「十二湖は、今日も蒼い」28
「お腹いっぱいじゃないですけど、元気は出ました」
陽菜ちゃんはそう言って立ち上がった。
『深凪が通信テストを完了しているなら、陽菜がエネルギー不足になる前に降りてしまおう』
「カールの言う通り、作業が終わっているならさっさと帰った方がよさそうよね」
『賛成するわ。あたしはこれで本体だけにとどまる必要はなくなったわぁ。ありがとうねぇ』
「じゃあ、深凪に見張ってもらって降りましょう。陽菜ちゃんとご飯を食べて帰りましょうか。今日は現金を多めに持ってきてるからなんでも食べれるわよぉ?」
陽菜ちゃんの顔がぱあっと明るくなった。
「あ、でも私も今日はお金もスマホもあるから大丈夫です。遥さんと一緒に美味しいものを食べられるならどこでも嬉しいです」
「じゃあ、悪いけど下までお願いするわ」
『じゃあね、本体のあたし』
深凪がそう言った。
「じゃあ、行きますね」
片手に工具箱、片腕で私を抱いて森の中を飛び降りていく。
「さ、着きましたよ」
陽菜ちゃんの言葉と共に、地面に足が付く。
荷物を置いた陽菜ちゃんが、膝を付いた。
「陽菜ちゃん?」
「……また、お腹が空きました」
あのくらいのエネルギー補充では崖を降りてぎりぎりだった、ってことね。
「動ける?」
「少し、休みたいです」
顔色があまりよくない。
「深凪、陽菜ちゃんの体調をチェックできるかしら?」
『わかったわ。単純にエネルギー不足なら食べればいいんだけど、この辺に補充できるところってあるかしら?』
「前もだったけど時間が時間だから、軽く補充できるコンビニまで我慢してもらうしかないわ。とりあえず車まで戻りましょう」
工具を崖下に寄せて、陽菜ちゃんをおんぶする。
「遥さん、重いですよ」
「あら?いつも私をお姫様抱っこしてくれてるじゃない?今回は私が陽菜ちゃんをはこぶ番よ。お姫様抱っこは無理だけどね」
いくら軽くても、陽菜ちゃんをお姫様抱っこして戻る体力は持ち合わせていないわ。
10分程度で道路まで戻り、迎えに来ていたクロストレックに乗せる。
「ありがとうございました、遥さん」
お礼を言う陽菜ちゃんの顔色はまだ少し白い。
ラゲッジのクーラーボックスから少し甘めのミルクティーのペットボトルを取り出して彼女に渡す。
「工具を取りに行ってくるから、その間糖分摂取も兼ねてこれ、飲んで休んでいてちょうだい」
「いただきます」
キャップを開けて口をつける陽菜ちゃん。
先日は可愛げが無いと言ってショップのラテを持たせたけど、ペットボトルをあおる姿も十分可愛いわ。
「カールと深凪で陽菜ちゃんを見張っててね。あと、今日はガソリン十分あるからエアコンが必要ならシステムを動かしてね」
そう伝えて、工具を取りに戻る。
『遥、陽菜と深凪の二人はだいぶ安定しているし、”憤怒”としても特に危険性があるとは今のところは思えない。君の安全性も担保されそうだが、そうなると今後は他の大罪がどう二人に関わってくるのかが気になるところだ』
「確かにね。陽菜ちゃんとは同棲しているわけだし、彼女が私に何かをしようと思ってるとは思えないわ。むしろ私を助けてくれてもいるし、ボディガードのような立ち位置なのかもしれないわね」
『だとしたら、暴食、傲慢、強欲、嫉妬。これのいずれか、もしくは全部が危険な存在とsystem-E.V.Eが判断しているのかもしれないな』
「あんた、system-E.V.Eと話せないの?」
『通信は可能だが、教える気はないようだ。できうるならば防御が必要になるような他の大罪とは、一切かかわりたくないところなのだがね』




