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温かく気持ちいい隣の猫

玄関を開けると、珍しく明かりがついておらず室内は真っ暗だった。

あの後、黒ずくめの老人は連絡先の書いた名刺を置いていなくなっていった。

すぐに閉店してピンクキャットに顔を出したけど、ひどい顔色だとお姉さんたちに、差し入れの高級お菓子の袋詰めを押し付けられて帰された。

(まだそんな遅い時間じゃないんだけど。外出中?)

何となく電気はつけずにそのままリビングに行くと、ローテーブルで墨俣が突っ伏して、スゥスゥと寝息を立てていた。

ノートパソコンも開きっぱなしだ。

たぶんレポートを書いている間に寝落ちしたのだろう。いつも整頓している墨俣の部屋には珍しく、資料と思われる紙も散らばっている。

私は適当に拾い集めると、ローテーブルの上に重ねて置いた。

ついでに手に持っていた郵便物と名刺も隣に放る。

(ん?)

突っ伏している墨俣の髪が変に盛り上がっていると思いきや、なぜか墨俣は猫耳の半猫状態になって寝ていた。

背中側を見るとスウェットのズボンから猫の尻尾も出ていて、クタッとラグの上で曲線を描いている。

(何やってんの?)

今日は色々あったせいか、猫墨俣を見ていたら急に眠くなってきた。

私は眠る墨俣の隣りに足を崩して座り込むと、同じように顔を横に向けた状態で、腕を枕にしてテーブルに突っ伏す。

もともと目が大きくて童顔だけど、眠る墨俣はさらに幼く見える。

目がちゃんと閉じてないし、口もちょっと開いてる。

(赤ちゃんみたい。)

私は何となく頭上で時折ピクピクしている耳が気になって、手を伸ばして軽く撫でてみる。

フワフワしてて、温かくて、髪の毛は反対にサラサラしてて。

(何か気持ちいいかも。)

ざらついていた気持ちが次第に穏やかになってくる。

少しだけのつもりが、私はそのまま気がついたら深い眠りに沈んでいた。



深夜に墨俣がふと目が開けると、目の前に紗葉の顔があった。

目を閉じて、穏やかに眠っているようだった。

呼吸のたびに、長いまつ毛がわずかに揺れる。

普段なぜか化粧っ気もないし、仏頂面していることが多い紗葉だが、実はそれなりに愛らしい顔立ちだったりする。

(なんか、ドキドキする。なぜこんなに近くに観月さんが?)

そうっと身を起こして、辺りを見回すと、普通に自分の部屋で、目の前にはテーブルと開きっぱなしのノートパソコン。

急速に記憶が蘇ってくる。

(そうだ、レポートの息抜きに、猫化訓練を試してみたら、その後しばらくして眠くなったから仮眠のつもりで寝たんだ!)

スマホを見ると、すでに深夜。

狂った予定に若干落ち込むが、まぁ調整できる範囲だ。

隣の紗葉を見ると、出掛けた時の服装のままで、足元にはトートバッグもある。

おそらく帰ってきてそのまま寝てしまったのだろう。

鞄の中のプロテインバーはそのままなので、食べ忘れたのだろうか?

トートバッグを玄関に掛けて、タオルケットを持ってきて、眠る紗葉の背中にかける。

そのまま今のうちに残りのレポートをキリのいいところまで書き上げようと、立ち上げっぱなしだったノートパソコンに向かい、テーブルの資料に手を伸ばすと、資料のそばに見覚えのないダイレクトメールの封筒があった。

"◯△薬科大学 入学案内"

持ち上げるとポロリと小さな紙が落ちた。

"魔法薬専売人 奉"

墨俣はその二つをじっと見た後、元の位置に丁寧に戻し、再び何事も無かったようにノートパソコンに向かってレポートの続きを書き始めた。


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