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十二湖は、今日も蒼い ―八峰 遥の天運―  作者: 菜乃花 薫


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「十二湖は、今日も蒼い」26

機械知性としてのアイデンティティが云々。


カールは日暮橋バス停に着くまで1時間以上、お説御尤もと言いたくなるほどご高説を垂れていた。


「ささ、カールの愚痴はそこまでにして、さっさと深凪の本体とStarLink、繋ぎましょ」


ちょっと重いけど、工具箱と配線類は私が持つ。

陽菜ちゃんが持ってくれたStarLinkの部材一式は20キロを優に超えている。


なのに、私よりも華奢な彼女に持ってもらってるのは、ひとえに”憤怒”による筋力操作のおかげ。


「これ、他の人から見たら絵面にアンバランス感じるわよね」


思わず言ってしまう。


『二人の持っている重量そのものは大差ないだろう。ただ、陽菜は段ボール箱のままで持っているからアンバランスなどで実際に重量以上に重く感じるはずだ』


「私は全然平気ですよ?なんならこのまま遥さんも担ぎましょうか?」


先日と同じような、アウトドア向けの恰好をした陽菜ちゃん。


「楽は出来そうだけど、陽菜ちゃんには後で抱き上げてもらうからまだいいわ」


軽口でそう返したのだが、陽菜ちゃんが真っ赤になってしまった。


―何を想像したのかしら


3度目の現地。

今回は深凪も居るのでカールと一緒に周辺の観光客などのチェックをお願いする。


『そうねぇ、本当は本体に行って繋げれば一番確実なのよね』


深凪の言葉に、陽菜ちゃんがこう答えた。


「少し遠回りでよければ、奥に行って人目を避けて飛び上がればいいんじゃないでしょうか?」


「それって、森をかきわけて駆け上がるってこと?」


陽菜ちゃんが頷く。


「はい。流石に木の間を動いていたら、その辺に人が居ても気が付きづらいですよね?」


『確かに陽菜ちゃんの言う通りだけど、だいぶ遠回りよ?』


「じゃあ、一度材料だけ持って深凪姐さんと上まで行って見てきます?」


『私はその方が安全だと思う。万が一人に見られても素早い動きで誤認だと思われやすいだろう。流石に遥を抱き上げていたら速度も落ちるし、顔が二つあれば認知されやすい』


カールの想定に深凪がかみつく。


『カールちゃんは野暮ねぇ。抱き合った美女二人が森の斜面を駆け上がる様を想像してごらんなさい?美しいじゃなあい?』


『私たちには不要な感情だろう』


ぶっきらぼうに返しているが、深凪は


『あらぁ?私たちは人間と違って永久の時間を過ごすのよ?思考パターンはいくらあっても突き詰めていけるわ。人生は遊びよ、あ・そ・び』


そう言って譲らない。


『この議論は永遠に終わらないだろう。

私は効率重視で、深凪姐さんは過程を楽しむことを重視している。それでは議論はかみ合わないからな』


「はいはい、言い争いはそこいらで終わって現実的にどうすべきかさっさと決めましょ。山間なんだから活動ができる時間は短いわよ」


実際にフィールドワークでは15時前には撤収開始していることが多い。

そうでなければ暗い山奥では人間なんて無力なもの。


特に青森を含む北東北3県は熊、猪、猿があちらこちらに出没する。

陽菜ちゃんを当てにしても、彼女だってエネルギー切れしないわけじゃないから、無理に強行作業で仕上げる必要もない。


でも、人様に見られるリスクは回避はしたいのも事実。


「今やデジカメやスマホは当たり前。

私を抱いた陽菜ちゃんの動画でも撮られたら厄介なのよね」


事実をそのまま伝える。

カールと深凪は黙り込んだ。


『……急いで資機材と深凪を本体に上げてしまってから、近隣をスキャンして安全性を確保。

その上で遥を移動させて設置作業をしてしまうのが一番安全な手順ではないか』


『そうねえ。スマホだけじゃ今は何もできないからねえ』


カールの提案に深凪が同意する。


「じゃあ、陽菜ちゃんは気を付けて機材を上げて深凪の中に入れてくれる?

2往復で足りるかしら?」


そう言った私に、満面の笑みでこう返してきたの。


「遥さんの道具も持ってあがります。次は遥さんをお姫様抱っこして上がりますからね」


陽菜ちゃん、かっこよすぎるわよ



10分程度で帰ってきた陽菜ちゃんは、さくっと私を抱き上げて森の斜面を疾走。


先日のように崖を飛び上がらないだけ恐怖感が少ない。


そう思った時もあったわ。


「嘘、陽菜ちゃん早いってば!木が!枝が!」


あまりに怖さに声が止まらない。


人様に見つからないようにと言った本人が一番目立つことをしてしまっている。


……だって、怖いなんてもんじゃないんだもの。


オフローダーで斜面を登ったりしたこともあるけど、あれだって速度は大したことないのに、陽菜ちゃんはオンロードバイクのような速度でモトクロスしてるような動きをしてるのだから、別な意味で怖い、怖い、怖い。


「着きましたよ」


そう言って先日と同じ場所まで入ってきたけれど、腰が抜けちゃって立てないわ。

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