限界突破
再び戻ってきた経営学科の前は、少ししか経っていないけれど、かなり様子が変わっていた。
建物の周りは黄色いバリケードのテープが貼られ、近くを防護服を着た警察官が何人も動いている。
救急車と消防車も待機している。
もちろん生徒たちは入れないように止められて、私も離れたところから、周辺の野次馬に混じって様子を伺っている。
(さて、どうやって中に入るか。)
少し離れて、建物をぐるりと確認する。
裏庭の方の樹木の影になっているあたりからも煙が上がっている。
誰かの締め忘れか、2階の窓の隙間が空いている。
(あそこなら、警察からも見えない。)
キョロキョロと周囲の人目が無いことを確認して、急いで裏庭に入り込む。
窓の高さを確認して、また身体に風を纏わせる。
「えー?!こっちかなぁ?!」
声にびっくりして、瞬時に背後に建物と同色の土の壁を作り上げる。
足音が遠のいて、ホゥっと息を吐いて壁がサラサラと崩れて砂に戻る。
今度こそ風を纏い、窓まで飛び上がり建物ないに侵入する。
2階はそこまで被害が無かったのか、人がいなくて薄暗い以外は異変は無い。
電気がチカチカと明滅している。
エレベーターホールにくるが、スイッチを押しても反応はないが、こちらも見た目は平時と変わりない。
ポケットに入れていたスマホが鳴って、画面を見ると墨俣からの着信だ。
『今どこ?!』
「経営学科の2階。ここは何もないみたい。閉じ込められてるのどこだか分かる?」
『いいから戻ってきて!』
「閉じ込められてる人たちが助かったら出る。で、分かる?」
『〜〜!あー!くそ!』
墨俣が電話の外で何か話しているが声が遠くて聞こえない。数秒待つと声が戻ってきた。
『閉じ込められているのは5階と6階の間みたい!だから助け出すには5階か6階のどっちかのフロアまでエレベーターの箱を動かさないと。本当は非常電源でちゃんと近くの階で開くはずだから、制御系統が爆発でイカれたのかも。』
(なるほど。それなら)
「じゃあ一旦5階まで階段で行ってみる!電話そのままにして!」
私は電話をスピーカーに切り替えると、階段に走った。
階段は煙が抜けなかったのか、煙が立ち込めているので、顔の周りに風の膜を作って駆け抜ける。
5階はかなり悲惨な状態だった。
(爆発はもしかして複数箇所同時に起こったんじゃ?)
壁が何箇所も壊れ、エレベーターの入り口も大きくひしゃげている。
少し火の手をあったので水の気をコントロールしてスプリンクラーのように巻いて鎮火しておく。
「5階は無理そう!6階に行く!」
スマホのスピーカーに聞こえるように声を上げてから、再び階段を登る。
『6階に着いたら教えて!』
とスマホから墨俣の声が聞こえた。
かなり息が上がってきたので、自分の気脈のコントロールはあまり上手くはないけれど、少しでも整うように調整する。
6階もかなり破損した瓦礫があるが、エレベーター付近は無事だ。
火災も無い。
「6階の方がマシ!ここまで押し上げればいいの?」
『理論的にはそうだけど、大丈夫なの?!』
「やってみる!」
私は通話を繋げたまま、エレベーターの前に立って、スマホをポケットにしまうと両手を前に出して、目を閉じる。
エレベーターの真下あたりの地面の土の気を操作しようとするが、やけに頑固な別の土の気に阻まれる。
(な、にこれ!硬!コ、コンクリート?!)
一旦気を手放して息を整える。
(コンクリートが硬くて邪魔をするなら、じゃあそれを動かす!コンクリートだってつまりは土でしょ?!)
「ふん!ぐぬぬぬぬぬぬぬ!言うこと聞けー!!」
硬い土の気の気脈を探り、一旦柔らかくほぐして、ぐぐぐぐぐと上に伸びあがらせる。
エレベーターの向こうから人声が聞こえてくる。
『う、動いた?!』
『ここに居ます!助けてください!!』
ガタンとたぶんここが適正位置と思われる引っかかりがあって、そこでコンクリートを硬化させる。
私は全力疾走したみたいに息が上がっている。ハアハアと息を整えながら、エレベーターに向かって話しかける。
「ここ6階です!中から開けられませんか?!」
『開けるボタン押してるんですけど、開かないんです!』
『レバーは?!非常箱に非常用のレバーがあるかも』
ポケットのスマホから墨俣の声。
エレベーターの中にも届いたのか
『探してみます!』と返事が返ってくる。
しばらくガチャガチャと音がするが、苦戦しているようだった。
その時、ブワッと空気がゆらめく感じがして、バアァンと大きな破裂音のような音が、6階のフロアでいくつか起こった。
私は咄嗟に自分の周りに土の壁を作り瓦礫の下敷きを免れたけれど、エレベーターと隔絶されてしまった。
(な!まずい!)
エレベーターの下から強い火の気が迫ってきた。階下でも爆発が起きたのか?
(火を、火の気を沈めながら、風の気で閉じ込めて、土も維持しないと。)
複数の複雑な動作で頭が焼き切れそうだ。
エレベーターからも叫び声が聞こえてくる。
(エレベーターのドアを!)
エレベータードアにピンポイントで金属の一部分だけを瞬間的に熱膨張させて歪ませる。
「やった!爆発で歪んだのか?!ここから出れるぞ!」
『窓に救助梯子があるから!窓に向かって!』
耳がキーンとして、スマホから聞こえる墨俣の声がどんどん遠くなる。
墨俣の声が届いたのか、瓦礫の隙間から窓に向かう足音がして、おそらくレスキュー隊の声もするから、無事救助されたのだろう。
私は土の壁を残して、全ての魔法を解いた。
瓦礫の空間で、息をする以外身体が全く動かせなくなっていた。
ドロリと鼻から何か垂れてきた感覚がして、そのまま口に入ると、鉄の味がした。
(やばい、鼻血。)
数秒前まで、スマホから何か聞こえてきてた気もするけど、耳も聞こえづらくなってきている。
自分の浅い息の音だけがした。
(目も、霞んできた。)
カタリと音がして隙間から小さな生き物が入ってきた。
黒い猫。
墨俣?でも私操作してない。
もう一度ゆっくり瞬きすると、ぼやけた視界の中で人の姿になっていた。
私の意識はそこで、ゆっくり闇に沈んだ。




