チヂミと残念系高スペック男子
(スンドゥブってこんなに美味しいのに、なんで定番メニューじゃないんだろう)
学食で私は1人スンドゥブを堪能していた。
そう、1人で。
(まさか1人で行くとは。)
墨俣は経営学科の受講を増やすらしく、1人で事務に手続きに向かった。
絶対同行を頼まれると思っていたのに、不安そうな顔をしつつも墨俣は私に先に学食でごはんを食べていていいと言ったのだ。
(まぁ、私もそれでいいならその方が良いんだけど。)
丼の中の豆腐をレンゲで突きながら、少しモヤモヤしている自分に首を傾げる。
「あ、観月さん。あれ?1人?」
見知った基礎ゼミの生徒が声を掛けてきた。
男1人女2人のいつも仲良さそうに固まっているグループだ。
「墨俣くん一緒じゃないの?」
「そうだけど、なんで?」
グループの女子の片方の遠藤さんが不思議そうに聞いてくる。
「なんで?っていつも一緒にいるじゃん」
「いつも?…(まぁいつもか)」
もう片方の佐藤さんも会話に混ざってくる。
「すごい仲良いよね〜。大学の前から付き合ってるの?2人って」
「え?付き合ってないよ?」
「「「え?」」」
3人の「え?」が見事にハモった。
「大学の近くに一緒に住んでるんじゃないの?」
今度は唯一の男子の山田くん。
「一緒にっていうか、居候というか。なんで知ってるの?」
「いやいや、駅から大学行く途中のマンションだから、普通に一緒に出入り見たやつとかが、そうなんだろうね、と。基礎ゼミのやつらはほとんど知ってると思う。」
(なんと、そんな認識をされていたなんて。)
まぁ確かに私も薄々、私と墨俣は異性にも関わらずやたら行動を共にしているから、そんな誤解も生まれるかもしれないとは思っていたが。
(まぁ墨俣だし、私は別に放っておけばいいと思ってだけど、墨俣はどうなんだ?)
「あ、噂をすれば。」
佐藤さんが食堂の入り口を見て指を刺すと、小走りで入ってくる墨俣がいた。
「おーい、観月さんこっちだよ〜」
墨俣は真っ直ぐ私の席まで来て、隣の席にリュックを下ろして財布を取り出す。
「お、お待たせ。俺もさっさとごはん食べないと」
墨俣は注文カウンターに向かった。
「観月さん、俺らもここで食べていい?」
と山田くんが向かいの空席を指差す。
「別にいいよ」
3人も鞄を下ろすと談笑しながら注文カウンターに向かって歩いていった。
「観月さん、チヂミ一切れいる?」
墨俣は月見うどんに、サイドメニューでチヂミも頼んでいた。
私はチヂミを最後までスンドゥブに足すか迷って贅沢すぎてやめたのだ。
「いいの?」
「ちょっと食べたい気がしたけど、たぶん全部は要らないし」
「やったー!」
墨俣が寄せてくれたトレイから直接箸で取って口に運ぶ。
カリッ、モチッとした食感が堪らない。
(チヂミも定番化希望)
「逆になんで付き合ってないの?他に相手がいるとか?」
アジフライを齧っていた遠藤さんが怪訝そうな表情を浮かべている。
「え?なんの話?」
遅れてきた墨俣は遠藤さんの発言の意味が分からず困惑している。
「墨俣くんは、どうなの?」
遠藤さんは今度は墨俣に詰め寄る。
「え?え?ど、どど、どうって?」
女子に詰め寄られていつもの2倍増しでキョドッている墨俣が、私に助けを求める視線を送っていることに気付きつつもスンドゥブの豆腐を突いて気づかないフリをする。
3人が墨俣に私と墨俣が付き合っているのでは?という前提の疑問を説明せずに墨俣に詰め寄っていることに気づいているけれど、私はあえて補足したりしない。
(私とあなた付き合ってると思われてるみたいだけど?なんて気まずすぎる。)
「例えばさー、俺が観月さんに付き合ってって告ったら墨俣はどうすんの?」
「え?付き合う?観月さんと?」
墨俣は一寸真剣に悩んだあと
「一般的な大学生には無理だと思うよ。」
と真面目な顔をして即答した。
「無理ってどゆこと?」
「付き合って、健全な観月さんと一緒に居たいなら生活環境を支えるそれなりの予算が継続的にだせる経済力がいるし、観月さんがストレス無く力を発揮するためには、継続的な観察やアップデートは不可欠だよ。そんな時間と資金が用意できる大学生はあまり居ないんじゃないかな?」
「……俺が知ってる"お付き合い"と、墨俣くんのが違いすぎる」
「…尽くされても、そこまでだと怖いかも〜」
ゼミ生仲良し3人組は墨俣の発言を聞いて揃って口を開けたままポカーンとしている。
(私は希少動物かなんかか?)
私は私で、墨俣のとんでも思考にげんなりする。
やけにアレコレ世話を焼いてくれると思っていたけど、やっぱどこかおかしいな、こいつ。
3人組は食事を終えると、どこかぎこちなく挨拶をしてそそくさと去って行った。
「なんだったんだろう…?」
「さぁ?私たちも早く片付けて教室行こう。」
「あ、うん。」
(私も人のこと言えたもんじゃないけど、墨俣のがもっとだな。)
私は隣で急いでうどんを啜る残念な思考回路の高スペック男を横目で見つつ、密かにため息をついた。




