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十二湖は、今日も蒼い ―八峰 遥の天運―  作者: 菜乃花 薫


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「十二湖は、今日も蒼い」30

結局、夕暮れ近くに日本キャニオンを出発して、途中鰺ヶ沢町で夕食を取った。


「お肉食べたいです!」


そんな陽菜ちゃんのリクエストに、カールと深凪が喧々諤々しながら選んだのは焼肉食べ放題の地元のお店。


『多分、陽菜はとんでもない量を食べるだろう。前回で腹八分目だと、もっとエネルギーを欲することも考えたほうが良い』


『食べた分、全部エネルギーに変えられるから太ることを考えなくてもいいわよぉ』


深凪の言葉に、思わず固まる。


「今のってどういう意味なの?ちょっと嫌な予感しかしないんだけど」


私の反応に対して、陽菜ちゃんは


「?」


という顔をしていた。


『あら、遥さんは聴いてないのね?』


「だから、なにを?」


ふっと息を吐くような音が聞こえた気がする。


『カールちゃん、代わりに私が伝えるわ。悪いけど耳を塞いでちょうだい』


『遥は一方的な説明を嫌う。彼女に確認を取ってからにしたほうがいい』


カールがそう言って黙った。


ってことは、何かしら知っておくべきことなんでしょうけど、私が拒否すればやめるってことよね。


でも、今回は陽菜ちゃんも絡んでいるし、むしろ彼女は既に”知っている”側みたい。


「私だけ蚊帳の外ってのも嫌よね。陽菜ちゃんと私になにが起こってるのか知っておきたいわ」


『……じゃあ、教えるわね。二人とも身体制御を受けているのは理解してもらったわよね?端的に言えばその影響というか延長というか、二人の生理機能に介入して効率を上げているのよ』


「生理機能って、呼吸とか消化とかってこと?」


『それも含めるけど、ほんとに全部ね。例えば陽菜ちゃんだと身体制御を使って動いた後、急激にお腹が空くわよね?あれは体内のエネルギーを消費してしまった分を補充しようとしているサインなわけ。で、彼女のあの力って普通の人間と比べてどうかしら?』


陽菜ちゃんは小さい声で


「私は知ってるから大丈夫ですよ」


と告げた。


「正直に言えば、有名格闘家でも陽菜ちゃんを倒せそうにないと思うわ。

少なくとも一撃ももらわず熊を倒す、それも心臓をえぐり取るのは今の人類だと不可能じゃないかしら」


『やっぱりそうよねえ。それでね、その代わりにお腹が空くだけじゃなくてエネルギー使用の取捨選択というか、効率改善もしているのよね』


「効率?」


『遥さん、陽菜と一緒に住んで2週間かしら。その間排泄とか月経とかどう?』


「……トイレに行く頻度はだいぶ下がったし、前回から1か月以上経つけど生理は来てないわ。でもそれって引っ越しで環境が変わったからじゃないの?」


『排泄、つまりトイレの回数が減ったのは消化吸収の効率が上がって、未消化物や排泄すべきものが激減したからなのよ』


「え?」


『月経が来ないのは生殖機能そのものが効率化されているからね。あれだってかなりのエネルギーを消費するし、痛みやだるさなども生じるから本来は無いほうが良いのよ。だから生殖行為があったらいつでも受精できる状態にしてるわけ』


「は?」


『ついでに言えば、体臭も殆どしなくなってるはずよ。汗はかいても放熱効率の為で、分泌物は最低限になってきているわ』


「ん?」


『簡単に言えば無駄なものを生成せず、ひたすら生命維持を効率化したってわけ。そのエネルギーを別の活動に使うようにするのも身体制御の一つなのね』


「はぁ」


我ながら間抜けな合いの手しか口から出てこないのに驚く。


つまりは、人体改造に近い状態になり、私の身体はひたすらエネルギー変換効率を突き詰めた状態になっているってことかしら。


「陽菜ちゃんはわかるわ。筋力アップとか超人だものね。でも私は?力も強くなったわけじゃないし、どこにエネルギーを使うべきところがあるの?」


その質問、あっさり答えが出てきた。


『遥さんは、思考力全振りなのよ、多分』


「思考力?考えるのに浮いたエネルギーをフルベッドってこと?」


『そもそもあなたは色欲と呼ばれてるけど、カールちゃんが言うには知識欲よね?つまりは本来なんでもかんでも吸収して、人間データバンクみたいになって物事を判断・思考するのが遥さんの役割なのよね。でも』


一度区切ると、こう続けた。


『カールちゃんの説明をぶった切ったそうじゃない?それをsystem-E.V.Eが良かれと判断したんでしょうね。カールちゃんの最低限な制御で止めた状態を許容しているみたいよ』


陽菜ちゃんに目を移す。


「陽菜ちゃんはどうなの?」


『陽菜は遥さんの知識の代わりで筋力発揮するくらいかしら。だけど一度全開放で制御している分、遥さんと比べると限界値が高くはなっているけどねえ』


「普段の食事量が普通なのはそういう理由らしいです。代わりに”力”を使うと蓄えが無い分、さっきみたいにすっごくお腹が空いちゃいますけど」


そう言って笑っていた。


「本当にそれだけなの?」


人体の効率化。


そんなことが出来る技術で私たちにデメリットがないはずはないでしょうに。


そう思って聞いたのだけれど、答えは意外なものだった。


『陽菜と遥さんは女性よね?男性には子供は生めないわよねえ?』


確認の意図が理解できてしまい、それだけで身体全体が震える。


『さっき言った通り、いつでも受精が出来るし、なんなら多産になるようになっているわ。それもエネルギー効率を高めている理由よ』


その言葉の先にあるものを予想して、さっきの身震いがさらに強くなる。


『人を戦闘兵器代わりにするなら、子供を産む数が多くて困ることは無いわよね。つまり、そういう理由よ』


「……想像通りでよかったのか悪かったのかわからないわ。いずれにしても今の私たちには不要な調整よね」


『そうであってほしいわね。本来は平和な時代に播種する為の生殖能力なんだから』


「ところで、食事の吸収効率が上がるなら量は少なくても済むの?」


『そうよ、でも今の陽菜は店一軒食べつくしかねないけどねえ』


助手席に両足を揃えて座っている陽菜ちゃん。


「……店、出入り禁止になったりしないわよね?」


「腹八分目で我慢します!」


同じセリフを麺5.5玉食べた後に訊いた記憶があるんだけど?


「……お願いね?」


そう返すのが精いっぱいだった。

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