↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エーデルベルグの雪 ──北部山岳任務録──  作者: 有凪いちほ
特殊情報収集班:任務

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

97/146

観測


 翌朝、五人は前日に確認した観測地点へ戻った。

 この日は、採石場を長く見て現在の使われ方を確かめることになっていた。エレジが採石場を見て、ヨナスが周辺の通信を確認する。リヒターとマティアスは周囲を見ながら必要に応じて交代し、カイルが全体をまとめる。


 最初の一時間ほどは、大きな動きがなかった。

 採石場には人影があり、建物の近くを行き来している者もいる。ただし距離があるため人数や所属までは分からず、エレジが言えるのは、少なくとも完全に放置された場所ではないというところまでだった。


 午前の途中で、進入路の奥から車両が一台現れた。


「車、一台入ります」


「見える範囲で追え」


「はい」


 車両はそのまま採石場へ入り、建物の近くで見えなくなった。色と大きさは確認できたが、車内までは見えず、乗っている人数も分からない。


「一台入りました。中は見えません」


「記録しておけ」


 その少し後、ヨナスが短い通信を拾った。


「今、通信がありました」


「採石場からか?」


「そこまでは分かりません。この周辺です」


 マティアスが時間を確認すると、車が入ってからそれほど経っていなかった。


「車が入った直後ですね」


「時間は近いです。でも、関係があるとはまだ言えません」


「そのまま別々に残せ」


 同じ時間帯に起きたことは記録できるが、それだけで一つの動きとして扱うことはできない。エレジとヨナスは、それぞれの記録を分けたまま残した。


 昼までの間にそれ以上大きな動きはなく、五人は交代しながら観測を続けた。エレジが少し休む間は、マティアスが代わりに採石場を見る。


「見てる時間の方が長いですね」


「そうですね」


「何も起きない時間も記録するんですか」


「はい。動かなかったことも分かるので」


 マティアスはそういう仕事なのだと納得したようで、それ以上は言わずに観測を続けた。


 午後になると、午前に入ったものと似た車両が一台外へ出た。


「一台出ます」


「朝の車か?」


 エレジは形と色をもう一度確認したが、距離がある以上、同じ車両だと断定できる特徴までは見えなかった。


「似ています。でも、同じ車かどうかは分かりません」


 その後、別の車両が一台入った。


 今日一日だけでも複数の出入りがある以上、採石場が現在も使われていることは判断できる。ただし、誰が何のために使っているのかはまだ分からない。


「使われていない場所ではないな」


「はい。今日だけでも車の出入りがあります」


「誰が使ってるかは?」


「分かりません」


「目的も?」


「分かりません」


 答えられる範囲はそこまでだった。


 午後の終わり頃、ヨナスがもう一度短い通信を拾った。今回も車が動いた時間からそれほど離れていない。


「また近いですね」


「はい。でも、今は別々に記録した方がいいです」


「そうしろ」


 車が動いたことと、通信があったことは事実だった。それでも、二つが同じ理由で起きていると考えるにはまだ足りない。ヨナスもそれ以上意味を足さず、時間と内容だけを記録した。


 観測を終えて少し下がったところでは、道脇に半分埋もれた石標があった。前に見つけたものとよく似た形で、表面には同じ形式の番号が残っている。


「また同じ形です」


 ヨナスが番号と位置を記録しながら確認すると、これまで見つけた石標と同じ系統のものらしかった。


「この辺りの古い道で使われてた印みたいですね」


「何の番号か分かる?」


「まだ分かりません」


 エレジにも見覚えはなかった。ただ、今回の経路の中で同じ形式のものが複数見つかっている以上、古い道の管理と関係していた可能性はありそうだった。

 それ以上は決めず、記録だけ残した。


     *


 夕方になると、カイルはその日の観測を終えることを決めた。


「今日はここまでだ」


「もう少し見ます?」


「見れば何か増える可能性はある。だが、今回必要な分は取れてる。ここから先は今回の仕事じゃない」


 エレジもその判断に異論はなかった。

 もう少し残れば、誰が来るのか分かるかもしれない。通信と車の関係も見えてくるかもしれない。それでも、今の任務でそこまで確かめる必要はない。


 五人は野営地へ戻り、その日の記録を整理した。

 誰が採石場を使っているのか。何のために車が出入りしているのか。近い時間にあった通信と関係があるのか。

 分からないことは残ったが、持ち帰る材料は十分にそろっていた。


 翌朝、五人は下山を始めた。

 来た時に通った経路を使いながら必要なところだけ再確認していったが、新しい発見はなかった。昼を過ぎる頃には地域部隊の施設へ戻り、借りていた資料や装備を返して、五日間の記録を提出できる形にまとめた。


 最初に資料だけを見ていた時より、この山で今も使われている場所と、古い記録のままでは判断できない場所がはっきりした。

 施設を出ると、五人は車へ乗り込んだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。