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十二湖は、今日も蒼い ―八峰 遥の天運―  作者: 菜乃花 薫


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「十二湖は、今日も蒼い」31

店一軒食べつくす程の勢い。

そんな比喩を目の当たりにする日が来るとは思わなかったわ。


『ふむ、鉄板にずらっと並んだ肉は壮観だな』


『そうね、一皿分、あっという間になくなるのを見るのは気持ちはいいわね』


カールと深凪の二人は気軽に感想を言うが、店の方は大変なことになっているのよね。


陽菜ちゃんは焼きあがるとあっという間に平らげてしまうけど、やっぱり綺麗に食べてる。


でも、1皿一杯に盛り付けた肉が、焼きあがる傍から消えていく。



時間制限を20分くらい残して、デザートに移っていた。


「陽菜ちゃん、お腹いっぱいになった?」


「う~ん、7分目くらいでしょうか。時間制限がある焼肉だと焼く時間待たないといけないですから、思ったより量が食べられなかったです」


そう言っている彼女の横には、正に山積みと言えるほどの皿が積み上げられている。


『消費したエネルギーを考えれば、こんなものかしらね』


深凪の声に呆れ、つい呟いてしまった。


「あんたたちの全制御だっけ?今の陽菜ちゃんでこれだと、食糧難になっちゃわない?」


『高効率な”食餌”と薬物注射、空腹の制御は完璧だ』


「……あんたたちを作った時代に生きて無くてよかったわ」


「美味しいものも食べられずに戦わされるだけって、本当に嫌ですね」


せっかく満腹になってご機嫌だった陽菜ちゃんまで暗い顔に戻ってしまった。


『だからこそ、今の世界を―――――』


『あら、規制されちゃったわね』


『……まあ、君たち二人は大丈夫だろう』


少し誤魔化し気味にカールが言葉を紡ぐ。


下手に追及しない方がよいのだろうか。



翌週、朝早くから梵珠山へと4人で向かった。


カールが最速で届くよう、量販店でキットの在庫を持っていたところから取り寄せたのだとかで、週の中頃には届いていた。


『StarLinkも設置できて、通信速度が格段に上がったのはありがたい。これでネット検索も更に高速度で可能になるな』


そう言ってる自身も、私の普段使いだったタブレットから、最新のスマホへ乗り換えていた。

なにせ毎週のように100万は軽く稼ぎ出しているとかで、自前でハイスペックのスマホに乗り換えてご満悦。


『カメラのスペックも上がったので更に状況把握がしやすくなったし、通信速度も向上、StarLinkも対応でここでもメール程度は繋がるぞ』


「本体にStarLink繋げば必要ないでしょうに」


『深凪の本体があるようなところでは、スマホからのバックアップ回線として使えるだけでも十分だ』


廻りをチェックして以前と同じ、井戸のある場所からカール本体の中に降りる。


「今日は遥さんをお姫様抱っこする理由が無くて残念です」


不満げな顔で陽菜ちゃんが腕にぶら下がる。


『深凪と違って私は万全の状態だからな』


『あたしだって好きで故障してるわけじゃないわよ』



そんな言い合いを背に、作業を始める。

今回は一度工事をしている分、かなり早く終わった。


「さて、今日は早く家に帰って陽菜ちゃんのご飯を食べたいわね」


そのリクエストに、陽菜ちゃんが嬉しそうにこう答えた。


「帰りにスーパーに寄って一緒に買い物しましょう。食べたいもの、あります?」



「ごちそうさまでした」


休日、陽菜ちゃんの手料理をたっぷりと食べた。


「和食はいいわよねぇ」


食後のお茶を入れてくれた彼女にお礼を言ってひと啜りする。

若いのにちゃんとお茶に適したお湯の温度で入れてるから、甘さが際立っていて美味しい。


テレビでは物騒な強盗の話や、地元アイドルの解散の話が流れていた。


「陽菜ちゃんって、アイドルより可愛いと思うのよね?スカウトとかなかったの?」


「高校の時に何度かありましたけど、興味がないので断っちゃいました」


あっさりと言うが、アイドルの世界も世知辛いだろうし、行かなくてよかったのかもしれないわ。


「そう言えば、このユニットも勧誘されてました。解散しちゃうんですね」


「もしかしたら陽菜ちゃんがこの衣装着て歌ってたかもしれないと思うと、見たかった気もするわ」


「うーん、アイドルってガラじゃないと思ってますし、そもそも歌、苦手なんです」


――こんな可愛い顔で音痴だったら、それはそれで意外性があっていいかもしれない


『遥。こんなときになんだが、話がある』


「なに?改まって?」


『君から借りた5000万なんだが』


「……まさか、全部スッちゃったとか?」


『逆だ。4000万を越える利益を確保はしたのだけれど、運用以外にお遊びで海外版の宝くじを買っていたのだが』


「それで?」


『当たったのだ。それも2000億超が』


「にせんおく……」


『流石にこの金額は私には不用なのだが、各種口座は全て君の名義のものを動かしているので、君にその金額が振り込まれることになる』


現実感がまったくなくなってきた。

金銭も、ここ最近自分の身体に起きたことも。


「もうこれ以上の出来事はないわよね?」


「さあ、どうでしょう?」


陽菜ちゃんが首をかしげただけだった。

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