出来るかじゃない!やるんだニャ!
俺はスマホから聞こえた爆発音に頭が真っ白になった。
いや、むしろ周囲からの音の方が大きかったが、観月さんの側で再び爆発が起きたという事実に思考が一瞬停止した。
スマホを耳に当ててもガタガタと言う物音だけで状況が分からない。
(止まってる場合じゃない!考えろ!そして動け!)
2回目の爆発で現場がかなり混乱していた。
俺は近くの草陰に入り込んでしゃがみ込む。ポケットからスマホと、念のため昼間渡された薬を紐で首に結びつけた。
(出来るかじゃない!やるんだ!人から逃げるためじゃなくて、猫になるためにやるんだ!)
俺は観月さんに教えてもらったことを思い出しながら、猫の気を探して、身体に行き渡らせるイメージをする。
猫の耳が生えてくる感覚がする。
(ここで怖気づくな。そのままやりきる!)
俺は身体が作り変わるようなゾクゾクする感覚を受け入れ、そのまま集中を続けた。
「ミャア(やった!)」
そのまま服は捨て置いて、首から下げたスマホと薬瓶を持って猫の姿でもう一度混乱する現場に向かう。
踏まれる恐怖もあったが、人々の足の隙間を走り抜けて俺は建物内に侵入した。
首から下げた紐を下ろし、今度は人に戻るイメージ。
(なんか、出来る!気がする。俺はやる!)
本当にスッと人間に戻った。
但し、全裸。
(俺は、観月さんのためなら恥など捨てる)
心頭滅却して、スマホと薬瓶を持ち直して階段に向かった。
6階に着く直前。
『やった!爆発で歪んだのか?!ここから出れるぞ!』
とスマホのスピーカーから声が聞こえるが、観月さんの声ではない。
(エレベーターの中の人が出れたのか?)
「窓に救助梯子があるから!窓に向かって!」
外では既に6階の全ての窓に救助梯子が設置されていた。
6階に辿り着くと酷い有様だった。
あちこちが破損して、瓦礫で砂埃が立ち込めている。
「観月さん!どこだ?!」
(返事がない!どういうことだ?一緒に救助できているならスマホは繋がっているし、何か返事があるはずなのに!)
「観月さん!!」
(俺は観月さんみたいな魔法使いじゃないから、特別なことはできない。)
俺はその辺りの瓦礫をどかして、彼女を探す。
「あ!」
瓦礫の下から明らかに異質な土の壁が出てくる。
小さな隙間から覗くと観月さんがうつ伏せに倒れているが、様子がおかしい。
俺は一旦また猫になると中に入り込んで彼女の様子を見に行く。
(鼻血、あとなんだこれ?顔とか腕によく分からない模様。少し目も開いて、呼吸もしてるけど、焦点があってない。)
「ニッ!ニッ!(観月さん!)」
肉球で顔を叩くが全く反応がない。
俺はもう一度土の壁からでて、人の姿に戻ると、瓦礫を慎重に退かす。
最後に丸腰になった土の壁に
「観月さんごめん!」
と拳を打ちつけた。
実はずっと空手を習わされていて、有段者だったりする。
土壁はヒビが入ると呆気なく砂となって崩れ落ちた。
「観月さん!」
ど今度は人間の手で顔を叩くと
「…あ、」
と小さく声を上げた。
俺は迷いなく首から下げていた万能薬を口元に持っていく。
激まずの怪しげな薬だけど、観月さんが作ったものだし効果は本物だろうと、藁にもすがる思いで待ってきた。
彼女はきっと極限まで無理をするだろうからたぶんいつもみたいにプロテインバーなどでどうにかなるものじゃないはずだ。
少し口に流し込むが、流れ落ちてしまう。
「観月さん!飲んで!」
そうしている間にも、抱えている彼女がどんどん冷たくなってきた気がする。
(それなら!)
俺は躊躇なく薬瓶の中身を自分の口に一気に流し込んだ。
今度は一滴でやめたりしない。
劇的な不味さに吐き気が込み上げるがそのまま口に留める。
観月さんの顔を持ち上げて口を隙間なく合わせる。
少しずつ流し込んで、今度は溢れないが、なかなか飲み込んでくれない。
(ま、不味すぎる!観月さん!ごめん!)
俺は口を合わせたまま観月さんの鼻を摘んだ。
「?!」
彼女は一気に薬を飲み込み、「ゲホゲホ!」と咳き込んだ。
涙目でこちらを見る目は今度は焦点が合っている。
俺もその目を見て泣きそうになった。
「残りも飲んで!」
とそのまま上半身を支えて起き上がらせて薬瓶を渡す。
彼女はおとなしく飲み干し
「まずっ」
と小さく呟いた。
変な模様は薄くなってほぼ消えていて、鼻血も止まって乾いている。
「また爆発が起こるかもしれない。早くここから出よう。」
俺はしゃがんで彼女に背中に乗るように促すと、観月さんも限界に近いのか、素直におぶさってくれた。
おんぶして階段を降りると、2階まで降りたところで観月さんが
「裏庭側の窓に行って、そこから入ったから、出れると思う。」
「え?俺は最悪猫になって降りるけど、観月さんは?」
「万能薬のおかげで、あと一回2階から2人下ろすくらいは大丈夫。」
確かに背負ったまま顔を後ろに向けてみると、もう変な模様は影も形もなくなって、疲れは見えるものの、顔色も普段のものに近い。
「分かった!」
裏庭側の窓は確かに無事で、下にも人影はない。
観月さんを下ろしたあと2人で手を繋いで飛び降りると、着地する直前にふわっと浮遊感があってから地面に足がついた。
俺がそのまま急いで建物から離れようとすると、ガシッと腕を掴まれて、急に気が操作さらて、ゾワゾワする!
「にゃにゃにゃ?!(急になに?!)」
「…だって、墨俣、全裸なんだもん」
「…ニャ(…あ、)」
俺は地面に転がって悶絶したいのを我慢して、観月さんと共に今度こそ建物から離れたのだった。




