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十二湖は、今日も蒼い ―八峰 遥の天運―  作者: 菜乃花 薫


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「十二湖は、今日も蒼い」18

現物支給による慰謝料支給について、一応勤め先にも確認を取ったが、「そういう事由ならば問題なし」とのことだった。


結果とすれば準備出来次第引っ越すことにした。


流石に家賃無料は魅力的すぎる。

別に事故物件でもないし、陽菜ちゃんがご飯まで作ってくれるとなれば断るほうがおかしいだろう。


しかし、場所も今の住まいからそう遠くないだけに、余りの条件の良さから本当にカールに問いただしたほどだ。


『私は預かり知らない話だ。

むしろ陽菜が企んだのではないかと思うくらい、彼女に丸め込まれてるとも思えるほどのスムーズさだったと感心する』


確かにカールが言う通り、あの時の陽菜ちゃんの微笑もあるけれど、だ。

別に美少女と同居となって、悪い気などは全くしない。


心配なのは、彼女の”憤怒”の欠片とも言える人外の力をコントロールできるのか?というところくらいかしら。


この辺はカールとも話をしているが、いずれにしても”憤怒”担当の存在と直接交渉しかないのでは?という結論に達した。


「ところで」


すっかり聞き忘れてたことを今更ながら確認したい。

そう思ってアパートの自室で、話を始めた。


「カールって、一体なんなわけ?最初は怪異と思ってたけど、梵珠山の設備といい、日本キャニオンの陽菜ちゃんといい、どう考えても現在の私達より上位の知性体に作られた存在、よね?」


少し間を置いて、返事があった。


『本当に今更だね。まあ、確かに説明はしていなかったが、それは君が私からの一方的な説明を拒んだからだ』


確かに、理解できない押しつけがましい説明は要らない、って言った気がする。


「実際、どう考えても現代から見てのオーバーテクノロジーだとは思うわ。

あなた自身は所謂オーパーツ、しかも今で言うAIという理解であってるかしら?」


『多少違いはあるが、大きな括りではそう捉えてもらっていい。

それで、日本キャニオンで陽菜を”憤怒”として目覚めさせた存在も、私と同系統のAIだと理解してほしい』


「なるほどね。

で、私を色欲って呼んで、陽菜ちゃんを憤怒とあなたは言った。

以前聞いたけど”七つの大罪”って奴がモチーフなわけかしら?」


カールは少しだけ、早口になった。


『違う。七つの大罪だけでなく神話や伝承その他は、私達を作った”当時の人類”が元になっているんだよ。

全ての宗教や伝承、伝説などは、歴史における【事実の断片の解釈】が、人間にとっての永遠とも言える年月の経過の間に、少しずつ変化していった結果なんだ』


「どういうこと?」


『つまり』


そう言って一息ついたカールはこう続けた。


『すべての出来事の発端は”私達の中”に正確な記録として残っている』


「じゃあ、あんたに訊いたら全部の歴史について正確な事実がわかる、ってこと?」


『私達全ての記憶が必要になるが、把握することは可能ではある』


「それって、七つの大罪イコールあんたと同じ存在が7つあって、全部を揃えれば歴史が全て明らかになる、って言うことかしら?」


『必要性はないが、そうなる。

そして、君や陽菜と同じく、君が言うAIごとに1人ずつ現生人類が選定されているはずだ』


「選定ってどういうこと?」


『傲慢、強欲、嫉妬、暴食、憤怒、色欲、怠惰。

この7つが現在では大罪と呼ばれているものだが、私たちの時代はちょっと違っていた。

君を”彼女”は色欲、と呼んでいたが、実際には「知識欲」なんだよ』


「あんたが【知りたくはないか?】って何度もメールよこしてた奴?」


『そう。そして君は色欲が欲すべき無制限の知識を無為に得るより、自分自身で問い、理解することを選択した。

それでレベル3までのロックが外れて、こうやって私が外部と接触し、ある意味自由に動いている』


「そう言った声が聞こえたわね。

で?あんたの言う”彼女”っていったい誰よ?」


『……聞きたいか?』


少し、遠慮がちなトーンを感じたのは気のせいだろうか。


「ぜひとも聞きたいわね。今度は私だけでなく陽菜ちゃんも関わってるんだから」


『……やはり君は面白い。自分の事より陽菜を優先して心配しているのだから』


「そりゃそうでしょうよ。彼女はまだ18歳よ?

子供とは言わないけど、全部自分一人で処理するには若すぎる年齢だわ」


『そうやって他人を心配するところは君の美徳の一つだね』


そう言って黙り込むと、入れ替わりに別の声が聞こえた。


『system-E.V.Eからリクエスト。”色欲”は”怠惰”との接触を禁じます。

色欲対象に係争回避・他者優先思考を確認。レベル4をアンロック。

system-E.V.E権限において、色欲が現認した他の大罪との接触を許可します』


「また、この声?女性だし、これが”彼女”よね?」


『……ふむ、私を介して君を見ていたsystem-E.V.E、つまり”彼女”が、恐らく君に動け、と暗に言っているのだろう。

長い年月を過ごしたが、レベル4まで解除され、他の大罪との接触まで許可されたのは私も初めてだ』


「どういうこと?流石にこれは説明してもらうわよ」


『そうだな、わかりやすく言えば遥と陽菜を”憤怒”、つまり日本キャニオンに居た存在に逢わせてこい、という”彼女”からの指示だ』


「逢って来いって……陽菜ちゃんをまたあの状態にしろって?

もし周りに人が居れば大惨事が起きるわよ?観光地なのはあんたも知ってるでしょ?」


『それについてはこれから再度”憤怒”との直接会話を試みる。

それで事前回避が出来なければ別の手段を考えるが、少なくとも”彼女”が指示した以上、”憤怒”が拒否することはもうないはずだ』


「なぜ?」


『”彼女”がいわゆるリーダーであり、私達の最終判断は”彼女”に仰ぐことになる。

したがって”彼女”の指示は私達が従うべきものなんだ。

だから、いくら”憤怒”が私との通信を拒否しても、”彼女”の指示ならば受け入れざるを得なくなる』


「お姉さんが怖いわけね、みんな」


『私達には人間のような生物学上の性別はないが、”彼女”は少々特殊だ。だからこそリーダーでもあり、特別な役割が与えられている』


「お姉さんの言いつけを聞いて、あんたがお話しすれば、陽菜ちゃんはあの時のようなとんでもないことはしなくなる、ってこと?」


『いや、あれは本来あるべき”憤怒”の状態ではない。”憤怒”すべき理由さえあれば怒りは生じるが、ああいった強烈な戦闘行為が本質ではないのだ』


「じゃあ、あれは付随行為の結果、ってこと?」


『命の危険に遭ったあの時の陽菜は”憤怒”の感情を基に手助けされた、と推測している』


「それこそ、あっちのAIに訊かなきゃわからない、のかしら?」


『そうだな。次の休みにでも日本キャニオンに再訪した方がいいかもしれない』


「なんで?」


『早くケリがつかないと、君は安心して陽菜と同居できないだろう?』


「あんた、人の心を読めるの?」


心底驚いた。

AI、凄いわ。


『あの過剰な戦闘力が君や設備、私にまで危害を与えないか心配なのだよ』


「……少しでも感心した感情、返せ!」

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