたマッピング機能を開き、今の進捗状況を確認してみる。どうやらこのアプリは入手前であっても計測されているらしく、本当にお買い得である。
どうやら今までは同じような所をグルグルと回っていたようで、埋められたエリアはごくごく近所である。そりゃゴブリンとばかり遭遇するか。
戦闘も含めて1時間で5kmちょっとを歩いていると仮定すると、このダンジョンはそこそこ広大なのかもしれない。
「よし、レオこのマップを確認しながら行った事ないエリアを埋めていくぞ」
「おう! わかった」
俺は自分のデバイス画面をレオに見せて、ついでにスクリーンショットをチャット機能でレオのデバイスにも送付しておく。スクショも画像添付も殆ど使い方はスマートフォンだな……。
ちなみにレオのデバイスにマッピングは入っていない。節約のためだ。
——
しばらく進むと見覚えのない通路が見えてきた。といってもどこもかしこも同じ景色なので、曲がり方がいつもと違ったなくらいの感覚である。
「悠真、いままで嗅いだことない匂いがする」
「どんな感じだ?」
「わからない。でも大きいよ」
レオの言葉に俺は充分に警戒しながら新しい通路を進む。しばらく行くとドドドド、ガツン、ドドドド、ガツンと激しい地鳴りと何かがぶつかる音が聞こえてきた。
「悠真! 敵だ! なんか大きなイノシシだよ」
レオが叫んだと同時くらいに進行方向からデカいイノシシがこちらに走って来ているのが見えた。その巨体と砂埃で通路を塞がんばかりのサイズに見える。ガツンッと壁にその鋭利で巨大な牙を打ち付けながら接近している。接触まであと十数秒といった所だろう。
俺、あれ受け止めるのか……てか受け止められるのか。防御力45(200)と書かれていたステータスを思い出す。括弧の数字は恐らく装備の能力だろう。俺はスッと前に出ると盾を構えた。
「レオ、もし接触して受け止め切れなかったら左に受け流す。お前は右に避けられるようにしておいてくれ」
「わかった」
そう言いながらレオは俺の右後方に位置取りをする。
ガキンッ
しまった、少しビビったのが動きに現れてしまった。俺は最初から正面ではなく受け流す予定だった左に向けて右側の牙から殴るようにぶつかった。
これでは完全に勢いを殺しきれない。だが、おそらく正面から当たっていたらタダでは済まなかっただろう勢いが腕の痺れに変換されて伝わってくる。
「任せて悠真!」
レオが少し勢いの削がれたイノシシの横っ面——俺が打ち付けた右側面に追い打ちをかける形でストレートを放った。よし、これで完全に静止したぞ。
「これでもくらえよ!」
攻撃手段に乏しい俺は右手に持った短剣でイノシシの腹部を刺した。ピギィ! 突然の鋭い痛みにイノシシが暴れる。マズイ。抑えきれるのか。
細かく左手の盾を当てながら超接近状態で動きを抑え込もうとする。そうだ、と思い俺は盾の打撃に肩を入れてタックルの形でイノシシへの抑え込みに体重を乗せる。
見よう見まねのファンタジーシールドバッシュだ。
ガツン! 再びイノシシの動きが止まった。
「よし! レオ今だ!」
「わかった!」
そう、言うや否やレオは俺の背後に出来た影に潜る。下半身だけ。
「「『えっ……?』」」
「お、おい! 何やってんだレオ!」
「ち、違うんだ! イノシシの下に出来た影から出て思いっきり腹をアッパーしようと思ったんだよ! まだこの濃さの影じゃダメだったみたい……」
レオの突然の大ミスに流石のイノシシも気づいたのか、体勢を立て直しその鋭い牙の先をレオに向ける。助走の無い短距離でもこんなタックルを下半身固定で食らえばひとたまりもない。大ピンチである。
『キャァァアア』
『レオきゅんヤダヤダ』
もうだめかとレオはぎゅっと目を閉じる。ん?目を閉じる? そうだコレだ。
「レオ、そのまま目を閉じて影を抜けるイメージだ!」
俺はそう叫ぶと、渾身の光の玉を自分とイノシシの間に放つ。
一つ一つの波にまるで触れる程の質量があるんじゃないかってレベルの光の奔流が迸る。
イノシシが思わず仰け反る姿が見えたと思った瞬間、俺の視界も閉じた。
アレだけのデカブツだ見えて無くても当たるだろう。向こうは怯んでいるんだ。恐れる事はない。もう一度シールドバッシュもどきだ!
フワリ
なにか身体の軽さというか、調子の良さというか、上手く説明できないが動きと筋肉の一体感のような手ごたえを感じたかと思った。途端、ガツンッ! というたしかな手ごたえ。
ガァアンという恐らくイノシシが壁にぶつかった音だろう。当然これで倒せるとは思っていない。だが俺は狙っていた。先ほど光球を出したとき恐らく俺の背中には、盾と身体でそれなりの影が出来ていただろうし、背後からタタタと軽快な足音が聞こえる。
「くらえー!」
うっすらと目を開くと、そこには氷の棘を足に宿し鋭い飛び蹴りをイノシシに放つ小さな相棒が見えた。ったく焦らせやがって。
ピギィィイイ!
最後の断末魔を上げるとイノシシはパァッと光の粒になって消えた。ん?なんか落ちてるな。まぁ後で拾うか。まずは検証もしていない技をぶっつけで使った説教と、突然のフラッシュで怒っているであろう視聴者への謝罪だ。




