土用の丑の日ですよ!
今日から1日4話更新にしてみます。
「進藤先生、今週末は土用の丑の日ですよ。一体いつ鰻をご馳走してくれるんですか?」
「何の話?」
「シラを切らないでください。」
私はレジュメを印刷しながら進藤教授に苦情を言う。
「鰻が食べたいと言ったら先生は了承しました!」
「うん、勝手に食べたらいいよ。」
ぐぬぬぬぬとレジュメを皺くちゃにしていると、進藤教授が「あーあ、やっちゃった、それ君のね」と茶化してくる。
「お店、繁盛してるんでしょう?鰻重一杯くらい自分のお金で食べられるじゃない。」
「お店のお金はお店に使うお金です。と、墨俣が言ってました。」
「あー嫌だねぇ、真面目で正しい男って!あたしイヤ!」
急にオネェになった進藤教授が、チェアの背を倒して、お行儀悪くデスクに足を乗せる。
「先生は墨俣が嫌いですか?」
「賢い人間は嫌いじゃないよ?ただ勝手に観月くんを真っ当にしていくから、そこは嫌い。」
「私は初めから真っ当です。」
「真面目なのにちょっと頭がイカれちゃってる紗香姉さんに育てられて、頭がぶっ飛んでるのに気付かない君が楽しかったのに。」
(確かにお母さんはその通りだけど)
「仮にも実の叔父さんなのに、姪の前で姉の悪口を言わないでください。」
「そんなことはないよ。僕は血縁者の中で姉さんが1番気に入っている。」
「…叔父?姪?」
「ん?」
準備室のドアを開けたポーズのまま、墨俣が固まっていた。
「言ってなかったっけ?」
「観月くんの、身内で《・・》、叔父の進藤征太郎でーす。」
なぜかめちゃくちゃ嬉しそうに進藤教授は、改めて墨俣に自己紹介している。
「叔父って言っても、母とも父親しか血が繋がって無いけどね。」
「な、なるほど。それならまぁ。たぶん6%とかそのくらいだし、相対的に見れば誤差みたいなもんだね。」
「その6%が君と観月くんにはない絆を作っているんだけどね?」
「あ、そうだ!観月さん、花の仕入れをお願いしている業者から連絡があって。」
墨俣は進藤教授の言葉を完全に無視して、違う話題を私に振る。
(この2人、なんかどんどん仲悪くなるなー。)
「というわけで、今度の週末に仕入れついでに直接花を見にきませんか?って。今後の成育する植物の種類についても相談にのってくれるみたいだし、あと、観月さんのお母さんとも知り合いみたいで、観月さんに会いたいみたいだった。」
「あー、そっか。」
花の仕入れは、お母さんが亡くなったあと、魔法屋を始めようと忙しくしている時に、農家の連絡先のメモをノートから見つけた。
ダメ元で連絡したら、未成年で、しかも当時は何の商売の目処も立ってない私に、卸売り価格で、とても良い花材をすぐに送ってくれた。
保育園くらいの時、一度だけお母さんに連れられて私も畑に行った。初めてのお出掛けだと思ってはしゃいでいたらただの仕入れだったんだけど。
(すごく綺麗な場所だったな。)
「行きたいなぁ」
「!!じゃあ行こう!返事しておくね!」
「僕が車だしてあげようか?」
進藤教授がまたも会話に割り込んでくる。
「電車で行ける場所なので。駅からは迎えに来てくれるそうなので。」
墨俣が露骨に嫌そうな顔をして断る。
「でも車で行ったら楽だよー?」
(まぁ楽だよな〜。)
以前乗せてもらった時も進藤先生の車は全然揺れないわ、リクライニングまで出来ちゃうわでかなり快適だった。
「車で行くなら、千葉の農園行くついでに寄れる美味しい鰻屋知ってるから、食べてから行こうか?」
「車で行きます、お願いします。」
「あーーー!!もーー!!」
墨俣が絶叫しながら崩れ落ちたが、私の頭の中は鰻のことでいっぱいだった。
(進藤教授の美味しいなら、全然間違いないやつ。)




