【#9】魔法を使ってみた
朝、といってもこのダンジョン拠点では朝も夜も分からないので、無職ニートの体内時計準拠なのだが、俺たちは冒険の準備をしていた。
「よし、今回は少し深めに潜ってみよう。今まで俺たちが通った道って分かるか?」
「それがさ、入る度に匂いとか消えてるんだよ。道とか景色は同じ気がするんだけど」
「なるほど? つまりリセットされている可能性があるのか。まぁどちらにせよ今回のダンジョン配信はマッピング購入のポイントを溜める事だ」
出来れば物資を整えるくらいの余裕も欲しい。あのあと光魔法をこっそり練習してみたが、使い勝手が少し良くなったくらいで特に大きな変化は無かった。しっかりと休んだのでMPについての心配もいらないだろう。あぁ、そうか詳細ステータスの確認も出来ればしたい所だな。
「よし、じゃあ配信つけるぞー。てかお前なんでポケットにケチャップ入れてるんだ?」
先ほどから気になってはいたのだが、レオの尻ポケットから昨日のオムライスに使ったケチャップのボトルが覗いている。配信ゴーレムを起動する手を止めて俺はレオに尋ねた。
「昨日のオムライスが忘れられなくて、早起きしてキッチンに行ったんだ。何もないのは分かってたけど、コレからオムライスの匂いがしてつい……」
ゴメンナサイ、としゅんとした表情でレオはうつむく。いや、別にいいんだがお前ケチャップが気に入ってたのか。そういや朝食も食べてなかったな。とはいえ今は残ポイントも残食材もない。いや、ケチャップ同様調味料の残りと炊飯器に米が余ってたか。
「よし、少し待ってろ」
俺はそう言うと、レオのポケットからケチャップを取り上げキッチンへと向かう。
まぁちょっとひもじいメニューだが、朝飯代わりに何か食った方がパフォーマンスも上がるだろう。俺は具なしケチャップライスでおにぎりを作る事にした。
キッチンにつくとフライパンで少量のバターを温める。周りが少し溶けてきた辺りで冷や飯を投入。米をつぶさないようにお玉の背でほぐしていく。粗方炒めた段階でレオから奪ったケチャップを適量入れて混ぜる。最後に余ったバジルをふりかけて終わり。
「ま、こ簡単だがこんなもんだろ」
火を止めて少しでも粗熱を取るため、作業台にフライパンを移した。細かく描写はしていないが勿論手洗いはしている。俺はササっともう一度水で手の温度を下げて作ったケチャップライスを握り飯にした。
バターの油分でほぐれやすくはなっているが、温度変化で形を保ってくれるので、混ぜる空気と力加減のバランスを見極める。
「ま、とはいえアイツはボロボロこぼすだろうな。おーいレオ! そっちだと汚れるからこっちで食うぞ」
俺の呼びかけに応えるようにキッチンの扉がすぐに開きレオが入って来る。
「オムライス?!」
「いや、それは材料が足りないから無理だ。ほらよ。崩れやすいからそこのシンクの所で上手に食えよ」
俺は手に持ったケチャップライスのおにぎりを手渡すと、レオはおそるおそるそれを口に運んだ。
「~~~~!! うまい! オムライスも美味かったけどコレもすごい美味いよ!」
くう……こんな貧乏飯で喜ぶ子供、しかも立ち食いまでさせて。行儀も悪いし、食育もへったくれもない簡単ごはんだがそれでもレオは満足気におにぎりを食べている。
俺も自分の分をさっと平らげてフライパンを洗う。ちなみにおにぎりにした理由はここにある。洗い物の削減に繋がる、ただそれだけの理由だ。
我が家での教育方針は効率重視。レオを上品に育てるつもりも立派に育てるつもりもないのだ。眷属なんて言われても立ち位置とか分からんし、俺自身このダンジョンでどうなるか分からん。まぁそも食い終わった後もケチャップのボトルをチラチラ見ているし品をこのワンコ吸血鬼に求めるのは無理だろう。
レオよ、マイルド吸血鬼表現的なそれか知らんが、やめておいた方がいいぞケチャップ大好きキャラは。あんまソレ定着しないからさ、某でんきねずみとか。
「さて、じゃあ小腹も満たしたし今度こそ行くぞ」
俺たちは汚れた手を洗って、ダンジョンへと向かった。
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——
「はいどーも! というワケで今回もダンジョンを攻略して行きたいと思います! が、その前に! 皆さん見てくださいコレ!」
『お、服変わってる』
『昨日より冒険者っぽい』
『レオきゅん衣装違い助かる』
ダンジョンについた俺たちはゴーレムを起動し、いつもの媚びた挨拶を行った。昨日媚びなくてもいいと言われたが素を出すのもなんか気恥ずかしいしピエロでいた方が楽なのでスタイルに変更はなし。
そんな風に脳内モノローグを唱えながらゴーレムに購入したDデバイスを掲げて見せる。後ろでレオも、ごそごそと大切そうにデバイスを持ち上げていた。さっそく昨日買った衣装の反応もあるな。出だしは好調だ。
「これはですね、なんとダンジョンの中でもお互いに通信が出来るスマホみたいなアイテムなんです! 基本的にはぐれる予定はないので、あまり出番は無いかもしれないですが、ステータスを見たりマッピングなんかも出来るので今後配信に映るかもしれませんね!」
軽快なトーク(自画自賛)をして笑いを誘う。ゴーレムからの反応はないが、目の前でスマホをいじくる予防線を張らないと今後マップの確認なんか出来たものじゃない。
「なぁ、悠真……朝は気づかなかったんだけどなんか悠真へんじゃない? なんかぼんやり光ってるっていうか」
『たしかに。デバイスは他の配信でも見たから驚きもしないが、挨拶からずっと気になってた』
『同居人のレオが言うんだから朝からなのか』
『何してんだお前?』
ふっ、せっかちな奴らだ。それもこれから説明するつもりだっての。だが、分からないくらいに抑えてたのに目ざといな。レオだけが言うのなら吸血鬼由来の鋭い感覚器官で説明がつくが、配信でも気づかれたという事は俺もまだまだだな。
「なんと! 私、榊悠真はですね、ファンタジーの王道である魔法を習得しました! パンパカパーン!」
『え、お前まさか』
『魔法で身体光らせてるんか?!』
そう、そのまさかなのである。俺は光魔法のコソ練を深夜にしていたが光る範囲や形状を変えられる事に気づいていたので、熟練度を上げるため極力広い範囲で且つ敏感な同居人を起こさないように魔法の発動をコントロールしていたのである。まぁ、目論見は見事外れてバレたわけだが。
『バカで草』
『そんな事してるヤツ他のプレイヤーにもいなかったぞwww』
『なんでそんな事してんだよ。目立つだろ』
『一周回って配信者の鏡かもしれん』
「もうお気づきかと思いますが、俺が習得したのは光魔法! その真価は回復魔法(掲示板談)だと言われていますが、私はこの魔法に可能性を感じ今地獄の猛特訓をしている最中なのであります!」
ビームとか使いたいし、主人公ぽくてカッコイイし。昨今はやれ土だ水だと色々あるが、やはりオーソドックスな光の勇者が俺は好きだったりする。
このうっすら発光はそれなりに魔力を食うのだが、夜中に何度も魔力切れをおこして昏倒してを繰り返していたら、使用時間が伸びた上にステータスを見ずともなんとなく自分の魔力切れギリギリのサインを把握したのだ。
『回復魔法は重要だがお前薄っすら光る必要あんのか』
『他にも火とか水とかサバイバルっぽい魔法あっただろうに……』
『レオきゅんに悪影響なんじゃない?』
『昨日から思ってたが、コイツ”こちら側”の人間すぎて迷走してるよな』
「えぇい! だまらっしゃい!」
特に最後のコメント。俺も俺がどうしたいのか分からない。でも好都合だったんだ! 昨日はこんな所に急に連れてこられて本当はめっちゃ怖いって思ったタイミングもあったし、なんか子供抱える事になったし、寝具増やすの忘れて床も壁も堅いし! 魔力切れに気づいてからはこれだ! って思ったね。なーんて、まぁそんな事、俺はいいませんけどね。
「だから昨日は悠真チカチカしてたんだ……」
「お前気づいてたのかよ。すまんな、この特訓は今後キッチンで行う事にしよう! わはは」
「ううん、いいよもう慣れたし」
なんだか知った顔でレオが言う。ぐぬぬ生意気なヴァンパイアめ。まぁ今日の冒険が終わったら速攻寝具を購入してお布団の中だけで光らせるようにしよう。子供に変な気を使われてたまるかってんだ。
「はん。まぁいいや。いくぞー」
俺はいつもの調子でレオにいう。努めて捉えどころなく無責任に。
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しばらく代わり映えしない道と戦闘が続いた。ゴブリンばっかだなここ。慣れてからは弓だろうとこん棒だろうと短剣だろうとそんな苦戦もなく終わるし、何よりレオの魔法が強すぎる。
『悠真が薄っすら光ってる事だけが山場だったなw』
『レオきゅんが可愛いだけでいい』
『まぁ魔法もすごいが、流石に見慣れたか』
くそう、好き勝手言いやがって。確かにこのままでは俺は薄っすら光る変な奴だ。道中も光量を調整したり、少し光らせ方を変えたりしてみていた。魔力が切れそうになったら消す。いつまでコレ続けたら熟練度上がるんだ?
「まって悠真、その角度のまま光を維持できる?」
「ん? あぁ出来るぞ」
急にレオが立ち止まりそんな事を言ってくる。要求通り俺は上半身の光量を強めの状態を維持した。レオからしたら上から光が差し込むような角度だろう。
「ん、こうかな?」
おもむろにその場にしゃがみ込むと、レオは地面に手をついた。するとズズズと手が地面に沈み込む。いや地面じゃないな、あれは影か? そういやステータスに闇魔法ってのがあったな。
「もうちょっと上から強めに照らせる?」
「わかった。こうか?」
『なんだなんだ?』
『新技?』
『レオきゅんの手が沈んでる……』
レオの言う通り光を身体に纏うのを止めて、先ほどより上から角度をつけてレオの背後から光量を上げて照らす。ルーメンだのケルビンだのは分からんが、そこそこ眩しい懐中電灯くらいだ。
「うん、わかった。ねぇ悠真、オレ影に潜れるっぽい!」
「なんと」
コイツばかりなんだかカッコイイ技を覚えていくな。
「今はまだ濃くて大きい影ならって感じっぽい。でも感覚的に練習すれば自由に影を移動したり多少薄くても潜れたり出来るようになりそう!」
『えー! すご』
『やっぱレオって当たり眷属だよな』
『当たり眷属ほどダンジョン難易度上がるらしいけど、この逆張り電球は大丈夫かよ』
『レオきゅんかっこいい! お小遣いあげちゃう!』
「あ、ありがとうございます……」
照れ照れじゃないよ。この属性モリモリショタが! くっそー予定だと俺が新しい魔法習得して、ビームとか出してタンクも卒業して活躍するはずだったのに!
「ま、まぁ役に立ちそうなスキルじゃないか? 濃い影なら俺の光魔法でいくらでも作れるしな」
すこし張り合ってみる。あまり露骨にアピールしてもこの目ざとい視聴者達がうるさくなるので、こころばかりの見栄。
あ、おい「悠真のおかげだね!」なんて言うな。余計みっともないから。
ここにきて配信が思ったより盛り上がったので今日はこの辺で切り上げるか。なんだか変に気落ちしたし。ちょっと試してみたい連携などもいくつか思いつくが、暇つぶしで魔力切れギリギリで歩いてきたので、少し疲れている。(もちろん暇じゃなければこんなに油断はしないが)
「ふむ、どうでしょう皆さん! 新しい技をレオが覚えたという事で、検証のため一度配信を切ろうとおもいます! お昼休憩という事でご了承くだされば!
午後はね、この影潜り(?)を使った見どころをご用意しますので、それまでお楽しみに!」
俺はゴーレムの前でまくし立てて無理やり配信を閉じた。はぁ……
「一旦帰るぞ」
「悠真、なんか怒ってる?」
「んにゃ、ちょっと疲れただけだ。帰ったらオムライス以外の飯でもチャレンジしてみるか? あ、いや布団やらマッピングやら必要なものとってポイントが余ってからだけどな」
「新しいごはん?! やったー!」
心配そうな面持ちから一変、レオが嬉しそうに破顔して飛び跳ねる。うちの眷属は単純でよかったよ。まぁ、実際俺は怒ってるワケじゃない。今日のコメントであった通り迷走しているんだろう。自分のキャラクターやレオとの接し方。大方魔力どうこうよりもそっちに疲れたのも大きいんだろう。
「かぁ~俺も多少は素直になるべきなのかねぇ~」
その声は寂しくダンジョンの帰路に響くのであった。




