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十二湖は、今日も蒼い ―八峰 遥の天運―  作者: 菜乃花 薫


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「十二湖は、今日も蒼い」27

「よし、これであとはセットアップに入れるはずよ」


直流電源を深凪の指示通りに取り出して接続し、有線LANケーブルをモジュラジャックに差し込んで1本ずつ配線を繋いでいく。


『LANケーブルを作る道具も持ってきているのだから、ケーブルの片側から直接繋ぐこともできるだろう。部材も増えるのに何故そうしないのだ?』


肩をすくめて


「配線を直接繋ぐとね、もし断線したら結局全部作業やり直しなのよ。今やった方法だと深凪側か、LANケーブル側か不具合の切り分けが簡単なのね。電源もそう。こういう作り方って大事なのよ?問題起きた時結局自分が面倒なことする羽目になるんだから」


『なるほど。問題が起きることを最初から見込んで作っておくのか。

私達自身は壊れることが無いと思い込んでいるが長い年月を経て深凪のように外的要因で正常作動できなくなる場合もあるし、電気的なものでも絶対と言うものはないのだな』


「あんた、確かクロストレックの慣らし中に”機械だって壊れる時は壊れる”とか言ってたじゃないのよ」


『私たちは単純な機械ではない。機械知性とでも呼んでもらいたいところだ。本当の意味でのAIでもあり、人間以上の能力を持ち、人間以上の寿命を持つ』


「その割には電波掴めないだけで何十万年も孤独になるって?」


『うぐっ!遥ちゃん!私に流れ弾当てないでよねっ』


「痛くないでしょうに」


つんとして答えた私と、それを見て床に突っ伏してまで笑っている陽菜ちゃん。


18歳の彼女は、まだ箸が転がっても面白いお年頃かしらね。



「さて、これでレドームって言ったっけ?上下しても大丈夫なように配線を取りまわしたから行けるはずよ」


電波を透過も遮断もできるガラスドームを出したり引っ込められるって言うので、そこにStarLinkのでかいフラットアンテナを設置した。


これで普段は隠しておいて、必要ならせり出させればいい。

カール達はカモフラージュ程度はできるらしいし、出すのは夜とかに人がいない時間にすれば問題は解決するはず。


『よし、繋がったわ。これでまずはカールちゃんの本体から通信してもらえる?』


『……ふむ、驚いたのだが私本体の通信環境より余程早いじゃないか。実効速度で150Mbpsあるならば私らには十分以上だ』


感心したようにこう続けた。


『遥、私の本体もStarLinkを設置してもらえるかな?今、繋がってるのではハッキングしているのをばれないようにしている分、どうしても遅くなってしまうのだ』


「じゃあ、雪が降る前に設置しないといけないわね。同じ方法と取り付け場所なら1時間もあれば終わるわよ」


『それでは注文・契約をしておこう。設置作業の手間代はきちんと支払う』


「ツケておくわよ、深凪の分もね」


『……高くつきそうで怖いのだが?』


危惧するその声を、そっと明後日を向いて無視しておく。


『おかげで当面、こっちに戻ってこなくてもよさそうだし、カールちゃんを通じてsystem-E.V.Eともリンクできた、わ……よ……』


そう言うと黙り込んでしまった。


「どうしたのかしら?」


「深凪姐さん?」


陽菜の呼ぶ声にも反応がない。スマホも本体もだ。


『どうも不具合のせいで、システム全体を再構成しなおしているようだ。わかりやすく言えば大がかりなアップデート、とでも言おうか。まあ、待つしかないだろうな』


カールは冷静にそう告げるけど、深凪の元の性格とか機能を知らないから、大丈夫かは心配よね。


「パソコンのアップデートみたく深凪姐さんがいきなりガラ悪くなったりしたらどうしましょう?」


陽菜ちゃんが明後日の方向に心配しているのが可愛い。


流石に深凪が再起動しないのに、帰るわけにもいかないし、そもそも周囲に人の目がないかとか、出口開けてとかもできないのだから帰ることもできない。


『……深凪が再起動を始めた。流石に40万年近いアップデートは時間がかかったようだな』


私たちには目にわかる変化はないが、唯一陽菜ちゃんが首から下げているスマホが再起動画面を表示していた。


数十分後


『ふぅっ、待たせたわね』


わかりやすく少しかっこいい声質と喋り方になった深凪がそう言った。


「声優さんが変わったのかしら?」


『いいえ、これが本来の私なのよ。さっきまでのはちょっとアンニュイが過ぎたわよねぇ。

システムの再構築をしてきたから、発話ユニットもバグがなくなって普通に喋れるわね』


『……通信状態や現状に問題がないなら、そろそろ引き上げよう。ここで喋っていては夜になってしまうからな』


「そうね、人目につかないうちに降りて、帰りましょ。どうせ家まで3時間コースなんだし」


「あ……」


陽菜ちゃんがそう言って少し悲しそうな表情を浮かべる。


「どうしたの、陽菜ちゃん?」


「……お腹が、空きました」


凄く真剣な声。

確かに崖を登った陽菜ちゃんのエネルギー消費量考えると、それも納得だわ。


「陽菜ちゃん、お腹空いてるところ申し訳ないんだけど、工具と私を抱いて降りられる?」


「前回みたいに飛び降りるのは無理かもしれません」


『重量が多くなったし、2回も上に上がってるから急激なエネルギー不足ね。とりあえずなにか栄養のあるものを補給した方がいいんだけど』


「お腹いっぱいにはならないけど、栄養バー食べる?」


山の中に行くことが多いので、工具箱やナップザックに携行食としてハイカロリーな栄養補助食品を持って歩いている。


それを陽菜ちゃんに差し出した。


「いいんですか?」


「こういう時の為に持って歩いてるんだから、食べて」


「じゃあ、いただきます」


そう言ってあっという間に2箱なくなってしまった。


「水分もどうぞ」


これもエネルギー補給用にゼリー飲料だけど、無いよりはましでしょ。


「食べ終わったら、少し元気が出ました」


眩しいくらいの笑顔に戻ってよかったわ。


『戦闘食みたいなものかしら?現生人類も作ってるのね』


「深凪、知ってるの?というか、これ、普通に市販されてるものよ?」


そう言って空箱を見せる。


『そう、そうよね。それ、美味しいの?』


「私は好きよ、フルーツ味が一番かな」


「私、子供の頃チーズ味好きでした」


「いいわよねぇ。今はこれ以外にもいろんなメーカーさんが作ってるし、美味しいし」


『……戦闘食では無いって本当みたいね。二人とも美味しいって言ってるし』


「嘘言ってどうするのよ。今は鮭とかステーキ味とかもあるんだから」


『……こんな人類ばかりだったら、40万年も新たな人類を待つ必要もなかったのにね』


『仕方がない』


「あんたたち、物騒と言うか怖い話してるけど、当時はそんなに怖い食べ物だったの?これ」


そう言って空箱を見せる。


『戦闘食というのは、本当に戦う為だけのものなんだ。栄養素も、薬物も入った』


「それは怖いわよ。流石に現代の軍や自衛隊は栄養素はともかく、薬物は入ってないはずよ?」


『それを聞いてすこし安心したよ』


『そうね、遥さんが危険なものを陽菜に食べさせるわけ、ないものね』


――カールと深凪の知っている人類が居た頃は、どれだけ殺伐とした時代だったのだろうか


自分の仕事上、その生活跡をいつか発掘や遭遇することがあると考えると、少し怖気がした。

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