「十二湖は、今日も蒼い」20
「前も聞いたけど大罪、ってことは残りが4つある、ってことよね」
『そう。色欲、憤怒、怠惰。この3つのAIは稼働が確定している。
残りは強欲、暴食、傲慢、嫉妬。この4つだな』
「それらを探せ、って指示だとあんたは取ったのよね?」
『そう思ったのだが、もし君も私も制御を受けているなら積極的に動く必要はないだろう』
「どういうこと?」
『黙っていてもあちらから来るか、もしくは私達の思考が操られていれば勝手に足が向くだろう』
「……system-E.V.Eって奴、人の事勝手に操るなんて。会ったらぶん殴ってやろうかしら」
『本体が相手なら君の拳が痛くなるだけだ』
「分解は出来ないモノかしらね」
『機械だから不可能ではないが、防御手段を持っているし、そもそも現代とは機械的構造が違うからねじすら無いぞ?』
「陽菜ちゃんなら?」
『彼女なら場所によっては破壊可能かもしれない』
「まずは”憤怒”に乗り込めたら、中で試してみる?」
『内部に居ての破壊行為は危険だと思う。私もタブレット越しでは最低限しか手を貸すことはできない。あと普通に考えたら陽菜には”憤怒”を攻撃できないよう仕込んであると思う』
「仕方ない、話し合いでなんとかしなきゃいけないわけかしら」
先日と同じ日本キャニオン入口に到着した。
陽菜ちゃんと二人、降り立つ。
流石に今日はジーパンにチェック柄のアウトドアブランドのシャツを着ている陽菜ちゃん。
色合いもいつもと違ってる上に、体のラインが見えるからか、更に華奢に見える。
「今日の陽菜ちゃん、いつもと違ってまた良いわね」
思わず感想が口をついて出た。
「そ、そうですか?」
そう言いながら俯く陽菜ちゃん。
ほんっと可愛い。
思わず私ももじもじしてしまった。
『さて、陽菜への感想はそのくらいにして、日本キャニオンへと移動しよう』
折角の楽しい時間も、カールにかかってはひとたまりもない。
「仕方ない、行きましょうか」
先日と同じルートをたどり、日本キャニオンの下にたどり着く。
「しっかし、陽菜ちゃんはよくこの道をワンピースで来られたわね」
「あの時は、それで喜んでもらえると思い込んでましたから」
そう言って少し困ったように微笑んだ。
苦笑いしているようだ。
『さて、目の前に見えて来たぞ』
カールの声に顔を上げると、先日と同じく真っ白な岩肌が見えた。
「天気がいいと、余計に映えるわね」
「綺麗ですね。そういえばこの間は岩肌見てなかったです」
「写真撮りに来たのよね?」
「剛典さんが映えるから、って連れて来てくれたんですけどね」
剛典さん、ね。
はじめて逢った時は彼氏、って言ってたからふっきれたのかしら。
『一応到着報告はしたから、動きがあると思うのだがどうか』
カールがそう言った途端、また地面が揺れた気がした。
「この間と同じなら、入り口が開いたってことかしらね」
『そうだろうな』
「で?どうやってあの高さまで上がるの?っていうか、あの時陽菜ちゃんはどうやって上がったのかしら?」
格好はアウトドアレジャー向きだけど、明らかに崖を登る格好ではない。
しかも彼女、先日はワンピース姿だったわけで、靴だって多分それっぽく合わせたものだったろう。
大体にして、垂直に近い崖だ。
プロのクライマーでもどうか?って切り立ち方の崖をどうやって装備もなく登ったんだろう?
「遥さん、失礼しますね」
そう言うと、私の背中と膝に手を当て、気が付くと体が空を向いていた。
「陽菜ちゃん?」
そう、陽菜ちゃんが私をいわゆるお姫様抱っこしているのだった。
『なるほど、筋力操作か』
「ここに来たら、自分が何をしたか思い出しました。私、熊に襲われた後に崖の中にいる存在に助けられたんです」
私を抱いたまま、続けた。
「自分で中に入って傷の手当てを受けて、その後また熊に襲われたら身体が勝手に動いて、熊を殺しちゃったんです。次に気が付いたときには遥さんの介抱を受けてました」
「そうなのね。で、この体勢ってことは、まさか?」
「ええ、このままジャンプして崖を駆け上がります」
『遥、しっかり陽菜に掴まっておいたほうが良い。かなりの加速Gがかかるぞ』
「嘘、でしょ?」
「じゃ、行きますね」
そう言って飛び上がった。
「きゃあぁ~~~~~っ!」
いくら私でも、お姫様抱っこで十数メートルを一気に飛び上がられたら、悲鳴の一つも上げるわ。
それくらい、とんでもない事を陽菜ちゃんはニコニコしながらやってのけている。
10数回のジャンプでたどり着いたのは、岩肌からほんの少し奥まった洞窟。
そこには明らかに似つかわしくない、メカニカルな意匠の入口らしきものが見えていた。
『前回見た時と違い、今は開放されているから、入ってこいと言うことだろう』
今は左手にしがみついている陽菜ちゃんだが、この娘ついさっき私をここまで抱きかかえて飛び上がったわよね?
それより、膝が笑ってるんだけど?
「遥さん、行きましょう」
そう言って腕を引っ張ってくる。
『恐らく制御はされているのだろうが、案内人程度と言ったところだろう。黙ってついて行ったほうが良い』
カールはそう言うが、だったらカールの時みたいに勝手に案内してくれても良くない?
歩くのに力が入らないのよ。
そう思ったのだが、陽菜ちゃんにまたも抱きかかえられ、内部を飛び跳ねる羽目になった。
『私の本体は水平体勢で埋まっているが、”憤怒”は垂直に起立してしまっているようだ。
おまけに重力制御すら機能していない。もしかして故障しているのか?』
「もうすぐ着きますよ」
陽菜ちゃんがそう言って連れてきたのは、先日カールの中で見たのとそっくりな部屋。
ただし椅子らしきものが壁面から出ているのは、やはり体勢がおかしいのだろう。
『あ~ら、いらっしゃい』
年季の入ったママが居るスナックで聴くようなダミ声が、私達を出迎えた。




