表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
十二湖は、今日も蒼い ―八峰 遥の天運―  作者: 菜乃花 薫


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
18/33

「十二湖は、今日も蒼い」17

翌週、安潟社長から連絡が入った。

都合の良い日に少し時間が欲しいとのことだ。


「……ああいう人を見た目で判断しちゃだめとはわかっていても、やっぱりちょっと怖いわよね」


『ふむ、確かに見た目と仕事柄、どうしてもあのような風体になってしまうのだろう。

善知鳥という男を叱責した迫力からも実力もあるのだろうからね』


「余計に怖くなることを言わないでよ。また陽菜ちゃんが一緒とは言え週末逢うのよ?」


そう。

先日と同じ顔触れで、別の喫茶店で会うことになったのだった。


週末、9時に指定された喫茶店に向かう。

店に駐車場が無いのが難点だが、県庁の近くだけに有料駐車場はいくらでもあった。


入ると既に陽菜ちゃんと安潟社長が座って待っていた。


挨拶を交わし、店員にブレンドを注文する。


「早速ですが、先日お話ししました相手方からのお詫びについて、です」


私は首を振る。

「先日もお話ししましたが、私自身被害を受けていませんし、利益供与のようなものを受け取るわけにはいかないのです」


「そうでしょう。N-BaRC(エヌ・バーク)所属の八峰さんとしてはよろしくないわけですな」


「……覚えていらしたんですか?」


「仕事柄、人の顔と名前は覚える必要がありましてね。会社前でお目にかかった時は普段のジャンパー姿と違うもので驚きました」


「では、立場をご理解いただければと」


「いえ。相手方からのお詫びはあなたにとって利益供与など問題になることはないはずです。

何故なら、相手からの示談なのですから」


「示談?」


「そうです。あなたへの殺人未遂行為に対するものです」


「なるほど。でもそうなれば陽菜ちゃんの示談の方が先では?」


陽菜ちゃんを見遣ると、ゆっくりと微笑んだ。


「陽菜の方は既に話が済んでいます。

それも含めて相手方からは現金による示談は現実的に難しい、ということで現物によって代替としたい、と申し出がありました」


「現物で代替?どういうことですか?」


「相手方の所有する不動産物件、ありていに言えば車両整備所兼住居をリフォームしてお渡ししたい、とのことです」


「住まい、ですか?」


「そうなります。ただ、陽菜の示談金も兼ねてということでして、そこを八峰さんと相談したいと思い、ご足労頂いた次第です」


「示談、と言うなら相手から直接なら受け取っても問題ないとは思いますけど、陽菜ちゃんのも兼ねて、というのはどういうことですか?」


それぞれの飲み物のおかわりを注文して、安潟社長はこう言った。


「現有建築物になりますから、共同名義による分割所有、ということになります。

今回の場合、相手方弁護士が出したものを私どもの専属弁護士が確認し正当性を確かめてありますが、八峰さんが400万、陽菜が婚約解消なども含めて800万、計1200万となっています」


「よんひゃく……」


金額に思わず息をのむ。


「お断りしておきますが、私はただ話をしただけです」


そう言って少し顔を動かした。

笑ったらしいが、ただ怖くなっただけだった。


―話をするだけで怖いって、一種の才能よね


「弁護士も同席させているので違法性はありません。

400万はあなたに対する精神的苦痛と危険に対する正当な慰謝料です」


そう言ってカップを持ってひと啜りし、続けた。


「で、家を案分するわけにはいきませんし、売却してというのも今度は税金や仲介料がかかるものです。

おまけに整備工場が付いているからか、一般物件としては面積は大きいわりに割高になってしまい、買手も借手も付きません。

そこで」


そう言って陽菜ちゃんを見てから、こちらを見直した。


「八峰さんと陽菜の共同所有で、二人でシェアハウスとして住む、というのはどうでしょうか?」


「はい?シェアハウス、ですか?」


「そうです。家賃が不要になりますから八峰さんもメリットがある。

陽菜は、建物の維持管理や栄養管理士としての勉強がてら食事を作ることができる。

なにせ家に居ると、陽菜は食事を作るどころか包丁すら持たせてもらえないものですから」


そう言って笑った……のだろう。

さっきと同じく、怖いだけだ。


「管理栄養士って、調理士じゃないですよね?」


「そうですが、やっぱり実践に勝るものはありません。

遥さんの栄養管理をさせていただければ、勉強になると思うんです」


陽菜ちゃんが割って入ってきた。


「陽菜ちゃん、そもそもそれでいいわけ?

あなたが一番の被害者なのよ?」


少し俯いたが、すぐ顔を上げてこう言った。


「思う所はありますが、私自身、切り替えていくにも丁度いいきっかけです。

遥さんがお嫌でなければ一緒に住ませていただきたいですけど、どうでしょう?」


「う~ん、そうねぇ」


「頑張って美味しいご飯、作りますから」


「それ、魅力的ね!」


嬉しそうに陽菜ちゃんは笑っていた。


しかし、思わず言ってしまったが、改めて考えてしまう。

陽菜ちゃんが一緒に住むなら、カールの正体も明かすべきだろう。

そして陽菜ちゃん自身がどういう状態なのかも。


考えあぐねていると、タブレットが振動した。

バイブモードでカールが呼んだのだろう。


二人に断りを入れ画面を見ると、こう書いてあった。


〈自宅で整備が出来るようになるなら、君にも私にもありがたい話だ。

陽菜にはいずれかは私達の話をするべきだと思うし、ちょうどいい機会だと思う。

君は申し出を受けるべきだ〉


―この話も、あんたが誘導したんじゃないわよね?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ