紗の魔法使いの庭
鰻を食べて大満足した後
土田農園では予想以上の歓待を受けた。
たくさんのビニールハウスが並ぶ中の農園の一角に、小さいけれど、自然に近い形で植えられている、種々のハーブが青々と茂っていた。
よく見ると全部うちに卸してもらっている種類のものだ。
「これを見てください。」
農園を案内してくれていた優しそうな中年の女性が足元の小さな看板を指す。
"紗の魔法使いの庭"
と書いてある。
「嘘か本当か分からないけど、うちでは代々"紗"って名前の女性からハーブが欲しいって言われたらここで世話してるやつを卸してあげるんだよって。魔法使いの薬になるからって」
女性は楽しそうに笑って教えてくれた。
私のことも覚えていたらしく、
「小さい時一回だけお母さんと一緒にきたね」と。
お母さんが亡くなったことと、私は魔法使いとして半人前で、今は卸してもらった物を魔法薬ではなく、ポプリや、スワッグにしていることを話して、お土産に持ってきたポプリをいくつかお渡しした。
女性は目を閉じてポプリの香りを吸い込むと
「すごいねぇ!うちで咲いてる時より香りが強い!魔法みたいだ!」
と言ってくれて、ちょっと涙がでた。
お母さんが亡くなる少し前、注文の電話の時、母が、この女性に私のことを相談したらしい。
「いつも物静かで無駄話する人じゃ無かったからよく覚えてるよ。娘が家業を継ぎたくないようなんですけど、自分は他の生き方を知らないから、彼女に何をしてあげればいいのか分からないって。」
「…え?」
「娘さんは何かしたいことがあるの?って聞いたら、それも分からないって。話し合いなって言ったけど、嫌われてるって。変に頑固で埒が明かないから、とりあえず大学に行かせてあげればやりたいことが出来た時に選択肢が広がるよ〜とは言ったけど」
(それで大学だったのか…)
意外すぎるところから真実がでてきて、驚きというよりは、脱力してしまった。
(お母さんなりに、悩んでいたのか…。普通に私に聞いてくれれば良かったのに。)
私もお母さんも、魔法は使えるのに、
当たり前のことができない2人だったんだな。
(来てよかったな。)
私は澄み渡る青空の下で、深呼吸してハーブの香りを目一杯吸い込んだ。




