紗の字を継ぐ魔法使い
「ポプリ1点と、サシェ1点で、4500円ですね。香りが弱くなると守りの効果は少し落ちますけど、普通のポプリやサシェとしてはそのままでもしばらく十分使えますから。」
「本当にここのってしっかり香るのにキツくなくて不思議だわ。お店に置いておくと切り立ての生花を飾ってるみたい。あとお守りも効果あるのかしら?最近調子が良いのよ!」
「ありがとうございます。」
常連のマダムが手を振って店を出ていく。
繁華街の方で雑貨店をしていて、店に飾ってくれているらしく、マダムの店のお客さんも何人か来店してくれているのでありがたい。
今日は私は大学の講義がなくて、1日朝から店番をしていて、もう夕方だ。
ガラス戸からは遮るものなく夕陽が照らしつけてきて眩しい。
(そろそろ閉めようかな。)
墨俣は休んでいた分を補填するレポート課題が鬼のようにあるらしく、今日は家でノートパソコンと睨めっこしている。
なんと墨俣は、この間1人で大学に行った。
この間の墨俣父の訪問から、なんとなく墨俣は変わった。
本人曰く
「別に怖がる必要ないことが分かった」と。
経営学科の勉強をしたいようで、私と同じ講義を取りつつ経営系の授業を増やしているようだ。
忙しいなら店の事はやらなくて良いと何度か伝えたけれど、
「むしろそっちが俺の本懐だから!」
と相変わらず意味不明なことを言っていた。
(本懐か…)
私の本懐は…
カランカラン
来店を知らせるベルの金属音に、ハッと沈んでいた意識が戻ってくる。
「こんにちは。お嬢さん、お名前を伺っても良いですか?」
店先に真っ黒の杖をついた、黒いスーツに、黒いシャツに、黒い帽子の、初老の男が立っていた。
逆光になって、顔すら真っ黒になって、黒ずくめのシルエットしか分からない。
でも私には"見えている"
母にも見えていた、魔法を使う者だけが持つ、気脈の中に流れる光の粒のようなものが、この男には僅かに見える。
「観月紗葉です。」
そして、私はこの男を知っている《・・・・・》
「やはり、"紗"の字を受け継ぐ魔法使いでしたか。お会いできて光栄です。」
男の声は喜色を含んでおり、おそらく顔も笑っているのかもしれない。
でもその眼は全く笑っていないことを、私は昔の記憶で分かっていた。
お話も終盤に近づいてきました。
最後までお付き合い頂けると、とても嬉しいです
読んでいただきありがとうございます。




