刷り込み猫ちゃん
「ほぉー、本当に連れてきたの!」
私は感嘆の声をあげる進藤教授の前で、両手を腰に当てて胸を張る。
文字通り踏ん反り返っていた。
「もっと褒めていいんですよ。ごはんを奢ってくれても構いませんよ。」
墨俣といえば、チラチラ私の方を見ながら恐縮した様子だ。
隙間なくぴったり隣に立って、まるで子猫のように、ヒョロいけれど私よりはでかい身体を縮こませている。
鬱陶しくて、時々肘で押して距離を空けるが、気がつくとまた寄り添ってくるので、途中で諦めた。
今日はマンションを出てからはずっとこんな感じだ。
本人曰く、1ヶ月の猫生活のせいで、もともと人見知りだけど、さらに人間としての振る舞いが怪しくなったと。
「とりあえず、私と講義をなるべくかぶらせて、大学には通うそうですよ。」
「まぁ、君たちは学科は違うけど、学部は同じだし、なんとかなるかね。」
「これ以上は私は知らないので、あとは教授がどうにかしてください。」
「ふーん。まぁ、それはいいけど。……墨俣くん?」
「?」
「君はそれでいいの?」
「はい。俺、観月さんと一緒じゃないと無理だと思うんで。」
「…なるほど。」
「じゃ、私ら授業の時間割組まなきゃなので、失礼しますね。」
二人が連なって出ていき、バタンと準備室のドアが閉まる。
進藤教授は窓際に歩いて行き、デスクの前にある、クッションを敷いてある大きなチェアにゆったりと腰掛けた。
ヘッドレストに、綺麗に剃り上げた頭を預けて、先程の学生2人の様子を思い出して思わず口角が上がる。
墨俣尚は、中学生の頃からの生粋の引き篭もりだ。
彼の親からもそう聞いていた。
今回無理矢理といった形で大学近くに一人暮らしをさせたが、案の定大学にも一度も登校していないことを知った親が大学に抗議だけしてきた。
自分たちは息子の様子すら見に行っていないようだったが。
先程の準備室で、墨俣尚の視線は、進藤が声を掛けた時を除き、ずっと観月から外れることがなかった。
観月が右に動けば右へ、左に動けば左へ。
ぴったりと磁石のように寄り添っていた。
「まるで雛の刷り込みだねぇ。観月くん、たった1日でどうやったんだろう。」
まるで、"魔法みたい"ではないか。
自分の考えがある意味での正解だったことに、思わず堪えきれず進藤はククッと喉の奥を震わせる。
「"みたい"じゃなくて、君は魔法使いなんだもんねぇ…。」
進藤は自分の言葉にまた笑ったのだった。




