足湯が気持ちいいとどうでも良くなる
「飲み物と、プロテインバーと、虫除けと、あ、観月さん、日焼け止め塗っといて。」
「はいはい。」
私は渡された日焼け止めを、顔と、衣替えして半袖になったため、剥き出しの腕に塗っていく。
「畑だから、はいレギンス。」
「はいはい、お母さん。」
「え?」
「あ、間違えた。墨俣さん。」
なぜかレギンスを差し出した姿勢のまま、ショックを受けた顔をする墨俣。
(冗談だったんだけど、傷つきポイントがいまいち分からない。)
SAで朝ごはんを食べるのを楽しみに、私はお腹ぺこぺこなのを我慢して、マンションの前で待っていると、スゥーとお馴染みの盾型のエンブレムを付けた灰色の流線型の進藤教授の車が現れた。
窓にはスモークがかかっていて、窓ガラスが下がって先生が顔を出す。
「さぁ、乗って乗って!」
運転しているせいか、進藤教授はいつもよりややテンションが高そうだ。
開けてくれた助手席のドアと後部ドアを両方開けてくれたけど、私たちは2人とも後部座席に座った。
「えー?2人とも後部座席なの?観月くん助手席座れば?」
「後ろでゆっくりしたいです。」
「助手席安全だよ?」
「これポルシェのカイエンのわりと新しいやつですよね?今時の最新車なら助手席も後部座席も大して安全性変わらないですよ。」
「2人ともつれないな〜。まぁいいや。しゅっぱーつ!」
順調に進んで、車はもう高速に乗ったようで、私はすでに食欲が止まらない。
「朝ごはん何食べようかな〜。何があるんだろ〜。」
サービスエリアのグルメなんて、友達の家族旅行の話や、テレビで見て憧れていただけで、実際に食べるのは初めてで、すでに口の中で潤っている。
隣の墨俣がスマホで調べてくれる。
「あさりラーメンとか、ピーナッツソフトクリームとかが人気みたいだよ。あ、あと富士山メロンパンだって。」
「僕はあそこはいわしバーグが好きだなぁ。」
(ラーミンにアイスに、ハンバーグ?!)
「あ、朝からそんなに豪華なもの食べていいの?!」
私の剣幕に押されながらも、墨俣が「いいんだよー!」と答える。
(なんてこった。)
「今日は私、本気出すかも。」
「え?僕、鰻以外奢らないからね?」
「観月さんは日頃から頑張ってるから、店の売り上げからボーナスで出すね。」
「いいの?!」
店の売り上げは墨俣に管理してもらっているし(その方が自分でやるより、はるかにちゃんとしているから)
占いのお金は生活費以外は(墨俣が家賃も光熱費電気代も受け取ってくれないからほぼゼロだけど。)将来的な貯金に回しているため
私は今だにプライベートでは金欠なのだ。
「墨俣!一緒に色々食べようね!」
「…やっぱり僕が奢ってあげようか?」
「あとで利子つけて請求してきそうだからいらないです!」
「姪が頼ってくれないよー」
「観月さん、お土産も買ってこうね。」
「うん!」
私が大満面で元気に返事をすると、墨俣も嬉しそうにしていた。
ふと窓を見ると、もう海が見えていた。
(子供の時はどうやって行ったんだっけ?)
やたら長いこと電車に乗ったし、そんなに海は見えなかった。
そもそも窓際とか関係なく、席が空いたら私を座らせて、お母さんが近くに立っててお母さんの足ばかり見てた気がする。
(ほんと、不器用だなぁお母さん。)
パーキングエリアに着いて車を降りると、思っていた以上に周りが海で圧巻だった。
(すご、海!実は初めてだったり。)
密かに感動した。
あまり混雑もしてなくて、狙っていたグルメもひと通り食べ終えて満足すると
海の見える展望デッキで墨俣と並んで足湯をする。
進藤教授はまだ何か買い漁るらしい。
(進藤先生、魔法使いじゃないのに、魔法使い並みに大食漢だからな。)
温かいお湯で足がほぐれる。
こんな、街中で裸足になって足をお湯につけてるのが、なんだか愉快で軽くちゃぷちゃぷと足を揺らす。
「はぁー、気持ち良いねぇ。」
「うん。家に欲しい。」
「それ、普通にお風呂じゃん。」
「あー、そっか。この景色で、この状況を再現しなくちゃか。」
考え込む墨俣。また要らんこと考えてるんだろうな。
「また来ればいいじゃん。」
「…そうだね!あ、次は俺が免許取って運転するから。」
「はいはい。頼んだよ〜」
「…観月さん、大学中退するの?」
ちゃぷちゃぷと鳴っていた水音が止まる。
「…まだしないよ。分からない。」
(あー、昨日のパンフレットかな。)
「俺のことは、気にしなくていいよ。たぶん大丈夫だから。」
「私本当は、就職するつもりで、それが何かお母さんの遺言で大学行くことになって。でも魔法勉強するうちに、お母さんが作ってた魔法薬作ってみたくなってさ。だから本当は魔法屋も最初は薬売るつもりだったんだよ。」
墨俣は黙って聞いている。
私は落ち着かなくて、また足を揺らし始める。お湯の中で足がぐにゃりと歪んで見える。
「でも、薬作って売りたかったら、薬剤師の学校通って資格取らなくちゃいけないんだって。そもそも魔法薬もまだ作れないんだけどね。…お母さんはたぶん資格とか無かったから、怪しいおじさんに売ってたけど、私は何か、普通の生き方をする魔法使いがいいんだよ…。」
「えっと、最終的には、魔法屋で漢方みたいな感じで調合した薬を売りたいってこと?」
「まぁ、うん。そういうこと。資格取るのも6年とかかかるから、それまで魔法屋続けられるのかも分かんないし、そもそもまともな魔法薬作れるかも分からないんだけどね。」
墨俣は両膝に肘を載せて、前傾姿勢で何やら思案しているようだった。
(無謀なのは分かってるけど、墨俣には、あんまり無謀とか言われたくないなぁ。)
「分かった!その方向性で経営考えていくね!よかったちゃんと共有してもらえて!」
(ん?)
「え?分かったって?え?どゆこと?私が分からない。」
「??」
墨俣の反応が軽すぎて、逆に受け入れ難いのだけど?
「魔法屋の長期的な経営方針が分かったから、俺もそれに合わせて頑張るよ!もし観月さんの志望校から遠かったら引っ越すし。俺の経営の勉強はまぁオンラインでも何でも出来るから。」
「…墨俣は、どこまで魔法屋やってくれるつもりなの?」
「観月さんが、やりたい間はずっとだよ?違う仕事にするなら別にそれでもいいし。」
(おやおやおや?)
「悪いけど、あの名刺の人はあまりお勧めしないかな。ちょっと調べたけどたぶん会社として存在しないし、そうすると金銭的なやりとりがこちらまで税金面で不利になりそうだし。観月さんの言うようにちゃんと、薬剤師として経営して、店もブランディングしていけば需要はあるよ。」
(あれあれあれ?)
「これからもよろしくね!」
にっこり笑顔の墨俣。
「あー、うん、よろしく。」
(まぁ、いっか。)




