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十二湖は、今日も蒼い ―八峰 遥の天運―  作者: 菜乃花 薫


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「十二湖は、今日も蒼い」25

『ようやくsystem-E.V.Eと同期が出来たわ。何万年ぶりかしらね』


深凪は事も無げにそう言ったが、何万年単位を数か月程度にしか認識しない古代のAIって、一体どれだけの年月を過ごしているのだろう。


引っ越しの翌週、深凪が現状把握が出来た上で、改めて本体との同期を行いたいと懇願された。


既に手元にあったStarLinkの機材と電工道具一式にケーブル類をクロストレックに積み、陽菜ちゃんとまたも日本キャニオンに向かうことに。


「陽菜ちゃん、連続して日本キャニオンばっかりでごめんね」


『若い娘の折角の休日に作業補助させるって、お詫びするしかないわ、ごめんなさいね』


私と深凪、二人で陽菜ちゃんに詫びを述べる。


『そうだな、折角の秋晴れなのに毎週同じ景色では流石に飽きるだろう』


カールまでそう言うほどだ。


「みなさん、気を使ってもらってすみません」


陽菜ちゃんはそう言うと、こう続けた。


「でも、遥さんとドライブデートだし、深凪姐さんもカールも一緒だから楽しいですよ」

そう言って微笑む。


「そうねえ。デートにしては積んでいるものや、やることが色っぽくないけどね」


ちらっと見るラゲッジ、いや背もたれまで倒した後部座席には部材と工具が積まれている。

段差で金属音がするのは、そのせいだ。


「遥さん、家でも工事してましたね。得意なんですか?」


「仕事で電気モノ使うこと多いのよね。電気って苦手だったからちゃんと資格取って怖くないようにしただけよ。理解しないで扱うより、理解して使った方が安全よね」


「苦手だから克服するって考え方、凄いです」


感心したようにこっちを見ている。


『あたしも動ければ遥さんと陽菜に頼まなくてもいいんだけどねえ。こればかりはあたし一人じゃどうしようもないから二人を頼るわあ』


深凪がそう言うとカールが続ける。


『電工の話も実に遥らしい。人に聞くより自分で考えることが遥にとって大事なんだろう』


「そうね。何度か感電したけど意味が解らない感電もあったからね」


「感電?大丈夫だったんですか?」


陽菜ちゃんが心配してくれる。


「ありがと。全然平気よ。運がいいのか200Vでも痛かっただけよ」


……沈黙が車内に落ちてきた。


『遥さん?驚いて陽菜が黙っちゃったわよ』


ちらっと助手席を見ると、陽菜ちゃんが『え?』と言いたげな顔でこっちを凝視している。


「おーい、陽菜ちゃ~ん?」


前を見ながら、彼女の顔の前で手をひらひらとさせる。


何度か目をぱちぱちさせてから、こう言った。


「遥さん!それ、一歩間違えれば死んでたんじゃないですか?」


可愛い声が裏返ってハイトーンになっている。


「運が悪ければそうなることもあるわね。だからちゃんと資格とって、理屈で頭で考えて触るようにしたのよ。運が悪けりゃ死んじゃうもの」


「……私を置いて死んじゃだめですよ、遥さん」


『傍から聞いてると、すっかり熟年夫婦の会話よ?』


深凪の指摘に、車内に笑いが響く。


2時間半ほどで3度目の日暮橋バス停前に到着する。


『荷物を下ろし終えたら移動させる』


クロストレックのカールはこともなげにそう言った。


「本当にカールって凄いです。私も車買ったらカールみたいに深凪姐さんが入ってくれます?」


陽菜ちゃんがそう言った。


「あら?陽菜ちゃんって免許取ってたの?」


「まだ取ってませんけど、青森じゃ車がないと特に冬、不便ですし」


『じゃあ、車を選ぶならカールちゃんと同じ仕様にして欲しいわぁ』


「遥さんとおそろいなのはいいですけど、理由はあるんですか?」


『うむ、私も理由を知りたい。クロストレックは私が選んだものだが、深凪はどういう理由で選んだのだ?』


私も含め、深凪の返答を待つ。


……待てども返事が返ってこない。


沈黙を破ったのはカールだった。


『まさかと思うが、私のノウハウをそのまま使えるから、とか言わないだろうな?

それは例え不得意分野だとしても、知性体としてのプライドというものが無さすぎるのではないか』


『ち、違うわよ』


慌てたように否定する深凪だが、その後も黙っていた。


「深凪姐さん?もしかしたらカールとおそろいがいいとかじゃありませんか?」


陽菜ちゃんがズバッと直球で切り込んだ。


またも沈黙が車内に広がる。


「もしかして、図星?」


思ったことが口をついて出てしまった。


『そんなことはないはずだ。私達には合理的な思考と判断があってだな』


慌てたように言い出したカールの言葉を遮り、深凪が割り込んだ。


『あたし、カールちゃんと同じ身体を持ちたかったのよ』


『合理性が無い』


そう言ったカールだが、なんとなく言葉に力を感じない。


『何十万年も外界と途絶してたのよ?少しくらい人寂しくなったっておかしくないでしょ』


「そうですよね、一人じゃ寂しいですよね」


深凪の言葉に陽菜が頷く。


『私には理解できない。深凪は何故独自性を模索しようとしないのだ。私達はそれによる相互補償をするのが役割のはずだ』


カールの言葉に思わず肩を竦めてしまった。


「あんた、深凪に比べるとまだまだ機械的すぎるわよ」

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