嫌な予感
「これ、飲んでみてよ」
私は学食で食休み中、トートバッグから紫の蛍光色の液体の入った瓶を取り出して、墨俣の前に置いた。
「え?これ、飲んで良いやつなの?」
「うん。別に毒とかじゃない。」
墨俣が「えー?ほんとに?」と渋る。
「せっかく初めて作った魔法薬だけど、墨俣飲まないなら進藤先生に頼んでみるわ。」
「待って待って待って!!飲む!飲むよ!」
慌てて墨俣が止めるので、私は立ち上がりかけたけど、また座り直す。
墨俣は数秒、瓶と睨めっこした後、グイッと瓶を傾けた。
しかし
「うわーーー!!なんか!ちょっと舌に当たっただけなのに!すごいやばい味がした!」
ほんの数ミリ飲んだだけで、この大騒ぎだ。
(まぁ私もやばい味だと思ったから、ヤバさを確かめるために飲ませたんだけど。)
「な、何の効果があるの?この魔法薬」
「魔法使いの万能薬って薬で、魔法使いにしか特別な効果は無いんだ。普通の人にはただの血行がちょっと良くなる健康薬」
「な、何はいってるの?」
「…知りたい?」
「わー!やっぱりいい!大丈夫。」
(確かにメモに"飲みづらい味"とはあるけど、お母さんよく平気な顔してこれ飲んでたな。)
おそらく失敗はしていない、と思う。
とりあえず2本分出来たから、開封してないもう一本を、嫌がる墨俣に無理矢理普段のお礼だと押し付けて、先程のものは私が疲れた時にちびちび飲んでみてまた効果を確かめることにした。
今日のこの後は、また私は店に向かい、墨俣は経営学科の講義のため別行動だ。
墨俣と別れたあと大学の正門を出た辺りで、ドォーンと遠くの方で、何かが爆発したような音と、複数人の悲鳴が聞こえた。
(な、なに?!)
門の近くの人間は、私と同じように状況が分からないらしく、みんな首を傾げてざわめいているだけだった。
私は爆発音の方向を見て、心臓が早くなる。
(あっちって、経営学科の建物ある方じゃないの?)
「まじ?!大丈夫?爆発近かったんだ!」
声に反応して振り向くと、いつかのタダ飯ハンターの先輩がスマホで話している。
「気をつけてねー」
と電話を切ったところで、急いで話しかける。
「今話してた人、爆発のところにいたんですか?どこですか?!」
「あ!君は!」と驚いているようだったけど、私の鬼気迫る態度から、察してすぐに質問に答えてくれた。
「今のやつは経営学科に向かう途中の渡り廊下に居たみたい。爆発はたぶん経営学科のエレベーター辺りだろうって。」
私はそれを聞いて、返事もせずに駆け出した。
私が行ったところで、騒ぎの邪魔になるだろうけれど、嫌な予感が止まらなかった。
走りながらスマホを取り出して、墨俣に電話する。
『お掛けになった電話は、電波の届かないところにいるか…』
自動アナウンスが聞こえて、舌打ちしてすぐに電話を切って走ることに集中する。
辿り着いた経営学科は悲惨な状況だった。
メインホールの玄関のガラスが砕けて辺りに飛び散り、コンクリートも破損している。中から煙も出てきているので、火災も発生しているのかもしれない。
たくさんの野次馬を先生や事務員が声をかけて、遠ざけている。
救急隊はまだ来ていないのか?
野次馬の隙間から怪我人の中に墨俣が居ないか探したが、見当たらない。
スマホが揺れて、すぐに画面を見ると、進藤教授だった。
『もしもし、君は大丈夫?』
「はい、正門に居たので。進藤先生、墨俣知りませんか?!経営学科行ってたから!」
『彼は大丈夫。軽い怪我はあるけど、僕が今一緒に医務室に居る。学園長の指示ですぐに保護されたから。救急隊ももうすぐ到着する。』
「…よかった。」
私はスマホを耳に当てたまま、その場にしゃがみ込んだ。
『ただ、そこからすぐに離れて医務室に来なさい。これはまだオフレコだけど、事前に爆発予告が来ていたらしい。これで爆発が終わりとは限らないからね。』
(なんてことを…。)
恐ろしい事実に一気に血の気が引いて、寒くもないのに身体が震えた。
「すぐ行きます。」
私は通話を切ると、医務室のある建物に駆け出した。




