もっと恋人らしくなりたい墨俣くん②
翌日、今日は朝から同じ講義に出席するため、二人揃って登校している。
「おはよ〜す!」
「はよー!」
「おはよー」
少し前から、会えば話すようになった基礎ゼミの三人組と、大教室に向かう途中の階段で会った。
「いやー、いつも通り仲良いね!さすがにもう付き合ってる?」
この手の話が好きなのか、佐野さんはいつもこの質問をする。
いつもは適当に流すけれど、俺は一瞬答えに迷う。
「今は付き合ってるよ。」
「ええ?!ついに?!彼氏彼女?!」
観月さんが、普段と何ら変わらないテンションで答えて、コクンと頷いた。
(い、意味、合ってたー!!魔法使いの隠語じゃなかった!!)
俺は心の中で佐野さんのナイスアシストに拍手喝采を送った。
三人と別れてなお、俺が喜びを噛み締めていると、観月さんが何かを思い出したように「あっ、」と短く声を上げた。
「授業始まるまで、まだ早いし、私ちょっと進藤教授のとこ行ってくるね。」
「え?」
そう言って、講義室と反対方向に歩き出した彼女の手を、思わず反射で掴んでしまった。
「何?」
「それって、俺も一緒に行ってもいい?ついでに用事もあるし」
(本当は、無いけど。)
「え?あー…、ちょっと話をしないといけないから…」
観月さんは視線を彷徨わせながら、言いにくそうに口籠る。
「俺が聞かない方がいい話なの?」
「別に、墨俣に聞かれて困るとかじゃないけど、進藤教授にしか、頼めないというか、許可してもらえないというか…そういう話で…」
ブチっと俺の中で、理性の糸が切れる音がした気がした。
俺は観月さんの手を掴んだまま、昇りかけていた階段を降りて、まだ復興途中で人気の無い経営学科の方を目指す。
そのまま経営学科の、以前爆発事故で校内への出入りに使った裏庭の物陰に観月さんを連れ込む。
彼女は特に抵抗せず、今も壁に押し付けられた状態で、心底不思議そうに俺を見ている。
(…猫科は、実は肉食なのに。)
俺は無防備に俺を見つめる彼女の首のあたりに、顔を寄せる。
すると、仄かなドライフラワーの草花の香りと、彼女自身の、柔らかな甘さを含んだ香りがする。
俺がスンと鼻を鳴らして匂いを吸い込むと、観月さんの肩がビクリと跳ねた。
「す、墨俣、どうしたの?」
「別に、どうもしないけど。」
「あの、どいて。これじゃ行けない」
観月さんは小さく身じろぐけど、俺が今度は首に唇を軽く押し当てると、ビクッとしてから固まった。
「行かないでいいよ。」
この体勢のまま話すと、首に息がかかってくすぐったいのか、観月さんはまたピクッと小さくはねる。
「な、なんでこんなことすんの?」
「進藤先生が嫌いで、観月さんが好きだから。」
俺は、片手を壁から離して、観月さんの肩に乗せる。
そのまま身体のラインに沿って下ろしていき、ウエストのあたりを軽く撫でる。
最初は観月さんを進藤教授の元に行かせない目的で始めたこの行為だけど、俺も段々観月さんの香りで、頭が飛んでいる。
「紗葉、行かないで。」
ペロリと彼女の首を舐め上げた。
夢中になっていると、ふいに、両肩を掴まれて、割と軽い力で押し返された。
目の前の観月さんは真っ赤な顔をして、目に涙を溜めていた。
(あ、しまった…。)
我に帰った時には、すでに観月さんは俺を押し除けて走り出していた。
しかもたぶん風の魔法を使っているのか、ものすごいスピードで後ろ姿が遠ざかっていく。
「ま、待って!」
追いかけようとした瞬間、頭部と尾骶骨のあたりに違和感を感じて、咄嗟に草木に隠れる。
ポン!っと猫耳と、ズボンを圧迫する尻尾。
ひさしぶりに自分の意思に反して、しかも中途半端な猫化。
俺は追いかけようにも、この姿で大学校内を走るわけにもいかず、草木にしゃがみ込んで頭を抱えて途方に暮れた。
(…やってしまった!観月さん…)




