もっと恋人らしくなりたい墨俣くん
番外編書いてみました!
今日中に、あと2エピソード投稿して完結する予定です。
少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。
「じゃ、私魔法練習するからそろそろ戻るね。店番よろしく」
「うん、お腹空いたら冷蔵庫の何でも食べてね。」
晴れて観月さんと恋人同士になって早1ヶ月。
観月さんは、以前にも増して忙しそうにしている。
占いにはほぼ行かなくなったけれど、代わりに魔法練習の時間を定期的にするようになったし、オンラインで薬学部の試験対策に、たぶん漢方薬の勉強もしている。
観月さんのお母さんのノートを2人で見た結果。魔法薬では、現状の日本では薬剤師の免許を取得したところで販売できないことが判明した。
(俺は薄々そうだろうな、と思っていたけど。)
観月さんはしばらくショックを受けていたけど、
通常の漢方薬の製法に、魔法使いの力で補完すれば、妙に効果の高い漢方薬として売れること。
本物の魔法使いの薬に関しては販売せずに必要な人に譲渡という形にすればいいと俺が提案して、納得してくれた。
まぁ、その結果こんなに忙しくするようになったんだけど。
なんなら彼氏彼女になる前の方が、ずっと一緒にいれた。
(そんなに焦らなくていいのに、と言いたいけど、これはただの俺の我儘な気がするし。観月さんの生活を充実させるのが俺のワークライフでもあるし…。)
はぁ。と店番をしつつため息をついて、レジ台の机に伏せる。
「あー!残念!墨俣くんだったぁ!」
「墨俣くんだねぇ!残念だねぇ!」
来店を知らせるベルと、妙に場違いなキャピキャピ声に顔を挙げると、ピンクキャットの女性と、進藤教授。
(最悪。)
「紗葉ちゃんに会えると思ったのになぁ。今日はいっぱい予約入ってるから綺麗にしてもらおうと思ってたのにぃ!」
「大丈夫だよ〜、どうせ薄暗いから客は君のわずかな違いなんて分からないよ!」
「ひーどーいー!墨俣くーん!進藤先生がいじめるー!」
「進藤先生はそれが生きがいみたいな人ですからね。」
「でも、こうして明るいうちからマイたんとデートしてる僕はちゃんと違いが分かるけどね。今日はお店の前に美肌になる韓国料理のお店に行こうか?」
「わーい!大好きぃ!」
「あの、そろそろ閉店するんで、出てってもらっていいですか?」
店内でイチャイチャする進藤教授と女性を外に促す。
(どうせ今日はもうお客さんは来ないだろうし、早めに閉店して、せめて同じ家で観月さんの気配を感じて過ごそう。)
自分で考えつつ、自分で虚しくなる。
彼氏とは。
観月さんの方から"好きになっちゃった"と言ってキスしてくれたけど、実は俺たちはあのあと全く進展というものがない。
(いや!全然無いわけではない!一緒に家に居る時は以前より距離が近い気がするし、勉強中は猫になると、何か膝とか乗せてくれるし。)
ただ、人の時は以前より一緒に居れないし、なんなら何となく素っ気ないというか、構ってくれないというか、距離を取られているというか…。
異性としての好意自覚した俺の方は、観月さんに触れたくてたまらないのに。
何というか、近づけずにいる間に、気がつけば彼女がものすごく忙しくなっていて現状に至る。
(ん?観月さんの言ってた"そういう意味で好きになった"ってもしかして、何か魔法使い的な隠語だったりしたのか?)
たとえそうだったとしても、俺はもう観月さんと別れる未来なんて想像するのも無理な訳で。
(何としてでも、勘違いを現実にゴリ押しで見せる…)
「観月くんは最近とっても忙しそうだねえ〜」
「…」
進藤教授のわざとらしい独り言を無視して、表に出ている鉢を運び入れる。
「どこかの我儘な猫ちゃんの世話に忙しいのかな?」
「え〜?紗葉ちゃんの猫ちゃんお利口さんだよー?」
「借りてきた猫って言うでしょう?外ではお利口さんでも、一度2人きりになると、彼女にベッタリと、忙しいのに、鬱陶しいだろうねぇ?」
「えー!可愛いー!」
これ見よがしに、俺に聞かせるようにしている会話を無視して、黙々とレジ締めをする。
「僕ならもっと楽させてあげられるし、いっそのこと扶養にしちゃおうかな?」
「え?!紗葉ちゃん娘にするってこと?!」
「まぁ、観月くんなら、娘でも、妻でも。」
チャリーン!
俺は分かりやすく動揺して、数えていた小銭を落とした。
「…日本の法律上、姪と結婚はできませんよ。」
「法律はそうだねえ。魔法使いのルールだと、どうなんだろうね?」
「本当に閉店するので、帰ってください。」
進藤教授と女性は、ひらひらと手を振って帰っていった。
(進藤先生が、本気で言っているわけじゃないことは分かっている。)
俺は歩きながら、逆立った心の猫毛を落ちつかせるために自分に言い聞かせる。
(99%俺への嫌がらせだ。…だけどたぶん残りの1%は本気、かもしれない。)
俺がもともと大学入学前に知っていた進藤先生はもっと冷たいというか、常に離れた場所から石を投げて、状況を眺めて楽しんでいるような人だった。
だから観月さんとの掛け合いというか、距離の近さを見てかなり驚いた。
あの人が、自分の車に他人を乗せるのを、少なくとも俺は祖父以外見たことない。
マンションについて、鍵を開けて、部屋に入る。
観月さんはリビングのローテーブルでテキストを広げて、勉強をしていた。
「おかえり。」
「ただいま〜」
あまり物音を立てないように、静かに入ったつもりなのに、すぐに振り返って挨拶してくれる。
(無表情に見えるけど、前よりもちょっと嬉しそうにも見えるのは、俺の色ボケなのかな?)
手を洗ってうがいをして、部屋着に着替えて、ローテーブルの空いている隣に座ろうかなと、思った矢先に、進藤教授の嫌な言葉が頭をよぎる。
"鬱陶しいだろうねぇ?"
(いや、そんなはずは…彼氏だし、いや、でも勉強している時にくっつかれたら、確かにそうか?…俺は観月さんなら、四六時中くっつかれててもいいんだけど。)
迷った挙句、俺は猫化して、観月さんの膝に擦り寄る。
そうすると彼女はそれを合図みたいに俺を抱き上げて、膝に乗せて片手でゆっくり撫でてくれるのだ。
それは天国みたいに気持ちいいんだけど。
でも、男としては満たされない何かを感じつつ、俺は彼女の邪魔をしないように静かに目を閉じた。




