「十二湖は、今日も蒼い」22
「遥さんがいいなら、私は全然かまいませんよ」
少し赤い顔をして恥じらっている陽菜ちゃんを見て、思わずそそられそうになるのを我慢する。
これだけ可愛い女の子だと同じ女でもぞくっとするほど惹かれるわ。
『ところで、今後はどうするのだ?”色欲”と”憤怒”がこうやって揃い、恐らく”怠惰”もsystem-E.V.Eが選定済みと推測できる。他の大罪もフル稼働状態、つまり人選が完了している可能性は高い』
「人選、ですか?」
「陽菜ちゃんはある意味、巻き込まれたようなものだものね。
私も最初は事故だったって言ってるけど、他の大罪ってのも同様なの?」
二つのAI共、沈黙を続けた。
「これもレベル4とかで言えない話、なのかしら?」
『言いづらいが、私はレベル4アンロックされているが”憤怒”はレベル1すらアンロックされていない。この現状で私がレベル4による許可範囲の話をすれば、system-E.V.Eとの通信が回復した際に”憤怒”側に不整合が生じるリスクがある。
そのため、”憤怒”の安全を優先して止まっているのだ』
『カールちゃん?』
『か、カールちゃん?』
”憤怒”の声掛けにカールが動揺している。
『呼び方、何か問題でもあるかしらぁ?あたしは長い間外部との通信が出来ていないから、許可もなにも外部との指示も情報も受け取れないわけよねぇ。どうすればいいかしらね?』
『う、うむ。通信の故障については現代技術レベルでは修復不可能の可能性が高い。
そうなると、今の私同様にタブレットなどの通信端末にダウンロードして、時々同期させに戻るくらいか。ここでは現代の電波環境が無いから、仮に端末を繋いでいても使えないからな』
『でも、その通信端末ってあるのかしら?』
「私のでよければ、スマホがありますけど?」
陽菜ちゃんがスマホを取り出した。
「見つかったの?」
「剛典さんが持ち去っていたらしいので、思い切って新しいのを買い直しました」
そう言って取り出した彼女のスマホは、最新機種で結構お高めの奴だった。
『陽菜のスマホは現代だとハイエンドに分類される端末だな。動きは私のタブレットより快適にできるはずだ』
「あら?あんたもハイエンド機に乗り換えたいわけ?」
『君の家の余剰機材をフル活用するのは楽しい。しかし5Gでも通信速度が物足りないのだが、このタブレットは4Gの初期のものだからな』
「乗り換えろ、と?」
『あら、”色欲”ちゃん達が話しをしてる間に、スマホ、って奴に乗り換えちゃったわ』
陽菜ちゃんのスマホから”憤怒”の声が聞こえてきた。
「それ、スマホとして問題なく使えるのかしら?カールはOSまで書き換えるって言ってたけど?」
「え?メールや電話とか使えなくなると困ります」
陽菜ちゃんの心配に、”憤怒”はこう答えた。
『既に入っていた機能は圧縮して私の一部として取り込んでいるから、言ってくれれば使えるわよ』
「よかったです。ところで」
そう言ってスマホをじっと見つめる陽菜ちゃん。
『どうしたのかしら?』
「あなたをなんて呼べばいいんですか?”憤怒”ってコードネームみたいものですよね?」
『うーん、そうねえ。カールちゃん?なにかいい案はあるかしらぁ』
『私のカールという呼び名は遥が付けたものだ。遥はなにかアイディアはあるか?』
少し、考える。
「思いついたものを出していくわ」
そう言って、いくつかカール、いやタブレットを使って手書きで羅列する。
「深藍、白淵、深凪、蒼藍、花音、とかどうかしらね」
陽菜ちゃんがスマホのレンズを向けている。
『どれもいいわねぇ。折角だから陽菜が決めてくれるかしら?』
「私は深凪か、花音が可愛くていいと思います』
『しかし、遥はこういったセンスもあるのだな。すぐこれだけ出すのは感心する』
「褒めても何も出ないわよ、カール。仕事柄、古い文献とか見てて頭に残ってたのを組み合わせただけよ」
「これだけパッと出てくれば凄いですよ、遥さん。”憤怒”さんさえ良ければさっきの2つのどっちかにしたいと思いますけど、遥さんはどう思います?」
腕を組んで考える。
カールはK.I.T.Tという、反面教師みたいな優等生の名前があったからすぐ決めちゃったけど、どうしようかしらね。
「……深凪は力強さが、花音は可愛らしさが強く感じるわね。あとは陽菜ちゃんがイメージする”彼女”がどっちか、かしら」
「だったら、深凪姐さん、がいいです」
『姐さん?一応あたしに性別はないんだけどね。……”深凪姐さん”か。ふふっ、いいじゃない。それで行きましょ』
そう言って”憤怒”、改め「深凪姐さん」が納得したようだ。
『今から”憤怒”は呼称”深凪姐さん”と置き換えて呼びかけるよう、認識を書き換える』
『あんたまで姐さんって呼ぶの?』
『折角陽菜がそう呼ぶのだから、統一すべきだろう?』
AI漫才コンビがこっちに振ってきた。
「え?私にも深凪姐さんって呼べって?」
『遥は深凪、でいいだろう。名付け親でもあるのだから』
『そうよねぇ。見た限り、遥さんはこの中じゃボスポジションよね』
「納得いかないわ。花も恥じらう独身女性よ?」
「そうですよ、遥さんにボスなんて失礼です。私のお嫁さんなんですから」
そう言いながら陽菜ちゃんが抱き付いてきた。
「……うん、それも悪くはないけどね」
―こんな美少女に好かれるって、これも運かしらね




