一足飛びで?
結論として、犯人はただの逆恨みの犯行だった。
墨俣と直接の関係も無く、墨俣父の会社関係の取引先の下請けの化学系製造会社に勤める社員だった。
工場勤務で危険物や製造設備の知識があり、社内から少量ずつ資材・部品を横流ししていたために、あんな規模の爆弾が作れたらしい。
経営学科は当面の立ち入り禁止。
講義は他学科の教室を借りるか、オンラインで行うらしい。
ニュースになったため、マスコミ対策で大学全体も事件の翌日から3日間休校になった。
「迷惑にもほどがあるよねぇ。」
休校明け。
ひさしぶりの基礎ゼミの後、進藤教授に呼び出された私たちは、かれこれ20分近く、今回の事件の後処理の愚痴に付き合わされている。
「ニュース見ましたけど、墨俣父の会社云々は全く話題に出てませんでしたね。」
「当たり前だよ。墨俣父くんが、それはもう一生懸命多方面にお願いという程の圧力かけて、情報漏れるの止めたからね。それはもう、僕もしつこくしつこく言われて面倒で。まぁ貸しにするからいいけどね。」
私が、確認するように墨俣を見ると、墨俣も頷く。
「俺にも連絡あったよ。学生の間は援助を続けてやるから他言するなって。大変だったけど、得る物があってよかった。おじいちゃんに寄ると、父さんが取引先への態度も一因らしいから、俺もこの先しばらくは、この件を利用して、あの人と有利に交渉できるよ。」
(2人とも、それぞれ性格が悪い。)
私は、平然とえげつないことを言う2人をげんなりした目で見る。
「あぁ、交渉と言えばね、"魔法薬専売人"だっけ?あの怪しいおじいさん。」
「!」
私は予想外の話の流れに驚いて目を大きく開く。
「な、なんで進藤先生がその人のこと。」
「墨俣くんが、僕に相談したんだよ。農園の日の夜かな?」
「ごめん勝手に。魔法薬専売人っていう肩書きもめちゃくちゃ怪しいし、そもそもわざわざ名刺渡しに未成年の魔法使いに直接接触しにくるの、かなり危険な人物なんじゃないかと思って。進藤先生は多方面にツテがあるから、何か知ってるかと思って…。」
墨俣がしょんぼりした様子で謝ってくる。
「いや、どうせそのうち相談しようと思ってたし、別に。」
進藤教授はデスクに片手をついて、置いてあった万年筆を手に取るとくるくると回し始める。
「観月くんのお母さんの代の時から、僕もなんとなく気にはなっていたからね。ピンクキャットオーナーに以前から、裏ルートの薬売買の規模の小さい割に高額取引の多い物を調べてもらっていたんだよ。そしたら、少し前に該当する人物が上がってたから、ドンピシャリだよ。」
悪の親玉の如く、人の悪そうな笑みを浮かべる進藤教授を見ながら、ピンクキャットのオーナーが、進藤教授の名前を耳にした時の冷や汗をかいていた様子を思い出す。
(なるほど。一体彼は何の弱みを握られているんだか。)
「彼は、ずっと競合組織からも目をつけられていたみたいでね。市場に少し魔法薬の効果を怪しむ噂を流してもらったら、他の組織もあっという間にそれを増長させたらしい。
もともとここ最近は流通が無くなっていたこともあって、魔法薬の裏ルートでの市場価値はゼロに等しくなったみたいだよ。」
(お母さんのあと、私が引き継げなかったからか。)
進藤教授は、一瞬だけ万年筆を持つ手を止めて、私の顔に伺うような視線を向けたが、すぐにまたクルクルと回転を再開する。
「彼は今頃海外の闇市にでも行ってるんじゃないかな?まぁ君は裏ルートで売る気はないみたいだから問題ないよね。」
「はぁ。そうですね。」
なんとなく不安だった芽が、大きな悩みになる前にあっさりと摘み取られて、ポイとゴミ箱に捨てられたような感じ。
墨俣が隣で、安堵したように息を吐いて肩を下げていた。
「あーあ!」
進藤教授が回していた万年筆をポイっと放り出したので、私は慌ててキャッチする。
(高そうなやつなのに!この親父は簡単に放りおって。)
「2人とも結局つまんないところに収まっちゃって。退屈だなぁ。」
「他人の人生をなんだと思ってるんですか?」
「我慢して見ててあげるから、命懸けとか泥臭いのは要らないから僕よりは長生きしてよね。」
(やはり、他人の面倒を吸って生きる妖怪だ。)
それだけ言うと、進藤教授はデスクに向かって座り分厚い本を取り出して、こちらを見ることもせずに、シッシッと追い払うように手を振った。
私は準備室を出てしばらくしてから万年筆を持ったままだったことに気がついたけど、遺失物拾得の権利として、しばらく借りることにした。
(もしまた怪しい奴がきたら印籠代わりにしようかな?)
校内を墨俣と歩いていたら、基礎ゼミの3人組や、タダ飯ハンターの先輩と会い、軽く挨拶する。
3人組にはあの後会うたびに、
「今日も仲良く尽くし尽くされてる?」と挨拶に謎の枕詞を付けられるようになったし、墨俣は女子2人にヤンデレ扱いされている。
タダ飯先輩は経営学科の人間だったらしく、墨俣が講義の質問をしていた。
ごはんを食べて、魔法屋を少しだけ開店させて、家に帰る。
魔法屋の売上が安定してきて、私もそちらから給与がもらえるので、占いのバイトは減らして、魔法薬の生成の修行もぼちぼち始めている。
「魔法薬の生成をする部屋を借りてもいいかもなぁ。どんな条件がいいか、今度教えてもらってもいい?」
墨俣はローテーブルの前で正座して、タブレットに今日の売上を打ち込みながら、私に話しかけている。
「うん…。」
私は返事をしながら、膝立ちで墨俣の背中に覆い被さるようにくっついて見る。
「え?どうしたの?」
キョトンとして、こんだけ女子がくっついてるのに全く照れも期待もその表情に見られない。
(こいつは…)
私は肩越しに身を乗り出すと、墨俣の両頬を潰すように挟んで無理矢理私の方を向かせた。
そのまま顔を近づけて、勝手に唇にキスしてやった。
数秒間、唇の温もりを感じた後、そっと離れた。
呆然とする墨俣。
「私は、あんたのこと、こういう意味でも好きになっちゃったから、あの時の口移しが最初で最後のキスって嫌すぎたからやり直した。」
(これだけ言っても墨俣がこのままなら、残念だけど、この部屋も出て、こいつとはビジネスパートナーとして…)
あまりにも墨俣の反応が無いので、私が今後のことを考えていると
「…い、今なんか、魔法使った?」
「は?」
墨俣が赤面していた。
「俺は、自分がなんで、今まで観月さんと一緒に居て、平気だったんだ?」
「何言ってるの?」
答えようとしたのに語彙が見つからないのか、墨俣は真っ赤な顔のままパクパクと口だけ動かしている。
「よく思い出すと、いつもドキドキしてたのに…、俺気持ちも猫化してたのかな?」
「さぁ?そんなことも、あるのかな?」
面白いくらい動揺してるので、顔を覗き込んで見ると「恥ずかしすぎるからやめて!」と、乙女のように顔を両手で覆う墨俣。
「まぁまぁ、今更。裸も見た仲じゃない。2回も。」
「俺だけが!一方的に見られただけだけど?!」
フーフーと猫のように毛を逆立てる墨俣の頭をよしよしと撫でてやると、すぐに大人しくなった。
私は向かい合って座る、ラグの上の墨俣の手に自分の手を重ねてみる。
「えーと、じゃあこれからもよろしくね。」
「うん!」
照れたように笑う墨俣につられて、私も少しにやけてしまう。
これからは彼氏彼女になるのかな?
「これで、法的にも観月さんを扶養できるね!」
「ん?」
「??」
(おやおやおや?)
「結婚してくれるんだよね?」
(あれあれあれ?)
私の考えていた関係性から一足も二足も飛び越えた気がする。
「まぁ、うん。そうしようか。」
(まぁ、いっか。墨俣だし。)
こうして、半人前の魔法使いと使い魔の猫は、いつまでも仲良く一緒に暮らしました、とさ。
もし最後まで読んで頂けた方が居たら、
心からお礼申し上げます。
拙い作品に最後までお付き合い頂き本当にありがとうございました
この二人のその後や別の話も構想があります。
もしまた読みたいと思っていただけたら、反応いただけると嬉しいです




