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魔法を使うとお腹が減るんです

ズンチャカズンチャカズンチャカズンチャカ

やけに陽気なメロディーと、頬に当たる肉球の手触り。

私の覚醒途中の意識の中で、メキシコ風の踊り子が激しく踊り、クライマックスでなぜか放り投げられる猫。

「猫おぉ!!」

目を開けて、視界に入ってきたのは、いつもの自分の店のコンクリートの天井だった。

たぶん朝だけど窓が無いから暗くて分からない。

なんだか肩の辺りが温かくて、視線だけ動かして見ると、なぜか丸くなった猫墨俣がいた。

そして寝ぼけているのかなぜか目を閉じたまま、私の頬っぺたに肉球をテシテシと当てている。

「ん"ーーーーー!!」

上半身を起こして、思い切り腕を伸ばして伸びをすると、身体の色んなところでパキパキと音がする。

この寝袋は薄っぺらすぎて、長く寝ると身体がめちゃくちゃ痛くなる。

「顔を洗お…」

一人暮らしをすると独り言が多くなる。

のそのそと起き上がって水道でうがいをして、水で顔を洗う。

銭湯、昨日も行かなかったな。

下着も変えなかったし。

さすがに私基準でもそろそろやばい。

トランクから非常食の魚肉ソーセージを取り出してかぶりついて、あっという間にたいらげる。

あー、ほんとは一緒に白米のおにぎり食べると最高に美味しいのに。

今は解凍したおにぎりがないから仕方がない。


お腹も満たされたので立ち上がって目を閉じる。


(身体の気を捕まえる感覚を広げるように…)


まずは身体のごく周辺にある外気から、水の気、風の気の気配を捉える。

見つけたそれらを徐々に自分の気脈の中に取り込んで、手の辺りに濃く練り上げてゆく。

髪の毛や、ワンピースが、私の周りにまとわりつく風により、はためき始める。

私を起点に広がり始めた、細かい水の粒が私の周りを渦巻状に取り巻く風に乗って、私自身が霧状の渦の中に囚われる。

全身がびしょ濡れになったところで、水の気を外に戻していき、代わりに火の気を少しずつ取り込んでいく。

ちょうど良い温風になったところで、火の気を止めて、そのまま風に乗せて衣服も髪も全て乾かした。

「よし。」

「…ニャア…(…すごい…魔法だ…)」

目の前で、いつの間にか目を覚ました猫墨俣が、初めて会った時みたいに、青い目がこぼれ落ちそうなほど、目一杯目を広げて、口を開けていた。

「おはよ」

「ニャア!(い、今の!)」

猫墨俣は興奮しているのか私の足元をぴょんぴょん跳ね回っている。

「今のは、お風呂と洗濯だよ。魔法の。」

「ニャニァ?!(あんなに神秘的な雰囲気で、お風呂と洗濯?!)」

どこに神秘を感じたのか分からないけど、あれは電気とガスを節約するための生活魔法に過ぎない。

(まぁそんなのでも使えるようになったのは最近だし、やるとそれなりに疲れちゃうからたまにしかしないけどね。)

私は墨俣のリュックからシャツとズボンと下着を取り出して、猫墨俣の近くに置いた。

「…ていうかさ、」

「??」

「ちゃんと戻してあげるサービス付きって言ったのに、昨日のうちに戻せなくてごめん。寝たからもう戻せる。」

私は猫墨俣の反応を待たずに、ガシッとその身体を掴むと、気脈を探る。

やはりもう3回目ともなると、すぐに人間の気と猫の気の混じり合っている箇所が見つけられる。

昨日折り重ねるようにした気脈の箇所をゆっくりとずらして猫の気を端に追いやる。


時間にしてものの2分ほどで猫墨俣の身体がむくむくと膨れて、毛の感触がすべすべの人肌に近くなっていく。

「ニャーぁ!(目、そのままつぶっててね!)」

(はいはい。)

私は最後まで操作を終えても、ちゃんと約束を守って目を閉じていた。

「ありがとう、もう開けて大丈夫」

目を開けると人間の墨俣が、なぜか頬を赤らめて立っていた。

「すごいね!観月さんはすごい魔法使いなんだね!」

珍しくおどおどせずに興奮した様子で私に詰め寄ってくる。

「もしかしてここに置いてあるものも、本当に効果があるの?!」

「まぁ、弱いけど。あるよ。」

「おぉ〜!!」

今更御守り袋や刺繍をしげしげと眺めている。

「…あれ?じゃあなんで占いはあんなに適当なの?」

「占いは、やり方教わったことないし、あの水晶とかマットも通販で買ったそれっぽいものなだけだし。」

「…なんで占いやってるの?」

「あまりにも店に客が来ないから、魔法使いっぽいし才能が開花して当たるかなって。やってみたら意外と稼げたから。」

「え〜、そんな適当な…」

まだ気になることがあるのか、キョロキョロと店内を見渡している墨俣を方って、私は登校時間まで店を開けるべく、ガラス戸を開けてシャッターの鍵を開けて持ち上げる。

「昨日はなんでここで寝たの?自宅はどこなの?」

「ここだけど?」

ガララララララ

と大きな金属音がしてシャッターが巻き上がる。

「え?」

(シャッター音で聞こえなかったのか?)

「ここだってば。」

固まる墨俣。

なんなの?

「お風呂とか、トイレは?」

「お風呂はちょっと歩けば銭湯があるし、トイレはビルの2階で共用。」

「えーと、台所は?あ、あと布団?」

「台所は電磁調理器があるし、布団は昨日使ってたでしょ。」

私は後方の床に広げたままの寝袋を見る。

「…寝袋だね。」

「ね?あったでしょ?」

私は全ての質問にクリア出来たことで、ドヤァと胸を張る。

どうだこの逞しさ。

「すごい。」

「でしょ?」

店内の植木鉢の気脈を見てから、必要なものに土と水の気の操作をしてから外に運ぶ。

"こうすることで植物自身の効能が高まり、サシェやスワッグにした時の狙った効果も高まる"と、お母さんが言ってたのでとりあえずよく分からないけど出来る日はやっている。

あー、もうお腹空いた。

「今日は3限目からだけど、学食食べたいから私昼前に着くように行くけど、墨俣はどうすんの?」

「一緒に行く」

植木鉢を運びつつ列になってついてくる墨俣が後ろから返事をする。

「魔法使うとお腹減るの?」

「うん、めっちゃ減る。」

へぇーと感心した声をあげる。

感心するなら飯をくれ。

「あ!俺いいもの持ってる!」

墨俣が植木鉢を置いてから、自分のリュックを探って

「はい!」

と何か手渡してくる。

(プロテインバー!!ナッツも入ってる!チョコ味!)

「ありがとう!!墨俣は最高の使い魔だな?!」

さっそくビニールの封を切って、中から出てきた茶色い大きなバーにかぶりつく。

(染みる〜!!甘い〜!!)

「あの、観月さん、俺の家に寝泊まりしたらどうかな?」

「…なんで?」

プロテインバーを食べながら墨俣を見ると、提案の内容の割に、なぜか怯えるように私から目を逸らしている。

(なぜ同棲を提案する男のお前の方が怯える?)

私は墨俣という男の心理がさらに分からなくなる。

そもそも金持ちで頭が良くて親の脛齧りで引き篭もりなんて、私と対極過ぎて分かり合える気ゼロだけど。

まぁ悪いやつじゃないことは確かだし、女子大生を家に連れ込もう的な邪な気持ちからではないだろう。

「お店と、住居は分けるべきだと思う。と、特に魔法屋はお客さんが入る空間だし、生活の匂いはしない方がいいと思う。」

「…臭くないもん。」

「も、もちろん臭いとかじゃなくて、食べ物とかね!あ、あとここは生活に適していないから、観月さんがちゃんと回復できないと、今のところ手作りみたいだし、商品の質が落ちると思う。」

意外にも墨俣の意見はかなり的を射ていて、私は反論の隙を掴めずに唸るばかりだ。

「…うちなら、部屋もベッドも余ってるし、ごはんもすぐあげられるし、あ、あと俺は観月さんの使い魔だし!」

最後の使い魔の部分だけ、視線を合わせて自信ありげに伝えてきた。

私は顎に手を添えて考える。

確かにここの店で生活し始める2ヶ月くらい。

持ち前の気合いとタフさで何とかしてきたが、身体が辛くないかと言われれば、まぁめちゃくちゃ辛い。

でも、果たしてまだ会ったばかりのコイツをそこまで信じていいものか?

私が疑わしい目で見ていると。

「な、なんなら俺家で猫でいるよ!」

とまで言ってくる。

「なんでそこまで私に家に来て欲しいわけ?別に私に恋愛的な感情とか持ってるわけじゃないでしょ?」

「うん、それはまぁ、そうなんだけど…」


数秒沈黙してから、墨俣は私に真っ直ぐ視線を向けた。

「観月さんなんか、すごくふてぶてしいから、一緒にいると俺も大丈夫になるから。」


(なんか、アホらしくなるくらい正直なやつ)


私は色々気にするのもアホらしくなり、墨俣の家に同居する提案を受け入れたのだった。


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